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異世界に響く銃声  作者: レコア
第2章 召喚された高校生銃士
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第十九話 獣人の子は非常に心配症?

トラブルは常に周りにある。

許可をもらった俺は馬車を降りて魔物の所へ向かう。獣人の子が離れようとしなかったので連れて来たが、よほど怖かったのか泣き止まなくて苦労した。例によって顔の周辺は粉々で、核もおっさんが言っていたクズ核と同じようなものだった。馬車に戻り、クズ核を初老の男性に見せる。核を始めて見たらしい娘が興味深そうに見ていたが、初老の男性はクズ核だと分かると興味を失い、俺が持っている事を許可してくれたので、水入れが入っているカバンへしまった。ちなみに、奴隷商館で借りた本は水浴び前に下男に返却済みなので、カバンには水入れと核しか入っていない。馬車が動き出し、途中の小川で休憩を取った後、夕方ごろに街へ着いた。ここが王都らしく、規模は俺が初めて訪れた奴隷商館のある街の比ではない。外側を覆う壁はまさに城壁で、塔が所々にあり、上を兵士が歩いている。入り口も重そうな金属の扉があり、片方の一部に小さな扉があって、そこを馬車で通った。この扉が全部開けば、この馬車なら5台は横に並べると思う。高さも30mくらいはありそうだ。扉を抜けると少し広場があり、塹壕を彷彿とさせる穴があった。扉をUの字型に囲むように掘られている。橋が渡されているので普通に通れるが、穴は深かった。たぶん大人2人分くらいの深さはあるはずだ。幅も結構あり、ジャンプなどで飛び越えられたりはしないだろう。

「ここが我が屋敷のある王都だ。お前達もここにある私の屋敷で暮らす。細かい事は彼女に聞きたまえ」

「はい、ご主人様」

「はい・・・」

馬車が到着した先は、日本ではまず見られないであろう大きな屋敷だった。敷地ギリギリまで建物があるが、敷地自体が広い。テレビで見たアメリカの家に似ている。上品な感じはあまりしないが、隣にある家と比べれば大きさがよくわかる。

「自己紹介をしていないわね。私はメル。サラード男爵家唯一の使用人よ。このお屋敷の事はすべて私がやっているわ」

「佐野勇介です。よろしくお願いします」

「奴隷なのに家名持ちなの? 珍しいわね。没落貴族か何かなのかしら?」

「いいえ、平民の息子ですよ。俺の祖国では貴族でなくとも家名があります」

やはり苗字は珍しいようだ。そんなに変なら名乗るのはやめた方がいいのだろうか?

「エルフとかともまた違うようね。あなたは?」

「あ、えと、ミルでしゅ。うぅ・・・」

「ミルね。あなたはまずちゃんと王国の言葉が話せるようになりなさい。男爵令嬢の奴隷が王国語も話せないなんて、恥よ」

「うぅ・・・」

獣人の子はミルというらしい。「す」がうまく言えない事を注意されて涙目になっている。

「その辺は俺が教えますから、大丈夫ですよ」

「はい! がんばりましゅ! うぅ・・・」

「奴隷商館に居た時からずっと思っていたけど、どういう関係なの? この子は片時もあなたから離れようとしないじゃない」

「奴隷商館で話しましたが、入って来たその日に襲われそうになって、俺が庇ったんです。それ以来ずっと離れなくて」

「貞操の危機を救った異性って事ね。ふーん」

そう言ってニヤニヤしながらミルを見るメルさん。ミルは真っ赤になって俺の後ろへ隠れる。何だ今のやり取りは?

「まあ、あんまり問題を起こさないでね? まずは屋敷を案内するわ。これからおそらく一生住み、働く場所よ」

「はい」

「はい・・・」

歩き出したメルさんの後を追う。相変わらずミルが服をちょこんと掴んでいるが、構わず歩く。エントランスホール、旦那様とお嬢様用の食堂、厨房、食料貯蔵室、洗濯場、水浴び場、庭、旦那様の寝室、お嬢様の寝室、衣裳部屋、2つの客室、応接室、旦那様の書斎、旦那様の仕事部屋、金庫室、お嬢様の私室、トイレ、物置部屋を見て回り、最後に使用人の部屋へ案内された。使用人の部屋はメルさんの分である1部屋しかないので、衝立を使って着替えの場所だけを仕切り、ミルはメルさんと一緒にベッドで、おれは衝立の向こうで古いソファーを使って寝るように言われた。ソファーは汚れているが、カビが生えたりはしていないし、もともとは応接室用なのでふかふかだ。この汚れを落とせなかったが為に交換され、捨てるのはもったいないという事でメルさんが旦那様に許可を取って譲ってもらったらしい。ミルは荷物など持っていないし、俺の荷物は武器弾薬ともらったカバンだけなので、もらったカバンだけを置いて部屋を後にする。その後、ミルの仕事になるお嬢様の世話に必要な知識や決まり事、1日のスケジュールや食事の好き嫌いなど、ミルが事細かに説明を受けるのに付き添った。アイの思考加速アシストなどで俺は1度聞けば瞬時に覚えてしまうが、ミルはそうはいかないので次から次へと来る細かい指示に完全にパニックになっていた。

