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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
50の町
93/95

氷の神殿



「ハルツに行く」

じっと、家の中で氾濫の終息を待つ生活を、グラムは3日も続けられなかった。

「俺がハルツの救世主になってやる」

グラムは直ぐ転移していった。

そして、私は独り居間で笑っていた。

何故か?

それは、グラムが何故ハルツに行こうと思ったのか、理由を分かってたから。

私には慣れた暮らしだけど、会話のない生活はグラムにはストレスでしか無かった。

だから、グラムはハルツに行った。

好きにすれば良い。

グラムが居なくなって、家の空気がスッキリした。

思い付いて、スキルから光のシャワーを選んで家の中を2回清めた。

グラムは龍人の力で掛けられた隷属の魔法を消そうとしてるはずだけど、消しきれなくて足掻いてる。

だからじゃないと思うけど、家の空気は重かった。

ソファーに座って地図を開けば、ハルツの氾濫は明日か明後日には王都を飲み込む。

そうと分かってても動く気持ちになれなかった。

ぼんやりと、氷の竜を思い出してた。

ひっそりと、何を願って眠っているのだろう。

氷の竜が彼女か彼かも分からないけど、切ない世界から万能薬で解放できるなら、届けたかった。

あ…。

もしかしたら、キングも白い世界の駒なの?

彼も氷の竜に関わりがある?

そう思いだしたらそれが正解の気がしてきて、キングが死ぬ前に会わなきゃと気持ちが焦った。

グラムの様に意識を繋いでいれば追って転移できるとか無理だから、兎に角ハルツの王都に転移した。


…どう形容したら良いんだろう。

振動に地面が揺れる王都で、町の人は1つの方向に向かって手を合わせ祈っていた。

その先は…結界の壁しかない。

グラムは?

結界ギリギリに転移して見ても、外は見えない。

前の時は見えたのに。

きっとこの外にキングは居る。

もしかしたらグラムも。

考える時間も惜しくて、外へと転移し掛けて…、前回転移させたのはキングだと思い出した。

転移し掛けて、迷った。

どの姿で転移しよう。

迷って、熊の少年に擬装してから転移した。

嘘。

出た先は、キングとグラムの後ろだった。

本能で光の結界を張った。

キングとグラムも囲いたかったけど、やっぱり私1人しか囲えなかった。

白い世界にとって、2人が死んでも良いのだろうか。

結界を背にして、獣人はキングを中心に戦っていた。

キングの横にグラムが居て、2人は応戦に必死で私に気付いてなかった。

私も参加しようとスキルを開いたら、単体の攻撃スキルしか選べなくなっていた。

驚いて戸惑っていたら、グラムが魔物を燃やした。

それが私を冷静にさせたんだと思う。

後ろから、キングとグラムの攻撃をじっと見た。

キングは極力魔法は使わないで力で倒していて、グラムは龍人の魔法でどんどん倒していた。

獣人は魔力が高い筈なのに何故?

不思議に思って他の獣人を見たら、殆んどが魔力を回復に使っているらしい。

極力体力と魔力を温存して、長期戦を考えた戦い方をしてると気付いた。

つい笑いそうになった。

気分が軽くなって、私も雷の腕輪装備でキングが苦戦しそうな魔物から倒していった。

何時もなら倒して直ぐ回収するけど、今日は防波堤にしたいから倒したまま放置。

普段と違う戦い方が楽しくもあった。

夕方になり魔物の群の終わりが見えてきて、キングは素材と肉の回収を新人兵に指示した。

「俺の実力が分かったか」

グラムが勝ち誇る顔でキングに言った。

キングは返事をしなかった。

キングがグラムの実力を見切ってる気がして、後ろで見てて心臓がどくどくした。

グラムは強い。

でも長期を考えて戦ってないから体力の消耗が酷い。

キングとグラムが本気で戦うとしたら、余力を残すキングが勝つ気がした。


「ハルツは礼も言えないのか」

キングがゆっくりグラムに向き直る。

グラムから私の方へと向いた。

「人の雷使いか」

一瞬少し驚いた顔をして、直ぐに笑いを浮かべた。

思わず自分の体を見下ろした。

え?

