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「なにっ? 風呂は別なのか? 地球では、恋人同士は共に入るのが法律だと聞いたが……」
「そんな愉快な法律は日本にありませんっ!」
スミレたちは、一階のリビングでくつろいでいた。夕飯は先程食べたところ。準備が出来なかったため、近くの弁当屋で購入。
リビングは、四人がけのテーブル席。スミレの横にユリ。スミレの対面にキュア。キュアの横にはミカゲ、という席順だった。
「残念だ……。背中流しっこしようと思ったのに」しょんぼりするキュア。
「すまない。うちの風呂は狭いんだ」ユリが言った。「こればっかりは、どうしようもない」
「むむぅ。手で作った水鉄砲をかけあって、わーきゃーやりたかったのに……」
「結構、粋な遊び方知ってるわね」スミレは頭に汗マークを浮かべながら言った。「しかも、わーきゃーって……」
「さて、そろそろ寝るとするか。なんだか色々あって疲れた」キュアは両腕を伸ばしながら言った。
「あのさ、未だに、変な能力について、詳しい説明がないんだけど」スミレは手を挙げ、目を細めながら言った。「そろそろ、説明してくんない?」
「なんだ、まだそんなことを考えていたのか?」とキュア。「もっと、考えるに値する有意義なことがあるだろう。たとえば、今ユリはどんな下着を着ているのか……、とか」
「……そんなことを考えていたのか?」ユリがキュアを見る。
「冗談だぞ」キュアは言う。「まあ、気にならないこともないのだが……」
「どっちよっ」つっこむスミレ。
「勇者は、とあるパワーを戦闘力に変えるんです」ミカゲは掌を広げながら言った。「ですが、少し前に大佐も言った通り、地球人は契約がないと使えません。ですから、そのために口づけが必要だったのです」
「ん、とあるパワーって?」スミレは首を傾げた。
「はい……、それは、愛のパワーです」
「えっと……」スミレは眉間を押さえた。「さっきキュアが言ってたの、本当だったんだ。愛のパワー……、ねえ」
「たとえば、結婚すると、お互いの愛の力が高まりますでしょう。すると、家庭を守る力が強くなる。それと同じことです」
「は、はあ……」
「勇者は、こちらの言葉でいうと、戦士みたいなものですね。勇者の力を使うと、体の一部分、もしくは全体が変身します。大佐の場合は、手だけでしたが、違う場合もあります。人それぞれ、といったところでしょうか。ただ、共通する部分は……、契約者二人の、愛の力が強ければ強いほど、その力は高まりやすくなるということです」
「へえ……」スミレは額に汗マークを浮かべる。「まあでも、それが本当だと、ちょっと見てみたいかも。お姉ちゃんの、勇者」
「いや、敵がいないのに、不用意に使うのはまずい」キュアが小さく首を振った。「無駄にパワーが消費され、本番時に万全の体制で臨めなくなる可能性がある。よって、変身するのは、敵が現れてからだ。先程の私の変身は特例だ。普段は出来るだけ使わない」
「しかし」ユリが掌を広げながら「本番でしか能力を使えないのなら、それまで、私たちに出来ることはないのか? ただ待っているだけなんて、もどかしいぞ」
「ふっ、あるじゃないか」キュア言う。
「ん、一体それはなんだ?」
「私たち二人の……、愛のパワーを増やすことだ」
「ふっ」ユリは口元を緩ませた。「愛は地球を救う……か」
「えっと……」スミレはミカゲを見ながら「どうしたらいい?」
「う、うーん」ミカゲは汗マークを浮かべる。「一応、間違ったことは言ってないんですけどねぇ。あの二人の口からでると……、どうもおかしな方向に」
「さあ、では、そろそろ寝るとするか」キュアは立ち上がりながら言った。「ユリ、ところで、夜はなんの時間だか知ってるか?」
「夜? さあ?」ユリは首を傾げる。
「愛が育つ時間さ」
「あのぉ……」スミレが手を挙げる。「そのベッドの上にいるの私なんだから、くれぐれも、そういうのは止めてよね。ほんっとに。絶対静かに寝ててよね」
「大丈夫ですよ」ミカゲが微笑む。「星の決まりで、そういうのは、固く禁じられてますから」
「心配だなあ」目を細めてキュアを見るスミレ。
「ユリ……、寝かさないぞ」キュアが言った。
「おいっ、やっぱダメだろっ!」




