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異世界に響く銃声  作者: レコア
第2章 召喚された高校生銃士
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第三十八話 ミルの尻尾と女性の都合

女性はデリケートである。らしい・・・

「毛布はどこだったかな?」

「確か入り口の右側だって言っていたよな。井戸の隣の部屋だっけ」

「ああ、そうだったね。じゃあ行こう」

歩き出した旦那さんが少し離れたのを確認し、ミルに耳打ちする。

「トイレに行きたいんだったらそこだからな」

「っ! は、はい・・・」

ちょっと動揺していたが、ミルはトイレの方に向かっていった。ちょっと配慮が足りなかったか? 旦那さんに追いつくとニヤニヤと俺を見てくる。配慮したはずが、聞こえていたのだろうか? 地雷っぽいのでスルーしておく。

「言葉をそのまま言い過ぎだと思うよ? 女性にとってトイレの話を男性からされるのはちょっと嫌らしいから、気をつけてね」

せっかくスルーしたのに旦那さんの方から話しかけられてしまった。やはりさっきの会話は聞かれていたらしい。

「そうなのか?」

「よくはわからないけど、そうらしいよ。昔妻に散々嫌がられたよ。ハハハハハ」

「気をつけとくよ」

「それがいいと思う。あの子は君にべったりのようだし、君が面倒を見てあげる立場なのは君達と一緒にいてなんとなくわかったけど、もう一人の子もあの子も君の言う事ならちゃんと聞いているよね。それはすごいことだと思うよ」

旦那さんが褒めてくるが、何がすごいのかいまいちわからない。

「何がすごいんだ?」

「獣人っていうのは同じ種族との結束は固いんだけど、他の種族との結束はそこまで強くないんだ。我が強い獣人とかだと同じ種族で位が上の人の言う事しか聞かないらしいよ。その点あの子は君の言う事なら何でも聞くだろう? それは珍しいんだよ」

「アリシアは獣人じゃないぞ?」

「彼女は確かに人間だね。でも、家族でもない、恋人でもない年頃の女の子がそんなに年の変わらない君の言う事を聞いているのも珍しいと思うよ。もうちょっとしたらきっと花嫁修業が始まる年齢だろうに、年頃の男の子と旅をしているってことも珍しいし、あの年頃だと何かと反発心が芽生えるものだ。なのにあの子は言う事を聞いている。君を信頼しているというのがよく伝わってくるよ。治安が悪い今の世の中で、そこまで信頼されるのもきっと珍しいはずさ」

「アリシアの場合、いろいろ小言を言っているから反発心はあると思うぜ?」

「いや。程度の差はあると思うけど反発するってそんなもんじゃないと思う。あの子はおとなしい方だと思うよ」

「あれがねえ・・・」

そんな話をしながら毛布を部屋から取り出し、トイレの前でミルを待つ。少し待った頃にミルは出てきたので3人で部屋に戻った。ミルはチラチラと毛布を見ているが、今更持たせるとか言い出すわけにもいかないのでスルーする。部屋に戻り、爺さん達に毛布を渡した後、調理器具を取り出して暖炉の熱でスープを作る。焚火と違って若干やりにくかったが、スープはできた。

「アリシアはどうしようか」

「寝かせておいてあげて。すごく疲れた顔をしているわ」

「無理に起こさなくてもよかろう」

「フォッフォッフォッ。この温かいスープを飲まんとは、もったいないのう」

爺さん達に止められたのでアリシアは起こさずに夕食を終える。スープしか作らなかったが、干し肉も乾燥野菜も入れたものなので問題なかったようだ。鍋や器を持って婆さんと奥さんに手伝ってもらい、1階の井戸で汲んだ水を使って調理器具を洗った。

「何から何まで全部お前さんがやるのかえ? フォッフォッフォッ」

「アリシアは料理できねえし、ミルは一人で作業するのを怖がるからな。仕方ねえよ」

「ふふふ。男性でもこういう家事ができるのはすごい事よ。あの人なんて器を洗うのも下手なんだから」

「あの若造はまだ器が洗えんのかえ? 前にちゃんと教えてやったはずなのに。フォッフォッフォッ」

「不器用なのよ。それでもあの人はいい人だわ」

「フォッフォッフォッ。惚気話かえ?」

「ふふふ。そうね」

「赤ちゃんは置いて来て大丈夫だったのか?」

「お父さんが見てくれるし、あの人もいるわ。ミルちゃんも居るもの。大丈夫よ」

「ミルが付いて来ないって言ったから珍しいと思ったら、やっぱり赤ちゃんが心配だったんだな」

「あら、やきもちかしら? ふふふ」

「フォッフォッフォッ。熱いのう」

「いや、違うって。俺が視界から消えるとミルは不安がるんだよ。ちょっと旅の初めの頃にミスった事が原因で、トラウマになっちまっているんだ。そのミルが大丈夫そうなのがちょっと新鮮だったのさ」