嘘…。

見えた装備が普段着てるやつだったから、思わずひゅうと喉が鳴った。

擬装が解けた?

違う、白い世界が解いたんだ。

それでやっと気が付いた。

居間で考えていた私の意識を、氷の竜からキングに持っていったのは白い世界だったんだと。

「お前が話すのはそいつじゃないこの俺だっ!」

グラムが怒って怒鳴った。

キングが嫌そうにグラムに向き直った。

「ハルツの皇太子は助けてやった礼も言えないのか」

「父王から『力を借りるに及ばず』と断られて、それでも押し売りにきた者に礼を言えと」

キングのグラムを見る目は冷たかった。

「礼を言うならこの雷使いの少女にだ」

キングがこっちを見た。

感謝を目が伝えてくるけど、話せないと知ったらどう変わるか、知ってるから地面を見た。

「そいつは喋れない。俺が哀れんで嫌々だがパーティーを組んでやっている」

グラムの凶器の言葉にキングが目を見開いた。

見える高さに腕輪を上げて見せたら、キングが納得した顔で頷いた。

「リーダーは俺だ。分かったか」

グラムをきっ、と睨んでも訂正しない。

『嘘は言わないで』

走り書きをグラムに突き付けた。

「悔しければ反論してみろ」

怒り過ぎて、逆に冷静になれた。

『パーティーを解散する』

「出来るわけ無いだろ。チェスターもモナークも滅びた。ハルツも死にかけている。何処に冒険者ギルドがあるって言いたいんだ?あっても喋れないお前の話なんか誰が信用するか」

