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異世界に響く銃声  作者: レコア
第2章 召喚された高校生銃士
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第三十四話 難民の苦労、獣人の苦労

差別は怖い、ある種のいじめであるそれは、周りで見てみぬふりをするのも同罪である(諸説あり)

ゴソゴソという音に気がついて目を開けると、ミルが若干こちらに近寄ってきていた。また火が熱かったのだろうか? ミルの背中側にある毛布を触って確認するが、そこまで熱いわけではなかった。不思議に思っていると、クスクスと笑い声が聞こえる。体を半分起こすと、奥さんが起きていて、ニコニコしながらこちらを見ていることが分かった。目が合うとさらにニコニコと笑ってくる。何がおかしいのかと首をひねったら、視線だけ動かしてミルの方をチラッと見た。

「おはようございます」

「うふふ。やっぱりあなた達は仲がいいのね」

「懐かれてはいますけど、ニヤニヤするような事は無いと思いますよ?」

「あら、そうなの?」

ニコニコ顔がだんだんとニヤニヤした顔に見えてくるような・・・。なんとなく、恋愛話に花を咲かせるクラスメイトを思い出す目をしているような気がする。そんな事を思っていると、奥さんが視線をそらした。赤ちゃんの頭を撫で、毛布を掛けなおす。

「ごめんなさい。別に意地悪を言いたかったわけじゃないわ。この毛布、あなた達の物なのでしょう? ありがとう」

「別に。予備があったのを出しただけですから」

「普通、予備があっても貸してくれる人は居ないわ。自分用に出して自分が使うだろうし、ましてや他の人を優先して自分は使わない人なんて始めてよ。あなたは優しい人なのね。それとも、その子と一緒に寝ていたかったのかしら? うふふ」

褒められているのか褒められてないのかよくわからない。感謝されているようにも聞こえるし、「君は普通じゃないね」と言われているような気もする。少しひねくれているかもしれないが、反応に困る発言だった。

「さっきも言った通り俺に懐いていますから、ミルなら別に嫌がらないだろうと思ったんですよ。赤ちゃんとかは冷えたら大変でしょう? 俺達なら別に大丈夫ですし、貸したからって何か問題が発生するとも思えなかったですから」

「この子の事を気にかけてくれてうれしいわ。確かにこの子は大切な私の子だから、とても助かります」

そう言ってもう一度赤ちゃんの頭を撫でる。赤ちゃんはスヤスヤと眠っているようだ。焚火越しなので細かい表情まではよく見えないが、泣き出したりしてないから、安眠できているのだろう。上半身を起こしただけだったが、この体勢はつらいので完全に起き上がって座ることにする。毛布を出て、ミルに毛布を掛けなおしたが、服をつかんだミルの手は離れなかったのでそのままにした。奥さんがやはりニコニコとこちらを見ているが、とりあえず座るまでは無視する。少し肌寒いが大丈夫だろう。

「眠っていてもあなたを離そうとしないなんて、本当に好かれているのね。うふふ」

「身動きが取れなくなるので困ることもあります」

「無理に礼儀正しくしなくてもいいのよ。なんだかぎこちないわ」

「ああ、ええっと・・」

「大丈夫よ。私はあなたと同じ平民だもの。そんなに年も離れていないと思うし、気を使わなくてもいいわよ」

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

そんなに変な敬語を使っているのだろうか? 少し不安になるが、相手がいいと言っているから問題は後回しにする。

「あなた達も帝国へ行くのかしら?」

「ああ。ちょっと用事があるからな。あんた達は?」

「私達は難民よ。王国の治安はもともとあまり良くなかったけど、最近特にひどくなって、人さらいや盗賊の被害が増えてきているの。魔物の襲撃も怖いわ。王都で何かあったって噂もあるし、帝国に行ったら必ず生活がよくなるとは限らないけれど、王国にいるよりは安全なんじゃないかって、家族で話し合って決めたの。この子達はまだ小さいから、私達に何かあったらこの子達が大変だもの。そんな事には絶対なってほしくないの。この山さえ越えれば帝国だから、あと少しなのよ」

「そうか。他の人達もみんなそうなのか?」

まだ薄暗くて見えないが、俺は周りを見渡す。

「たぶん周りに居る人達もみんな難民だと思うわ」

「大変だな」

「ええ。長い距離を歩かなければならないし、町を出るから魔物が怖いわ。ここの山越えも、通ること自体が大変だから他の方法があるならそれがいいんだけど、ここを通らない方法はお金がすごくかかって私達平民には無理なのよ」

「どんな方法があるんだ?」

「わからないわ。でもすごくお金がかかるって事だけ教えてもらったの」

「そうか」

山を徒歩で走破する以外で帝国へ渡る手段があると聞いたのでちょっと気になったが、奥さんは詳細を知らないのか。

「あなた達はいつごろ出発するの? 私達もそれに合わせて動くつもりなのだけど」

「特には決まってねえな。いつもはアリシアやミルが起きてから、朝食をとったりして出発している。大体日が昇って少ししたころには起こすつもりだ。あんまり遅くまで寝ていても困るし、暗いうちから起きてもあたりが暗かったら何も出来ねえからな」

