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勇者少女群  作者: お休み中
第二幕 物語は、キミの微笑み
15/42

「あら、あなたたちが、明日から転入してくる、留学生のカーザさんと、フィさんね。よろしく。私は、小林茜(あかね)。二年B組担任、つまりあなたたちの担任にもなります。じゃあ、早速、校舎を周りましょうか」

 フィとカーザは、黙示録学園の、教員室にいた。

 さて、それは何故か。

 ――これは、とある三日前の、宇宙船内での二人の会話。

 フィの目の前の、司令席に座っているカーザは、なんの前触れもなくこう言った。

「やっぱり、学校って大事だと思うのよ」

「えっと、今度はなんですか……」フィはやや呆れ気味で返した。

「ほら、ルーズが不時着した地点は、とある日本という国の、都心付近って言ってたじゃない」

「ええ、それは、衛星からの調べで確認済ですが」

「だから、その、不時着ポイントに一番近い学校に通いながら、捜すのがいいと思うの」

「えっと……」眉間を押さえるフィ。「仰っていることが、まったく、これっぽちっもわかりませんが」

「なんでよぅ。いい?」人差し指を立てるカーザ。「これは、宇宙ネット、コスモウィ○ペディアで見た情報なんだけどね」

「は、はあ……」

「どうやら、ルーズの年齢は十七歳らしいのよ。だから、多分、そのまま地球に潜伏するなら、学校に通うって思うのよ」

「そ、そうでしょうか……。正直、絶対通わないと思うんですけど……。だって、バレる課率、誰がどう見たって、上がりますよ」

「えっ、でも、学校行かなかったら、ただのニートになっちゃうじゃん。そんなタマじゃないわよ、ルーズは」

「は、はあ……」

「それにね、ほら、私たちって、学校行ってないじゃない? 軍事訓練ばっかで」

「え、ええ、そうですね」

「だから、行った方がいいと思うの、学校」

「いや、でも……。うーん、今別に行く必要はないのでは?」

「思い出は、振り返らないと見えない。近すぎると、その大事さは決してわからないから」カーザは言った。「学校という場所はね、通っている時は全然楽しくないの。通っていることを思い出して、楽しむものよ。人生も同じ。本当に面白い瞬間はね、過ぎ去らないとわからないの。幸か不幸かね」

「は、はあ……」

「……ていうことで、学校に通いましょーうっ、さあさあ、善は急げぇ、うー、なんだか楽しみな展開になってきたぁっ!」

 ――と、いうことで、二人は、現在黙示録学園に転入するにいたったのである。

 表向きは、留学生。フィ・ユンはアジア圏出身という設定。偽名は、漢字表記にしただけの、(ふぃ)(ゆん)。カーザ・ラハラは、ヨーロッパ圏出身のハーフという設定。偽名は、半分つけ足しただけの、()()()カーザ、となった。

「いやー、でもさ、二人ともよく似合ってるわよー」小林は微笑みながら言った。ちなみに、椅子に座っている。「地味な制服なんだけど、二人とも、よく着こなしてるわねぇ」

「いえいえ、そんなーっ」カーザは手の甲を向けながら、あははと笑った。「もう、お世辞が上手いんですから、先生はっ」

 フィは頬をひきつらせ、心の中でつっこみを入れた。

 ――な、馴染んでるよ、カーザ総帥……っ。早! つーか、どっちかっていうとこっちの服の方が自然だし!

「えっと、じゃあ」と、小林は立ち上がり「まずは、玄関から行こうか。すぐ近くだしね」ドアに向かってゆっくりと歩きだした。フィとカーザも、彼女についていく。

 小林についていきながら、フィはカーザに小声で話した。「でも……、なんで、中途半端な偽名にしたんですか? やるんなら、丸っ切り別の名前にした方がよかったんじゃ……」

「大丈夫よ」カーザは囁くように言った。「というかぶっちゃけさ、この学園にルーズがいる確率なんて、なん百万ぶんの一なんだから、そんな警戒しなくても、オッケーだって。それに、もし、仮に百歩譲って、この学校にルーズ、もしくはルーズの協力者、つまり私たちのことを知っている者がいたとしても、服装が違うから、絶対バレやしないって」

「そ、そうでしょうか……。なんか、激しく不安なんですけど。ていうか、じゃあなんで私たちはここにいるんでしょうか……」

「細かいことは気にしないのっ。とにかく! ようーく、考えてみて。だって、宇宙海賊の総帥と、その片腕である総長が、地球を侵略しようとしている最中、学校に転入するなんて、普通の人じゃまず思いつかないでしょ?」

「え、ええ……。まあ、絶対ありえないことですからね……。こんなバカバカしいこと。つい三日前は、ノリと勢いで騙されましたが」

「もうっ、フィはいちいち、変なこと覚えてるわねっ」頬を膨らますカーザ。「とにかく、だから大丈夫よ。絶対鉢合わせしないし、鉢合わせしたとしても、バレるわけがないから」

