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異世界に響く銃声  作者: レコア
第2章 召喚された高校生銃士
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第二十八話 命令の効力

「これは命令だ」この言葉は、多くの場合ダメ押しとして使われる。その効果とはいかに・・・。

追手から奪った物品を広げながらミルと話す。

「ミル。昨日は偉かったな、悲鳴を出さないでくれて助かった」

「い、いいいいえ、そそ、そんな事は・・・」

「・・・悪かったわよ。悲鳴をあげたりして。怖かったんだから、仕方ないじゃない」

「お嬢様を責めるつもりはございません。普通は怖くて悲鳴を上げるもの。それを抑えたミルを褒めているだけでございます」

「ふん」

ミルを褒めたら、遠回しにお嬢様を責める事になってしまったらしく、お嬢様がへそを曲げてしまった。温まった干し肉をちらつかせると渋々といった様子で受け取ったので、構ってほしいだけかもしれない。ミルにも干し肉を渡し、俺は検品に戻る。

「追手やあの騎士達は役に立ちそうな物を持っていなかったようでございます。騎士の剣と追手のナイフ以外に武器の類は無く、騎士の従者が持っていたカンテラは結構役に立つと思われますが、ロウソクが短いので多用はできないでしょう。敵の情報になりそうな物は何も持っていないようでございます。追手が持っていた食料や水は、後で私が調べておきます」

「調べるって、何を調べるのかしら?」

「一応毒見を。心配しすぎかもしれませんが、状態が必ずしもいいとは限りません。それも調べておきます」

「そう。今あなたに死なれては困るけど、放置するのももったいないわね。そうしてちょうだい」

「はい、お嬢様」

「あ、あの・・・」

「心配するなって。いきなりかじりついて確認とかはしねえから」

「うぅ・・・」

死なれたら困ると言いつつも、食料を増やす為に俺に命がけの毒見を任せると言う。なかなかに矛盾しているな。ミルが心配そうな顔で服を掴んできたので、安心するように言っておく。なおも不安そうな顔のままだったので、少しの間頭を撫でておいた。

「お嬢様。今後は護身用の武器があった方が良いと思われます。変な仕掛けはございません。こちらをお使いください」

そう言って俺は追手が俺に投げて来たナイフをお嬢様に渡す。

「これは?」

「昨日追手から奪ったナイフでございます。小型で軽く、取り回しが良いので携帯に最適だと思われます」

「大丈夫かしら?」

お嬢様はナイフを見て心配そうな顔をする。

「一応確認致しましたが、普通のナイフのようでございます。昨夜切られましたが、今の所なんともない為、毒が塗ってある等の心配もございません。鞘もありますので、服に付けて携帯された方がよろしいかと」

「き、切られた!?」

「ミル、落ち着け。別に大した傷じゃないだろ?」

「は、はい・・・」

切られたという発言にミルがものすごい勢いで詰め寄って来たが、傷を見せて安心させた。昨日は血が出ていたらしいが、今は止まっている。きっとカサブタまでは行かないにしろ、血が固まっているのでもう大丈夫だろう。下手に触って化膿しても困るし、放置するつもりだ。チラチラとミルがこちらを見てくるので、頭を撫でながら大丈夫だと何度か言い聞かせる羽目になった。

「今日はどうするのかしら?」

「できる事ならば急いで進みたいところなのですが、昨夜無理をしましたので、それほど早く移動することは不可能でございます」

昨日の夜に重い荷物と2人の人間を抱えて全力疾走し、木に登って朝までその体勢を維持していたダメージは大きいだろう。

「そう。なら今日はここにとどまるのかしら?」

「現在位置が分かりませんので、とどまるのはあまりよくないと思われます。後ほど木に登って地形を調べてまいります。ある程度方角が分かったら移動する事にしたいと考えておりますが、よろしいでしょうか?」

