第四十一話 グロテスクな光景
心の準備はいいか?
※グロイです。閲覧注意
「どうした? いきなり抱き着いてきたらあぶねえだろ?・・・ミル?」
若干驚きつつミルの顔を見て、異変に気がついた。ミルの耳がものすごくピンと立っており、いろんな方向にせわしなく向いて音を拾おうとしている。ミルの目は恐怖に染まっており、奴隷商館で獣人に襲われそうになっていた時よりも怖がっているのが分かる。抱き着く力も尋常ではなく、冷静さを失っていた。痛い左腕を気にしつつ、ミルに顔を近づけて尋ねる。
「何が聞こえたんだ?」
「あ、ああああ・・・、うぅ・・・」
ミルは答えてくれず、俺の服に顔を押し付けて来た。とりあえず頭を撫でるが、なかなか落ち着かないようだ。
「いきなりどうしたのかしら?」
「大丈夫なの?」
「お熱いのう」
「様子が変じゃないか?」
「フォッフォッフォッ。何か聞こえたのかえ?」
「わからねえが、ミルが何か聞いておびえているらしい。魔物かもしれねえからみんな固まってここを動くなよ」
「あなたはどうするの?」
「とりあえず魔物だったら襲ってくるだろ? それなら戦えるようにしとかねえとな」
「でも、そんな状態じゃ・・・」
「ああ、だから一時的にこの子を返す。手を貸してくれ」
「わかった。さあ、こっちを向いて」
婆さんはミルがどうなっているのか瞬時に見抜き、旦那さんも異変に気がついて近寄ってきてくれたので、魔物の危険性を話して男の子を旦那さん達に返す。ロープを解いておんぶ紐ごと旦那さんに渡して、爺さん達やアリシア達と固まっておくように指示を出す。次に抱き着いて離れないミルの方を向き、せわしなく動く耳を手でそっと捕まえて、口を近づける。
「ミル。魔物が来ているのか?」
ミルは答えない。抱き着く力がさらに強くなっただけだ。これ以上力が強くなると左手が使えなくなりそうだが、今はこらえる。
「何か変な音がするのか?」
ミルが首を動かしてうなずいた。服に押し付けられたままで顔は見えないが、体が震えだしたので恐怖心を煽る謎の音源が近づいてきているのは間違いなさそうだ。戦闘準備をするにはミルに離れてもらわなければいけない。これが一番大変だ。
「ミル、大丈夫だ。魔物なら俺が倒してやるから、離れていてくれ。抱き着かれたままじゃ銃が撃てねえんだ」
「んぐんぐ・・・」
ミルが顔を押し付けたまま首を横に振る。唸っている姿がかわいいと場違いな考えが頭をよぎったが、これはまずい。
「じゃあ、せめて背中に回って腕は自由にさせてくれ。銃は両手じゃないと撃てねえからさ」
しばしの沈黙。耳の神経を集中して周囲の音に気を配りつつ、ミルの耳を見つめていると、ミルが顔をあげた。
「ま、守ってくれましゅか?」
上目遣いにこちらを見てくる。見ている間も涙があふれており、とても怖いことがよく伝わってくるので、頭を撫でてやる。
「当たり前だろ。今更見捨てるわけねえじゃん。大丈夫だ。必ず守るから」
「はい・・・」
ミルがゆっくりと離れてくれる。背中に回って再び抱き着かれたりはしなかったので、少しは安心できたのだろうか?