「う、うーん。そ、そうですかねぇ……」

「ん、二人とも、どうしたの?」廊下を歩きながら、前を行く小林がこちらを振り向いた。

「い、いえっ、なんでもっ」カーザは両と首を振った。「いやー、それにしても、綺麗な校舎ですねー。最近、建てられたんですか?」

「ううん。建てられたのは、もう三十年も前よ」

「えっ、それなのに? 凄いです。はあー」カーザは周りをきょろきょろしながら「じゃあ、歴史と重みがあるんですね」

「そうなのよー。でも、ちゃんと自由な部分もあって」小林は身振り手振りで話す。

 と、前から、タマネギ頭に、平行四辺形の眼鏡をしている、いかにも厳しそうな教師がやってきた。

「小林先生、捜していたんですよ」タマネギ教師は、眼鏡を人差し指で押さえるとそう言った。

「はい? どうされましたか?」小林は前に向き直りながら言った。

「いえ、小林先生宛てに、緊急のお電話が入っていまして。なにやら、会議の打ち合わせらしいですわ。とにかく、相当込み入って緊急だそうですよ」

「は、はあ。わ、わかりました。とにかく、電話にでますので」

「では、私は用がありますので」そう言うと、タマネギ教師は、教員室の方へ歩いていった。

「うーん」頭を掻く小林。

「あの……」カーザが言う。「私たちなら、平気ですけれども」

「いや、そういうわけにもねえ……。じゃ、ちょっとまた教員室に……、ん?」小林は二人を見ながら「ごめん、ちょっと、学校案内、違う人に頼んでもいいかな?」

「はい、もちろんです」カーザが頷く。「むしろ、申しわけないぐらいですけど」

「本当? ありがとう」

 と、

 小林は、玄関近くにいる、一人の生徒に声をかけた。

「おーい、ユリー」小林は手を大きく振りながら言った。「お前、私に代わって、転入生に校舎案内してくんなーい?」

「はいっ」その少女はこちらを振り返りながら「わかりました」

「えっ?」フィは、目を懲らしてその生徒を見た。

 それというのも、

 驚くことに、彼女の制服が、他の生徒とまるで違ったからだった。

 白い、軍服のようなデザインに、お前は王子かとつっこみたくなるほどの、ぴかぴか金色の刺繍。そして、タイトな黒スカートから伸びる、すらりとした足。おまけに、ブーツに桃色ソックスまで履いている。完全に、ぶっちぎりで、誰がどう見ても、それは校則を無視したスタイルだった。

 しかし、それよりも増して、彼女の驚嘆すべき部分はその容姿といえた。

 長い黒髪は大和撫子を彷彿とさせ、大きな瞳はダイヤを軽々しく超える輝かしさ。ほのかに朱色に染まった唇は、蠱惑的でなんとも耽美。白い肌に、まるで人間工学で計算されたような完璧フェイス。なんというか、彼女は、性別年齢などを超え、全人類を恋に落とすこともできそうなほどの、危なさと美しさと強さを兼ね揃えていた。

 で、

 総合すると、フィはユリに対して、

 ――凄い。こんな美人、初めて見る……。でも、あの制服は一体……。

 という、一般的な、極々正直な感想をもった。

「彼女は、花影塚ユリ。君たち二人と、同じクラスだよ。一見怪しいけど、生徒会長もやってるぐらいだから、信頼しても大丈夫だ」と小林は言った。

 フィは心の中でつっこんだ。

 ――せ、生徒会長っ? こ、校則無視してるのにぃ?

「初めまして」ユリはフィたちの前に立ちながら「私が紹介に与った、花影塚ユリだ。学園の新しい仲間が増えて嬉しいよ」そして、彼女はパチン、と指を鳴らした。

 すると、

 薔薇が、

 赤い薔薇の花びらが、突如として、天井から降ってきた。

「え、えっ、えーっ!」周りをきょろきょろしながら、驚くフィ。「ど、これ、どこから降ってきたのーっ」

「理由は、キミの心の中にある」ユリはフィの胸を指差しながら言った。「言葉は、いらない」

 ――い、いやいるだろっ。説明してよ、この不可解な現象をっ!

「おいおい、お前、転入生を驚かすなよ」小林は肩をすくめながら「とにかく、悪いけど、私は急ぎの電話があってでてくるから、後はよろしくな。もう手続きは済んだから、案内の後は解散でいいから、んじゃ、よろしく」手を振って、教員室の方に向かっていった。

「さて」と、ユリは爽やかに微笑みながら「それじゃあ、まずは名前を教えてくれると嬉しいな」

「えっと、私」フィは戸惑いながらも、手を挙げながら「吹結って言います、よろしく」

「ああ、よろしく」またも白い歯を見せながら、微笑むユリ。

「あの……」

 と、

 カーザは、

 ユリの両手を握り、

 とてもきらきらした瞳で顔を赤らめながら、

「花影塚ユリさん……、一目惚れしました。私と……、結婚してください」

 と言った。

「……えっと」微笑んだ顔のまま、頭に汗マークを浮かべるユリ。「はい?」

「……は?」顔に縦線が入るフィ。

「ふっふっふ。やっぱり、学校にきて正解だったわね」カーザは振り返って、後ろにいるフィに言った。そして、すぐ前を向き直し「一生、ついていきます」

「あ、あの……、あなた、落ち着いて」

「はっ! そ、そうでしたねっ」まずいっ、といった感じで、手を離すカーザ。

「え、ええ。まずは」

「ええ。まずは、お互いの名前を知ってからじゃないと、結婚できませんよね」胸元に手を当てながら、目を瞑ってカーザが言った。

 ――そ、そういうことじゃないだろ!

「今、私はあなたに恋したことを、後悔しています。それは何故か? 私の運命は決まってしまったから。でも、時計の針の上で、あなたが口づけしてくれるなら、私は時の果てにいっても、寂しくないの」

 カーザはくるりと回り、

 前に向き直ると、

 右手を胸につけ、左手ををつきだし、

 掌を広げながら言った。 

「きっと、私が生まれたのは、あなたに逢うためだった」

「…………」

 笑顔のまま、硬直するユリ。

「…………」

 ただただ、唖然とするフィ。

 そんな三人の周りに、

 再び、

 薔薇の花びらがひらひらと舞い降りてきた。

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