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異世界に響く銃声  作者: レコア
第2章 召喚された高校生銃士
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第三十九話 山越えの過酷さ

山越えは大仕事だ。体力的な疲労に加え、精神的な疲労、さらに寒さなども襲ってくる

足が痛い感覚で翌朝目が覚めた。

「ん?」

「うぐぅ」

俺が足元を見るために起き上がろうとした時、抱き着いていたミルがうめき声をあげた。いきなり動かれてびっくりしたのだろうか? ミルを気遣いつつゆっくりと足元を見ると、足の上に男の子が乗っていた。目をキラキラさせて、俺の顔を見てくる。

「お兄ちゃん。お外がすごいよ! お外!」

「イタタタ・・・」

そう言って俺の上で飛び跳ねる男の子。痛みの原因はこれか。左手を出して男の子の肩をつかみ、飛ぶのをやめさせる。

「おはよう。外がどうしたんだ?」

「キラキラしているよ!」

「わかったから降りろ。痛いって。ミルが起きちゃうから、静かにな」

「はい・・・。ごめんなさい」

飛び跳ねる度に衝撃が伝わり、ミルの顔が険しくなっていた。男の子がしょげて俺から降りた後、ミルをくすぐって抱き着くのをやめてもらい。離れた後に布団をかけて頭を撫でてやる。俺が離れて抱き着くものがなくなった時は手をあてもなく動かしていたが、しばらく頭を撫でると落ち着いたのか微笑みを浮かべた。男の子と顔を見合わせ、静かにするようにジェスチャーをして男の子を引っ張り上げる。窓は寝る場所のところに1カ所だけあり、ガラスではないらしい謎の透明なものがはまっている。触った感触などで昨日違うと判断したが、爺さん達もこれが何という物なのか知らなかった。そもそもガラスが貴重らしく、こんな宿には無いのが普通らしい。窓の方からはまぶしいほどの光が漏れており、窓に近寄るまでは外が見えなかった。

「おお! これはきれいだな」

目が慣れると、窓の外は太陽光を浴びた雪がキラキラと光ってとてもきれいだった。俺達の居る部屋は俺達が登ってきた斜面の方向に面しており、窓の外は少し空き地があってその先はすぐ崖なので、山の上から森を見下ろす絶景だ。昨日は暗かったのでまったく気がつかなかった。あまりにもきれいな光景に俺が思わずつぶやいた感想で、ほかのみんなが起きだす。真っ先に後ろで物音がしたかと思うと、ガサゴソと動く音がして何かが俺の背中に突っ込んできた。ミルだとすぐにわかるこの行動だが、とりあえず振り返って頭を撫でてやる。俺が消えて怖かったのかもしれないが、頭を撫でられて顔をあげたミルは別に泣いたりはしていなかった。ミルに窓の外を指さしてやる。ミルが窓の外を見て固まっている間に、アリシアが目をこすりながらやってきた。

「何の騒ぎなのかしら? 朝から騒がしいわよ」

「いや、これ見ろって。きれいだぞ?」

「昨日は別に何も・・・。わ~~~~~!」

「だろ?」

「すごいわね。昨日あんなところから登ってきたのね」

いつの間にか背後に奥さんが来ており、その隣から旦那さんの気配がする。首が回らない方向なので気配だけだ。

「これはすごいね。こうして見ると山の上に居るんだと実感できるよ」

「フォッフォッフォッ。これはこれは」

「自然は偉大じゃのう」

「昨日は見えないはずだよな。明かりがねえんだもん」

「晴れているわね。雲一つないいい朝じゃない」

「これなら降りる時も安心じゃな」

「ミル? 大丈夫か?」

「はい・・・。しゅごいでしゅ。うぅ・・・」

ミルは窓の外を見ながらまだ固まっている。横顔は笑顔だったので大丈夫そうだ。しばらく景色を堪能した後、暖炉の火で鍋を温めてスープを作る。干し肉と乾燥野菜のスープは昨日の晩とメニューが変わらないが、乾燥していた喉に染みる一品だった。

「準備ができたら出発するぞ? それでいいか?」

「そうだね。じゃあ毛布を返してこよう」

「わかった」

食事を終え、旦那さんとミルを連れて毛布を返しに行く。毛布を返した帰りに従業員の部屋に寄った。

「はい。どのようなご用件でしょうか? お客様」

「おはよう。ちょっと聞きたいんだけどさ、窓にはまっているあの透明な奴は何だい?」

「あれは魔物の皮を薄くのばして加工した物だと伺っております。特殊な加工を施すことで、外の様子が見えるほど透き通った壁を作ることができるのだそうです。何の魔物の物かは存じません。申し訳ありません」

