第三十一話 国境へ
トップが入れ替わっても、末端の生活に影響は少ない
「おい、聞いたか? 王都で反乱がおこったらしいぜ」
「ああ、昨日の夜遅くに馬が来たんだよな? その話で町中大騒ぎだ」
「騎士団に所属する偉い将軍が首謀者らしいぞ」
「どうなるんだろうな、これから」
「反乱は成功したのか? それとも失敗したのか?」
「その言い方はやめた方が良いぞ? 反乱者達は王都を掌握したらしい。これはあくまで噂だけどよ、王様も殺されたらしいぜ」
「ほんとかよ。王様が死んだら、誰が王様やるんだよ」
「そりゃ、反乱の首謀者やっている偉い将軍様だろ」
「王族とかどうなったんだろうな」
「皆殺しなんじゃねえかな? 200年くらい前に隣の王国で起こった反乱でもそうだったらしいしよ」
「お貴族様達はどうなるんだろうな」
「反乱の時王様の味方した貴族様達は将軍様に殺されたらしいぜ。魔法学のお偉いさんとか、結構抵抗したらしいけどよ」
「こういう時負ける側に付いているやつは馬鹿だよな。普段俺達に結構な態度取っているやつらはざまあみろだな」
「騎士様に聞こえたらどうする。声を落とせって」
「へへへ。まあ、誰が王様でも俺達はそんなに変わらねえよな」
「だよな。新しい王様がろくな人間かなんて俺達じゃわからねえもんな」
「ちげえねえ。ワッハッハッハッハッ」
どうやら、王都の反乱の情報が庶民にも伝わったらしい。徒歩でここまで来た俺達より情報が遅いと言うのがちょっと不自然だったが、追手の男が言っていた情報は嘘だったのだろうか? この町に入る時に話した詰め所の門番達は反乱の話を知っていたから、騎士団は知っているけど庶民には隠されていたって感じなんだろう。馬っていうのも騎士団とかが連絡に使う奴じゃなくて、王都から来た商人とかの馬車だったのだとすれば意味は分かる。その後も情報を盗み聞きしながら町を進み、帝国側に面する門へ向かった。こちらでも身分証の確認が行われているらしく、若干の人が列を作っていたので並ぶ。みんな登山対策なのか大荷物だ。俺達は俺以外ほぼ何も荷物を持っていないので比較的身軽だが、中には荷馬車いっぱいに家具やら何やらを山積みにしている人もいる。反乱の情報が、俺達みたいな亡命者を増加させたのだろう。俺達が並んでいる間にも列が伸び、俺達の番になる頃には列の長さは倍になっていた。身分証を門番に見せるだけの簡単な確認だったので門の通過はスムーズに終わり、街を後にする。街の外はやはり森で、俺達の前に並んでいた人達が森の中へ向かう道を歩いていた。怪しまれないようにその人達に混ざって移動する。移動速度は速くないが、前後に人が居るので魔物に襲われたりする心配もないだろうし、同じ目的であろう人が居るので道を間違ったりもしないだろう。そのまま半日前の人を追って進み、昼を少し過ぎた頃に着いた川で休憩と昼食を取った。前に居た人のグループに追いつく形になったが、後から来た人がそうであったように、お互いある程度距離を置いてグループで固まるのが普通らしいので問題ないだろう。盗難などのトラブルを避ける為なのか、あるいは俺達に何か違和感があるのか、それは分からないが、他のグループ同士も離れているので変な事は無いと思う。前のグループの出発に合わせてこちらも動き出すと、後から来たグループも動き出した。最初に出会った商人のおっさん達もそうだったが、やはり町の外を歩く時はある程度固まる方が安全なのだろう。主に魔物対策的な面でだが・・・。アリシアは疲労が原因なのか地面を見つめながら黙々と歩いている。ミルは体力面に問題はないが、見知らぬ人が周りに大勢いるせいでかなり怖がっており、半分俺に抱き着いて歩いていた。