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異世界に響く銃声  作者: レコア
第2章 召喚された高校生銃士
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第十四話 女性特有の悩み?

時々、男女間で常識にズレがある。それは時に致命的な問題だ。

下男が俺達の部屋の前まで来ると、入れ替えで入って来た人達が下男の下へ殺到して我先に食事にありつこうとし始めた。どんなものでもいいから食べたいほどお腹がすいていたのだろう。狸寝入りしていた男性もいつの間にか移動している。献立を見て男性が舌打ちしたのを俺は聞き逃さなかったが、どうでもいいのでとりあえず俺の分を受け取りに行く。移動しようと体を動かした瞬間獣人の子に服を掴まれたが、優しく手を添えると離してくれた。まず一人分受け取り、獣人の子へ渡す。今度は俺の分だ。下男が若干不思議そうな顔をしていたが、俺が苦笑いを返すと事情を察したのか普通に渡してくれた。向かいの部屋でも新しく来た人達の何人かは食事に殺到したが、俺達の部屋から移動した獣人2人は食事が抜きにされたようで、新しく来た獣人の何人かが同情の眼差しを向けていた。みんな食事をすぐに食べ終わったが、獣人の子はスプーンでチビチビと食べているし、俺も普段通りゆっくりと食べる。味はしないが、少しでも長く口に入っていれば、唾液やら何やらで多少は甘く感じる事を発見したからだ。食事が終わった後、器とスプーンをいつもの位置に返すと他の人達もそれに倣った。俺は本を見るのを再開したが、獣人の子が興味津々で横から覗き込んでくるので集中できない。顔が近いから気が散る。しばらくは放置していたが、耐えられなくなったので獣人の子に本を渡した。

「え・・・」

「興味があるんだろ? 俺は全部読んだから読みたいなら読んでもいいぜ。ただし、借りものだから汚すなよ?」

「はい! ありがとうございましゅ・・・。うぅ・・・」

なぜか「す」が言えないらしい。同じところで噛んでいる。真っ赤になってうつむいた獣人の子の頭を撫でてやる。

「ふにゅ~~」

頭を撫でる時に手が耳に当たったら、獣人の子が突然変な声を出したのであわてて手を放した。同じ部屋の人達が一斉にこちらを見たが、俺が変な事をしたわけじゃないと分かったのかすぐにまた目をそらされる。ちょっと獣人の子から距離を取って座りなおしたが、獣人の子も距離を詰めて座りなおしたので全く意味がない。その謎行動に思わず質問する。

「どうした? あの2人はもう居ないから安全なはずだろ?」

「うっ、えっと、その・・・」

眼を泳がせる獣人の子は、必死に答えを探しているらしい。チラッと後ろを見たので、一緒に入れられた男性を警戒しているのかもしれない。自分が襲われそうになった時に狸寝入りをしていた男性は、また狸寝入りしている。

「あいつなら別に大丈夫なんじゃないのか? 何か警戒するような事でもあんのか?」

「い、いえ、そういう訳では・・・」

歯切れが悪い。口ごもってうつむいたままの獣人の子の状態を見ていると、なんとなく俺が獣人の子を責めているように見えた。

「ま、別にいいか。その本は絶対汚すなよ?」

「はい!」

俺が気にしない態度をとった途端、獣人の子の耳が思いっきり立って、元気のよい返事が返って来た。顔もいい笑顔だ。何がそこまでうれしいのかは謎だが、とりあえず怯えて腕にしがみつかれたりする心配は無さそうなので安心した。今後ずっとあのままだったら、いつか腕が折れていた事だろう。横で本を嬉しそうにめくる獣人の子を放置して、俺は久々に銃の状態を確認する。獣人の子の騒動で壁際に置き去りにされていたからだ。獣人の子が腕にしがみつく時にガチャっと嫌な音がしたのも気になるし、時間がある今点検しておきたい。すぐ横の獣人の子はもちろん、反対側の壁の人達や、向かいの部屋の何人かも俺の謎の行動をじっと見つめていた。とりあえず銃を触りながら、頭の中でアイに状態を確認する。異常は無いそうなので銃を適当に触って元の位置に戻し、カバンの中身も状態を確認する。弾薬類は問題なかったが、水入れに残してある水が劣化し始めているとアイから報告が来た。水が腐るなんて日本じゃ聞いた事無い気もするが、この部屋の衛生状態を考えれば仕方ないかもと思えてくる。人が増えたので狭く感じるようになったし、今後は大変そうだ。しばらくして、またしてもトラブルが起きた。