「魔物ねえ。さすがというかなんというか。ありがとう」

「何かありましたら何なりとお申し付けください」

教えてくれた従業員に1フルを渡しておく。昨日の従業員とは違う人だが、意味は分かったらしく無言でお辞儀をされた。一度部屋に戻り、旦那さんと入れ替わりに今度は奥さんを連れてまた1階へ降りる。婆さんは移動に備えたいそうなので置いて来た。赤ちゃんの面倒は旦那さんが見るらしく、ミルは俺達についてくるらしい。赤ちゃんをチラッと見てからついて来ていた。

「これを洗い終わったら出発するの?」

「鍋を荷物に詰めたら後はやる事ねえもんな。あのおっさんがタダだって言っていたから金も払わなくていいし・・・。でもトイレには皆行かせておくか。道中のトイレは大変だろうしな。後は何かあると思うか?」

そう言って器を洗っているミルに話を振ってみる。ミルは昨日手伝えなかったからと調理器具の洗浄を手伝ってくれている。

「ないと思いましゅ・・・たぶん」

「ん?」

何か引っかかるような言い方だったので俺が反応すると、ミルは少し動揺した後器を洗い始めた。何だ今のは?

「水はどうするの?」

「ああ、そうか。水の補給を忘れていたな。出発する時に降りてくるんだから、その時に補給して出ようぜ」

「そうね」

奥さんの一言で水の補給を忘れていた事を思い出した。ミルが引っ掛かるような言い方をしたのもそのせいか。

「あ、あの、その・・・」

「ミルも何か忘れているなと思ったんだよな? ありがとう」

「い、いえ・・・」

若干落ち込んだミルに気を使いつつ、調理道具を洗い終わったので部屋に戻った。調理器具をカバンに詰め、毛布を回収し、忘れ物をチェックする。水入れだけを手に持って、あとは担いだ状態にして部屋を出た。全員で1階に降りて、俺と旦那さんで水を汲んでくる。1人ずつが持つ個人用の水入れと、俺が持つ調理用水などの水入れだ。全員分は大変だったが、さっさと終わらせて合流し、個人用の水入れは各自にちゃんと返す。従業員の部屋に顔を出し、出発を告げてから宿を出た。

「旅の無事を、お祈り申し上げます」

そう言って部屋に居た従業員が頭を下げて見送ってくれる。昨日の1件以来あの男に会っていないが、別にいいだろう。

「外はやはり寒いな。アリシア、毛布使うか?」

「そうね。助かるわ」

「奥さん達も、ほら」

「ありがとう」

「すまない。また借りるよ」

「ありがとう。お兄ちゃん!」

アリシアに予備の毛布を渡して、赤ちゃんを抱っこしている奥さんと、男の子を上着で隠して寒さから守ろうとしていた旦那さんに貸す。爺さん達には俺達が使う普段の毛布を渡しておいた。実際のところ俺も寒いが、爺さん達や赤ちゃん、この旅の目的であるアリシアなどを優先する。ミルも寒そうだが、例によって俺に抱き着いてきているので多少は大丈夫だろう。宿を出て今日下りる予定の崖の方向に向かうと、昨日とは違う種類のざわめきが聞こえて来た。泣き声が多いようで、たくさんの人が悲しんでいるらしい。嫌な予感がするが、そちらに進まないと下りられないので仕方なく進むしかなかった。

「ああーなんという事だ! だからあれほど私の分の毛布を使えと言ったのに! 許しておくれ。許しておくれー!」

「お父さん! お父さん! 起きてよ! なんで寝たままなの? ねえ! ねえ! イヤーーー!」

「嘘だろ? なんで、昨日まであんなに元気だったじゃないか! どうして、どうしてこんな・・・」

何人もの人が、家族であろう人に抱き着いて泣いたり謝罪したりしていた。相手はみんな眠っているようで、家族の問いかけにまったく反応がない。凍死したんだと気がつくまでに少し時間がかかったが、気がつかなければよかったと後悔してしまう。