「そう。じゃあその時は私達も起きるわね。道中も一緒に行動していいかしら? 大人数でいる方が魔物に襲われにくいんですって。お父さんが言っていたわ。いいかしら?」

「俺は別にいいけどよ。旦那とかに相談しなくていいのか?」

「この人はきっといいと言ってくれるわ。お父さんもお母さんも反対はしないと思うし、この子も喜ぶと思うわ」

「それって、朝食に期待しているって意味だよな」

さっきのニヤニヤした目線のお返しとして、ちょっと意地悪を言ってみた。奥さんは一瞬びっくりした後、慌てて否定し始める。

「え・・・。そ、そんなつもりじゃ無いわ! そこまであなた達に迷惑をかけるわけにはいかないもの」

「別にいいさ。食料には余裕があるし、俺達は構わねえよ」

「本当?」

奥さんは不安そうな顔で確認してくる。手が赤ちゃんを抱きこむように動いているので、本当に不安になっているようだ。

「ここで嘘でしたとか俺はどれだけ悪人なんだよ。嘘なわけねえだろ」

「ありがとう。やっぱりあなたは優しい人なのね」

「どうせ、そっちの子がおなかすいたって泣き叫ぶだろ。そんなの聞きながらこれから山登りなんて気分が悪いからな」

「ありがとう」

ニコニコ顔の奥さんに理由を話しつつ、男の子をチラッと見る。旦那さんにくっついて眠っているが、時々手が伸びて旦那さんの顔にパンチを繰り出し、旦那さんが悲痛な表情をしていた。夢の中で何と戦っているのかは分からないが、ほほえましい光景だ。同時に旦那さんが少しかわいそうだと思う。奥さんも赤ちゃんの様子を見ながら、チラチラとミルを見ている。

「あなた達は難民じゃないの? 食料も他の道具もいろいろ充実しているようだけれど」

「まあ、難民じゃないが、帝国へ行きたいっていう意味ではあんまり変わらねえよ。ちょっと準備がいいだけさ」

「うらやましいわ。着の身着のままで逃げてきている人も多いし、少ない持ち物を売り払っても食事に困る人もいるもの」

「そういう点で恵まれているのは否定しねえが、だからといってこの道にいる人達全員を救うのは無理だ。余裕があるとはいっても食料には限りがあるし、他の道具だって所詮は予備だ。俺達が使わないものは持ってないしな」

「そう。やっぱりあなたは優しい人なのね。助けられなくても、周りの人達の事を一度でも考えられるならそれはいい事よ。私達が居た街の領主様は、常日頃から助けたいとは言っていたけど、上辺だけで実際には何もしてくれなかったわ。裏では奴隷商人と結びついていたって噂もあったし、そんな人の街にいた私達にとって、あなたの考えはすごく素晴らしいことよ」

「俺の助けられない現状と、その領主に何か差があるのか? 結局口だけで助けないのは変わらないと思うぞ?」

「あなたはあの領主とは違うわ。現に私達を助けてくれているもの。それだけであの領主より何倍も立派よ」

「そんなものなのかねえ・・・」

奥さんは励ましてくれているが、俺には疑問だった。常日頃から助けたいとは言うが、実際には何もしてくれなかった領主と、全員を救うのは無理だとあらかじめくぎを刺した俺、結局どちらもほとんどの人は救われていない。奥さんが話すその領主だって、実はたくさんの人を救っていたのかもしれない。たまたま奥さんの周りが救われてなかったから悪いイメージが付き、奥さん達を助けたから俺のイメージがよくなっているんじゃないか、そんな気がした。本当の慈善活動をする人達は、一般人の目に見えにくい、わかりにくい所で努力している事が多い。日本でのんびり暮らす俺達が知らない、例えばアフリカの貧しい村で医療を無料で施す人は、現地でその人に助けてもらった人からは感謝されるが、日本の俺達には存在すら知られていなかったりする。その人本人はもちろん、そういう活動自体や、そういう村の存在すら知らない人が圧倒的だ。そんな人を日本で見ても、俺達は別にほめたりしない。すごいですねと言う事はあるかもしれないが、別に尊敬するような人だと思ったりはしないのだ。そういう人の努力を俺達は見たことがないし、金が必要だと言われても詐欺と区別がつかない。日本で金をせびるような奴が本当にいいやつなのかもわからないが、実際の現場では神様もかくやというレベルで崇められている人もいる。一般人にすぎない俺が、そんな人達と同じことができるわけじゃない。向こうから声をかけてきて、いいと思ったから火のそばで寝かせた。子供がかわいそうだったから夕食をあげた。寒そうだと思ったから毛布を掛けた。たったそれだけだ。こんな事で感謝されるのは、それだけこの世界が殺伐としているという表れなのか、あるいは俺が変人だと言う事なのか、日本人的価値観がこの世界に合わないのか。

