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紀見チャコはソファーに座りながら漫画を読んでいた。内容は、不思議の国のアリナ。有名な童話のパロディだった。
今日はバイトはオフ。よって、研究所にてゆっくりお休み。時には、休むことも大事である。
ブブブブブ。
テーブルの上に置いてあった、ケータイのバイブ音が鳴った。チャコはそれをとり、文面を確認する。
form泉。
おっつー。凄いよー、チャコちんっ。お客さん大盛況。キャンペーン大成功って感じ。売り上げ今日大台突破かも! やっぱ、ユリリンの活躍は大きいねぇ! うんうん。あ、でも、結構内心ドキドキかも(あっちのドキドキじゃないよー)。やっぱ、正体とか、バレちゃダメじゃん? だ・か・ら。あの計画は慎重にやるつもりっ。のでので、まあ優秀なチャコちんなら、そんなことは絶対にないと思うけど、くれぐれも、たまたまユリリンの知り合いと出会って正体がバレちゃうとか、そんなイージーミスはしちゃダメよぅ? OK? んじゃんじゃ、優しい店長さんからの、報告でしたー。チャオ。
いつもながらテンションが高い文面だな、と思いつつチャコはケータイを閉じた。しかし、こうやってメールをもらえるのは嬉しい。励みになる。
しかし、確かに泉のいう通り、そんなイージーミスは犯してはならないと思う。まあ、そんなこと、絶対自分はないと思われるが。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。なんだろう。特に約束はないはずだが。郵便だろうか。
そんなことを考えながら、チャコは玄関のドアを開けた。
「はい、なんでしょう?」
「あのー」と、報告書にあった、花影塚ユリの知り合いの内の一人、伊尾ミカゲが、両手を膝の上に置きながら立っていた。「すいません。少し、聞きたいことがありまして」
「え、えっと……」
チャコは大いに動揺した。
――ま、まさか……、計画のことがバレたんじゃ……。
「緊急なんです」と、後ろから、花影塚ユリの知り合いの内の一人、名嘉矢カーザが顔をだした。「大事な話です」
――え、えーっ! だ、大事な話ぃ!
「ちょっと、カーザ」ミカゲはカーザに、めっ、といった感じに人差し指を当て、こちらに向き直った。「いえ、実はですね……」
「ち、ちょっと……」チャコは額に手を当てる。
「ん? どうしたました?」首を傾げるミカゲ。。
チャコは、もの凄い早さで思考を巡らした。
――なっ、なんたるイージーミスっ! ああ……、インターホンで顔を確認しときゃよかった。そうすれば、居留守を使えたのに……。しかしどうする? こんな早く、計画がバレるなんて……。今からじゃ、内容を聞かないわけにもいかない。しかし、内容を聞けば、確実に逃げられない。二対一。確かに私は武道の心得はあるが、相手の力量がわからないこの場合、力業は得策ではない。時間稼ぎをするか。だが、今日泉とりむは、出勤。ラストまで戻ってこない。これは無理だ。ど、どうする……。ええいっ、なにも思いつかんっ。ど、どうしよう……。なんか不安になってきた。いや、待てよ。私には、あれがあったじゃないか。そう、あれをやって、誤魔化せば……。そうすれば、この研究所を怪しまれずに済む!
「事情は……、概ね理解しました」チャコは静かに言った。
「え?」とミカゲ。
「ここは……」チャコは、どこからともなく、白い鉢巻きをとりだし頭に巻いた。「私の一発ギャグで、この場をなかったことにしてください」
「……は?」
「では、いきますっ!」
チャコは、両手を大きく広げながら、
「はあああぁぁぁ~、必殺ぅぅ――――」
「あの、私たち、ウサギのことについて……、聞きにきたんですけれど……」ミカゲは苦笑いをしながら言った。
「え?」