「私達も本来ならああなっていたのかしら」

「そんな・・・」

「そんな事考えなくていいよ。大丈夫だっただろう」

アリシアのつぶやきに奥さんが青い顔でふらつき、旦那さんが慌てて支えながらアリシアを注意した。

「ごめんなさい」

「悲しい光景じゃのう」

「人はいつか死ぬ。彼らの寿命は、昨日までだったのじゃな。おぬしにわしらの寿命を延ばしてもらったようじゃ」

アリシアが失言を謝罪し、爺さんが悲しい顔でつぶやき、婆さんがよくわからない感想をのべる。男の子は旦那さんに手で顔を覆われているため、状況が分かっていないようだ。何かの遊びだと思っているらしく、旦那さんの手をはがそうとしている。抱き着く力が強くなったのでミルを見ると、耳がペタンとなっており、うつむいていた。とりあえず頭を撫でて落ち着かせてやる。崖のすぐ近くでは昨日の男や男性数名が遺体らしいものを2人一組で持ち上げて、崖下に放り投げていた。家族らしい人達が泣き崩れているが、誰も止めようとはしていない。さっき泣いていた人達も、順番待ちだったかのように順番が来ると無言で遺体のそばを離れ、運ばれていくのを見守り、崖の下に消える遺体を見ていた。悲鳴を上げていた女の子がちょっとぐずって離れなかった以外は特に何か起こる事は無く、昨晩凍死したと思われる人達の遺体は崖下に全部消えた。すべて終わった後に人々が解散を始めたので、近くで見ていた昨日の女性従業員を捕まえて事情を聞けないか探りを入れてみたところ、あっさり教えてくれた。

「ここでは毎日起こるある種の日課なんです。宿に入りきれない人達が夜の寒さで亡くなる事が多いので、朝になったらすべての団体を従業員が周って、亡くなった方が居たら同行者と最後の別れをさせた後、崖下に遺体を落とすのです。ここは雪が深いですし、地面は岩なのでお墓を掘れません。埋められる数にも限界がありますし、遺体をそのままにすると魔物が寄ってきてしまって危険なので、どうしようもないのです。王国側帝国側どちらに向かうとしても遺体を背負って降りられる人はなかなかいないですし、冒険者のパーティなどですと死亡した仲間は基本的に見捨てるものだそうで、従業員が崖下に落とすしかないのです」

「そうか。わりいな、変なこと聞いて」

「いえ。ここに務めた当初は驚きましたが、もう慣れてしまいました。ご心配なく」

心配するなと言っているが、目が泳いでいるので少なからず精神的なダメージがあるのだろう。教えてくれた女性従業員に労いの意味も込めて2フル渡した。お辞儀をして去っていく女性従業員と別れ、爺さん達のところに戻って移動を再開する。宿屋のある台地から崖の端にある斜面を下り始める時に崖の方を一度覗いてみたが、雪が白い霧を作っており、谷底は見えなかった。

「さあ、ここからは下りだ。滑るだろうし、足の負担も大きい。道も狭いから注意しろよ。ミル、危ないから俺の後ろでカバンをつかんで歩け。抱き着かれているといざって時に動けねえからな。大丈夫だ。カバンにつかまってりゃ平気だろ? な?」

「は、はい・・・」

崖下を見て怖がり、さらに俺に抱き着こうとするミルの頭を撫でて安心させた後、俺を先頭にゆっくりと下りていく。ミルが2番、アリシアが3番、以後、爺さん、婆さん、奥さんと赤ちゃん、男の子、旦那さんの順だ。道が思ったよりも狭かったので、俺が下りると背中のでかい鞄で道は目いっぱいになっていた。階段は無いが、岩を長年踏みつづけたせいでできたらしいへこみが階段状になっており、下りるのは思ったより楽だ。少し下りると岩壁がえぐれて広くなっている場所があり、男性が2人待っている。

第39話です。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたしますm(._.)m

新年早々の話としてはかなりどうなのと言われそうな話で申し訳ありません。話のつながり的に新年最初の話がこれになったのは果たして運命なのか、私のタイミングが悪いのか・・・。

毎日これがあるってことは、崖下には遺体の山が・・・。エベレストなどの高い山では、道が1本しかないのにその道に登山中力尽きた登山者の遺体が横たわっており、迂回もできないので泣きながら、謝りながら、祈りながらその遺体を踏んで登り続けなければならない山があるそうです。標高が高すぎて空気が薄いためヘリで収容もできず、背負って降りるわけにもいかないので遺体が何十年もその場に放置され、そこを訪れる何十人もの登山者に踏まれる運命にあるんだとか。山の上は空気が澄んでおり、寒さの関係もあって雑菌増殖が起こらず、遺体は腐らないそうですね。彼らの魂だけでも、無事下山出来たらちょっとは救われると思います。山は遠くから見ると美しいものですが、近寄って中身を見ると恐ろしい一面も持っているようです。次回は2週間更新に戻るので1月13日を予定しております。次回もお楽しみに

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