5
「じゃー、またねーっ。ユリちゃーん」
「ああ、また明日」
ユリは駅前でシオンと別れると、自宅へと向かった。シオンは隣町に住んでいて、下校時にはいつもここで別れることになっている。一方のシオンの自宅は、黙示録高校の近くにある。閑静な住宅街で、人通りはあまりない。昨日の雨の影響か、道は水たまりだらけだった。
少し歩くと、左側に工事現場が見えた。数メートル先。数ヶ月前まで作られていたものだったが、今は頓挫したのか、まったく作業が進んでいない。白い幕で囲まれた中に、鉄骨がむき出しで放置されている。マンションだろうか。高い。完成すれば、八階か、それとも十階か。ただ、何ヶ月も放置されたからか、非常に不安定に見える。地震があったら、今にも上から鉄骨が落ちてきそうな勢いだった。
――ん、あれは?
と、その工事現場の地面で、サッカーをして遊んでいる少年たちが見えた。
「あっ、そこは」ユリは駆け寄ろうとする。「ん?」
ユリは建築物を見上げた。
すると、
鉄骨が、
静かに、
少年たちに向かって真っ逆さまに猛スピードで落ちているのが見えた。
「あ、危ないっ!」
駆け寄るユリ。
しかし、まだ距離は遠い。
――ま、間に合えっ!
と、
地面に落ちる前に、
鉄骨が空中で止まった。
ユリは目を懲らす。
なんと、
一人の少女が……、
その鉄骨を片手で支えているのが見えた。
「な、……なに?」目を丸くするユリ。
「ふっ、こんなところで遊んでいては、危ないぞ」その少女は無表情で言った。
「あっ、ありがとう……、お、お姉ちゃん」涙目の少年たち。
「礼はいい。それより、さっさと家へ帰れ。もう遅いぞ」
「う、うん。わかった」少年たちは、工事現場を駆けだしていった。
「ふっ、お姉ちゃんとはな」少女は鉄骨を地面に投げながら「私は大佐だというのに……。まったく、無礼者らが」
「あ、あの……」ユリは少女に近づきながら「あ、あなたは……」
「私か?」少女は腰に片手をつけながら言った。「私は、第三銀河王国特別部隊所属、キュア・ルーズヴィッヒ大佐。宇宙の扉を……、開ける者だ」
「宇宙の……、扉?」
「ここで、キーマカレーまんを、誰にも見つからずひっそりと食べていたのだが……」キュアは重い溜息をついた。「どうやら、場所がわるかったらしいな」
「き、キーマカレーマン……?」唾を飲むユリ。
「ん、なんだ? 唾なんか飲んだりして、お前、お腹が空いてるのか? さきいかならあるぞ、食べるか?」
「さ、さきいか……?」
「キュアさん。ユリさんはギャグ要員じゃないんだから、そういったシュールなボケは通じないわよ」
「だ、誰だっ!」ユリは後ろを振り返る。
「私は、先行隊に所属しているミカゲと言います。私たちは、あなたをずっと捜していたんですよ……。花影塚、ユリさん」