第一話 剣道が嫌いな剣道師範の息子
変わらない日常に、ちょっと気になるニュースがあった。
俺は佐野勇介、16歳、エアガンが好きな高校生だ。今日は寝過ごし、遅刻しそうになって少々不機嫌になっている。
「まったく、なんで学校なんか行かなきゃいけないんだよ」
「そこに突っ込み入れちゃうのか、お前・・・」
「だってそうだろ? 学校がなけりゃ一日中エアガン撃ってゲームできるじゃん」
「学校行かなかったら親が怒ってエアガン没収されんぞ? 前もそれでキレただろ?」
数日前の記憶が蘇る。部活がある予定だった日に部活が中止になってエアガンを撃っていたら、親父が部活をサボったと勘違いして大激怒し、苦労して買ったエアガンを破壊されて俺がブチギレたのだ。母が止めに入るまで血が出るのも構わず殴り合いのケンカになり、あまりの事態に警察や救急車まで出動する大騒ぎになった。ケンカの理由を知って母も怒り出し、結局警察が間に入ってくれるまで家族3人でギャーギャーと騒いだために、近所中に知れ渡るほどの大惨事になってしまった。警察が帰り、治療が済んでも親父は俺の報告不足が悪いとして一向に謝る事は無く、思い出すだけで腹が立ってくる。
「ああ、そうなんだけどよ。親父がチート級に強すぎんだよ」
「そらお前、お前の親父さん剣道の先生だろ? 強いなんて当たり前じゃん」
「おかげで今じゃ剣道大嫌いだぜ」
「それなりに強いのに、大変だな」
「それなりって、なんだよお前」
「うわ、バカ、やめ、ぎゃっ」
「コラー、授業中に何をやっている!!」
「「すみませんでした!」」
毎日のようにこんなやりとりが続いている。小さい頃は親父の背中の大きさに憧れて剣道をやり、ある程度強くなったが、中学生ぐらいから始まった反抗期と、刑事ドラマや戦争映画のマイブームで銃に興味を持ってからは、惰性的に続けているに過ぎない。しかし家での親父の権力は大きく、剣道を辞めずに続けることを条件に何とかバイトを許してもらって、エアガンやパソコン、友人との遊びの費用を稼いでいるので辞められない。親父としては剣道以外全否定で、その気になれば高校を中退させようとまで考えているらしいが、さすがに母に止められ、渋々、100万歩譲った結果、高校までは行ける事になった。母の願いに弱いと知っている俺には、親父が俺の事を考えてではなく、母の願いだからという理由で譲ったようにしか見えず、弟子や俺に対して鬼のように厳しい親父が、母にだけは甘いことにある種の差別を受けている気分だった。それを利用して母に懇願し、母から親父に言ってもらってバイトをOKしてもらったが、さすがに剣道を辞める事には猛反対され、ついには出ていけと騒ぎ始めた親父を、母を先頭に弟子や近所の事情を知っている人たち総出で説得し、俺の【剣道は続けるが、成績に口を出したりせず、バイトで自分が作った金の使い道に文句を言わない】という超妥協した案で話をつけた。剣道以外今まで何一つやらせてもらえなかった為、学校で友人ができず、せっかく友人ができても剣道のために遊べなくて全く面白くない人生だったので、たったこれだけの事で俺の人生は変わった。まず友人が増え、人と話せる楽しさを知った。友人と教えあうので成績が良くなり、バイトのおかげで目上の人|(親父以外)に対するマナーが良くなり、今まで以上に近所の評判が良くなった。バイトで頑張って金を作れば欲しい物が買えるようになったのでストレスが減り、反抗期っぽい感じが無くなってきた。人生で今が一番やりたいことができていると思う。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
「おい勇介。部活はどうした!!」
「うるせえ! 今日は休みだろうが!! いい加減覚えろ!」
「だったら家で稽古を・・・」
「部活で剣道を約束通り続けてやってるんだから、文句言わない約束だろ?」
「その部活が今日は休みなら稽古をして何が悪い、いいからさっさと来るんだ」