「むぐっ」

ミルがまたうめいた。背中に手を回すと、毛布が熱くなっていたので、ミルの体を抱きかかえて少し火から離してやる。

「ちょっと火に近すぎたらしい。旦那さんとか爺さん達とかは大丈夫か? 結構毛布が熱くなっているみたいだぞ?」

「あら、心配してくれてありがとう」

そう言って奥さんは旦那さん達の毛布を触っている。爺さん達の方には届かないようだったので俺が確認した。アリシアの毛布も念のため確認したが、ミル以外は大丈夫なようだ。ミルは火が苦手なのか、火から離した後、俺の足にさっきよりも抱き着いてきている。左手をつかんでいる手は離していないが、足をまげて俺の足を包むように丸まった。

「うふふ」

「こうなると抜け出すのが大変なんだよ」

「信頼している証ね。猫人の人達は母親のように信頼している人からは離れないそうよ。あなたは信頼されているのね」

「懐いているだけなんじゃねえかな」

「こんなにべったりな猫人も珍しいと思うわ。何か事情があるのかしら? うふふ」

「さあ? 前に獣人に襲われそうになっていたから守ったけどよ、それ以来ずっとこうだからな」

「助けてもらったのね。今の私達みたいに」

「場の流れでな」

「そういう場面に出会っても、本当に助けてくれる人は少ないわ。昔から獣人を人間より下に見る人達がいて、道端で獣人がいじめられていてもみんな知らん顔で通り過ぎる事はよくあるもの。私達も下手に手が出せない事が多いわ」

「なんでだ?」

「差別の根って結構深いのよ。私達の居た街だと食事の配給所で所長をしている人が獣人嫌いだったから、獣人にやさしくすると配給を止められちゃったりする事があったわ。私達も食べないと死んでしまうし、この子達の事を考えると食料がもらえないのは困るのよ。だからそういう光景に出会っても、知らん顔するしかなかったわ」

そう言って奥さんは暗い顔をする。何か嫌な事でも思い出してしまったのだろうか。

「どんな場所にも差別はあるんだな」

「ええ。血を流して、ケガをして、道端に放置されたりしているとかわいそうだと思うんだけど、どうしようもなくて結局私の見た獣人は死んでしまったわ。後悔しているの。あなたはその子を助けられたんだもの。やっぱり優しい人なのね」

「いや。たぶん前の俺だったらあんた達と同じように放置しただろうな。俺の故郷の近くの国でも似たような事が起こっていたが、俺はそんなの無関心だったし、たぶん目の前でそういうことがあっても何もできなかったと思うぜ」

「今は何かが違うの? それともその子が特別だったの? うふふふ」

奥さんは俺の発言にニコニコしながら聞いてくる。ミルの耳がピコピコと動いている気がするが、とりあえず放置だ。

「なんでだろうな。あの時、俺は後悔していた。少し前に知り合いが死んだ事を、すごく後悔していたんだ。そんな時ミルに助けを求められて、ミルの目を見て、助けなきゃと思ったんじゃねえかな。助けられなかった知り合いの代わりに、ミルを助けて・・・」

「罪滅ぼしを?」

「たぶんな」

「そう・・・」

奥さんはまた暗い顔になった。ミルの耳が心なしかペタンとしたような気がするので頭を撫でておく。

「まあ、結果的にミルにとって助けたのがいい事だったかはわからねえよ。今こうして帝国へ向かうつらい旅に付き合っているのは、俺が助けたのが原因だからな。選択が正しかったかは、俺にはわからねえ」

「きっとあなたは間違っていないわよ。その子を見てごらんなさい。そんなに幸せそうな顔をしていて悪いことだったわけがないわ。あなたが助けなければその子はきっと悲しい人生を送っていたと思うわよ。あなたはいいことをしたのよ」

「そうかな・・・。ありがとう」

「うふふ。助けたなら責任も取らなくちゃね。うふふ」

奥さんがさらにニコニコしながら言ってくる。ミルが抱き着く力が強くなった気がするが、それはさておき責任ってなんだよ。

「責任って、どういうことだよ」

「あらあら、女の子を助けたならわかっているんじゃないの?」

「さっぱりわからねえよ」

「あら残念。その子は大変ね」

意味が分からないが、そろそろいい時間のはずなので話を切り上げる。奥さんが自分の家族を起こす間に、俺はミルとアリシアを起こす。アリシアは目が覚めるとあたりを見回し、状況を理解したのか素早く起きてくれた。ミルは少しくすぐったらすぐに起きたが、眠いのか目をこすっている。俺がミルにした独特な起こし方に奥さんがニコニコしているが、別にいいだろう。

第34話です。クーデターで王都は大混乱ですね。その混乱が王国全体に広がりつつあり、王国から戦乱を嫌って帝国とかへ逃げる難民が生まれているようです。彼らの苦労、獣人の苦労、世の中って大変ですね。動物を人間より下に見る、あるいは人間が特別だっていう考えがある関係か、ファンタジーの獣人は人間の劣化コピーや亜人、下級市民てきな扱いを受けることが多いように思います。獣人奴隷が人間奴隷より安かったりとか(^_^: 次回もお楽しみに

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