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「いやー、なんだかんだ言って、楽しかったねー」スミレは両腕を伸ばしながら言った。
「ねー」横を歩くフィが言った。「シオンちゃんも働いていることだし、またきてみるのも、いいかもね」
二人はメイド喫茶からでた。まだ、店のドアをでたばかり。閑散としている地下を歩いているところ。
「ねーねー、どう? 働きたくなった? メイド喫茶?」スミレはにやにやしながら言った。
「え? い、いや」フィは苦笑いしながら手を横に振った。「なんか、逆に自信なくなっちゃった。ほら、あの二人のメイド姿見ちゃったらさ」
「あー、でも、それはそうかもねー」スミレは両腕を頭の後ろで組みながら言う。「似合ってたもんねー」
「うん。ま、だから、メイドさんは見てるだけってことで」
「そうだねー」頷くスミレ。
「でも、もう、なかなかメイドさんなんて、見る機会ないだろうね」フィが言った。「こういうとこ、こないとさ」
「そりゃそうでしょー」スミレは両手を戻し、フィに手の甲を向けながら笑う。「大体、今時、お金持ちでもメイドさんを雇ってるところなんて、早々ないってー。非現実的ー」
「そうだよねー。はーあ、これでメイドさんも見納めかー」フィは階段を上りながら言った。そろそろ屋外。少しずつ太陽の光が見え、目の前が明るくなってきた。
「まーまー。またくればいいじゃん」とスミレ。
「だねー」
「そうだよそうだよ」
と、二人は話しながら外へでた。地下からでたせいか、やけに眩しい。夕焼けに空が染まっている。道にあまり人はいない。
「いやー」スミレは言う。「こうやって、外へでると、帰ってきたなーって感じするなぁ」
「……ねえ、スミレ」フィは後方を見上げながら言った。
「ん、どうしたの?」スミレはフィを見ながら首を傾げた。
「私、幻覚見てるのかな?」フィは目を擦りながら「き、巨大な……、巨大なメイドさんが見えるんだけど」
「はあ? ちょっと、なに言ってんのよ、もう」スミレは微笑む。「そんなの、いるわけじゃない。またまたぁ。もうここはメイド喫茶じゃないのよー」
「いや……、ほら、あそこ」フィは空を指差す。
「どれどれ」スミレは振り返るようにして、後方の空を見上げた。「ほらー。巨大メイドなんているわけ……。え……、え……。えええええぇぇっ!」
空にそびえ立つように、
巨大なメイドロボットが街を闊歩していた。
全長は、二十メートルから、三十メートルといったところか。紺のメイド服に、白いエプロン。カチューシャに、ブーツにニーソックス。揺れる長い黒髪。ちなみに、なにげ美人。が、街を破壊しながら、ずしーんずしーんと、一歩一歩歩いていた。
「大丈夫かな……、あれ、スカートの中見えるんじゃない?」フィが眉を寄せながら言う。
「え、大丈夫でしょ? 見せパンだから……って、そこじゃないだろ、つっこむところ!」スミレはフィ見ながら言った。「な、なにあれ? 非科学的にも、ほどがあるでしょ! 宇宙人は流石に許容範囲だったけど……、いや、あれも結構な非科学っぷりだったけど……、巨大メイドロボて。どんだけ現実を破壊すれば気が済むのよっ!」
「ん? 宇宙人?」
「え? い、いや、なんでもないわ!」スミレは首ち手を横に振りながら言った。「そ、それにしても……、と、とにかく、早くここ逃げた方がよくない? 踏みつぶされたら、一貫の終わりっしょ」
「そ、それもそうね……」フィはスミレを見ながら言った。
「あー、なんてことっ!」と、地下から金髪のメイドが走りながら叫んできた。後ろには、ユリたちもいた。「そ、そんな……。長年の計画が……」
「あーあ。存分に破壊してますね。まるで、ゴ○ラかのように」眼鏡のメイドが、汗マークをつけながら冷静な口調で言った。「どうするんです、泉さん、あれ?」
「うーん、一度作動したら、破壊するしかないんだよねぇ」泉と呼ばれた女は項垂れながら言った。
「え……、あの、やけに詳しいですね、あなた」スミレが聞いた。
「えっ!」泉は、たははと笑いながら「いやー、さっき、テレビで言ってたのよ。ほら、緊急特番やっててさ」
「あ、そうなんですか」
「え、ありましたか?」後ろにいるシオンが言う。
「と、とにかく!」泉はコホン、と咳払いをし「このままでは、地球はお終いだわ!」
「でも……、メイドロボに滅ぼされる地球って……」シオンが呆れた表情で言った。「な、なんか……、凄い情けない」
「軍隊は、出動しているんでしょうか?」と、眼鏡メイドが、泉を見ながら言った。
「してるみたい……、でも、ほら」泉は空を指差した。
上空を旋回する戦闘機。だが、メイドロボは、それを空手チョップで、次々と粉砕していた。
「う、うわぁ……、どこのスーパーロボットよ、あれ?」フィがつっこんだ。
「あの子はね……、戦闘能力に特化しているから」泉が言った。「戦車や戦闘機じゃ、絶対勝てないわ」
「あのー」スミレが手を挙げて聞く。「えっと、あの、あなた、なんでそんなに詳しいんですか?」
「えっ!」泉は、あははと笑いながら「そ、その……、私、ロボットマニアなのよ」
「え、初めて聞きましたけど」シオンが首を傾げる。
「とにかく!」泉は大きな声で言った。「は、早くここを逃げましょ! 話はそれからよっ!」 と、
「スミレ」ユリに肩を叩きながら「ちょっと、こっちへ」