「いつまでも怖がっていちゃだめよって、さっき話していたのよ。あなたがここへ着いてすぐに私達から離れて、明日進む道を確認しに行った時、ミルちゃんが怖がっていたから理由を教えてもらったわ。詳しい事までは教えてくれなかったけど、あなたが離れている時に怖い思いをしたんですってね」

この宿がある台地に着いてすぐの時か。あの短い時間でミルが奥さん達に怖い理由を話すなんて、珍しいな。

「ああ、俺のミスだ」

「ダメよ? あんなにいい子を怖がらせたりしちゃ」

「反省しています」

心の底から罪悪感が襲ってきたので少し落ち込んでしまった。そんな俺を見て奥さんがまた笑いだす。

「ふふふ。それ以来あの子の目が届かないところまで離れないようにしているんでしょう? やっぱりあなたは優しい人なのね」

「あの一件以来ミルの怖がりが悪化したからな。助けるって約束したのに、助けるのが遅れちまった。後悔しているよ」

「過ぎたことはどうにもならないわ。これから先、ミルちゃんを守ってあげればいいのよ。もちろん、一生ね? ふふふ」

そうか。これからも奴隷としてアリシアに仕え続けるなら、ミルを守るっていうのも一生になるわけだ。昨日の奥さんの言葉の意味が分かったような、分からないような、そんな気がした。

「一生か、先は長いなあ」

「フォッフォッフォッ。人生なぞ短いものよ。すぐに年老いてしまうわい」

「せいぜい楽しむさ」

「そうね。若いうちにいろいろと経験しておくといいわ」

「あんただって俺達とそんなに年変わらねえんじゃねえの?」

「あらうれしい。でも女性の年齢を詮索するのはよくないわよ」

奥さんが手をたたいて喜んだあと、ニコニコしながら俺に注意してくる。さっき旦那さんに注意されたことをまたやってしまった。

「さっき旦那に言われたよ。言葉をそのまま言い過ぎだって」

「そうね。聞いていい事なのか、もう少し考えた方がいいかもしれないわね」

「難しそうだな」

「気をつけていればそのうち治るわ。さあ、部屋に戻りましょうか」

「やれやれ、腰が痛いわい」

そう言って婆さんが腰のあたりをさすっている。確かに階段を3階分も上ったり下りたりするのは年寄りにはつらいだろう。

「おぶるか?」

「大丈夫なのかえ?」

「問題ないだろ。ほら」

「本当に大丈夫? 階段があるのよ?」

「無理そうだったら言うから。とりあえずやってみるさ」

「フォッフォッフォッ。では、失礼するかの」

婆さんをおんぶして階段を上がる。身体強化アシストがあるので重さは全く問題ない。後ろから心配そうな顔で奥さんが鍋を持ってついてきているようだが、足が壁にぶつかったりしないか、姿勢が悪くなっていないかなど色々注意しながら登ったので、肉体的な疲労より精神的に疲れる作業だった。奥さんにドアを開けてもらい、部屋に入って婆さんを下ろす。

「さすが、若者は力持ちじゃな。フォッフォッフォッ」

「ありがとう」

「これぐらいなら大丈夫さ。ミル、大丈夫か?」

「は、はい・・・」

若干ミルがしょげているので、やっぱり不安になったのだろうか? 少し頭を撫でて、荷物を片付ける。ミルはちょっとうつむいていたが、奥さんが寝床に入ると後を追って毛布にくるまっていた。旦那さん達も寝床に入ったので、部屋の壁についていた燭台の火を消し、暖炉の明かりを頼りに自分の寝る場所へもぐりこむ。アリシアの方からは静かな寝息が聞こえているので、うまく眠れているようだ。温かい毛布にくるまっていると、ミルの居る方向からゴソゴソと音がして、右手をつかまれた。