「アリシア達と一緒に居るんだ。赤ちゃんを守ってやれ。みんなで固まっていろよ」
「はい・・・」
ミルが爺さん達のもとへ向かうのを確認し、銃の装填を始める。国境の街に着く前、狩りの為に装填したままだった銃弾は、銃の修復を行った時に弾薬鞄に戻っていた。出してみたが封は空いておらず。他の弾薬と変わらなかったのでおそらく使用可能だろう。弾薬を装填し、銃を構え、全周をくまなく見まわし、周囲の音に集中する。しばらく警戒していると、崖方向から近づいてきている3つの光点がレーダーに映った。速度はあまり早くない。レーダーに映ったはいいが、ゆっくり過ぎてここまで来るのに時間がかかっている。まだ視界には映らないが、射線上に爺さん達が居るので、俺が移動して敵と爺さん達の間に入る。
「変わった武器じゃのう。それでどうやって戦うつもりかえ?」
「そっちから何か聞こえるのかい?」
「何か見えたの?」
「魔物かしら。崖の方から来ているってことは・・・。嫌な予感がするわ」
アリシアが何か心当たりがあるらしいが、今解説を聞いている余裕はない。チラッとミルの方を見ると、耳を手で押さえてうずくまり、奥さんの足元で丸くなっていた。耳を押さえるって事は、何か相手は音を出しているのだろうか? そう思って耳を澄ますが、何も聞こえない。風の音も、さっきは聞こえていた鳥の声も・・・。
ん?
何も聞こえない?
今気がついたが、静かすぎるのだ。音に集中していて何も聞こえないのはなぜだろうか? レーダーに映る3つの光点が、あんまりいいものじゃないと言う事なのではないだろうか。レーダーの少し内側にある敵意感知レーダーの圏内に入ると、光点は赤くなった。敵意があると言う事は魔物だろう。めちゃくちゃ移動速度の遅いこの魔物は、いったい何だろうか。俺がこの世界で遭遇した唯一の魔物であるウッドマンは、こんなにノロノロではなかった。もちろんこの世界の魔物がウッドマンだけであるはずがない。少なくとも、国境の町で薬屋が言っていた麻痺毒を使う魔物もいるはずだ。RPGでノロマというとスライムだろうか? スライムなら銃弾が利かなそうで確かに厄介ではあるが、ミルがあそこまで怖がる理由がよくわからない。スライムが出す音がそんなに不快な音なのだろうか? あるいは、俺が知っているスライムと違って、この世界のスライムはすごく恐ろしいモンスターとか、ミルにはスライムに関連した過去のトラウマがあるとか、そもそもスライムではない可能性もある。敵がノロマな関係で考える時間はたっぷりあるが、考えれば考えるほど訳が分からなくなってくる。そもそも俺が考え付いていない未知の魔物で、ミルが怖がるほど恐ろしい輩の可能性があるので、足の遅さを利用して逃げてしまった方がいいかもしれない。その結論に至ったあたりで、レーダーの端に新たな光点が映った。こちらは2つ。俺達が通ってきた街道の方角だ。おそらくは俺達の後から降りて来た難民か旅人なのだろう。魔物らしき敵意ある光点とはそれなりに距離があるが、魔物らしき光点は方向を変え、俺達ではなく新たな2つの光点を目指して移動し始めた。この距離でこの速度ならこの2つの光点が魔物に襲われる前に助けに行けると考えて、みんなに移動の合図を出そうとしたその時、魔物の光点が移動速度を変え、ウッドマンより速い速度で難民の光点に突撃し始めた。
「後から来た人達が魔物に襲われる。助けに行くぞ!」
「え、ちょっ、待ちなさいよ」
「なんだって?」
いきなり走り出す俺に爺さん達が混乱し、思うように動けない。ミルに至っては耳をふさいでいるので反応できていなかった。一度俺が爺さん達のところに戻って事情を説明していると、2つの光点があった方向から悲鳴が聞こえて来た。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぎゃーーーーーーー!!」
その悲鳴にみんなが反応し、ミルが俺の足に抱き着く。これでは動けない。早く助けないと、悲鳴の主が危ないのに。
「ミル、大丈夫だって。落ち着け。おい、ミル!」
必死に説得するが、ミルは離れてくれない。仮に悲鳴の主を見捨てるとしても、このままミルが放してくれなければ、逃げることも反撃することもできないまま魔物に襲われてしまう。困り果てていると、アリシアがミルの耳元に口を近づけ、何事かささやいた。
「っ! はい・・・ご主人様・・・」
ミルが小声でそうつぶやき、俺から手を放してくれる。何を言ったのかはわからないが、これで動けるようになった。
「移動するぞ。ミル、立てるか?」
「はい・・・」
ミルを引っ張って立たせた後、周囲を警戒しながら悲鳴の聞こえた方へ向かう。光点との距離が半分になったころ、魔物に襲われたと思われる2人の光点が消えた。間に合わなかったようだ。地形の起伏が激しいのでまだ見えないが、行くべきだろうか?
