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異世界に響く銃声  作者: レコア
第2章 召喚された高校生銃士
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第二十五話 これは恋ではない。愛情・・・?

家族が嫌いな人は少ない。だが、家族を恋愛的に好きな人もまた少ない・・・はず。

「じゃあ、2日で5フルね。食事は朝食と夕食だけ、部屋が足りないから5人一緒かな?」

「いえ、こちらの若い3人とわしらは別の部屋で頼みますじゃ。若い人達は若い人達で集まる方が良かろう」

「部屋が足りないって、いくつ部屋が開いてんの?」

「今日は人が多い方だから、あと2部屋で満室だね」

「おじょ・・・。ゴホン、2人はそれでいいか?」

「仕方ないわね」

「わ、私は別に、その・・・」

危ない。お嬢様と呼びそうになってしまった。老夫婦が気を利かせて、俺達とは別々の部屋をと提案してくれている。

「じゃあ、この5人で2部屋頼む。お2人もそれでいいですか?」

「私らは構わないよ。若い人は若い人で仲良くやりなさい」

「じゃ、2人と3人に分かれるんだね。まいどあり」

宿屋の人が金を受け取ってカギをとっている間に老夫婦へと向き直る。

「いろいろとお世話になりました。ありがとうございます」

「いやいや、久しぶりに若い人と話したが、君みたいな子もまだ居たのだと分かって安心じゃ。王国も捨てたものではないのう」

「ちょっと、おじいさん・・・」

「アハハ、ありがとうございます」

「それでは、わしらはこちらの部屋じゃ。またのう」

「はい」

「さ、さようなら・・・」

「ごきげんよう」

老夫婦と廊下で別れ、渡された鍵を使って部屋に入る。ベッドが2つと簡易的な机、イス、壁に備え付けの物置っぽい棚、ロウソクの台が1つと、どう考えても3人には狭いが、絶対に無理なわけではない。とりあえず荷物を床に降ろし、明り取りと空気の入れ替え用と思われる窓から外を見てみる。ここは2階だ。角部屋で、窓が2方向にある。空き巣被害防止の為か、どうやっても人が通れないように窓は小さ目だった。夜寝る時は虫などの侵入を防ぐために木戸を閉じるように言われたが、木戸は壊れかかっていて閉めても隙間が開いていた。これでは虫の侵入は防げないだろう。片方の窓はすぐそばが隣の家の壁だった。ひじくらいまで窓から手を出せば隣の家の壁を触れる。一応下を確認したが、ここを人が通ったり上ったりするのは無理だと思う。次にもう一方の窓を見てみたが、こちらも隣の家の壁が目の前で、明り取りの意味があるのか疑問だった。木戸を閉めても隙間から風が入るので、空気の入れ替えは扉を閉めたままで行おう。部屋が薄暗いので台に付いていた短いロウソクに火をつけると、部屋がぼんやりと明るくなった。はっきり言って隅の方は真っ暗だが、無いよりはマシだ。お嬢様から預かっている母親の形見を入れたカバンとお金だけ持って部屋を出る。鍵をかけた事を確認して1回の食堂へ向かった。開いていたテーブルに座って宿に泊まっている事を従業員に告げると、部屋の鍵を見せるように言われたので見せる。この鍵が宿泊客である事の証明になるらしい。鍵を確認した食堂の従業員が、お盆に何かを乗せて持ってきた。真黒なパンと透明なスープ、何かわからない葉っぱだけが乗ったサラダだった。従業員曰くパンは見た目通り黒パンで、乾パンほどではないが水気の無い硬いパンだそうだ。スープはこの町の近くに自生する野草や宿の主人が育てている野菜を煮込んだだし汁のような物らしい。サラダも似たようなもので、野草を取って来て洗っただけだそうだ。食欲なんてかけらもわかない食事だが、全員で黙々と食べる。お嬢様が黒パンの硬さに涙目になりながら格闘していたので従業員に相談すると、スープを染み込ませて柔らかくするのがセオリーらしい。お嬢様も方法を知ってからはおいしそうに食べていた。透明なスープがおいしく、パンを浸せばさらにおいしかった。