第十話 奴隷商人
どんな場所にも、どんな分野にもプロは存在する。たとえそれが犯罪のプロでも・・・。
「待たせたね」
「ご足労いただき感謝します。今回はこれだけです」
しばらく座って待っていると、ちょっと太ったあくどそうな顔のオヤジが近寄ってきた。利口な盗賊が俺達の下へ案内する。
「ふむ。また君達のお頭は無意味に商品候補をつぶしてしまったのか、少しは控えるように言っておいてくれたまえ? 君達のお頭が殺害してしまうような者に限って奴隷としての価値が高い場合が多いのだから」
オヤジがおっさんの遺体を見てそうつぶやいた。
「私は一介の盗賊です。お頭の行動に意見はできません。また、今回の死者はヘロウド様によるものです」
「騎士様か、では仕方がないな。それで? 高く売れそうな奴は居たかい?」
利口な盗賊が事情を説明すると、オヤジはおっさんの死を仕方ないで片づけ、俺達を見回す。嫌な野郎だ。
「この男は大国の大商人の息子だと自称しております。我々では身元が確認できないので、そちらでお願いします」
「ほ、本当だ! 私はアーメイル王国で2番目に大きい商家、エルベン商会の3男で・・・」
とある商人が必死に訴えようとするが、奴隷商人は手で制する。
「口では何とでも言えるのでね。調べればすぐにわかるさ。いつものように、購入は保留にして身元が分かったら相応の代金を持ってくるという事でよろしいかな?」
「それで構いません。他の者は商隊を組んだだけの行商人や運搬人、その奴隷や小間使い、見習いのようです。護衛が4名」
「この規模で護衛が4人とは、ずいぶん少ないね」
「森の中で魔物に襲われて消耗したそうです」
利口な盗賊から俺達の概要を聞いて護衛の少なさに奴隷商人が驚いているが、利口な盗賊が理由を説明している。
「それは気の毒に。護衛はギルド員かな? 冒険者?」
「向こうの3人は森の外れにある小さな農村の民兵だそうです。こちらの彼だけは魔物に襲われた位置からの護衛で、身元は分かっていません。容姿や装備、言動や行動から判断するに異邦人の傭兵のようです」
「ほおお。異邦人の傭兵は高く売れそうだね。身元が分からないのは、話さないからなのかね?」
異邦人の傭兵と聞いて奴隷商人の目が光り、俺を見ながら利口な盗賊と話を続けている。気持ち悪いから見ないでほしい。
「いえ、本人以外誰も知らないようです。本人は捕らえた時の部下の不始末で意識を失ってしまい、まだ聞けていませんでした」
「先ほど目覚めたばかりだと?」
「実際には数刻前には目覚めていましたが、彼の所持する特殊な武器の扱いをお頭が誤って事故が発生し、部下二人が死傷したため治療などの対応に追われ、それどころではなかったのです。お頭も重傷で早急に代金が必要です」
「薬代か。しかし、事故を起こして死人が出るような武器を持っているんじゃ、護衛としての価値が下がって売れないのでは・・・」
盗賊達が早急に金を欲しがっていると分かるが早いか、奴隷商人が俺の評価を急に下げだした。おそらくこの中で一番買い取り金額が高いであろう俺を、時間が無い事を利用して安く買い叩く気のようだ。利口な盗賊も今更ながらにしゃべりすぎた事に気がついたらしく、手が強く握られていたが、焦った表情は見せずに下がった評価をもとに戻そうとし始めた。
「ご心配なく。この目で確認しましたが、特殊な武器ゆえに彼が扱う分には問題が無いようです」
「本当かね?」
奴隷商人が俺の方を向いて聞いてくる。
「使い方を間違わなければ危険はない。盗賊の頭さんは俺の忠告を無視した為にケガしただけだ。俺が使う分には問題ねえよ」
「嘘は言っていません」
俺の返答を聞いた奴隷商人が無言で利口な盗賊に視線を向けた為、利口な盗賊が裏付けをする。
「使い方を私に教えて私が扱える可能性は?」
「可能性はゼロじゃないが、一歩間違えば後ろで死んでいる男の仲間入りだぜ」
俺は嘘にならないように注意して、奴隷商人の後ろで死んでいる盗賊に視線を向ける。
「体に大穴が開いているね。長い棒状だし、特殊な槍なのかい? どちらにせよ、試す気にはならんな」
「賢明な判断だと思います」
奴隷商人は死体を見ると、顔をしかめて銃の撃ち方を習う事をあきらめたらしい。これで銃を扱えるのが俺だけになって価値が上がったので、利口な盗賊もフォローしてくる。
「その武器の効果はどのようなものなのかね?」
「所定の動作を行うと小さな爆発が起きて特定の対象を殺傷する武器のようです。間違いないな?」
「ああ、そんなところだ」
利口な盗賊は盗賊の頭の近くで見ていた時の状況を伝え、俺が肯定する。言い方が回りくどいが、嘘ではない。
「威力は?」
「ウッドマンが一撃で砕け散るほどだと商人達が口をそろえて証言しています」
「斬撃に強いウッドマンを一撃とは、相当な威力だね。何かデメリットは?」
やはりウッドマンを一撃必殺はすごい事らしい。商人らしく、奴隷商人はちゃんとデメリットを聞くのも忘れていない。
「先ほども説明した通り、彼以外が扱う事ができません」
「他には?」
「何かあるか?」
利口な盗賊が俺に聞いてくる。何も言わないが、目で【あまり評価が下がるようなことを言うなよ】と訴えていた。