この期に及んでまだ言うつもりか、いい加減イライラしてきた。
「は? バイトに行く予定がもうあんだよ。うざいから話かけんな」
「なんだその態度は! 親に向かって何様のつもりだ!」
親父が怒って俺に詰め寄ってくる。力技では勝敗は見えているし、バイトを休むわけにはいかないので論破する方向で行こう。
「約束を破る奴を人と思うなって散々言っていたのはどこの誰だよ。剣道部に入ることで約束守ってんだから口出ししてんじゃねえよ! 今約束を破っているてめえが親を名乗るのか? 笑わせんな」
「なんだと? この・・・」
自分がいかに矛盾した事を言っているか理解しつつ、でも息子にバカにされたことが許せない親父は拳をあげる。
「もう!! 二人して帰ってくるなりどうしたの?」
騒ぎを聞きつけ、母が台所から出て来た。親父とほぼ同時に気がつき、真っ先に俺が理由を説明する。
「こいつが約束破るからうぜえの!!」
「だからその態度は何だと言っているだろうが!!」
親父もすかさず応戦し、またもや言い争いが繰り広げられようと言う時に、母が手を叩いて注目を集めた。
「はいはい、二人とももうやめる。まずお父さん。私は約束破る人嫌いなの、知っているでしょう?」
「ああ、もちろんだがこいつは・・・」
「知っているなら言わないで? 毎日見ているけど、勇介は剣道を続けているわ。それでいいじゃない」
「う、うぅむ・・・」
親父はあっさり論破され、納得はしていないが渋々といった態度で黙った。次に母は俺の方を向く。
「勇介、お父さんなんだから口の利き方には気をつけなさい。人様の前でもそんな風にしているなら、お母さんもバイトに反対するからね?」
「大丈夫、バイト先でも学校でもちゃんとしているよ。心配しないでいいから」
「そう? この間のテスト、数学の点数が下がっていたわよ。遊びすぎないでね」
しまった。前回のテストは事前に勉強していたところと出題範囲がズレてしまって思うように点数が伸びなかったので、母はそれを警戒しているようだ。今度のテストは範囲も狭いし、予習もばっちりだが、念のため前後の範囲も見直しておこう。
「わかった」
「よし、バイトがあるのよね。行ってらっしゃい」
「おう、いってきます」
俺は母に元気良く返事をして部屋に向かう。学生服と鞄を置いて私服に着替えるためだ。
「さあ、お父さんも、弟子達が待っていますよ」
「そ、そうか。そうだな、うむ、すまぬ」
「はいはい」
俺が出ていく後ろで、そんな声が聞こえた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~
バイトが終わり、家に帰る。スマホでネットのニュースを見ていると、気になる記事があった。
【中東で少年兵の集団が行方不明、テロの可能性も】
普通、中東などの紛争地帯の事は、あまり世界的なニュースにはならない。少年兵の話なんてほとんどゼロに近い。それがあえて記事になったのはなぜか。記事を読んで分かったのは、それが初めてではないということだった。少年兵は過酷な戦闘で死亡する事が多く、大半は使い捨て同然の自爆テロなど過酷な事をやらされるため、一人一人の生死はいちいち考えられていない。そんな中で行方不明などよくある事で、任務中の戦死や逃亡など理由はいくらでもあったが、一度に何人も行方不明になる事が最近多発していると書いてある。中東には今、過激派のテロ集団がおり、集団誘拐による戦闘員の確保説などが書かれていた。普通なら気にもしない遠い異国の話だが、自分とそんなに歳の変わらない少年達が本物の銃を手に命がけで戦っていると考えると、少し引っかかるものがある。銃が好きでおもちゃを買って遊ぶ俺と、そんなに変わらない人達が・・・。そう思うと少し暗い気持ちになり、日本人で良かったと思うのだった。
第一話です。まだ何も起こっていません。当初はなるべく普通の高校生にしたかったのですが、後々の展開に便利なように改変していたらこんな問題山済みの家庭環境になっていましたw