「ええ。それで構わないわ」

お嬢様の了解をもらい、朝食後に木に登る。昨日寝床に選んだ巨木は大きく、3分の2くらい上った所で他の木より高くなった。必死に逃げたせいで方角が全く分からなくなっていたが、木から全周を見渡すと、ある方角の木と木の間に壁が見える。おそらくあれがザンドの町だろう。反対側は見渡す限り森だったが、かなり遠い場所に山が見える。頂上付近は雲がかかっており、なかなかに威圧感がある印象だ。今まで来た道の近くに山は無かったはずだから、あっちが進むべき方向だろう。帝国へ向かうには山越えをする為国境の町を通る必要があると追手が言っていた。今居る木から少し行った所に木が薄い部分があるので、おそらくあそこが街道だろう。山と反対方向には森が無くなって平野が広がっており、地平線のあたりに何かが見える。目は普通から少しいいぐらいだが、何だか分からないのでアイに問うと、視力強化のアシスト使用を推奨されたので許可を与える。アシストを使用してから見ると、遠くてぼんやりしていた地平線あたりが多少クリアになっただろうか? 見えていた何かは、町の壁によく似たものだった。あそこにも町があるのだろう。平原の真ん中にポツンとあり、そちらへ向かって街道が伸びている。各所の方角を再確認して木を降りた。俺が視界から消えて不安になっていたミルに抱き着かれたので、頭を撫でながらお嬢様に報告をする。メルさんからもらった地図に照らし合わせると山側が帝国へ、平原側が自治領都市へつながる方角らしい。地平線のあたりに見えた町の壁っぽい物は、位置的に自治領都市のひとつ前にある町のようだ。木からは見えなかったが、さっき見た山の近くにも都市があるらしく、そこが帝国へ入国する最短で安全なルートらしい。追手が人を送ると言っていたのはそこだろう。国境は明確に決まっている訳ではないらしく、俺の居た世界にあるどこぞの大国のように国全体を城壁で覆ったりはしていないようだが、国境地帯にある森や山は環境的に厳しく、魔物も多かったり強かったりで危険なので、帝国へ行くならできるだけ町を通って正規の入国手続きをする方が良いと注意書きがされていた。地図上では他にも帝国との国境沿いに都市があり、帝国へ行くならどれかを通るべきだという事になった。追手の会話をもう一度思い出してお嬢様に報告し、それを踏まえて話し合う。

「追手は、帝国に一番近い町にも人を送ると言っていたのね?」

「はい、お嬢様」

「では、自治領都市に行ったらどうかしら? それで追手の目を振り切れないかしら」

お嬢様が自治領都市へ行くことはどうかと提案してくる。確かに案の一つとしてはいいだろうが、地図で見ると結構遠いのだ。

「王国近辺に自治領の都市はどのぐらいあるのかご存知でしょうか?」

「知らないわ」

「この地図によりますと、おそらく旦那様の仰っていた商業都市はこれでございますが、王都よりだいぶ離れております。これだけ離れていて、自治領だからと言う理由で旦那様は候補に挙げたのでしょう」

「私もそう思うわ」

「しかし、自治領都市へ向かう道のりに存在する途中の町はすべて王国領でございます。昨日のようなことが起こる危険があるのではありませんか? 裏をかいて他国である帝国に逃げる方が良いかもしれません」

俺の発言に2人の体がビクッと震え、ミルが俺に抱き着く力が強くなった。理性云々よりも、痛いから離れてほしい。

「ミル、痛いんだが」

「ご、ごめんなしゃい!」

「あなたが心配させた罰なのよ。甘んじて受けなさい。これは命令よ」

「・・・はい。お嬢様」

お嬢様の「命令」と言う発言を聞いた途端、頭の中でミルが抱き着くのを止めると大変な事になるかもしれないと言う何とも言えない焦りがこみ上げて来て、俺から離れようとしたミルに思いっきり抱き着いてしまった。

「~~~~っ!」

「ふふふ」

「お嬢様。今後の行動を決める大事な話し合いでございます。私やミルで遊ぶのはおやめください」

「口答えとは生意気ね。しばらくそのまま抱き合っていなさい。これは命令よ」

「・・・はい。お嬢様」

「・・・はい。おじょうしゃま・・・」

2人してお互いをきつく抱きしめながら、しばらく無言になる。ミルの心臓の鼓動が良く分かるぐらい密着しているので、なかなかに理性が攻撃されている。お嬢様はニヤニヤしながらこちらを見つめつつ、何事もなかったかのように会話を再開した。