「お嬢様はこのお菓子をよく欲しがるけど、お出ししていいのは1日にこれだけよ。それ以上はお体に障るので控えさせるようにと旦那様から指示が出ているわ。お出しする時は紅茶も一緒に出すのを忘れないでね。この紅茶は旦那様用、こちらはお嬢様用よ。銘柄が違うから間違えないようにね。紅茶は淹れてから5分でお出しする事、それ以上時間が経つと冷めてしまうわ。逆に早いと香りが出なくてお嬢様が不機嫌になるので注意してね。それからこれは・・・」

「えと、はい、はい、はい、えと、えと、ふえええ」

「大丈夫? 少なくとも明日の朝にはこれを完ぺきにこなしてもらわなければ話にならないわよ?」

「そ、そんなあ・・・」

「大丈夫ですよ。俺が全部覚えているのでミスしそうだったら指摘します」

絶望の表情を浮かべるミルの頭を撫でてすかさずフォローする。本業は護衛なので四六時中一緒にはいられないけどね。

「そう、いい記憶力じゃない。でもあなたはお嬢様の護衛なのよ? 何かをする度にお嬢様のそばを護衛が離れてしまっては仕事にならないんじゃないかしら? 護衛は常に主の目の届く所で待機して、いつでも命がけで戦える必要があるんじゃないの?」

「もちろん、普通の騎士はそうでしょうね。俺は騎士じゃないので大丈夫ですよ」

「あなたの能力の高さは見せてもらったけど、慢心は禁物だわ。うぬぼれは死につながるわよ」

「はい、わかっていますよ」

「本当に気を付けて頂戴ね。お嬢様にもしもの事があったら、旦那様がどうなるかしれないわ」

「大丈夫ですって、俺が・・・?」

メルさんの注意に応答していると、レーダーに赤い光点が映った。俺が急に固まったことでメルさんも異変に気がついたようだ。

「どうかしたの?」

「ふえ?」

距離的に屋敷の敷地内だ。すぐに銃を構え、装填を開始した俺を見て2人が慌てだした。

「ちょっと、ここは厨房なのよ? 武器なんて出してどうしたのよ」

「ひぃ!」

「屋敷に変な輩の居る気配がするので見てきます。捕まえられればいいですが、念の為お嬢様と旦那様の安全確認を!」

「分かったわ。ミル、あなたはお嬢様の下へ、私は旦那様の下へ行くわ」

「は、はい!」

素早く状況を理解して旦那様の仕事部屋の方へ向かうメルさん。気が付くとミルが服の袖をつかんでいた。

「あの、その・・・」

「別に心配する必要ねえよ。相手は一人みたいだし、早くお嬢様の所へ行くんだ。場所は分かるよな?」

「はい、大丈夫でしゅ・・・」

「じゃあ、俺は敵の相手をしてくるから、気をつけろよ」

「あっ・・・」

臆病なミルを1人にしておくのはちょっと問題がある気もするが、敵が屋敷の建物のすぐそばまで来ているのでそちらを優先した。屋敷に着いて早々敵が来襲とか治安が悪いなんてレベルではないと思うが、来てしまったからには相手をするしかないので敵の所へ急ぐ。水浴び場のすぐ近く、屋敷の外側に居るらしい。使用人用の勝手口から外に出て、銃を構えつつ敵に近づいていく。角を曲がれば敵が見える場所まで来ると、ゴソゴソと草の動く音がした。音を立てないように気を付けつつ角から顔だけを出すと、薄汚い服を着た男が窓から水浴び場をのぞいていた。窓と言ってもガラスは無く、明り取り用なので高い位置にあり、男の背では足を延ばさなければ見えない。覗きか? と思いながらもう少し監視する。男は水浴び場を確認し、明らかに落胆した表情になった。これは覗きで間違いないだろう。俺はゆっくりと男の背後に忍び寄り、銃床で後頭部を思いっきり叩く。

「ぐはっ」

男はあっけなく崩れ落ちた。とりあえず両手を持って勝手口の方へ引きずって行く、この男、ミルのように何も持っていなかった。物置部屋にあったひもで手足を適当に縛った後、ミルやメルさんの下へ行って安全が確認されたことを告げる。

