第四十三話 埋葬作業
死者には敬意を・・・
「お? 兄ちゃんも結局手伝うのか? 手伝っても取引したんだから報酬は約束通りもらうぞ?」
「ああ、その点は心配しなくていい。ただ連れの獣人が遺体の臭いに参っているからな。早いとこ終わらせて移動したいのさ」
「ほう。連れの獣人ねえ」
そう言って男は俺に隠れるミルをチラッと見た。ミルは怖がっているが、かと言って俺が視界から消えるのもいやらしく、俺にずっとくっついている。男はその状況を見て、ニヤニヤとこちらを見て来た。お決まりのセリフが聞こえてきそうなのでいやだな。
「兄ちゃんのこれか?」
そう言って別の男が意味ありげに指を折った手を向けてくる。遺体の破片なのか、何かがついていて気持ち悪い。
「アホな事言ってないで手を動かせよ。こんな臭いの中寝るつもりなのか?」
「それもそうだな。こんなところで野宿なんざ御免だぜ」
「だろ? だったら手を動かせよ」
「へいへい」
道のわきに溝を掘って、その周りにある土を少しずつ手などで掘っていく。俺が作業に入ると当たり前のようにミルも掘るのを手伝いだしたが、男達がこちらを見るとすぐに作業をやめて俺の体に隠れるといった状態で、効率が悪いなんてレベルじゃなかった。10回くらいそんな光景を見た頃に頭にきて舌打ちをしたら、冷や汗を流しながら謝罪された。
「待った待った。悪かったって。もうやらねえから、殺さないでくれ!」
「男に二言はねえよな? 次はねえぞ? あ?」
「わかりましてごぜえます・・・。死ぬかと思ったぜ」
「ただ舌打ちしただけだろうが」
「兄ちゃんには自覚がねえのかもしれねえけどよ。兄ちゃん結構にらむとおっかないぜ?」
「親の遺伝なんだ。俺のせいじゃねえ」
「すげえもんが遺伝したんだな。羨ましくはねえがこの国じゃ役に立ちそうだ」
勝手に納得する男の発言に疑問がわいたので聞いてみる。
「どういう事だ?」
「王国から来たんなら治安が悪いのは知ってんだろ? だから逃げてくる難民も多いし、俺達もそうなんだが、帝国なら治安がいいってわけじゃねえんだぜ? 難民を狙った人さらいや盗賊、奴隷商人がわんさと居るし、難民の中にゴロツキも混じってっから大変でよ。兄ちゃん達に会った時だって、俺達は兄ちゃんの事を盗賊だと思って警戒したんだ。ここはそういう国なのさ」
「ひどい人違いをされたもんだな」
「無茶言うなよ。黒焦げの死体のそばに人が立ってりゃそいつの仕業だと思うのは普通だろ」
「まあ、実際にグールを倒したのは俺だし、遺体を焼いたのも俺だからあながち間違いじゃねえんだけどな」
「そう言えば、なんで死体を焼いたんだ? そんなめんどくせえ事する必要あったのか?」
「グールの体からな、でかい芋虫がいっぱい出てきていたんだよ。で、襲われた人の遺体にも群がってやがった。そのままほっとけるか? 遺体の上で虫が動いて食っているんだぞ? そんなの触って埋められるかよ」
想像したのか男達の顔が一瞬で青ざめ、1人は吐きそうになっていた。
「聞いた俺がバカだったよ。確かにそんな死体触りたくもねえわな」
「思い出したら吐き気がしてきた。ちょっと休憩するから後は頼むぜ?」
「おう。まかしとけ」
「だ、大丈夫でしゅか? うぅ・・・」
「へへへ。心配されるたぁ、羨まし・・・ゴホン。悪かった」
何か言おうとしたのでにらんで黙らせると、俺は一度その場を離れる。ミルも当たり前のようについて来た。穴は3人分を掘り終わり、4人目の分が半分ほど掘られたところで、何とか日が落ちる前に作業を終えられそうだが、作業が終わるのは暗くなる直前になるはずなので思ったよりここから離れられない可能性が出てきてしまった。初めての戦闘の時みたいに大きくて深い穴に全部の遺体を埋める方が掘る穴は少なくて済むのだが、おっさん達が穴を掘る道具を持っていないため深く掘るのは大変だと判断して浅い穴を人数分掘る方向で動いたのがよくなかったのかもしれない。ミルの方を向くと、目が一瞬合った後に思いっきり顔をそらされてしまったので、若干ショックを受けつつもミルに話しかける。気を紛らわせれば吐き気もおさまると思ったからだ。
「悪いなミル。俺が作業を手伝っているせいで臭いが強い遺体のそばに居なきゃならなくなっちまって」
「い、いえ、その、あの・・・」
「このペースだと一応日が暮れる前に穴を掘って遺体を埋められそうなんだが、全部終わって動き出してもそんなに遠くまで行けそうにねえんだ。臭いがきついから埋めようとしているのに、時間がかかって結局あんまり離れられないなんて意味ねえよな」
「・・・」
「最初から遺体なんて放置してさっさと離れちまえばよかったかな?」