「それで、あなたは帝国へ向かう方が良いと言うのね? 裏をかく以外に何か良い事があるのかしら?」

「自治領は言わば小国であり、大国である王国への抵抗力が弱い可能性がございます。反乱で国が混乱し、自治権を認めないなどの措置を王国が取ってきた場合、その決定の影響を受けない帝国に居た方が安全かもしれません」

「自治権は永世のはずよ。それを簡単に取り上げるかしら?」

「反乱とは正規の手段を踏まずに国の実権を奪う権力闘争の手段でございます。そんな方法で王になった者が旧体制を維持するとは考えにくいかと。最悪の場合、旧王国領の反乱勢力に反抗する領地と内戦になり、戦渦が及ぶかもしれません」

自治領は独自の法律や司法機関を持つはずなので、王国がお嬢様を引き渡せと言っても拒否できるはずだ。しかし、軍の反乱で混乱している今の王国は、交渉で話がつかないと考えたら武力行使を簡単に行うかもしれない。都市1つにすぎない自治領都市では反乱で混乱しているとはいえ大国である王国の武力に飲み込まれる危険がある。地図上の大きさでしか俺は国の規模を知らないが、王国と帝国は同じくらい大きいので、自治領都市よりもそういう事態に抵抗力があると思ったのだ。

「一理あるわね。帝国の国境の町には追手が居るのでしょう? それはどうするのかしら?」

「念には念を入れ、遠回りをして国境を越えましょう。地図にはいくつか国境の町がございますが、すべてに追手が居るとも思えません。追手が話していた最も近い町と2つめに近い町は避けて、3つ目に近い町を使いましょう」

「なるほど。それで問題ないのかしら?」

「食料などが若干不足する可能性がございます。水はどうしても不足致しますので、街道の途中にあるこの川で補給しましょう」

「足りない食べ物はどうするのかしら?」

お嬢様が食料の心配をしている。もともとは途中の街、つまりザンドの街で補給する予定だったのだが、昨夜の騒動でその予定が狂っており、食料は足りないはずだ。そう思って言った問題点に突っ込んできているが、対処法はそんなに多くない。

「・・・私が捕ります」

「捕る? どういうことなの?」

「ここは森でございます。野生動物が居るはずなので、私が狩をして手に入れましょう」

「狩の道具なんてあるのかしら?」

「弓などが入っていましたし、私にはあれがあります」

不安そうな顔をするお嬢様に、手首だけ動かして銃を指さす。手はミルを抱きしめたままだ。

「なるほどね。いいわ。そうしましょう」

「ところでお嬢様、この体勢のままですといつまでたっても準備ができず、出発ができませんが」

「あなたはすぐにでも離れたいのかしら?」

お嬢様の問いにミルの耳がピクッと動き、俺の口の方を向いた。なかなかに器用だと思う。

「お嬢様が望まれるのならばこのままでも構いませんが、出発が遅れれば追手に追いつかれる可能性が・・・」

「・・・それもそうね。分かったわ。離れていいわよ」

お嬢様の許可が出たので俺はそっと手を離す。ミルが真っ赤な顔になりつつ、上目遣いにこちらを見て来た。破壊力がすごいのですぐに顔をそらし、頭を少し撫でてから離れる。しばらくその姿勢で固まっているミルを放置して黙々と準備をした。焚火の痕跡を消し、荷物を背負う。まだ固まっているミルの肩を叩いて正気に戻した後、木の上から見た街道があると思われる方向へ進む。森が歩きにくくて思ったより時間を食ったが、街道には出られた。途中で道が2つに分かれたので山側の道を選んで進み、夕方、日が沈むころにまた寝床を探し、街道沿いの開けたところで野宿をする。例によってミルがうなされて抱き着いて来たが、お嬢様は大丈夫だったようだ。俺は追手とまた戦う夢を見た。

第28話です。奴隷への命令権に対する奴隷の反応をどうしようかとかなり迷っていました。もう意識と関係なく体が動くくらい効果が強くてもファンタジーならありです。反面現実世界のように嫌だといえるのもありだと思っています。その妥協点として、自らやらなければという焦りを心理的に起こさせる能力に落ち着かせました。妙にリアルで、でもファンタジー。そんな小説を目指せたらなと思います。次回もお楽しみに

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