第九話 銃の扱いにはご注意を
銃は人を殺す兵器であり、扱いに注意が必要なのは忘れてはいけない。
気がつくと、紐で手と足が縛られていた。最後に居た場所から少し離れた木のそばに寝かされていると分かったが、起き上がって周囲を見回す力が出ない。うつろな意識では周りが良く見えないが、一応目を開けてみる。
「気がついたか。いつまで寝ているつもりだ。さっさと座れ!」
「がは・・・」
腹に金属の靴で蹴りを食らい、思わず腹を抱える。
「き、騎士様! お願いでございます。どうかこのような・・・」
「黙れ! 商人風情が騎士である私の行動に指図しようというのか! 今度口を挟んだらその喉掻っ切ってくれるわ!」
「ひいぃ!」
とっさに助けようと声を上げた商人に向かって、俺を蹴った騎士が怒鳴って黙らせた。騎士だと言ったが、鎧のボロボロさ等から判断してこいつはいわゆる【騎士の肩書を盾に悪さを行う悪人】だと思う。手足が自由に動かせない現状で逆らっても仕方ないので、隣の商人に手を貸してもらいつつ木を背にして座る。手は前で縛られているので一応ある程度は動くが、目の前の騎士をどうにかはできない。できる事なら逃げ出したいが、今は状況を見守ることにする。
「ヘロウド様、さすがは騎士様でごぜえます。無事、全員捕らえやした。これより奴隷商人に売り渡しやす。商人共の売り物も売っぱらいやすから、その儲けの5割はヘロウド様に・・・」
「うむ」
まあ何というか、後ろに控えた腰の低い男が犯罪を暴露してしまっている。ついでに騎士の名前もわかった。やはり悪人のようだ。
「騎士様、まさか盗賊と手を組んでおられるのですか? そのような悪事が許されるはず・・・」
「うるさいやつだ。死ね!」
思わず反論してしまったおっさんに騎士が激怒し、剣を抜いて振り上げる。
「や、やめろ!」
「お、お待ちを・・・」
俺と後ろに控えた男が止めに入ろうとするが、どちらも間に合わず、おっさんに剣が振り下ろされた。
「ぎゃはぁ・・・」
「何という事を・・・」
「ふん」
横に居た商人が絶望の声を上げる。おっさんは血を流しながら後ろへ倒れた。
「言ったはずだ。商人風情が口を出すなと。貴様らは私に逆らった事で反逆罪だ。本来はそいつのようにこの場で処刑だが、特別に情けをかけて、犯罪奴隷落ちで許してやる。せいぜい新しい主人の下で自らの罪の重さを実感するがいい。ハハハハハハ」
騎士はそう言って笑うと、剣の血を払って鞘に戻し、去って行った。おっさんはピクリとも動かない。死んでしまったようだ。おっさんの死と、奴隷落ちという言葉にみんなが沈んでいると、さっき報告をしていた盗賊が俺達に話しかけてきた。
「お前らはこれから奴隷商人へ引き渡す。騎士様のお言葉に従い、犯罪奴隷扱いだ。反逆罪だから、まともな人生を送れると思うなよ? お前達の馬車や武器、商品は俺達が代わりに売りさばいてやるから安心しな。せいぜい、いい主人にもらってもらえるように元商人らしく媚びを売る事だ。あとお前、いくつか知りたい事があるから、質問に答えろ」
そう言って俺に視線を向ける盗賊。
「何が知りたい?」
「素直じゃねえか。異邦人の武器は使い方が分からないと売れないからな。こいつの使い方を吐け、嘘だったらただじゃ置かないからそこんとこ忘れるなよ? ヘロウド様が1人やっちまったが、別に売り渡す時にもう1人減っても俺達は構わねえからな?」
そう言って腰の剣を抜いた後、俺に突き付けてくる。商人の護衛達が持っていた剣だと思う。野営地で喧嘩をして取り合っていた奴だ。本物の盗賊だけあって凄みは効いているし、横の商人は震えあがっていたが、マジ切れした時の親父の半分も怖くない。それよりも殺されないため、また、自分の価値を高くしておく為に、俺は言い訳と、それの信憑性を高める方法を思いついた。
「それは俺の故郷で使われていた古い武器だ。ただし、俺の国以外の人間や、扱い方を知らない奴が扱うと死人が出るから、俺と引き離すのはやめておいた方がいいぜ」
「ハハハ。ハッタリかますんじゃねえよ。こんな棒の扱いを誤ってどうして死人が出るんだ? 脅すつもりならもうちょい考えな」
「じゃあ、一度使ってみればいいんじゃね? そうすればハッタリかどうか分かるからよ」
「チッ、舐めやがって」
そう言って盗賊はしばらく銃をいろんな角度から見たり、こすったりしていたが、だんだんとイライラしてきたらしく、ついにキレた。