サラダは当たりはずれがあるようで、俺とお嬢様の物は普通の葉っぱだったが、ミルの物は苦い葉っぱが混じっていたらしく、ミルが泣き出したので慌てて俺のと交換した。泣き出したミルに従業員や周りの客が何事かと振り向いて来たので従業員に説明してみたが、棒読みの謝罪が返って来ただけだった。「あら、ついてないね」みたいなその態度に若干イラッとして従業員をにらんだら、従業員が汗をかきながら露骨な嘘をついて退出していった。ミルの皿に入っていたサラダを食べてみたが、ミルが食べた最初の1枚だけが外れだったらしく、他の葉っぱは俺のサラダと変わらなかった。味がしないという点でおいしくは無いのだが、涙目になるほど苦い葉を引き当てるミルもついていないと思う。ミルにこの事を話したが、ミルはサラダを食べるのを嫌がったので結局俺とお嬢様で分けて、代わりに俺がスープをミルにあげる事で解決した。奴隷が一度手を付けた物を食べる事にお嬢様がためらっていたが、皿をひっこめようとすると慌てていたので、建前はともかく腹は減っていたらしい。お嬢様に多めにサラダを分けてやると、ミルに渡したスープをチラッと見てから受け取っていた。スープがもらえるなら欲しかったのだろうが、お嬢様にも分けると俺の分が無くなるので気がつかないふりをさせてもらおう。食後に宿から桶を借り、宿の中庭にある井戸を使って交代で水浴びを行った。お嬢様の水浴びはミルが手伝い、その間に俺は2人を覗く奴が居ないか見張る。井戸の近くに水浴び用の衝立っぽい物があったので、2人はそれに隠れているが、井戸は水浴び専用ではない為、宿の従業員などがたまに来る。他の客も水を手に入れる為に来るのだが、衝立の向こうの2人を見ようとする変な奴も居るので、それっぽい仕草をした奴は軒並みにらんで追い返した。2人が水浴びを終えると、2人を部屋に送って荷物を預け、誰か来ても俺以外であればドアを開けないように言ってから俺も水浴びをした。常にレーダーを使って2人が部屋に居る事と、その部屋に誰も近づいていない事を確認しつつ、手早く水浴びを終わらせる。外で水を使って体や頭を洗うなんて風邪をひきそうなものだが意外とそんな事も無く、寝る時にちゃんと温まれば体調を崩したりはしなかった。ほとんど外で寝ているのと変わらない生活で寝る時が温かいのは俺に抱き着いて眠るミルのおかげだが、あんまり意識するのもよくないのでその事は内緒だ。水浴びを終え、桶を宿の従業員に返して部屋に戻る。

「お嬢様、ミル、もどりまっ!?」

「うぅ・・。ひぐっ、ぐすっ、えぐっ・・」

「ぐはっ、ミル・・・どうしたってんだよ」

「はあ・・・。やっと戻って来たのね。大変だったわよ」

ドアを開けた瞬間ミルが飛びついて来た。引っ繰り返りそうになるほどの衝撃をなんとか吸収して部屋に入る。どうやら前と同じように俺が視界から消えて不安になっていたらしい。抱き着いて離れなくなってしまったミルの頭を撫でて不安にさせた事を謝る。俺の胸に顔を押し付けて号泣しているミルはどうにもならないので、泣き止むまで立ったまま頭を撫で続けた。お嬢様の目が責めるような視線になっているが、ちゃんとミルに言い聞かせ忘れた俺のミスなので何も言えない。20分ほど経っただろうか? ミルがおとなしくなったと思って体をひねって顔を見てみると、泣きながら眠ってしまったようだ。お嬢様の呆れたような目に笑顔を向けて誤魔化しつつ、ミルの腰を持って体を持ち上げ、お嬢様とミルが寝る方のベッドへ連れていく。本当はもう少しマシな方法で運びたいが、例によってミルががっちりと抱き着いているのでそれ以上体勢を変えられなかった。ミルが痛くないように注意しながら慎重に足を持ち上げてベッドの上に乗せる。ここからが問題だ。アイに一度確認してみたところ身体強化アシストを使えばミルの手を引き剥がすくらい簡単らしいが、引き剥がされる側であるミルの体は大ダメージを受けるそうなので、力任せに引き剥がしたりはできない。変な体勢のままどうしようか悩んでいると、お嬢様が近寄って来てミルを見ながら話しかけてきた。寝ているミルに配慮してなのか、ささやき声だ。距離的には聞こえるが、体勢的に話しにくい。

