4
フィは調理室へと移動していた。どうやら、二時限目は調理実習らしい。
「いいなー、フィさんは、ユリちゃんと同じ班でぇ」横にいるシオンが言った。彼女とは、席が近く、先程少し話した。
「ユリちゃん?」首をを傾げるフィ。今二人は、廊下を歩いている。
「うん。ほら、あの、前にいる、白い学ラン着てる人」シオンは前方向を指差した。
「ああ、花影塚さん」フィは小さく頷いた。「昨日、校舎を案内してもらった」
「えっ、え、それ本当ぅ?」シオンは体を弾ませるように言った。「マジ? ねえ、それマジ?」
「え……、ああ、うん」たじろぎながら、フィは返答した。「案内してもらったけど」
「ねえ、ユリちゃんどんなだった? 格好よくなかった? 超素敵じゃなかった?」
「え……、えーと……。う、うん。ま、まあ……」正直いえば、格好良いとかそういう問題でなく、本当にあいつは人間なのか、実は超能力者や宇宙人だったりするんじゃないか、という疑いすらフィはユリに対して持っていたが、ここは無難に頷いておいた。
「だよねー。はーあ、いいなー。しかも、同じ班だなんて、いいなー。超羨ましい」シオンは、目をきらきらさせながら言った。
二人で話す内に、調理室についた。教卓がある側のドアから中に入る。中は、意外と広い。もっと狭い空間を想像していたのだが。机や、流し台のステンレスは、手入れが行き届いているのか、あまり汚れていなかった。まだ生徒は、半分ほどしか集まっていない。
「席は、教室と同じだから」シオンは、右奥にある三番目のテーブルを指差し「じゃ、またね」自分の席へと向かっていった。ちなみにシオンの席は、真ん中の三番目のテーブルである。
「ねえ、フィ、ちょっと」と、後ろからカーザに肩を叩かれた。「どう思う? あの、キュアって子。私をフリに使って……。でも、私、ああいう女、嫌いじゃないわ。どうにか、我が軍に入ってもらえないかしら」
「えーと……、取り込むのは、ルーズじゃなかったんでしょうか?」フィは、カーザとともに、教室の端に移動し、そこで話をした。「ていうか、私、思ったことがあるんですけど……」
「ん? なに?」はてな、といった感じで首を傾げるカーザ。
「あの、キュアっていう転入生……、ひょっとして、ルーズじゃないでしょうか……。私たちが捜していた……。ていうか、本人、ルーズヴィッヒってもろ言っちゃってましたけど……」
「ちょ」カーザはお腹を抱え「もうぅ~、フィは、なにを言いだすかと思ったら、そんなことぉ」あははと、笑いながら言った。目には、軽く涙まで浮かべている。「そんなわけないじゃなーい。だってさ、考えてみてよぅ。王国特別軍の大佐が、こんなところで調理実習なんかするわけないじゃーん。きっと、たまたま似たような名前なだけだって。しかも、あんな目立つ登場の仕方なんてしないよう。もし、じゃあ、本当にあの子がルーズだったとしたら、天下のルーズ大佐は、ただのバカになっちゃうじゃん。違う違う。私が仲間にしようと思ってるのは、もっと知的で、戦略的で、カリスマ性のある人よ。あんな、いろもの担当な子じゃないわ」
「そ、そうでしょうか……。しかし、不時着地点は、この近くですし……」
「まあまあ」カーザはフィに顔を近づけながら「せっかくの学校なんだから、少しぐらいは、楽しみたいじゃない? ね?」と微笑んだ。
「なっ……」フィは顔を赤らめ、目線を外しながら「ず、ずるいです……。カーザ様は……」
「あ、そうそう」と、フィは人差し指を立てながら「それと、学園内は、敬語禁止ね。怪しまれちゃうから。呼び名は、カーザちゃん。わかった?」
「ち、ちゃん……」頬をひくひくさせるフィ。
「とにかく、フランクにね。オッケー?」カーザは上目遣いで言う。
「う、うん……。わ、わかった……。か、か……、かか、カーザ……、ちゃん」
「よろしい」カーザはそう言って、にんまり微笑むと「じゃあ、席に着こうかしら」フィに背中を向け、振り向くようにして言った。「これから、美味しい料理が、私たちを待っているんだからねっ」




