1
「と、いうことで、部屋割りを決めようと思うのだが、どうだ?」
「いや、どうだって言われても……」
口づけ燕返し事件(命名スミレ)が終わったのち、スミレたちは未だ部屋で談話を続けていた。場は、落ち着いている。先程の、騒がしい空気はない。ただし、スミレ以外は。
「それよりも、さっきのはなんなのよっ?」スミレは、リンゴジュースを飲みながら、険しい表情を作って言った。「なに? いきなり契約って?」
「勇者を地球人が使うには、契約が必要だ。契約には、接吻が必要だ。簡単なことだろう?」キュアは軽く言う。
「簡単かな、それって」目を細めるスミレ。「ていうか、それにしても、いきなりすぎじゃ」
「まあまあ、いいではないですか」チョコクッキーを食べながら、ミカゲが微笑む。「それよりも、先に部屋割りの話ですよ、部屋割りの話」
「あの、さっきから部屋割り部屋割りって……、え、まさか、住む気ですか、あなたたち二人、この家にっ?」
「当然だ」キュアが即答した。「私はユリと契約を交わした。よって、常に二人はともにあらねばならない。これは……、神の意志だよ」
「随分、レズチックな神様ね」つっこむスミレ。「いや、てか、私絶対嫌よ。こんな、シュールを通り越して、はた迷惑な二人組」
「私は……、歓迎する」スナック菓子を食べながら、ユリが言った。
「えっ、お、お姉ちゃん?」スミレは目を丸くしながら聞いた。
「これから、地球は危機に瀕するわけだろ? その場合、いつでも連絡をとれる位置にいた方が、万全を期せる。それに、賑やかになるのは、私も嬉しい」
「いやいや、賑やかになるにもほどがあるでしょうよ」
「それで、部屋割りの話に戻るのだが」とキュア。「私は、是が非でも、ユリと同じベッドで寝かしてもらう」
「えーと……」こめかみを押さえるスミレ。「未成年の読者にも、ようくわかるように説明してね。今、あなたなんて言いました?」
「勘違いするな。これは、性的な含をもった発言ではない」軽く首を横に振るキュア。
「性的て……」スミレは項垂れる。
「契約を交わした二人は、常にともにいなければならない。そうでなければ、パワーが半減してしまう。いいか……、言っておく。愛の力が……、この地球を救うんだ」
「そ、それはまた……、地球も不幸な運命を背負ったものね……。ていうか、大体、そのサージェントとやらが、よくわかってないんだけど」
「まあ、それはのちほど説明しよう」キュアは、さきいかをばりばり食べながら「とにかく、私はユリと一緒にベッドで寝る。これは……、地球の存亡を賭けた、部屋割りなんだ」
「ど、どんな部屋割りよっ!」スミレは大きな声でつっこむ。
「ふむ。一理あるな」と、ユリが言った。
「え、えーっ、あるのぉ?」
「ああ。愛の大きさが、戦力の決定的な差だと、どこかで聞いたことがある」
「私はないわよ、そんなアホな格言」
「と、すると、問題はスミレさんと私ですよね」ミカゲが頬に手を当てながら言う。「私はどこでもいいのですけど、スミレさんは、どうします?」
「ちょ、私は今まで通り、自分のベッド寝かしてもらいますからねっ!」腕組みしながら、スミレは言った。「て、ていうか、私たち見ての通り、二段ベッドで、私はちなみに上で寝てるんだけど……。気になるから、やっぱお姉ちゃんとキュアで寝るのはすっごい止めてほしいんだけど」
「何故気になる?」首を傾げるキュア。
「い、いや、な、なんというか……」
「安心しろ。性行為をするつもりはない」
「せ、性行為って……」目を手で覆うスミレ。「もっとさ、オブラートに包みなさいよ」
「じゃあ、セックスか?」
「つ、包んでないっ! 以前、無茶苦茶透明じゃボケーっ!」
「私たち、銀河王国は、性行為はとても邪推な行為とされている。成人してからでないと、やってはいけない。私は今十七だ」キュアはウーロン茶を飲みながら言った。「だから、そのような心配はない。だから安心しろ。これで、お前は悶々とせず、毎日スッキリ眠れるぞ」
「悶々て。うーん、でもねえ……」目を細めるスミレ。
「ミカゲはどうする?」ユリが聞いた。「空いている部屋で、布団でもいいか?」
「ええ、構いません」にっこり微笑むミカゲ。
「ちょ、お姉ちゃん」手を伸ばすスミレ。
「まあ、落ち着け、スミレ」ユリは微笑む。「ほら、私たちがこの家に帰ってくるのは、週末だけだろ? だから、お前が深く考えなくても、大丈夫じゃないか」
「ん? それはなんだ?」キュアが首をかしげながら聞いた。
「私たちが通っている黙示録学園は寮制なんだが、それは平日だけなんだ。週末の土日だけは、家に帰ってくる。どうやら、成長期は、家族とのふれあいも大事、ということでそうなったらしいが」
「待て。それは……」キュアが目を細めながら「私とユリが……、平日は、離ればなれになってしまうということか……」
「残念だが、そうなってしまう。学生だから、こればっかりはしょうがない」
「それはまずい」キュアが顎に手を当てる。「愛と時間は、比例する。特に、若いうちは……、な。……ユリ、私はお前が好きだ」
「お、おいおい。なに言っちゃってんの」眉間を押さえるスミレ。
「だから、いつまでも一緒にいたい。その、なんとか学園とは、一体なんだ? そこは、私も一緒に行けるところなのか?」
「いや、普通の高校だが……。一緒には、行けないと思う。なんでもありの学校ではあるが、流石に宇宙人は許容範囲外だろう」ユリは言った。
「あの、それ当たり前なんですけど」スミレがつっこむ。
「とにかく、なんだかよくわからんが、その、高校というものに通えば、私はいつでもユリと一緒にいられるというわけだな」とキュア。
「まあ、そうだな」ユリは頷く。
「了解だ」
「あの……、一体なにをしようと?」とスミレ。
「いいか……、私はキュア・ルードヴィッヒ大佐だぞ」彼女は肩肘をテーブルにつけ、その手を顎に当てながら、片眉を吊り上げて言った。「私は、今までやりたいと思って、やらなかったことは一度もない。そして……、これからもな」