「また離れなくなっているのかしら?」

「はい、そのようでございます」

「冷静なのね。ここまで心配されて、こんなに抱き着かれて、本当に恋に発展しないの?」

「正直なところ時々理性が飛びそうな場面はございますが、理性が飛んでしまっては何かと問題がございますので」

「例えばどんな問題なのかしら?」

理性がとか言っておけば引いてくれるかと思ったら食いつかれてしまった。体勢的につらいが話し続けるしかないか。

「今以上にミルが私にとって守るべき存在になれば、お嬢様が奴隷商館で懸念していたような事態が発生した時、判断に迷いが出て最悪の事態を誘発する可能性がございます。他にも・・・。私はまだ結婚できる年齢ではございません」

結婚という言葉を言ったあたりでミルの耳がピクッと動いたような気がするが、寝ているはずなので気のせいだろう。

「なるほどね。2人とも助けると言ってのけたあなたでも、いざその時になったら私を見捨てる可能性ができてしまうのかしら?」

「そもそもそんな事態にならないようにするのが私の役目なのだと思いますが、おおむねその通りでございます」

ミルがこれ以上大切な存在になれば当然ミルを守ろうとするだろう。お嬢さまとミルが同時に危機に陥り、どちらかを助けたらどちらかを助けられない状況がもし来てしまった時、俺はどんな選択をするだろうか。迷わずミルに駆け寄るかもしれないし、隷属契約でお嬢様も守ろうと迷ってタイミングを逃し、最悪の場合2人とも助けられない可能性もある。それだけは避けねばならない。どちらも同じくらい守らなければと思っていれば、変に迷ったりせずに第3の選択肢を探して2人とも助けられるかもしれない。

「そう。恋愛感情が奴隷契約に勝てるとは思えないけれど、万が一見捨てられてしまっては確かに困るわね。でも、結婚の話は問題ないと思うわよ。あなたの年齢を聞き忘れていたから正確な事は分からないけれど、私より年上なら年齢的に十分結婚は可能だわ。あなたは奴隷だから少し違うけれど、貴族の社会であなたの年齢なら行き遅れ始めている頃よ」

「この国の結婚年齢はそこまで若いのでございますか。しかし、相手が私ではミルの両親が納得しないと思いますが?」

両親と言う言葉にまたミルの耳がピクッと動いた気がしたが、気のせいだろうか?

「あなたもミルも私の奴隷よ。納得も何も、両親と連絡を取れないのではないかしら? それに、どうしてあなたで納得できないかも私にはよくわからないわ。護衛の腕は下級騎士以上、料理もできて、言葉遣いも悪くない。良い護衛よ」

今までの不満が嘘のような高評価だ。何があったんだと言いたいくらい今までのお嬢様からは考えられないお言葉に聞こえる。

「褒めていただけるのはうれしいのですが、素性の知れない異邦人は嫌われているのではないのでしょうか?」

奴隷商人の息子の態度や、俺を奴隷にしたヘロウドの事が頭をよぎる。あいつらは異邦人に偏見があったようだ。

「素性が分からない事は貴族の結婚では大問題よ。でも、平民やあなたのような奴隷の結婚に素性があまり関係あるとも思えないわ。素性なんていちいち調べていたら普通の冒険者は結婚なんてできないわよ。あなたはミルが嫌いなのかしら?」

お嬢様の発言にミルの猫耳がピクッと反応し、俺に抱き着く力が強くなる。寝ているはずなのになぜそんな反応ができるんだろう。

「いえ、ミルは好きです。守るべき存在ですから」

「~~~~っ!」

ビクッとミルの体が震え、瞬時に熱くなったので見ると、顔が真っ赤になっていた。耳がピンと立っている。聞こえているのか?