「どうしたの? なんで止まるの?」
足を止めた俺に、奥さんが尋ねる。振り返るとみんなが同じ顔をしていた。この先に何があるかを想像しているのだろう。
「いや。みんなはここで待っていてくれ。俺は魔物を倒してくるから」
「そんな、君1人でなんて危険すぎる。私も一緒に行こう!」
足がガクガクの旦那さんが申し出るが、顔を見れば行きたくないのは明らかなので、首を横に振る。
「大丈夫だって。みんなはここに居てくれ」
「あなたがこの中で唯一の戦力なのよ? あなたが離れてしまっては困るわ。私達は誰が守るのかしら?」
「あいつら以外今のところ魔物の気配はしねえから、ここに居れば安全さ」
「そんなのわからないじゃない。私はついていくわよ」
「わ、私も・・・」
「置いて行かれるのは心細いわ」
「や、やはり私も一緒に行くよ」
アリシアの反論にどう答えたものかと迷ってしまったがために、ミルや爺さん達までついてくると言い出してしまった。
「仕方ない。ついてくるのはいいが、みんな固まっておけよ。やばくなったらすぐ逃げるぞ」
全員の返事を聞いて再び進みだす。2つほど丘を越えた先に、地面に倒れる2人の人と、それに覆いかぶさる人影が見えた。覆いかぶさる方も人型と言う事に少し衝撃を受けたが、レーダーでは俺達にも敵意があるはずなので銃を構えながらゆっくりと前進していく。ミル達に合図を出してその場で止まってもらい、俺だけが1歩突出した状態だ。
「おい! 何してやがる!」
俺は大声で人影に問いかける。言葉が通じるなら、魔物ではなく盗賊かもしれない。警戒は必要なはずだ。俺の声に一番近くに居た人影が反応し、不自然な動きでフラフラと立ち上がる。そいつに照準を定め、顔をにらみつけると、そいつがこちらを振り向く。
「グルルルルルルルルルルルルルルルル・・・」
「なっ!」
そいつの口は血で真っ赤に染まっており、片目が無かった。腹にでかい穴が開いており、そこからも血がしたたり落ちている。一目で人間ではないとわかるその容姿に一瞬油断した俺に向かって、そいつは犬のような威嚇音を発しながら突っ込んできた。両腕を前に突き出し、口を思いっきり開けて突撃してくるその姿はまさにホラー映画だ。焦りを覚えつつも、照準に従って引き金を引く。頭にクリーンヒットした銃弾は、頭を貫通して背後の地面に突き刺さった。やつの頭は粉々に吹っ飛び、残った体が膝からガクンと崩れ落ちる。胴体が地面に着いた瞬間、トマトがつぶれるような音がして中からいろんなものが飛び出してきた。
「きゃーーーー!!」
「うわーーーー!」
「なんじゃあれは!」
あまりにもグロテスクな光景を目の当たりにして、アリシアと奥さんがそろって悲鳴を上げる。旦那さんも爺さんも驚いた声をあげていた。残りの2体がその声に反応し、先ほどのやつと同じように不自然な立ち方でフラフラと立ち上がる。
「みんな逃げろ!」
俺は装填を急ぎながら、みんなに逃げるよう指示を出す。さっき倒した奴からは、内臓らしきドロドロしたものと、虫にしてはバカでかいクリーム色の芋虫が大量に出てきていた。その虫どもがゆっくりと遺体の方へ這って行く。
「グルルルルルルルルルルルルルルルル」
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
2体が俺の存在に気がつき、俺に向かって突撃してくる。突撃が始まった少し後に装填が終わり、片方は頭をふっ飛ばした。
「ユウスケ、あなたも早く!」