「大丈夫か?」

「ぐすっ、はい、うぅ・・・」

「おいおい、大丈夫かよ」

なぜ泣き出しているのかはわからないので、とりあえず左手でミルの頭を探し、ゆっくりと撫でてやる。

「きっとあなたに撫でられたら安心して気が抜けちゃったんじゃないかしら? しっかり慰めてあげてね。ふふふ」

「気が抜けたって、やっぱり不安だったのか」

「は、はい・・・。ぐすっ」

「はあ・・・。よしよし、いなくなったりしないから、泣きやめよ。大丈夫だから」

溜息を吐きつつ、ミルの頭を撫で続ける。5分くらい撫でていたら泣き止んだのか静かになったが、いつものように右手にがっちりと抱き着かれた。もう慣れたので別に問題はないが、尻尾らしきフワフワしたものが足に当たっていてくすぐったい。

「泣き疲れちゃったのかしらね」

「眠ったみたいだ。例によってがっちり抱き着かれているけどな」

「まるでお母さんね。寝る時にぬくもりが感じられて安心するのかしら? ふふふ」

「尻尾がくすぐったくて眠れねえよ」

「あらあら、でも尻尾に触っちゃだめよ? 尻尾を動かせる獣人にとっては重要なものだから、下手に触ると怒られちゃうわ」

「獣人は尻尾が弱点なのか?」

「動かせる種族の獣人はそうであることが多いわね。動かせない種族の獣人はそうでもないみたい。なぜかしらね?」

「たぶん神経が通っているかどうかなんだろうな」

「シンケイ?」

「手を触られたらわかるだろ? 尻尾にそういうのを感じられる部分があるかどうかの差だと思うぞ」

「そうなの? やっぱりあなたは物知りね」

「小さいころに習ったよ。実際にそうなっているのかは知らねえけどな」

小学校か中学校の時の理科の授業だ。やっぱり文化水準とかの関係なのか、奥さんの「神経」という発音がなんか変だった。

「小さい頃にお勉強ができるなんて、外国はやっぱりすごいのね。それともあなたの家がお金持ちだったの?」

「金に困るような家じゃなかったが、この程度の教育なら俺の故郷の国では当たり前だったな。そういう義務があるんだよ」

「義務でも勉強ができるなんて羨ましいわ。私達は貧しいから読み書きもあんまりできないのよ」

「やっぱり識字率とか低いのか?」

「シキジ?」

「字を知っているとか、書ける、読める人の割合かな。これが高い国は文字をかける人が多いんだ」

「そうかもしれないわね。字が書ける人も読める人も私の周りは少ないわ」

「そうなのか。そろそろ寝ようぜ」

「そうね。また明日ね」

「おやすみ」

「オヤスミ?」

「俺の故郷の国で使われる寝る前の挨拶だ」

「眠る時も挨拶なんて、礼儀正しい国なのね。じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」

すっかり話し込んでしまったので、適当に切り上げて眠る。尻尾がくすぐったいが、しばらく我慢していると眠気と疲労が勝った。夢ではまたしても追手との戦いがリプレイされている。もう見尽くしたと何度思っても、ちょっとしたことで新たな発見があるから不思議だ。アイによると、この世界に来てからの俺の記憶は、脳の記憶領域を一部アイが支配して活性化、記憶の劣化を遅らせるなどの処置を施し、細かい事を思い出しやすいようにしてあるらしい。なので夢で見つけた改善点も忘れることなく記憶に残り、今後戦闘になった時、アイの身体強化アシストなどと併用されて体の動きの参考にされるそうだ。残念ながら俺がそこにため込まれた記憶にアクセスする場合、アイを一度介する必要があるらしく、俺自身は記憶力がよくなったと実感することはできていない。戦う時に前の失敗を踏まえた動きができたとしても、それは俺が覚えたからではなく、アイの記憶によるもので、俺自身の強さに直接プラスされたりはしないようだ。なんとなくむなしいが、今はこれでも十分だと思う。


第38話です。今年最後の更新、みなさんよいお年をお迎えくださいm(._.)m

1年間ありがとうございました。来年は元旦に39話を投稿して、以後は普通のペースに戻します。

獣人っていろんな物語に登場するし、しっぽがある半分人間な生き物もいろんな物語に出てきますよね。尻尾を握られてΣ(゜∀゜ノ)ノキャー、なんて反応をする物語もよくあります。実際の動物も尻尾をもふもふすると喜ぶ種類、嫌がる種類、気がつかない種類がいるみたいです。サルのようにしっかりと物をつかめるくらい頑丈なものもあれば、ウサギのように短いのがちょっとあるだけ、犬のように毛がフサフサだけど掴める部分はない、ネズミのように細いけどしっかりと動かせるなど、尻尾って言っても色々ありますよね。ミルの尻尾はどんななんでしょうか、次回もお楽しみに。来年もよろしくお願いします。m(._.)m

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