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勇者少女群  作者: お休み中
第三幕 赤い鎖
17/42

「お姉ちゃんって……、ひょっとして、疫病神とか、とり憑かれやすいタイプ?」

「いや、ちょっと待て。それは相手に失礼だぞ」前の席にいるユリは、こちらに向きながら言った。

 現在ホームルームの始まる少し前。二人の席は前後なので、大体この時間は二人で話している。

「でも、キュアは百歩譲って疫病神じゃないにしてもー」スミレは腕を組みながら「あの、イーザっていう子、あの子のインパクトは半端じゃないよ。だって……、今日の朝の、あれ見たぁ? ユニコーンだよ、ユニコーン。どこからきたの、あれ?」

「さあ? 飼ってたんじゃないか?」

「あのねぇ」目を細めるスミレ。「それに、今日朝、なにも知らない顔して『あら、あなたは昨日校舎を案内してくださった、ユリ様ではないですか。偶然ですね。丁度、私も学校へ行こうとしていたところです。よろしければ、学校までご一緒しませんか? えっ、なんでこんなところにいるのか、ですって? あら、嫌だわ。そんなもの……、赤い糸をたぐり寄せたに決まってるじゃないですか。もうっ、このおしゃまさん。逮捕しちゃうぞ』なんてバッカバカしいこと言ってたけど……、あれは絶対、後をつけたとか、なにかの機械で調べたとか、そういう、普通じゃない方法を使ったに決まってるわよ。大体さ、どこで出会ったの? あの二人と?まあ、もう一人の方は、特に普通の人だったけど」

「いや、本当に、昨日校舎を案内しただけだよ」とユリ。「それ意外に、なにもしていない」

「本当? そこで……、たとえば、薔薇の花びらを散らしたりとか、しなかった?」

「うーん、したかも」

「それ、それだよ」スミレは項垂れながら言った。「だからさ、お姉ちゃんさ、その格好つける癖止めた方がいいって。自覚ゼロでしょ?」

「え? 私、格好つけてるつもりないけど」ユリは首を傾げる。

「いやいやいやいや。あれで格好つけてないって言ったら、どこぞの歌劇団は、もう今から営業できなくなるよ」

「うーん、そんなつもりはないんだけどなぁ」未だ、首を傾げたままのユリ。

「ユリちゃーん」と、右方向から、シオンが手を振りながらやってきた。「今日も素敵だったよー。なんか、弟子みたいな人連れててーっ」

「いや、あれは弟子なんかじゃなくて」

「ねえねえ、あの、白い馬いたじゃん。あれ、今度乗せてよっ。私、ユリちゃんの後ろ乗りたいっ」

「いや、シオンは乗せられないよ」

「えっ、なんで……」

「もし、シオンが落馬したらどうするんだい? 私は、明日から、誰と一緒にお弁当を食べればいいんだ」ユリは小さく首を振る。「だから……」そして、指を鳴らし、その指でシオンを差しながら、片目を瞑って「餓死で死ぬなんて、ノーサンキューだよ」と言った。

「ユリちゃん……」手を体の前で組むシオン。

「お姉ちゃん……、それだよ、それ」スミレはつっこんだ。

「はーい、ホームルーム始めるぞー」と、担任教師である小林が入ってきた。

「じゃ、またね」シオンが手を振って、自分の席に戻っていく。

「えーっ、もう知ってるやつもいるかもしれないけど、今日はなんと、このクラスに留学生がやってきまーす」小林は、教卓に両手をつけながら言った。少し騒めく教室内。「はい、じゃあ早速」彼女はドアに向かって大きい声で言った。「はーい、どうぞーっ」

 すると、

 教室内が突然暗くなった。

 高く、柔らかい声が、どこからか聞こえてくる。

「転入生は、皆緊張するもの。でも、それは、ハードルを跳ぶ前の助走期間。幸せは、不幸との差異だから。認めたくないけどね」

 教卓の前に、

 スポットライトに照らされた、カーザが立っていた。

「幸せは、誰しもの生きる目的。けれど、それに囚われては、決して幸せにはなれない。人は、欲望という鎖から逃れられることは出来ないから。だけど……、私は、それでも幸せを追い求めて生きていきたい。……それが、生きるってことだと思うから。はいっ、ということで、転入生の名嘉矢カーザでーす、よろしくお願いしまーす」

「えーと……」小林は、ドア近くの電灯のスイッチをつけながら言った。一気に明るくなる教室内。「お前、なにやってんだ?」

「え……、先生、酷いですっ。なんで電気つけっちゃったんですかっ?」カーザは、頬を膨らましながら抗議した。「もうっ、あと台本は三ページも残ってたんですよっ」

「いや、普通に言えよ、普通に」小林はこめかみに汗マークを浮かべる。「はい。この人が名嘉矢カーザさんでーす。で、えーと、もう一人の転入生が」

「初めまして……、吹結です」赤毛の、背の高い少女がドアから入ってきた。彼女は頭を下げながら言った。「よろしくお願いします」

「ほら、カーザ。こういう風に、シンプルでいいんだって」

「うーん、インパクトにかけるわね」腕を組むカーザ。

「いいんだって。自己紹介にインパクトなんてなくて」小林は溜息をつく。

「なにが目的なんだろう……」とスミレ。

「で」

 すると、

 小林は咳払いをして、

「実は、まだ転入生が二人いる」

 と言った。

「え?」目が丸くなるスミレ。

 ババババババ。

 ヘリコプターの飛ぶ音が、どこからか聞こえた。

「なっ!」スミレは立ち上がって窓の外を見た。

 教室中の生徒も、あまりにもな光景に立ち上がる。

 ヘリコプターから吊される梯子に、一人の少女が掴まっていた。

 その少女は、片手に拡声器を持っていた。風で大きく揺れる制服。長い水色の髪も、旗のように揺れる。

「そこのバカ」少女は拡声器を通して言った。「いいか、自己紹介は、目立てばいいというものではない」そして、ヘリコプターは梯子ごと教室へと近づき、少女はベランダに飛び降り、窓を開け、片足をサッシに立てかけながら肉声で言った。「私は、転入生のキュア・ルーズヴィッヒだ。これから、よろしく頼む」

「ちなみに、私は()()ミカゲって言いまーす」彼女は、いつの間にか、キュアの後ろで手を振っていた。「趣味は、料理と手芸でーす。今一番ハマっていることは、同人サイトに自作小説を送ることでーす。ふつつか者ですが、よろしくお願いしまぁす」

「なんか、つっこむのめんどくなってきたから、授業始めるぞー」小林は教科書を広げながら言った。「転入生たちは、それぞれ好きなところに座っておけー。で、あとは、スミレ、お前が上手いことまとまておけよーっ」

「いや、無理無理っ!」スミレは顔に縦線を入れながら、ぶんぶんと首を横に振った。「この、台風の後みたいな空気を、どう上手いことまとめろとっ!」

「はーい、それじゃあ一般生徒は、P47を開いてー。いいかー、主要キャラのことは放っておけぇ。あいつらは特別だからなーっ」

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