アリシアの悲鳴に近い叫びが聞こえるが、今はそれどころではない。距離的に装填が間に合わないので、銃を肩にかけて剣を抜いた。隣の仲間が吹っ飛んでも突撃をやめない相手に向かって、横薙ぎに切り込み、腕を飛ばす。生き物なら多少ひるむはずだと思ってやった行動だったが、腕が飛んでも敵は止まらず、慌てて回避した。敵はそのまま俺の背後にあった木に突っ込み、フラフラと振り返ってくる。突っ込んだ衝撃で木片が額に刺さっているが、止まる様子はない。むしろ死ぬどころか血も出ていなかった。手がない状態でゆっくりとこちらに向き直り、また奇声を上げて突撃してくる。今度は牽制などせず、面を打つように上段から思いっきり剣を振り下ろした。剣は頭に刺さるが、腕の時のように切り飛ばせたり真っ二つになったりはせず、少し食い込んだ状態で止まる。同時に敵も動かなくなった。残った短い腕がだらんと下がり、膝から崩れ落ちる。胴体が地面に着いた衝撃で首が外れ、中から最初のやつと同様に異様にでかい芋虫が這い出してきていた。思わず吐き気に襲われ、思いっきり吐いてしまう。
「おげぇーーー」
胃の中の物が全部出た後、敵の額から剣をなんとか抜き取り、みんなのところに戻った。戻る途中でミルが突っ込んできて抱き着かれる。いつもの事だが、今は手が汚れているので頭を撫でることができない。泣きじゃくるミルはしばらく離れなかった。
第41話です。今たぶん80話くらいの部分を書いていますが、今のところこの小説で最もグロイ話がこの41話と、後処理をする42話だと思われます。筆者はこの話を書いた後、1回吐いています(^_^:
この魔物は元々登場させる予定があったのですが、書く前はこんな展開になる予定ではありませんでした。ほかのなろう小説に習い、墓地や幽霊屋敷で出るか、召喚術士とかが呼び出すタイプにするつもりだったのです。ただ、40話などこの山には遺体が多くあることを書いた後、その遺体の処理がどうなっているのか考えをめぐらした時に考え付いたのがこの展開です。さすがに崖の下に落っことしてそのまんま、しかも毎日朝になるとこの光景となると、崖の下がえらいことになります。そこでその遺体はどうなるのかを書いたものです。後は、読者のご想像にお任せしますが、あまり想像しない事を推奨します。私のように吐くかもしれません。普通に狼系の魔物とかが餌にしててそれにユウスケ達を襲わせる、あるいは話に出ている麻痺毒魔物を作って出してもよかったのですが、この展開をあえて採用しています。遺体は埋められないから捨てるしかない異世界。死んだとはいえ、捨てられた遺体はさぞや無念だと思われます。こういう物語を書くとパラレルワールドの法則で本当にこういう世界ができるそうです。その世界で死んでいるであろう方々には、ご冥福をお祈り申し上げますm(._.)m
深夜更新、しかも更新予定日の翌日なのでちょっとごたごたしていますが、次回に後処理が待っています。さすがに道の真ん中で遺体や魔物を置いてはおきません。今回の話を投稿する時、読者がグロイのを嫌がって離れる人が若干はいるだろうと少し不安になったのですが、じゃぁここだけ都合よく変えるかっていうとそれはおかしい気がしたので、そのまま投稿しています。続きを書いている現在、この部分を超えるグロシーンや戦闘はありません。今後グロの応酬が待っていると考えてしまった方は、ご安心ください。筆者の心臓に悪いため、こういう魔物とはあまりお近づきにならない展開を今後は書きたいものです。ミルにも悪いことしましたね。次回もお楽しみ?に