「あっさりと好きだと言ったわね。恋愛感情は無いと言っていたのは嘘なのかしら?」

「嘘はついておりません。恋愛感情ではないのでございます」

俺の返答でミルの耳がペタンとなる。お前、絶対起きて盗み聞きしているだろ・・・。

「恋愛感情以外の好きってどういうことなのかしら?」

めんどくさい質問だ。どう答えたものだろうか? 例えるのも説明するのも難しい気がする。

「説明は難しいのでございますが・・・。お嬢様は旦那様の事を好きでしょうか?」

「愚問ね。お父様を嫌いになるはずないわ」

「ですが、それは恋愛感情とは違うのでは?」

「当り前よ。お父様に恋心を抱いてどうするのよ」

「仰る通り。おそらく旦那様も同じ気持ちでしょう。旦那様はお嬢様の事が好きでございますが、それは恋愛感情ではございません。最愛の娘だから、守るべき存在だから、好きなのでございます。私やミルを買った理由も、この旅の理由もそうでしょう」

「あっ」

ここまで説明して、お嬢様は俺が何を言いたいか理解したらしい。研究者の娘は頭がいいから察しもいいのだろうか? ミルの頭を撫でるのを中断し、背中をさすってやる。ミルは相変わらず真っ赤だが、落ち着かないと眠れないからね。

「ミルは守るべき存在。私の言葉の意味、理解していただけましたか?」

「なるほどね。あなたにとって、ミルは既に家族同然なのね。血もつながっていないのに、あなたはどうしてそう思えるのかしら?」

ミルの耳がピンと立った。確実に起きているな。盗み聞きした罰として、背中をさするのをやめてわき腹をコチョコチョとくすぐってやる。ミルの体がプルプルと震えだし、足や手が小刻みに動き出したが、気がつかないふりをしてお嬢様と話し続ける。

「はっきりとした理由はございませんが、奴隷商館でミルに助けを求められた時に、守ってやりたいと思ったからでしょうか」

「それも不思議な話だわ。奴隷商館で、あなたがミルを助ける事にどんなメリットがあるのかしら? 普通は関わらないように放置するか、助けるにしても何か見返りを求めての行動だと思うの。奴隷商人と険悪な関係になっていたようだし、私達が来なければあのままだったのよね。あなたにどんなメリットがあったのか、私には分からないわ」

「ミルにも同じ事を問われました。なぜ私を助けたのか、何か見返りが欲しいのかと。特に理由はございませんでしたが、奴隷商館に来る前に体験した事柄に私は罪の意識を感じておりましたので、ミルを助ける事でそれの罪滅ぼしができるのではないかと考えたのでございます。結局は私の自己満足でございますし、その為だけに助けられたミルにも失礼ではございますが」

ミルにも同じ事を聞かれた。なぜか、何かほしいのかと。でも、別に何か理由があって助けたわけじゃなかった。

「つまり、気まぐれなのかしら? 罪滅ぼしが必要な事柄も気になるわ。話してちょうだい」

「話すのは問題ございませんが、そろそろ・・・」

「ん? ああ、そうね。そろそろ」

第25話です。ミルの力が強いのは仕様です。奴隷商館の犬獣人もそうでしたが、一般的な獣人は普通の人間より力もスピードもすごいです。今日あげる活動報告にネタバレになりますが今後どういう展開になるのか少しだけ書きます。ネタバレなので閲覧は自己責任でお願いします。次回もお楽しみに

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