「そ、そんな事は、その・・・」
「ん?」
俺の愚痴に珍しくミルが何か言おうとしている。気になるのでミルの方を見ながら続きを待った。
「し、死んだ人は、埋めてあげないと、その、魔物に襲われちゃうので、その・・・」
「埋めてあげるのが正解?」
「はい・・・」
「それが原因でミルがつらい思いをするとしても?」
「・・・はい」
「そうか。悪いなミル」
「いえ」
会話が続かない。男達が4人目の穴から移動し、横に新たな溝を掘りだしたので、そろそろ作業に加わろうか。
「俺は作業に戻るが、ミルはどうする? 爺さん達のところで休憩していてもいいんだぜ? あのおっさん達が怖いんだろ?」
「いえ、あの、一緒に、その・・・」
「手伝ってくれるならうれしいが、臭いがきつい場所にまた近寄らなきゃならねえぞ?」
「大丈夫でしゅ。うぅ・・・」
「別にうまく言えなくても大丈夫だ。そのうち言えるようになる」
「はい!」
ガッツポーズのような腕の動きをしながら返事をするミルを横目に見ながら、男達のところへ戻って作業に加わる。5つ目ともなるとさすがに効率の良いやり方が分かってきたので穴掘りは簡単に終わり、深さや幅を俺が確認してOKを出した。男達が2人で1体ずつ遺体を持ち上げて穴へ運んでいく。近い遺体から運んで、穴のふちに持ってくると勢いをつけて投げこんでいった。扱いが乱暴すぎる気もするが、初めてこの世界に来た時におっさん達が商隊の仲間を埋葬する時も似たような感じだったし、黒焦げな遺体にどうしろとも言えず、黙って見ていた。ほとんどの遺体は穴に投げ込んだ衝撃でバラバラになってしまったし、しょうがないだろう。男達に周囲を探させて、切り落としたグールの腕や、遺体の持ち物で焼けてしまいどうしようもない物を集めさせ、一緒に穴へ入れてから土をかける。全部埋まった後、一応手を合わせて黙祷した。グール達は安らかに眠るように祈り、襲われた2人には助けられなかった事を深く詫びた。男達は若干驚いた顔をしていたが、何をやっているのかはわかっているらしくおとなしくしていたし、ミルも特に何も言ってこなかった。黙祷を終えると、男が何かを差し出してくる。どうやらカバンのようだ。
「あの木の陰に落ちていた。死人の持ち物なんざ気味悪いが、金目の物があるならあんたの物だろ」
「一部だけもらって一部を遺品として遺族に返すんじゃないのか?」
「商人どもはそうするさ。仲間の遺体だからな。でもこいつらはどこの誰か分かんねえし、分かる物を持っていたとしても兄ちゃんが焼いちまって分からねえから、遺族に渡しようがねえだろ。兄ちゃんがもらっとけよ。要らねえなら捨てちまえ」
そう言って男は俺にカバンを押し付けてくる。受け取って中身を確認すると、少ない食料と水入れ、わずかな金、小さいナイフと服が2着、俺が国境の町にある薬屋で買ったのと同じ麻痺毒の中和剤が入っていた。水入れは空のようだ。
「うわっ! びっくりさせんなよ」
「どうした?」
「虫だよ虫!」
「ハハハ。そりゃ長い時間地面においてありゃあそうなるわな。もったいねえが、虫が湧いたくいもんなんて食えねえしな」
食料を出してみると、食料の包みから地面に何匹かの虫が落ちて来た。干し肉らしい小さい塊にはアリのような虫が大量に群がっており、乾燥野菜の方も青虫っぽいものが付いている。とりあえずカバンの中身を街道の砂地に全部ぶちまけて、カバンから虫を全部追い出し、荷物を改めて詰め込んだ。服にもいくらか虫がついていたが、食料に群がった虫が若干ついただけだったようで、手で払ったらいなくなった。カバンから落ちた金の音に男達が目ざとく反応している。俺の声を聞きつけてアリシア達が走ってきたようで、複数の足音が背後から聞こえた。金も全部拾い上げるが、あることを思いついたので金は男達に渡した。
「どうしたのかしら?」
「大丈夫?」
「叫び声が聞こえたけど、何かあったのかい?」
「この兄ちゃんが虫にビビッて悲鳴を上げたんだぜ? 魔物は怖くねえのに虫を怖がるなんてな。ハハハハハ」
「いや、いきなり出てきたらびっくりするだろ」
「ふふふ。ユウスケは虫が苦手なのね」
「おやおや」
「大丈夫かい?」
「いや、こいつらのいたずらだったらしい。引っかかって気が変わった。干し肉の量を減らそうか」
「おいおいそりゃねえぜ。虫が入っていたのは俺達のせいじゃねえよ!」
「そりゃそうなるって言っていたよな、俺が開ける前に一度カバンの中身を見たんじゃねえのか?」
「うっ、そ、それは・・・」
俺の名推理に男達が明らかに動揺している。これは間違いないと思ったので、俺は鎌をかけてみた。
