9
「うーん、やっぱり学校にはいなかったわね」ミカゲは頬に手を当てながら言った。以前、ユニコーンに乗って空を飛んだまま。「どこにいるのかしら……、ユリさん」
「ん……、あれ……」と、カーザは前方を指差しながら言った。「メイドロボの前に……、なんか、飛んでない?」
「えっ?」ミカゲは、メイドロボの周辺に目を懲らした。
よく見ると、確かに……、うっすらと白い妖精のようなものが見える。なんだか、妖精のようなシルエット。また、黒くて長い、髪のようなものが、飛ぶ方向を変える度動いていた。
「行ってみよう」カーザが言った。
「ちょ、ちょっと待って」ミカゲはこめかみに手を当てながら「少しだけ、考えさせてね」
「え、どうしたの?」カーザは振り向く。
やがて、ミカゲは首を振りながら「やっぱり……、メイドロボの周りは危険だわ……。行ってはダメ」
「え、でも」カーザはミカゲを見ながら、メイドロボの方向を指差した。「遠くで見てれば、大丈夫じゃない? それに、あれ気になるし」
「ダメったら、ダメよ。ほら、戦闘機を空手チョップで粉砕するやつなのよ。ユニコーンなんて、デコぴんで粉々だわ」
「う、うーん……。まあ、確かに……。いや、でも、近くに行くぐらいはよくない? それに、あの白いやつの正体が……」
「カーザ」ミカゲは微笑む。「……また、口を塞がれたい?」
「えっ!」カーザは顔を赤らめながら「ちょ……、わ、わかったから。そ、その、もうメイドロボ見に行くなんて言わないから……。もう、あれだけは止めて」
「よしよし」ミカゲは彼女の頭を撫でながら「じゃ、ここで降りましょ」
「え?」首を傾げるカーザ。「降りるって?」
「い・い・か・ら」カーザは首を傾け、ウィンクした。「私の言う通りにして。お願い」
「う、うん……。わ、わかった」
ユニコーンはゆっくりと、高度を落としていく。
やがて、近くの、川辺近くの土手に着地した。
「カーザ、チャコちゃん……、ちょっと降りてもらっていい?」ミカゲは言った。「私、やらなきゃいけないことがあるの」
「えっ……、ミカゲさんは?」カーザが聞く。
「ほらほら、降りた降りた」ミカゲはカーザを押した。
「わっ、ちょ」どてっ、と地面に落ちるカーザ。「いたっ!」
「チャコちゃんも……ね?」
「わ、わかりました」ゆっくりと降りるチャコ。
「ま、まさか……、ミカゲさん、一人で闘う気じゃ……、私も行くよっ!」カーザは叫ぶ。
「大丈夫よ。そんなことはしないわ」ミカゲはユニコーンの手綱を握りながら「ちょっと、これ借りていくわね」
「なっ! えっ? 運転できるの?」
「まあ、うちの軍にもよくあるタイプだし」
「へ?」
「必ず帰ってくるわ……、それじゃあ」
「ミカゲさんっ、それどういう」ミカゲに近づくカーザ。
「カーザ」
ミカゲは彼女の唇に人差し指を当てる。
「キスのおねだりなら……、後にして」
「……なっ! ち、違っ!」
「帰ってきたら、いくらでも、してあげるわよ」
「ち、違いますっ! あのですねっ」
叫ぶカーザ。
「怒った顔も素敵よ」
ミカゲは微笑みながら、
「ふふ、私ちょっとSかも」
「え?」
ミカゲはカーザの腕を掴んで体を引き寄せ、
「後でゆっくりいじめてあげるから」
彼女の耳元で囁いた。
「楽しみに……、待っててね」
「あ……」その場に、へにゃへにゃと座り込むカーザ。「あうぅ……。も、もうダメぇ~」
「えっ、え、なになに? カーザさん、なに言われたんですかっ?」戸惑うチャコ。
「だ・か・ら。言ったでしょ?」ミカゲは人差し指を自分の頬に当てた。「女の子はね、秘密の数だけ大人になる。そして、それは……、必ず恋の秘密なの」




