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空。
ユリは急旋回しながら言った。
「おいっ、そこのメイドロボ! 壊されたくなかったらおとなしく……ってうわぁっ!」
空を覆うかのような、鋭く大きい回し蹴りが飛んできた。
「ちょ、意外と速いっ」
慣れないながらも、さらに上空に飛び回避する。
すると、
メイドロボが、掌をこちらに向け、大きく振り下ろしてきた。
同時に、壁のようにやってくる突風。
「くっ、近づくことさえも」
ユリは両腕を体の前にクロスさせ、なんとか体勢を維持する。
と、
メイドロボは、突如近くのビルをもち、
なんと、それを振り回してきた。
「なっ! お、おいおい」
急下降するユリ。
間一髪で回避。
だが、
メイドロボはそのビルをもったまま、
ぱかっ、と口を開ける。
――ん?
その口元が、ゆっくりと閃光に包まれる。
「ま……、まさか」
ユリは頬を引きつらせる。
「び、ビーム? えええっ!」
そして、
大量の爆音とともに、
空中に巨大なメイドビームが放出された。
「うわっ! ちょっ!」
ユリは右方向に急旋回して、
避ける。
が、
ビームは、
追尾するように、
曲がる。
縮まる距離。
ユリは前を向く。
更にスピードを上げる。
だが、
振り返る。
一面。
光。
閃光が、視界。
――くっ……、
ここまで……、か。
「らしくないぞ、ユリ」
目の前。
馬に乗った一人の影。
オレンジ色のメイド服。
水色の長い髪。
そして、
彼女は片手を前にだす。
「こんなもの」
すると、
ビームの勢いが止まり、
空中にゆっくりと消滅していった。
「…………」
驚くユリ。
「ど……、どうやって」
キュアは振り返向きながら、
「決まってるだろ」
ウィンクして言った。
「愛の力」
「ふっ」
ユリは軽く微笑みながら言った。
「そうだったな」
そして、彼女は髪を小さく払った。
「すまない。忘れていたよ」
「まったくだ……。早く後ろに乗れ」
キュアは後ろを指差す。
ユリは彼女の後ろに座りながら、
「しかし……、どうする? 相手は、巨大ロボだぞ」
「巨大ロボだろうが、宇宙海賊だろうが、たとえ神だろうが……、私たち二人に適うやつはいない」
キュアはユリにゆっくりと抱きつく。
「ユリ……、好きだ」
「おいおい、こんな時に」
ユリはキュアの頭を撫でる。
キュアはむくっと、顔をだしながら、
「愛の力……、渡していいか?」
額をくっつけるキュアとユリ。
夕日が二人を照らす。
「ああ……、ゆっくりとだぞ」
「ふっ、エロいやつだな」
二人は、
抱き合いながら、
口づけを交わす。
三秒。
五秒。
十秒。
三十秒。
一分。
三分。
五分。
十分。
……長っ!(天の声)
……愛の力ってそんなにあるの?
……つか敵はっ?
と、
キュアは、
唇を、ぽんっ、と外しながら、
低い小さい声で囁いた。
「どうだ? ……私の愛の力は」
「美味しかった」
「ふっ、バカなやつだ」
ユリは、キュアの唇を人差し指でなぞり、
その人差し指で自らの人差し指をなぞった。
「愛の力……、マックスハートだ」
「当たり前だ。相手はこの私なんだぞ」
キュアはにっこり微笑む。
「さて……」
と、
ユリはユニコーンの背に立ち上がった。
「キュア……、案内を頼む」
「了解だ」
キュアは前を向く。
猛スピードで、メイドロボに向かうユニコーン。
対するメイドロボは、
口を開きビームを放出。
「そんなもの」
ユリが言うと同時に、
ユニコーンの前に、
いつの間にか透明の丸い壁が出来ていた。
「LOVEバリアだ」
ユリが呟く。
「ふっ、小洒落たものを」
キュアが口元を緩める。
と、
ユリは、
メイドロボの前に行くと、
胸元から赤い薔薇をとりだし、
それを自らの口元に近づけ、目を細め、メイドロボを見た。
「あなたに……、薔薇の御加護があらんことを……」
そして、
薔薇の花をメイドロボに投げつけた。
胸元に突き刺さる一輪の薔薇の花。
「赤い薔薇の花言葉は……、愛」
とユリ。
「そして、それは……、契約の証」
とキュア。
「愛の力よ……、薔薇とともに、今ここに舞い降りたり」
ユリは、
片手の人差し指と中指だけを立て、
それをメイドロボに向けながら言った。
「アディオス」
ドッカアアアァァーン。
ズガガガーン。
チュッドーン。
バラバラバラ……。
シュ~ッ……、ガラガラガラッ。
巨大な爆発が起こり、砂煙とともに、メイドロボは粉々になっていった。
「やったな……、ユリ」
「ああ……、キュアのお陰さ」
と、
その一部始終を、ミカゲと一緒に、近くの高層ビルの屋上から、双眼鏡で見ていたスミレは、両手を下ろし、大きな口を開けながら呟いた。
「な……、なに? この壮大なコントは……?」
「ま、まあ、私たちらしくて、い、いいんじゃないでしょうか……?」と、横にいるミカゲ。
「い、いや、こんならしさ、永久に願い下げなんだけど……」
「さーて、悪い敵もやっつけたことだし」ミカゲは人差し指を立てながら「もうそろそろ、エンディングですよっ。ファイトファイトッ」
「いいのか……? なんか、激しく不安なんだけど……。はーあ……。バッシングとかされないかな……」スミレは、赤い夕日を見ながら、川に石を投げるように呟いた。




