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キュアは天ぷらそばを食べながら「大変申し訳ないが、それはモグモグ、私はできるだけ正体を明かしてはジュルジュル、確かに恋人という存在を友達に公言するのはいいかもしれないが、しかしズズズズ、それに、私たちの関係が敵の耳に入ればモグモグ、パクパクだからして、ズルズルズル、ングングング、なんだ。わかってくれるか……、ユリ」と言った。
「……食べるか喋るか、どっちかにしろーっ!」スミレは立ち上がりながらつっこんだ。
現在、夕飯の時間。四人で、ミカゲが作ってくれた天ぷらそばを食べていた。
「まあまあ、いいではないですか、育ち盛りは我慢してはいけないのです」と、横から、ミカゲがカボチャの煮つけが載っている皿を、テーブルの上に置きながら言った。「本を見ながら作ってみたんですけど……。自信がなくて。皆様の、お口に合うかどうか」
「ふむ。これは新しいな」キュアが、そのカボチャの煮つけを口の中に運ぶ。「むっ……、こ、これは……。甘さと渋みが、ジャングルの生態系のように完全に共存している。また、素材の味を殺さないあっさり風味なのにも関わらず、とろけるようなコクと深い味わいがある。租借していく内に、まるで、かぼちゃと対話しているような、そんな感覚さえ感じていく。うむ。上手いぞ、これは」と、ミカゲを見ながら言った。
「お前は料理アニメの審査員か!」スミレはつっこむ。
「でも、お二人も、学校が終わってお疲れでしょう」ミカゲは、キュアの隣に座りながら言った。彼女は、丁度スミレの対面の位置にいる。
「いや、そんな」ユリは微笑みながら軽く手を振って言った。席はスミレの隣。「でも、本当にこれは美味しいよ。この、天ぷらそばも。家でそばなんて、食べたことなかった。確かこれ、麺から作ったって聞いたんだけど」
「そうなのー」両掌を合わせ、それを顔の横につけながら、微笑むミカゲ。「どうせ作るんなら、一から作っちゃおうって思ってー」
「あの……、私も、大変この天ぷらそばは美味しゅうございましたが」スミレは手を挙げる。「話が途中で、大幅に脱線しているんですが……」
「おい、ユリ。この、ファイナルアンサーというのはなんだ?」キュアが、右側にある液晶テレビを見ながら言った。「随分、色が黒い男だが……。まさか、宇宙人か? この物腰に、このオーラ、ただ者じゃないぞ……」
「ああ、その人は」とユリ。
「いいのよっ、そんなことはどうでもっ!」スミレは叫んだ。「それよりも、キュアとミカゲさんのことについて、話が途中じゃない!」
「えっと……。今までの話をまとめると」ミカゲが、かぼちゃの煮つけを食べながら言った。「ユリさんと大佐がつきあっていることは、他の人には内緒にする。弱点にも成り兼ねないし、ユリさんやスミレちゃんに及ぶ危機が多くなることも考えられる。また、当然ながら、私たちが宇宙人であることや、銀河王国特別部隊であることも、秘密。さらにくわえて、ユリさんに恋人がいるというのも、基本は口外しない。何故なら、親友のシオンちゃんは除くとしても、その噂が広まった場合、同居している私たちにも監視の目がきて、より被害が拡大される可能性も考えられるから。ちなみに、既にシオンちゃんには口止めしてるから広まる可能性はなし。また、シオンちゃんには恋人がいるということしか知らせていなくて、その相手は明確には伝えていない。それは、彼女から有らぬ危険を遠ざけるため。……とにかく、これ以上は、二人のことを誰にも口外しない……って、いうことでいいんですよね?」
「うむ、そうだな」とキュア。
「あの……、できれば、まとめることができるなら、最初っからそうしていただけると、もの凄い助かるんですけど」スミレが呟く。
「しかし」と、ユリが天ぷらを食べながら「私は、ただ待機しているだけでいいのか? 確か、宇宙海賊といったか。そいつらは、地球を攻めてくるんだろう? いいのか、こんな悠長なことで?」
「いや、敵は、まだ地球を攻撃しないよ」キュアはカボチャを箸でとりながら答える。「私を、捜しているからね」
「え、キュアを?」首を傾げるユリ。
「ああ」キュアは頷く。「どうやら、私をスカウトしようとしているらしい」
「へー、それはまた……。随分と、交渉しがいのある相手を」目を細めて呟くスミレ。
「聞こえているぞ、そこ」箸でスミレを指すキュア。
「ダメですよ、大佐。お行儀の悪い」ミカゲがキュアの手を叩いた。
「むっ……」キュアはミカゲを一瞥した。しかし、なにごともなかったかのように話を再開。「だから……、私を仲間にするまで、地球を侵略しないはずだ」
「でも、そうだとしたら」とスミレ。「キュアは、もっとしっかり隠れていた方がいいんじゃないの? だって、連れ去られたりしたら、お終いじゃん」
「いや、私の顔は、宇宙では知られていない」キュアは首を振った。「ずっと、仮面を被っていたからな」
「仮面て……」スミレは項垂れる。「どこぞの、ロボットアニメの大佐じゃないんだから……」
「それに、宇宙では、別名を使っている。例えば、スパイで潜入する際は、テイ・セイラ。プライベートでは、フェルド・アスリュート。そして、宇宙海賊として、公に発言する時は、ルーズ、という風にな。ちなみにもう一つある。だから私は……、全部で名前を四つ持っている」
「うーん、ますます、どこぞの大佐っぽくなってるけど」
「だが、安心しろ。今使っている名前は本名だ。しかもこれはほとんど使っていない。まあ、たまに、咄嗟の時にでてしまうことはあるが……、そんなことは滅多にない」
「とにかく、キュアが見つかったり、捕まったりしない限り、地球は安心ってわけね」
「まあ……。とりあえず、だがな」
「しかし、なにかしら、打ってでるべきでは?」紅茶をティーカップで飲みながら、ユリが言った。
「ん、いつの間に紅茶?」スミレは汁を飲みながら言った。
「丁度、いい葉っぱが手に入ったので」ミカゲが微笑む。
「あ、さよですか」頬に汗マークのスミレ。
「まあ、確かに。こちらからも、策は打っておくべきだろう……」そばをすすりながら、キュアはユリを見た。「どうやら、やはりここはモグモグ、チュルチュル、しか……、ないようだな……」
「えっと、大事な部分が聞こえなかったんだけど……」スミレは言う。
「ミカゲ、替え玉をくれ」キュアはどんぶりを差しだした。
「あのー、これ、ラーメンじゃないから」ミカゲは首を傾げながら「用意してなかったんだけど……」
「む、むぅ……」キュアはお腹を片手で押さえながら「まあ、いいか。腹八分目、とよく言うしな」
「あのー。本当に宇宙人ですよね? 今更ながら」スミレは細い目でつっこんだ。「ていうか、さっきの話、結局なんて言ってたの?」