「てめえら、俺の物だとか言っときながら何か先にカバンから盗ったんだろ? 今正直に話せばこの件は許してやるぞ?」
「い、いや、俺達は別に」
「そうか。正直に言わねえなら仕方ない。その盗った物の分として干し肉の量を減らす」
「待て! 分かったって、それだけは勘弁してくれ。干し肉を減らされたら割に合わねえ」
「言えよ。何を盗った?」
「チッ、勘のいい兄ちゃんだぜ・・・」
男はそう言いながら仲間に合図を出す。仲間の一人が短剣と小さな小瓶、10フルを取り出し、俺に差し出してくる。
「これで本当に全部か?」
「ああ。こんな物で干し肉がもらえなくなったら割に合わねえからな。今度こそ本当にこれで全部さ」
「いつあのカバンを見つけた?」
「兄ちゃん達が一度休憩していた時だよ。この短剣が光ったんだ。結構上物そうだし、売ればそれなりの金になると思ってな」
「この小瓶は?」
「こいつに聞いたら魔法薬だって言うからよ? これも売るか俺達が使おうと思ったのさ。金は言うまでもねえよな」
「そうだな。じゃあ、これ」
俺は短剣だけ受け取ると、金と小瓶は男へ戻す。男は驚いた表情になった後、疑うような目で俺を見てきた。
「いいのかよ?」
「ああ。お前らが見つけなかったらここにずっと放置されていただろうしな。見つけた功績にはちゃんとご褒美を用意するさ」
「そうか・・・。悪かった。兄ちゃんがそんなにいいやつだったとは。俺の目も曇ったもんだぜ」
渡された男が若干涙目になっている。ハグとかやめろよ? 臭そうだし。
「あのカバンの中身で他に必要なものはあったのか?」
「この期に及んでねだるのも罰当たりな気がするが、できる事なら金はほしいよな」
「そうか。じゃあ、すこし取引報酬から引いた分渡そうか?」
「いや、そこまでする必要ねえよ。取引の時にも言ったができれば帝国通貨がほしいしな。後は服かな」
「何か使う予定があるのか?」
「これを見てから言えよ」
服を求めるのは意外だと思って理由を尋ねたら、男は自分の足元を指さしてくる。ズボンが砂で汚くなっていた。
「なるほどな。2着ともほしいか?」
「ああ。もらえるならありがたい話だ」
「じゃあカバン発見の報酬はその小瓶と10フル、服2着って事でいいな?」
「ああ。俺達からしたら願ってもねえ好条件だぜ」
「よし、こちらに関しても取引成立だ」
カバンから服を出して男に渡し、代わりに短剣をしまう。長いナイフと言った感じのこの短剣は、鞘がないので危ないが、持っておくことにした。別にこれなら男達にあげてしまってもよかったのだが、ミルかアリシアの護身用装備を更新したいと思ったので受け取ることに決めたのだ。鞘を作るぐらい何とかなるだろうと楽観的に考えている。作業の終わりを確認し、爺さん達が休憩していた地点へ全員で向かって、カバンから約束の干し肉と帝国通貨を渡す。5ヘイル×4人で20ヘイルも一気に減ってしまったが、グールに襲われた人が持っていたらしいカバンに2フルほど入っていた。
「これで全部だな」
「確かに。恩に着るぜ兄ちゃん。帝国の町で出会ったらそん時はよろしくな」
金を数えた男が上機嫌で握手を求めて来たので、しっかりと握り返した後、男達は手を振りながら去って行った。
「じゃあ、俺達も出発するか。もう夕方だからあんまり遠くには行けないが、できる限りここから離れるぞ?」
全員の賛同を確認し、また道を進み始める。日が沈んで真っ暗になるまで進み、適当な空き地に薪を集めて焚火を作った後、干し肉を火であぶっただけの簡単な食事をとって眠った。例によってすぐに眠ったアリシア同様、山を下りる時に散々歩き回った爺さん達もすぐに眠ってしまう。俺も戦闘の疲労があるので眠かったが、レーダーの端に魔物と思われる光点がチラチラしており、その度にアイにたたき起こされたのでしばらくは眠れなかった。薪を追加し、火の勢いを強く保ってしばらくすると意識が飛んだので、疲労がたまりすぎたのだろう。夢の中ではグールとの戦闘がリプレイされており、いつものように自分で自分のダメ出しを行った。死体が魔物になったのだから腕を切るぐらいでは牽制にならないという部分が最大のミスであるという結論に至ったが、あの時点でグールだとはわかっていなかったので仕方ないという結論も出ている。助けられなかった2人は顔を見ないようにしたので夢には出てこなかったが、あのでかい芋虫はしばらくトラウマになりそうな気がする。まったく嫌な体験をしたものだ。
第43話です。グールの戦闘はこれで終結ですね。今後ユウスケにどんな教訓を残すのかは、今後にご期待ください。44話以降、帝国の村や町での話が多くなっていくと思います。今後ユウスケ達がどうなるのか、次回もお楽しみに




