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「スミレ……。私の目を見ろ」
「だっ、ダメだよお姉ちゃん」スミレは目を逸らしながら言った。「無理無理無理……」
「いいから」ぐっと、スミレの体を引き寄せるユリ。「いくぞ」
「ちょ、ち、近いよぅ」
聞こえる息づかい。
合わさる視線。
密着する体。
「ほら、目を見て」ユリはスミレの両肩を掴む。
「わ、わかった……。じ、じゃあ」ぐっと、体に力を入れるスミレ。
「いくよ」
「うん……、優しく、してね」
「すぐ済むから」
「わ、わかった。じゃあ……、せーの……」
「せーの……」
「じゃーんけーんぽんっ!」二人は一斉に叫んだ。
ユリはパー。スミレはグー。
――やばい!
「あっち向いてぇ……、ほい!」ユリは右方向を指差す。
「ほいっ……。って、げっ! しまったぁ」勢いよく右を向くスミレ。
「ふふふ、これで私の勝ちだな」ユリは髪を払いながら言った。「またの挑戦、心から待ってるよ」
「くっそー。悔しい。私得意なのに、あっち向いてほいっ」
「あのさ……」と、後ろからフィの声が聞こえた。「もうちょっと、普通にやってくんない?聞いてるこっちが恥ずかしいんだけど」
スミレはフィと、まだメイド喫茶にいた。現在、パフェを頼んだ特典で、メイドであるユリと遊んでいたところ。
スミレは、席に戻りながら言った。「いやー、やっぱお姉ちゃんは眼力あるよねー。ガン見されると、必ずつられちゃうもん」
「う、うーん。そういう問題かなあ……」目を細めるフィ。
「でも、さっきの、フィとキュアの対決も凄かったよね」
「ああ、福笑いでしょ?」フィが微笑みながら言った。「ねー。キュアが、あんな面白い顔するとは思わなかったよー。私すぐ負けちゃったもん」
「む、私の話か?」と、いつの間にか後ろに立っていたキュアが言った。
「なっ、ちょ、急に現れないでよ」スミレは振り返る。
「いいか。言っておくが、私はもう、あんな恥ずかしい遊技はやらないからな。今日は特別だぞ」そう言うと、キュアはユリを見た。「ユリ。店長が呼んでいるぞ。なにやら、話があるらしい」
「ん? ああ、わかった」頷くユリ。そして、彼女はスミレやフィを見ながら「それじゃあ、ゆっくりしていってくれ……、アディオス」
「あ……、アディオスぅ……」汗マークを浮かべるフィ。
「ごきげんようとか、アディオスとか……、まともな挨拶はできないのかな」スミレは呆れながら言った。