歩きにくいし、後ろを歩いている男性のグループから通常とは少し違う視線を感じるのでやめてほしいが、やめろと言えば怖がりが治ったりするわけもないので仕方なくそのままにしてある。時々頭を撫でて大丈夫だと言い聞かせているが、町にいた時とは別人であるかのように怖がっていた。町の人込みではここまで怖がらなかったのに、何が違うというのだろう? 怪しまれない程度に周りを見渡してみると、町に来るまでの森よりもこちらの森は木々が密集しており、少し暗いことに気がついた。人を怖がっているんだと思っていたが、どうやら暗い森を怖がっていたらしい。手をまわしてミルの手を握ってみると、ミルがこちらを見てきた。上目遣いの状態は破壊力がすごいのでずっと見つめ合う事はできないが、大丈夫だと目を見て言ってやると、幾分マシになったのか離れてくれた。手も離そうとすると両手で前後から手を包み込まれて離せなくなってしまったので、片手はミルとつないだまま歩き続ける。アリシアにも時々声をかけ、体調に問題がないかなどを確認した。この旅はアリシアの為のものであり、アリシアに何もない事が最優先だからだ。返す返事は簡潔だが、疲れている以外は問題なさそうである。
「まだ上るのかしら。足がつらくなってきたわ」
「谷とはいっても山の間にある谷だから、それなりに上らなきゃいけねえんだろうな。別に周りの人に合わせなきゃいけねえわけじゃねえから、もう駄目だと思ったら言えよ。休憩にするから」
「まだそこまでひどいわけじゃないわ。それに、おそらく周りの人に混ざる方がいいと思うの」
「それってやっぱり魔物除けなのか?」
「ええ。誰かが襲われても、その間にほとんどの人は逃げられるわ。集団が大きければ、自分が襲われる確率が減るもの」
シビアな世界だと思う。襲われたら助けられるようにとか、日本人なら考えそうなものだが、この世界では違うらしい。アリシアにとっても、おそらく周りにいる奴らにとっても、他人は自分を守る為の囮にすぎないのだ。それだけこの世界の旅は危険だという事か、あるいはこの世界で日本人的やさしさは人の為にならないのかもしれない。親切にするのは珍しいと言われたし。
「厳しい世界だな」
「仕方ないわよ。騎士様も難民の国境越えまで警護してはくださらないわ。この人達は王国を捨てるんですもの、王国の騎士様が守ってくれるはずがないわよ。王国にとって利益になる貴族や豪商を守るのが騎士様の役目なのよ」
「一番大切なはずの国民は守らねえのか。大した騎士様だな」
「馬鹿にしてはいけないわ。貧民や平民が数人死んだくらいで国は困ったりしないけど、貴族や豪商が殺されれば国も無視できない損失が生まれるのよ。みんなを守るのは無理だわ。何かを守るには、何かが犠牲になるものよ」
「哲学かよ。否定はしねえけど、いい物だと俺は思わねえな」
騎士の考えも分かるが、アリシアの持つ哲学もなかなか悲しいものだ。犠牲になる人にも家族は居るはずなのに。
「お金で雇う傭兵や冒険者の護衛も、お金で買うあなたのような奴隷も、結局はお金の為であって、その人を守りたいから護衛するわけじゃないわ。何か違いがあるのかしら? その人を思って守ろうとしてくれるだけでも、騎士様の方がすごいわ」
「騎士だって何か利益になるんじゃねえのか?」
「もちろん騎士様もお金や衣食住は必要だもの。それが目当ての不届き者も居るでしょうね。でも誰かに直接お仕えする騎士様は、お金ではなく忠誠心で主を守るものよ。奴隷のように強制されたわけでもないのにそんなことができるなんてすごいわ」
なんだかイメージと違う。騎士って軍みたいに国や王様に仕えるもんだと思っていたが、そうじゃないのだろうか?