「クソっ、てめえ、さっさと使い方を吐きやがれ!」
「どうしたんです? お頭?」
そのやり取りに他の盗賊達も集まってくる。銃を持った盗賊を中心に半円形を形作り、使い方を議論する。
「早く教えろっつってんだろうが!」
「いいけどよ。警告はしたからな? 死人が出たりしても俺のせいじゃないぜ?」
「うるせえ、いいから教えろ!」
完全にこいつは頭にきているな。これ以上怒らせると本気で殺されかねないが、うまくやり過ごせる方法は無いかと考える。やつの持ち方は危なっかしいし、装填済みだから後は引き金を引くだけのはずだ。さてどうするか・・・。少し考えてひらめいた。
「はあ・・・。何が起こっても俺にあたるなよ? まず縦にしていたらそいつは意味がない。横にして持つんだ。違う。右手はもっと前な。そこに指をかけて、違う。そっちじゃねえよ間抜け。下にある突起だ。そこに指をかけて、あとはそこを押すだけだ。でも押すなよ? 死人が出るぞ? けが人も出るから早く俺に返せよ?」
「は? 奴隷に武器を返すバカがどこに居んだよ」
そう言って盗賊は引き金を引こうとする。しかし、体勢がおかしいのでなかなか引けず、しばらく格闘した後ようやく引き金を引いた。一拍遅れて衝撃、体勢がおかしかった盗賊の手から銃が衝撃に従って吹き飛び、盗賊の右に居た仲間の胸を直撃、さらに銃弾が発射されているので左側に居た男の胸に大穴が開く。撃った盗賊も指が折れ、右手の二の腕あたりが裂けて血が出ていた。右の男は急に胸へ衝撃を受けて肺の空気をほとんど全部出し切り、ろっ骨が折れたのか胸が陥没した状態で倒れ、かろうじて生きてはいるが虫の息だ。左の男は何が起こったのかもわからぬままおそらく即死、倒れた状態からピクリとも動かない。撃った盗賊は指の激痛と腕の血に驚いて悲鳴を上げ、周りに居た他の仲間と商人達は発砲音に驚いてしりもちをつくなど大慌てだ。
「お、お頭!!!」
「おい、何が起きたんだ?」
「こっちも大変だ。胸が潰れているぜ、早く手当てを!」
「手当って何すりゃいいんだよ!」
「知るかそんなもん!」
「おい、こっちはもう死んでいるぞ。いったい何があったってんだ!?」
盗賊達は大混乱だった。右手の痛みで絶叫を辞めない盗賊の頭を2人ほどがどこかへ連れて行き、胸が陥没した男も運ばれていった。左に居た死んだ男は死亡が確認されると放置され、盗賊の頭とまだ生きている右の男の対応に時間が割かれる。蘇生を試みるようなことなどなにもされないのはちょっと同情したが、警告はしたので俺はヤレヤレといった表情と態度を全身で表現した。発砲音に気が付いて周辺で見張りをしていた盗賊達が一斉に戻ってきたため、一瞬で3人の仲間が死傷したという報告を聞いてさらに大騒ぎになった。
「てめぇ! お頭達に何しやがった!」
事情を聞いたらしい1人の盗賊が俺の胸ぐらをつかんで怒鳴る。怖くはないが、臭いしうるさいしで最悪なのでやめてほしい。
「お前バカだろ? 警告したのを聞かなかったのはお前らの落ち度なのに、なんで俺が怒鳴られなきゃならないんだよ? え?」
「何だとこの・・・」
「おいよせ。また同じことが起きたらどうするんだ!」
「うっ・・・」
どうやら盗賊にも利口な奴が居るらしい。激高する仲間を制止し、1人の盗賊がこちらへ歩み寄る。
「あの武器は、本当にお前以外が扱うとああなるのか?」
「ああ。細かい差異はあるだろうが、大抵はああやって事故が起きるぜ」
「そんな危ない物をどうしてお前だけが扱える?」
「簡単な事さ。練習と慣れ、持って生まれた才能、技術、他の人間には足りない物ばかりだが、あれを扱うにはすべてが必要だ」
「チッ、嘘に聞こえないのが頭に来るが、変な意地を張ってこれ以上仲間が減っても困る。あれ以外にお前しか扱えない、お前以外が扱うと危険なものは他にあるのか?」
俺は弾薬の入ったカバンが無い事に気が付いていたので、それも一応範疇に入れておこう。
「俺は2つカバンを持っていた。食料が入っていた方は問題ないが、もう一つの方はあんたらじゃ手に負えないと思うぜ」
「なるほど。やはり異邦人は俺達の想像もつかない武器や技術があると見える。奴隷にして売っぱらうのは惜しい気もするが、お頭があんな状態では見知らぬ異邦人より治療薬の代金の方が重要だ。いいだろう。お前が持っていた持ち物は返す。ただし条件が2つある。これが守られないなら、お前も含めて今回捕らえた人間は皆殺しにするのでそのつもりでいろ」