「ねえ。ここってトイレはどうするの?」

「わからない。下男に言ったら連れて行ってくれるのだろうか?」

俺の部屋に移動してきた男女の一組がヒソヒソ話しているのが聞こえた。たぶん20代中ごろであろうこの男女は、ここに来た時からずっと一緒に居るので恋人か何かなのかもしれない。もう一組の方は、不愛想な男性と老婆だ、男性は獣人の子と一緒に入って来た人よりも大人に見えるのでおそらく30代くらい、老婆の方はいくつなのだろう。70とか行っていそうだ。白髪まじりの頭頂部は禿げ始めている。こちらは赤の他人のようで、食事の時なども場所が近い以外はほとんど会話などが無い感じだ。あの若い男女だけが、この部屋では顔見知りなのかもしれない。女性が心配そうな顔で相手の男性に聞いているが、男性も今日来たばかりなので知るはずもない。

「部屋の端に穴を掘って、そこにするしかねえよ。拭く物も無いし、他に方法がねえけど、服にするよりはマシだろ?」

「そんな・・・。そんなの嫌よ! こんなに人が居る部屋でなんて無理だわ」

「本当にそれしか方法は無いのか?」

俺が教えた方法に女性が反発し、男性が別の方法が無いか聞いてくる。

「ここに来て4日になるが、それ以外の方法は知らねえな、俺も嫌だが、我慢するにも限界があるぜ?」

「そんな・・・」

他の方法なんて知らないので正直に答えると、女性がまた泣き出してしまった。

「一応、言ってくれればその間だけでもそっちを向かないように俺はしてやるから、隠したい場所は服でも使って隠しな」

「うう、嫌よ、いやぁ・・・」

「厚意には感謝するが、俺達は見ての通り着の身着のままだ、隠せるような余分な服は持っていないんだ」

「あんたその人の知合いなんだろ? トイレの間だけでもシャツを脱いで貸してやればいいんじゃねえの?」

「それは・・・」

俺の提案で男性が思案顔になる。女性は状況があまりにも酷い事に泣くばかりだ。野営地でカバンをもらった時、おっさんに布をあげてしまったのが今更ながらに悔やまれた。男ばかりの部屋だったので見られる事に関してあんまり気にしなかったが、女性が居る今は状況が違う。女性ならそういう事も気にするのは当然なのかもしれないし、老婆もひょっとしたら介護が必要だったりするのかもしれない。泣き止まない女性を見てそんな事を考えていると、ふと俺のそばにいる獣人の子が気になった。静かにしているので寝ているのかと思って見てみると、モジモジしながらしきりにキョロキョロとあたりを見回している。様子がおかしい。

「どうかしたか?」

「ふぇ!! い、いえ、ななな、なんでもごじゃいませんでしゅ。ううぅ・・・」(モジモジ)

声をかけた途端、真っ赤になって全力で何でもないと主張する獣人の子を見て、なんとなくどこかで見たような感覚を覚えて記憶を探る。しばらく観察していたせいか獣人の子をジッと見つめる状況になり、獣人の子がどんどん挙動不審になっていく。そういえば、小さい子がトイレを我慢する状況に似ているような気がする。小学生の頃、トイレに行きたかったのに親父が説教を止めず、漏れる寸前で母が返って来て気がついてくれなかったら、小学生にもなって漏らすという失態を犯すところだった。その状況によく似ていると気がついた俺は、他の人に聞こえないように小声で獣人の子に話しかける。

「ひょっとして、トイレに行きたいんじゃねえのか?」

俺のささやきに獣人の子がビクッと震え、さらに顔が真っ赤になっていく。小さくコクリとうなずいたので、トイレに行きたいのは間違いなさそうだ。なぜ我慢する必要が? と一瞬考えて、彼女も女性であり、今まさにトイレ事情の話をしていた事に思い当たる。獣人の子もトイレには行きたいが、やはり周りの目が気になるのだろう。俺は迷った挙句、上着を脱ぐ事にした。俺がいきなり服を脱ぎ始めた事に獣人の子はもちろん先ほどの男女や老婆達も視線を向けてくる。脱いだ上着を獣人の子に渡した。