「連続で攻撃はできるが、スピードは速くない。俺の慣れの問題なんだが、一度攻撃したら次攻撃するまでに今は数秒かかる」
「魔法攻撃効果のある杖なのか? それにしては不思議な形をしている。魔力の使用や詠唱の必要は?」
「俺の知る限り、魔力も詠唱も必要ない」
なぜか魔力的な武器だと勘違いされているが、嘘をつくのも問題がある気がするのでそこは正直に答えておく。
「再攻撃に数秒と言ったね。それは、君の努力でどこまで短くできる?」
「俺の知る中で最も早く攻撃できる奴は、こいつを15秒で再使用できる。それ以上にも理論上は速くできるが、もっと早くするのは単純な速さじゃ無理だな。別の技術が必要になる」
いつだったか動画で見たマスケット銃の速射大会の動画の話だ。うろ覚えだが、3発撃つのに45秒くらいだった気がする。
「15秒か、効果付き杖での攻撃の倍以上のスピードとは、恐ろしいな。その15秒と言う時間は、早いのかね?」
「別の構造を使う同じような武器ならもっと早い物もあるが、この武器で15秒なら達人レベルのさらに上だな」
「なるほど。それを数秒で使えるのなら、確かに素人の私には無理な話だね。君の言葉の意味が理解できたよ」
「彼は珍しい異邦人です。傭兵なら武器の効果と相まって需要が高いでしょう」
俺とのやり取りを聞いていた利口な盗賊がすかさずフォローを入れる。
「そうだね。異邦人というだけでもそれなりの値が付くだろう。男なのが少し残念なところだが、傭兵なら仕方あるまい。よろしい、彼は1000フルで買い取りたいが、いかがかね?」
男なのが残念の意味はよく理解できるが、1000フルってすごい値段なんじゃないだろうか。
「願ってもない値段ですね。こちらも異存ありません。他の者はどうしますか?」
「商人が一人70フル、高等算術などの特殊技能がある者は80フル、異国の言葉を通訳できる者は100フル、商人見習いは50フル、運搬人は30フル、奴隷は10フル、民兵は20フルが相応だろう。どう思うかね?」
他の人達も値段がついていくが、明らかに俺だけ突出して高い。銃の効果か、異邦人がそれだけ珍しいのかもしれない。
「運搬人の男達は体格も良く、もう少し良い値が付くのではありませんか?」
「運搬人というだけならこの値段が相応なのだが、体格の良い者は奴隷兵の素質があるかもしれないね。一応しっかり見せてもらおうか。どの者かね?」
「彼ら2人はいかがですか?」
利口な盗賊が他の人達の値段に不満なようで、つり上げ交渉を行っている。
「なるほど。確かにこれだけ筋肉が発達していれば力も強いだろうね。よろしい。この2人だけ45フルでいかがかな?」
「異存ありません」
つり上げ交渉は成功したようだ。利口な盗賊がニヤリと笑ったのを俺は見逃さなかった。やはり悪人というか、なんというか。
「彼らの所持品はどうするのかね?」
「食料や水、武器、一部の布などは我々が活用します。馬車も状態が良いので1台分は確保するつもりです。他の馬車や我々の使わない物、多すぎる馬などは売り払います」
「馬があるのかね。ならば2頭ほど私が買い取ろう」
「でしたらこちらです」
奴隷商人が馬という言葉に反応し、利口な盗賊が案内して去っていく。利口なだけあってやり手なようだ。その後、馬の交渉を終えたであろうホクホク顔の奴隷商人と利口な盗賊が戻ってきた。盗賊達も数人集まっている。
「それでは交渉成立だね。今後とも御ひいきに」
「こちらこそよろしくおねがいします」
奴隷商人と利口な盗賊が握手をした後、利口な盗賊が指示を出すと盗賊達が俺達を立たせ始めた。一人足がしびれたのかふらついたのを盗賊が怒鳴っている。
「こらこら。彼らはもう私の商品だ、傷つけないでくれたまえ」
「聞いたろ? 慎重に扱え」
「チッ、わかってやすよ」
注意を受けた盗賊は誰が見ても分かるくらい渋々といった態度でよろけた商人を再び立たせた。俺も若干足がしびれてきたが、立てないほどじゃないので自力で立つ。
「では、輸送用の馬車まで自力で歩いて来たまえ」
おっさんの遺体に近い商人達が去り際、おっさんに別れの言葉を告げて行ったので俺もそれに倣う。助けられなかった侘びと、一言、ありがとうと言っておいた。なぜ感謝したかは自分でもよく分かっていない。しかし、いい人だった事は間違いないので、言っておきたかったのだと思う。輸送用の馬車は、猛獣用の檻に木の車輪が付いただけのような簡単な構造をしていた。結構大きいので全員一応乗れるが、足は延ばせない。体育座りに近い形で丸まって座った。盗賊が鍵を閉め、奴隷商人に渡す。
「それでは。ハッ!」
奴隷商人が御者台なのか、少し高い所に上り、馬に鞭を打つ音が聞こえる。馬の鳴き声の後、衝撃が来て馬車が動き出した。
第十話です。勇介君は奴隷落ちしてしまいました。この後どうなるのでしょうか?
人身売買は今もアジアの一部や中東、アフリカの一部でまかり通っているそうです。遠い異国の話ですが、現地に観光へ行った外国人が狙われることもあるそうなので、世界はまだまだ恐ろしいなと思います。平和は卓上の空論ですが、人身売買根絶は平和より実現性が高いと思います。無くなってほしいものです。
次回もお楽しみに