「条件ねえ・・・。なんだってんだ?」
「1つ。これから武器を返すわけだ。それはつまりお前が俺達に攻撃ができるようになるという事。それを禁止する。2つ。奴隷商人がもうすぐ来る。おとなしく従い、奴隷として購入される事、この2つだ」
「それは、一方的にお前らが得しているだけなんじゃねえのか? 仮に違うとして、俺が自分の事しか考えないクズで、武器を持った途端横のこいつらを見捨てて逃げるつもりならその条件は意味ないと思うしよ?」
俺が自分だけ逃げるかもしれないという発言をした途端に、横の商人達が一斉にこちらを振り向く。口には出さないが、信じられないという感情は痛いほど伝わってくるし、批難や絶望がこもった眼も少なくなかった。
「盗賊だからと舐めてもらっては困る。職業柄逃げる人間を捕まえるのは得意だし、あの武器を使われるとしても、20人近い盗賊を全滅させる前にお前が捕まって死ぬ確率の方が高いだろう。お前が寝ている間に散々商人共にお前について聞いたが、口々に魔物を倒した手際とあの武器のすごさを賞賛する一方で、お前の名前すら知らないという奇妙な情報しか得られなかった。盗賊の俺が言うのもおかしいが、今の王国は治安が悪い。そんなご時世に金で雇われたでもなく、知り合いだったわけでもない人間を魔物から助け出すほどのお人よしは珍しい。お前なら、こいつらの命の価値を俺達以上に分かっていると踏んでの条件だ」
なかなか痛い所をついてくるというか、俺の同情心をあおる作戦のようだ。確かに見捨てる気はないから見抜かれているな。
「なるほど。盗賊は脳筋の塊だと思っていたが、あんたみたいに冷静に周りを見られる奴も居るんだな。確かに、見直したぜ」
「すべての盗賊が好きで悪党をやっているわけではないという事だ。条件は飲むだろうな?」
利口な盗賊が俺に再度確認してくる。言い方からしてこいつも過去に何かあったのかもしれないが、今はどうでもいい。
「ああ、なんか事情がありそうだし? それが一番お互いのためだろうからな。武器が返ってきてもおとなしくしておくよ」
「賢明な判断感謝する。ついて来い、どれがお前の荷物か分からないから、自分で見つけ出してくれ」
そう言うと利口な盗賊は仲間に合図し、俺を立たせる。立った瞬間若干めまいがしたが、すぐに収まったので利口な盗賊の後をついて行く。足の紐が邪魔で歩きにくいが、歩けない事は無かった。一番先頭の馬車の横に商人達や護衛の持ち物が置かれており、一つだけ色が違うカバンが目立っているのが見える。中身を確認し、弾薬などが無くなっていない事を確認する。利口な盗賊に許可をもらって食料が入ったもう一方のカバンも返してもらえた。食べ物が若干減り、4フルが無くなっている以外は問題ない。商人達のそばへ戻る途中で事故の後盗賊の頭が落としたまま放置されていた銃を拾い、泥を軽く払って状態を確認する。
「ほお。確かに先ほどのような事故は起きないか。特殊な魔法道具なのか? 魔力を感じないのが不思議だが」
「魔法道具とは少し違うな、剣とかと比べたら十分に特殊な武器だとは思うけどよ」
そう言って銃を手に持ったまま、銃弾に倒れた盗賊の下へ近寄る。
「何をする気だ?」
不思議そうな顔をする利口な盗賊をスルーして、俺は事故の犠牲者に詫びを入れる。近場に居た商人も利口な盗賊も驚いているのが気配で分かったが、ちゃんと冥福を祈るまではスルーした。
「敵であっても死人には礼儀をか。異邦人はやはりおもしろい」
利口な盗賊のつぶやきが聞こえたが、とりあえず無視して先ほどの位置へ座る。銃は長いので肩に立てかけて手で持つ状態になったが、横の商人が震えだしてしまったので少し離れた。一瞬で盗賊を3人も戦闘不能にした異国の武器はさぞかし恐ろしく映ったのだろうが、命がけだったので勘弁してもらいたい。
第九話です。単発のライフル銃でも暴発事故を起こせば何人もの負傷者がでます。アニメではアサルトライフルを片手で軽々と撃ちまくっている女子中学生とかいますが、実際は大の男が力を入れなければならないくらいの反動があるはずです。銃の種類にもよりますが、反動は強烈なので、海外で実弾射撃を体験する予定のある方はご注意ください。次回もお楽しみに




