序章
今はまだ、集中するべきだ
目の前で、大きな悲鳴を上げる人がいる。彼女のさらに先には、鋭い角をこちらに向けた大型の牛の化け物。こちらをにらむ赤い目は、吸い込まれそうなほど深い闇の力を感じる。片方の足をその場で動かし、今にもこちらへ突進してきそうだ。
怖い。
とても怖い。
足は完全にガクガクだが、やるしかない。今後ろを向いたら、まず間違いなくこちらがやられる。目の前で泣きながら腰を抜かしている少女も、もちろん俺自身も、後ろでそそくさと逃げていく盗賊達もやられるだろう。俺は何とか冷静になろうとする。剣道の一部として習った精神統一がここで役に立つ。目は化け物に固定したまま、ゆっくりと息をすると気持ちが落ち着いてきた。ガクガクと震えていた足がしっかりしはじめ、無意識に姿勢を正し、ゆっくりと銃を構える。エアガンではないその銃は重く、手にずっしりとのしかかる。牛の化け物が俺の動きに反応し、突進しようと身をかがめている。
「来い、来てみやがれ」
そう小声で言ったが、おそらく向こうには聞こえていないだろう。幸いにも化け物と俺には距離がある。狙うには十分時間があるはずだ。少女は泣きながら、しきりに母親を呼ぼうとしているが、怖さのせいか声がほとんど出ていない。
「お母さん・・・。お母さん・・・」
ついに化け物が突進を始めた。距離はあるがスピードも結構出ている。少女がもう駄目だと目をつぶっているが、気にしないことにした。今は奴を撃つこと、それだけを考えるべきだ。落ち着いた状態で狙いを定め、俺は引き金を引いた。
LineQで2か月以上前から宣伝していた新作小説、ついに連載開始です。散々誤字修正や読み返しを行いましたが、問題が見つかったら遠慮なくご報告お願いします。
勇介の冒険はここから始まるのです(まだ序章w)