「もう賊を捕らえたと言うのか、驚くべき手際の良さだな」

「単なる覗き魔だったようでございます。とりあえず厨房に捕らえておりますが、いかがいたしましょうか?」

「賊など役所へ引き渡せばよい。厨房が汚れる故、速やかに引き渡して来るのだ」

どこの誰だとか本当に覗き魔なのかとか、何も聞かれずに役所への連行命令が出た。なんというか、対応がザルだ。

「お嬢様の護衛はいかがしますか?」

「賊はその者だけなのであろう? ならば大丈夫なはずだ。今の内に行って来なさい」

「かしこまりました。お嬢様に安全が確認された事を伝えましたら、賊を引き渡してまいります。メルさん、ちょっと話が」

「何かしら?」

「役所の場所を私は知りません。道案内をお願いできませんか?」

王都にはさっき来たばかりだ。役所がどこかなんて当然わからない。

「それもそうね。旦那様、よろしいですか?」

「あの獣人が居るのであの子も心配無いだろう。行って来なさい」

「ありがとうございます。行ってまいります」

そう言って旦那様の仕事部屋を後にする。それにしても、メルさんは鎧に剣という完全武装状態だ。リアル戦闘メイドのおばさんを、俺は少しの間見つめる。メルさんが不思議そうな顔をしながらお嬢様やミルの待つお嬢様の私室へ向かう。

「っ!」

「お嬢様、失礼します。侵入者は排除ぉ! 痛っ」

「ちょっと、何なのよ」

「ああ、やっぱりね」

「ぐすっ、ご無事で、よくぞご無事で・・・ぐすっ」

扉を開けた途端、何かがものすごいスピードで腹と胸に突っ込んできた。肺の中の空気がなくなり、呼吸が苦しい。

「何がどうなってんだこれは」

「お嬢様の前よ、口の利き方に気をつけなさい。ミル、あなたも早く離れなさい。ユウスケが起きられないじゃない」

「ふふふ。その子ったら、いきなり部屋に入って来て、侵入者をあなたが退治しに行ったと伝えてきたのだけれど、ずっとあなたの事を心配していたわよ。この部屋は安全なのに、この子の状態が一番危険だったわ。これがあなたのおすすめなのかしら?」

「この者が失礼な態度を取った事、お詫びいたします。私の監督不行き届きでございます」

「いいえ、この子の面倒は彼が見ると豪語していたわ、責任は彼が取るべきなんじゃないかしら?」

「・・・その通りです。罰なら私が受けます」

「ひぐっ・・・ぐすっ」

思わずつぶやいた一言をメルさんに注意され、お嬢様からはミルの態度に関して責任を取るように言われ、ミルからはなぜか強烈なタックルを食らうと言う現状に俺は混乱していた。なぜ侵入者を捕らえて安全を確保したのに、ここまで責められるのだろうか? 納得できない部分が多いが、お嬢様の話によるとミルが泣いたりタックルして来たり、お嬢様に失礼な態度を取ったのは俺が原因らしいし、約束通り監督責任は俺が取るべきだ。やはり、少なくともミルをお嬢様の部屋に送り届けるぐらいはするべきだったと今更ながらに後悔した。俺の胸に顔を押し付けて泣き止まないミルをなんとか体の上からどかして、ミルと一緒に立ち上がる。ずっとこのままだとまずいが、無理やり引き剥がそうとしたらメルさんとお嬢様の目が鋭くなったのでちょっと放置する事になった。ミルが顔を押し付けて泣いたままお嬢様と話すのはかなり失礼だと思うのだが、お嬢様が許してくれるという事なのでミルの背中をさすりながら旦那様からの指示を伝える。指示には言外にミルはお嬢様と残れという内容が含まれているが、それにミルだけが気がついていないらしい。結局5分ほど好きに泣かせてやり、泣き止んだミルが真っ赤になっていきなり離れた後、旦那様からの指示を伝えて部屋を後にした。心配ないから、安全だから、大丈夫だからと20回ほど言いまくってようやくだ。

「あの子、本当に奴隷商人から守る為だけに私達に推薦したのね。今の所、お嬢様の世話役としては0点だわ。緊急時にあなたを心配してお嬢様より慌てているようじゃ世話役は務まらないし、あなたが報告に行く度にあんなものを見せられては困るわ。今回は私とお嬢様だけだったからよかったけど、旦那様やお客様の前であんな事したら即解雇されるわよ。あなた達は奴隷だから、売られるか下級奴隷落ちの道しか無いのではないかしら? しつけは何とかすると言ったのだから、ちゃんとして頂戴ね」

「すみません・・・」

完全に説教モードのメルさんに延々と文句を言われつつ、厨房に放置していた侵入者の足だけ拘束を解き、新たに腰紐をつけて勝手口から屋敷の外へ出す。まさに罪人の連行であるこの状態はそれなりに視線が集まったが、こちらが見返すとみんな視線をすぐ逸らすので、関わり合いになりたくないという感情はみんな同じなんだと実感した。役所は結構遠いそうで、メルさんの提案に従って近くにある騎士の詰め所に連行する。詰め所の外で立っている騎士が、俺達を見つけてこちらへ向かって来た。


第19話です。王都に到着。早々に不審者侵入ですね。獣人の子がミルという名前だと判明!

非常に怖がりですが、かわいい子ですよ(宣伝w

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