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スミレは、目を擦りながら、気だるい声で言った。
「あーあ、寝不足」
「ん、どうした? 勉強のしすぎか?」
「違うわっ! 下で、あんなふしだらな会話が行われてたら、赤ん坊でも寝れんわっ!」スミレは大きな声でつっこんだ。
「まあまあ」微笑みながら、片手で止めるユリ。
「はーあ、ったく。これから、私たち、本当どうなるのよ……」スミレは、重い溜息をついた。
スミレとユリは、ただ今登校途中。いつもの通学路だ。左には、閑静な住宅街。右には、少し緑色の川が、申しわけ程度に流れている。その川に沿うように、少し散り気味の桜の木が、等間隔で並んでいた。気温は丁度よく、天気も腫れて、清々しい朝だった。諸問題を除いては。
「あ、でさ、そういえばさ」スミレはユリを見ながら言った。「ほら、うちのクラス……、シオンちゃん、いるじゃない?」
「ん? ああ」
「いやさ、ほら、私細かいところはよくわかんないんだけど、えっと……、とにかく、キュアとお姉ちゃんは恋人同士になったわけじゃん」
「ああ、そうだな」頷くユリ。
「でね、そのことは……、おそらく、シオンちゃんに報告しといた方がいいと思うんだよね。しかも、できるだけ早く」
「いや、今日会ったら、言うつもりだったけど」
「えっとね、その、なんていうのかな……。多分、シオンちゃんはね、お姉ちゃんのことを、好きだと思うのよ」
「ああ、親友だからな」にっこり微笑むユリ。
「いや、そういうことじゃなくて……」スミレは小さく呟く。「お姉ちゃん、ややこしいところで天然なんだから……」
「ん、どうした?」
「あのね、シオンちゃんは、そういう意味じゃなくて……。お姉ちゃんのことを」
と、
左の曲がり角から、タイミングの悪いことに、噂のシオンが手を振りながら、こちらへ歩いてきた。
「ユリちゃーん、シオンちゃーん。おっはようー。奇遇ーっ」シオンは、大きな声で挨拶した。
「おはよう、シオン」ユリは微笑む。
「お、おはよう……」苦笑いになるスミレ。まるで、神の悪戯のようなタイミング。
「そうだ、シオン」ユリは言った。「大事な報告があるんだが」
「ん? なあに?」
「私に、恋人ができた」
「そっかー、恋人かあー、よかったねーユリちゃ……ってえええええええぇぇぇっ!」シオンは、しぇーのポーズをしながら、絶叫した。「ま、それ、マジですかあっ!」
「ああ、本当だ」頷くユリ。
「い、いやいやいや、ちょっと待って。それ、鯉人っていう名前の怪人とか、そんなオチじゃないよね?」
「漢字違う、漢字」スミレがつっこむ。
「LOVEの方だ」ユリが言う。
「ら、LOVEぅ~っ!」シオンは、顔に縦線を入れ、青ざめながら「そ、その人、ど、どんな相手なのっ! 他校の人っ? それとも先生? ま、まさか……、同級生?」
「いや、それが……、わけあって、誰だかは言えないんだが」ユリは言った。キュアが宇宙人というのを、配慮しての発言だろう。
「ま、まさか……。スミレ、ちゃん?」シオンはスミレを指差しながら言った。
「ち、違うわよっ!」唾を飛ばす勢いで、否定するスミレ。「どこのエロゲよ、そんな展開っ!私には、そっちの趣味はありません!」
「でも……、う、うん。わかった」シオンは、胸元で両手をマリア様のように組ながら、上目遣いで、ユリを見た。「ユリちゃんが選んだ人なら、きっと、いい人だよね。私、応援する……」
「シオン……、ありがとう」ユリはにっこりと微笑んだ。
「でも、いつか、紹介してくれたら嬉しいな」
「ああ、頼んでみるよ」
「うんっ」
「はーあ、今日も地球は平和ね」スミレは、欠伸をしながら、空に舞う桜の花びらを見つめた。