「ほら、これで多少は大丈夫だろ? 穴は自分で掘るしかねえが、向こうの隅はやめとけ、昨日掘った穴があってまだ汚いからよ」

「え、でも、その・・・」

俺の行動に獣人の子は迷いを見せる。先ほどの男女は俺が何をしているか、獣人の子がどういう状況か分かったらしく、隣の男性や老婆に何か話して、入り口側へ移動し始めた。できるだけ離れて、獣人の子に気を使ってくれるらしい。

「ほら、漏れる前に行って来いって。何なら耳を塞いでおくか?」

「いえ、あ、ありがとうごじゃいましゅ・・・」

男女の行動と俺の提案で獣人の子はそそくさと部屋の隅に移動していったので、俺は狸寝入りを決め込んでいる男性の方に移動して肩をポンと叩く。男性は苛立たし気に鼻を鳴らした後、寝返りを打って壁の方を向いた。俺も元居た位置に移動し、入り口側を向いて両手で耳を塞ぐ、先ほどの男女は別に耳をふさいだりはしなかったが、入り口方向を見て獣人の子の方を見ないようにしてくれた。しばらくして服を引っ張られたので振り向くと、獣人の子がうつむいたまま上着を差し出してくる。

「あ、ありがとうごじゃいました・・・。うぅ・・・」

「ざ」も時々噛むな。赤くなった獣人の子から上着を受け取って女性の方へ投げる。女性は意図を察し、お礼を言って部屋の隅へ移動した。耳を塞いでしばらくしたころ、また服を引っ張られたので振り向いてみると、獣人の子が上着を持っていた。

「あ、あの、その・・・」

「ありがとう、助かったわ。見た事無い素材ね。肌触りもいいし、借りた後で言うのもなんだけど本当によかったの?」

「別にこれぐらいならいくらでも貸すさ。必要ならいつでも言ってくれよ」

「どこかの元貴族様だったりするのか?」

感謝する女性とは裏腹に、男性の方は興味津々で俺の素性を聞いてくる。

「いや、普通の学生だぜ?」

「学べるお金があるなら、それなりに家が裕福なんじゃないのか?」

「家はそれなりに金がある方だとは思うが、俺が使えるわけじゃねえから、金に困らなかった事はねえな」

「そう・・・。苦労したのね」

量販店で買った安い薄手の上着のどこを褒めているのか正直意味が分からなかったが、男女や獣人の子の着ている服を見てこれでも十分マシなのだと思いなおした。他の人から見たら俺は上等な服を着ているのに奴隷の檻に居る変人に見えるのかもしれない。剣道の師範である家は親父の開く道場に弟子が何人も居るし、剣道を習いに来る人も多いので普通のサラリーマンの家よりは儲かっているが、俺がその金を使う事は出来ない。親父から見れば剣道以外にかかる金はすべて無駄な出費であり、食事などの生きるのに必要な経費もできるだけ抑えたいと考えているので、俺に小遣いが与えられる可能性はゼロだった。誕生日にプレゼントはおろかケーキすら無く、親戚からのお年玉は親父に反抗したり、剣道で失敗をしたりした場合ことごとく没収されるので、俺はバイトを始めるまで財布を持った事が無かった。そんな俺のどこを見ても裕福さなんてかけらもないので、しっかりと否定しておく。俺の雰囲気から何かを察したのか、女性から同情の言葉が聞こえた。同情するなら金をくれと、中学生の時なら叫んでいたかもしれない。気まずい空気が流れたので俺はカバンから詩集を取り出し、読んでいるふりをする。先ほどの男女も俺の話しかけるなオーラを感じてかそれ以上追及しては来なかった。獣人の子は相変わらず俺のそばに座って本を見ている。ページが全く進んでいないが、絵を眺めているのだろうか? そんなに長い時間眺めていて飽きない絵があったのかと記憶を探ったが、思い当たらない。夜になってみんな横になり始めたので俺もいつものように横になったが、獣人の子の騒動で思ったより疲れていたらしく、横になるとすぐに眠ってしまった。いつも通り、アイに部屋の人達の敵意などを監視するように指示を出しておく。

第14話です。小学生時代、体育で着替えようと言う時に、女子は教室で、男子は廊下で着替えるように言われていました。冬の寒い廊下でせっかく着込んでいた厚手のジャンバーを脱いで、薄くて半袖の体操着に着替えなければいけない状況を、友達といつも愚痴ったものです。教師の女子に対するえこひいきだと男子の間では言われていましたが、そういう理由じゃなかったんですね。次回もお楽しみに

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