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「ふっ、朝から随分と目立っているみたいだね……、花影塚くん」
ユリの目の前に、同級生である姫釘マリアが現れた。金髪のポニーテールに、通常の制服の上に赤いマントを羽織っている。彼女は、二年B組の教室の前の廊下に、一人腕組みをしながら佇んでいた。
「おはよう、マリア」片手を挙げるユリ。
「ああ、おはよう……。さあ、あいさつもそこまでにして」と、姫釘は、パチンと指を鳴らした。
すると、
どこからともなく桃色のバラの花びらが廊下に降ってきて、
それとともに、赤い絨毯が颯爽と出現した。
「ふっふっふ」姫釘は不気味な笑いを見せながら「さあっ! 花影塚くん! 今日こそは、私が用意した、この赤い絨毯の上を歩いて教室へ入ってもらおうかっ!」とユリを指差しながら言った。
「ひ、卑怯よっ!」と、いつの間にか、ユリの後ろにいた少女が言った。「そんなところに置いたら、ユリちゃんは絨毯の上を歩かないわけにはいかないじゃない!」
「おはよう、シオン」ユリは少女に爽やかに微笑んだ。「今日も美しいね」
「ユ、ユリちゃん……」少女、春風シオンは身震いしながら「わ、私、今死んでもいいかも……」と呟いた。
「おお、春風くんもいたか……。これは好都合だな」姫釘はにやりと笑う。「だが、どうする?花影塚くん……。キミは、この絨毯を通らないで教室に入れるかな?」
「ど、どうするの? ユリちゃん!」シオンが言う。「反対のドアに行くのにも、距離が遠すぎて行けないし、隙間がないほど絨毯が敷き詰められてるから、端も歩くのも不可能よっ。ぜ、絶体絶命のピンチよ、これはっ!」
「ふっふっふ。さあ、どうする花影塚くんっ!」姫釘はマントをはためかせながら言った。
「あのー、ちょっといい?」と、ユリの後ろにいつの間にかいた、二年B組の担任教師小林が手を挙げながら言った。「いつも私思ってたんだけど、これって、なんで絨毯の上を通ったら負けみたいになってるの? 通ればいいじゃん、普通に」
「せ、先生はなにもわかっていませんっ!」シオンが叫ぶ。「だ、ダメなものはダメなんですっ! たとえば、赤信号を渡っちゃいけないのにも、わけなんてないでしょう? それと同じですっ! わかりきったことを聞かないでくださいっ!」
「いや……、あれは、危険だからダメなんでしょう? べつに、だってこれ、危険じゃないじゃん」
「ど、どうしよう、ユリちゃん……」シオンは小林を完全に無視しながら「こ、このままじゃ……、ユリちゃんは、絨毯の上を歩かなきゃいけなくなっちゃうよう」
「おいおい、人の話聞けよ」と小林。
「ふっ、心配するなシオン」ユリはシオンの肩を抱きながら「こうすればいいのさ」と、もう片方の手で、長い髪を払った。
すると、
赤い絨毯の上に、白いバラが突如出現し、赤い生地がすべて見えなくなってしまった。
「そこに道がなければ、自らの力で切り開けばいい」ユリは言った。「マリア。まだ修行が足りないようだね」
「くっ……、その手があったか……」その場にひざまずく姫釘。「む、無念」
「べーっ」シオンが舌をだしながら「ユリちゃんが、負けるわけないもんねーだっ」
「いや、どこからでたんだよ、その花びら……」小林がつっこんだ。「ていうか、それ、誰が片づけるんだよ」
「さあ、シオン」ユリは言う。「教室に入って、早速ティータイムといこうじゃないか」
「は、はいっ!」シオンは大きく頷く。
「違うぞー」と小林。「始めるのはホームルームだ、ホームルーム」