「騎士はみんな王国に忠誠を誓うもんなんじゃねえのか?」
「究極的にはそうよ。でも、平時は個々の主に忠誠を誓うものだわ。王国直属の騎士様は陛下に忠誠を誓っているもの」
「奴隷だって別に強制されなくても主を守ると思うぜ? それこそ忠誠心を理由にさ?」
「そんなことあるのかしら。奴隷が主を守るのは義務だと思うわよ?」
「義務だからって、わざわざ追っ手を殺しに行ったりしないだろ。あれは義務だからやったんじゃないぜ? やった方がアリシア達を守れると思ったから俺がやった事だ。あれは命令されたりしたわけじゃねえしな。メルさんだって命令されて旦那様について行ったんじゃないぞ? アリシアが安全に王都を出られるように、旦那様が変な疑いをかけられないように、自分からついて行くって言っていた。あれは命令されたからとか、義務だからとかじゃないと思うけどな」
メルさんの話を出すと、若干アリシアの勢いが衰え、少し悲しそうな表情を作った。
「そうだったの・・・。ごめんなさい。メルの事は初めて知ったわ」
「メルさんの話はたぶん今初めてしたからな。俺に対する謝罪は無しか?」
「くっ、奴隷のあなたに主が謝る必要なんてないわ」
「アリシア、忘れたのか?」
「はっ! わ、私としたことが・・・。くっ、ご、ごめんなさい・・・」
「な? 謝る必要あっただろ?」
「くっ、何たる屈辱・・・」
「あ、あの、その・・・」
アリシアが屈辱に震えていると、反対側からミルが話しかけてきた。
「どうした?」
「その、えっと、ご、ごめんなしゃい・・・。うぅ・・・」
「え? 何でお前が謝ってんの?」
「こ、この前は、その、あの、だ、だだだ抱きつ・・・。あの、抱き着いて泣いてしまって・・・。その、あの・・・・」
「別に、ミルが俺に抱き着くのなんていつもの事じゃねえか。何を今更謝る必要があるんだよ」
真っ赤になって顔をそらしながら言うミルは謎だったが、いつもの事だと思ったので軽く流すと、まだ何か言おうとしてきた。
「ぬ、盗み聞きをしてしまったので、その、あの・・・」
「ああ、確かに盗み聞きはよくねえよな。でもよ、あの後盗み聞きしたおかげで俺達は助かったんだから、謝る必要ねえよ」
そう言ってフォローしておく。そうじゃないと盗み聞きをしたことに関して今度は俺が謝る必要が出てくるからだ。
「ほんと、ミルには優しいのね。態度に差がありすぎて不満だわ」
「事実だろ? 別に差別なんかしてねえし、何が不満だって言うんだよ」
「そ、それは、あ、あの時あなた。わ、私の上に、う、上にの・・・。くっ、もう、いいわよ!」
何かを言おうとして急に真っ赤になった後小声で何か言ったアリシアは、しばらくするとそっぽを向いてしまった。
「ああ、あれか・・・。うん、あれは俺が悪かった。許してくれ」
「ふん」
その態度で何が原因か分かったので謝ったが、アリシアはそっぽを向いたままだ。気まずい雰囲気の中進み続けていると、木々がまばらになってどんどん傾斜がきつくなってきている事に気がついた。山を本格的に登りだしたようだ。ミルとアリシアにもう一度状態を確認してから周りの状況も掌握する。人が減っていると思って見てみたら、俺達の前を歩いていたグループが俺達の居る位置の少し手前で道からそれて休憩に入っていた。家族なのか老夫婦と若い夫婦のグループだったので、老夫婦を気遣ったのだろう。後ろの男ばかりのグループは俺達をジロジロ見ながらほぼ同じ速度で後を追ってきている。差を縮める気はないようで、さっきからほとんど同じ距離を保って歩いていた。距離的に話し声は聞こえないからさっきの会話は聞かれていないと思うが、一応警戒しておく。時々後ろのグループが敵意感知レーダーに引っかかるのは、おそらく両側に女の子を従えた俺への嫉妬だと思う。かわいい分類であろうミルに目の前でさっきまで半分抱き着かれており、今も手を握っているし、外見的にそんなに年も変わらなく見えるだろうアリシアとずっと話していた。声の聞こえない距離から男が見れば、いちゃついているように見えるのではないだろうか? 中学の頃、女子といつまでもしゃべっている友人がうらやましくなって何を話しているのか聞いたら、単に明日の時間割を聞かれたから教えていただけだったという事があった。実際の会話内容を聞けば全くいちゃついていたりはしないのだが、男ばかりのグループから見れば今の状況がどんな風に思われるかは手に取るように想像できた。
第31話です。ついに王国最後の街を出発しました。プロットを書いているWordで見ると、ようやく物語の3分の1に来たかなくらいの部分です。無論続きを書いているので、どんどんページ数、文字数は増えていっていますけどね。道中の話が数話続いて、帝国へ渡ります。そこにはどんな出会いや別れがあるのか、どんな発見や出来事があるのか、想像してみると面白いですよね。次回もお楽しみに