悔しくて悔しくて涙がこぼれた。

グラムの言う通り、馬鹿にされて取り合っても貰えないかもしれない。

悔しくて体が震えた。

「王都の冒険者ギルドは健在だ来るが良い」

キングが私の後ろに回って転移を使った。

出た先は冒険者ギルド、らしかった。

「これはキング」

受付のおじさんが私を睨みながらキングに礼をした。

キングに促されてギルドカードを受付に出した。

「人間が何の用だ」

『パーティーを解散したい』

言われるのを覚悟して書いて見せた。

おじさんは何か言い掛けたけどキングを見て黙った。

「解散はリーダーしか出来ないんだぞ」

おじさんはキングの顔を見ながら嫌そうに言った。

頷いて自分を指した。

「お前がリーダーだって」

馬鹿にして笑うおじさんにキングが言った。

「手続きしてやれ」

おじさんは渋々ギルドカードを受け取った。

「させるか」

カウンター越しにグラムがカードに手を伸ばした。

その手をキングが阻止する。

グラムが来ると思ってなかったから、私は後ろから出てきた手をポカンと見てしまっていた。

「寄越せっ!」

「早くしろ!」

2人の様子に何かを察したのか、おじさんはカードを持って奥に消えていった。

「邪魔するな!」

「お前がリーダーなら何故慌てる」

おじさんを追おうとするグラムをキングが止める。

「俺の邪魔するなら氷の竜にハルツを滅ぼさせるぞ」

グラムの言葉に驚いているキングの顔を見た。

氷の竜の存在をキングは知ってる。

そう確信した。

「氷の竜、だと」

グラムを睨むキングの目が険しくなった。

「俺は氷の竜を妻にする男だ」

威張るようなグラムの言い方にキングは笑った。

「氷の竜の夫は神と決まっている」

嫌だと思った。

白い世界と氷の竜。

氷の竜が悲しんでる原因の半分は白い世界だから、万能薬も何の意味も持たなくなってしまう。

「違うっ!氷の竜を妻にするのは俺だ」

「戯れ言は氷の竜に会えてから言え」

「俺は見た」

グラムは氷の神殿の話をキングにした。

「神話にある氷の神殿だと」

キングの声が震えている。

「氷の竜を妻にする俺に逆らえばハルツがどうなるか分かってるんだろうな」

歪んだ笑いを浮かべるグラムに、キングは一瞬口を閉じたが直ぐに立ち直った。

「お前が本当に氷の竜を妻にしたと言うなら、氾濫など起こるはずはない」

「この氾濫は俺に逆らった者への見せしめだ」

それを聞いたキングが笑いだした。

「氷の竜は絶対に争いを起こす者を許さない。お前がこの氾濫の首謀者なら氷の竜はお前を許さない」

「やらせたのは俺じゃない長だっ!」

グラムが焦った様に言い返す。

「長?龍人の長か」

「そうだ。長が神に祈った」

考えてる顔のキングに、奥から戻ったおじさんが終わったと声を掛けた。

「リーダーはこの子だったのか?」

「ああ。驚いたが、この子のランクはSSSだ」

「SSS!」

驚きで短く声をあげたキングたったけど、直ぐに頷いておじさんに聞いた。

「名前は?」

「ルアン」

おじさんは私のギルドカードを見ながら答えた。

「チェスターの少女か」

断定的なキングの口調に動けなかった。

キングの刺すような視線が痛い。

「チェスターが魔法使いの友人だと発表した子だな」

冒険者ギルドの中がざわめいた。

「念話は出来ないのか」

首を傾げて聞いてくるキングにグラムが答えた。

「そいつはな、弟の死のショックで念話が使えなくなったんだ」

「その前は使えたんだな」

キングは私から目をそらさずグラムに確かめた。

「それがどうした」

キングが優しく笑って、お礼を言ってきた。

「ありがとう。前は礼も言わずすまなかった」

知ってる!

私が金髪の魔法使いだってキングは知ってるんだ!

怖くて逃げたいのに体が固まって動けない。

「お前は何を言ってる」

「こっちの話だ」

私とキングの間に割り込んでこようとするグラムを押し退けて、キングはおじさんから受け取った私のギルドカードを渡してきた。

「魔力も消えてしまったのは残念だけど、こんな男とパーティーを組むよりは良いな」

私がチェスター国の魔法使いだと知ってて、キングは話している。

それも、もう魔法が使えないと思って話してる。

気が付いたらポロポロと泣いていた。


冒険者ギルドの応接室に通されて、落ち着くまで居るようにって言われた。

お茶を持ってきてくれた黒い耳のお姉さんが、氷の竜の神話を話してくれた。

「氷の竜も昔は神で、神の求愛をおそれおおいと拒んで竜に変えられたと言い伝えられています」

お姉さんの話を黙って聞いた。

「氷の竜も本当は神を愛していて、それなのに身分違いと嘆いて氷の神殿に自分を閉じ込めたそうです」

聞いていて、笑いたいのを必死に堪えた。

神に都合の良い話に、言い返せないのが悔しかった。

「神は今でも、氷の竜が心を開いてくれるのをじっと待っているんですよ」

………

お姉さんの話は真実に近い気がした。

多分違うのは氷の竜の気持ち。

お姉さんが出ていってから考えた。

チェスターとハルツ。

伝わってる氷の竜の話が違うのは何故だろう?

考えていたらキングが来た。

「ルアン。君は氷の竜に会いに行けるのか?」

キングは真面目な顔で聞いてきた。

『まだ行けない』

「行ける可能性はあるんだな」

『可能性はグラムにもある』

「俺にもか」

『それは分からない』

キングの言いたい事が伝わって来なくて、上手く返事を返せなかった。

「氷の竜ならこの氾濫を止められるんだな?」

『それも分からない』

キングは困った顔で話始めた。

「グラムがハルツを救う代償に王位を望んでいる」

驚いてキングを見返した。

「父王は国が静まるならと言っている。が、俺は奴の話が信用できない」

私も出来ないから頷いた。

「氷の竜に氾濫を静める力があるなら俺も会いたい。氷の竜が奴の戴冠を望むなら叶える」

キングは国の平和が一番の願いだと言った。

迷って…書いた。

『氷の神殿に行く魔方陣が消えたとグラムは言った』

「奴も行けないのか」

キングがグッと手を握った。

城に戻ると言うキングに訪ねてみた。

『氷の竜に何を願う』

「ハルツの平和を」

キングはそう言って出ていった。

平和。

この世界に望める物じゃない。

心の中でそう思った。

平和。

…行ってみよう。

もし、平和を望んでるなら道は開けてるはず。

氷の神殿を選んで、転移した。

………

神殿に碑石があって自分の目を疑った。

嘘。

アイテムボックスから5つの指輪を出して、手のひらに乗せてみた。

前と同じく、指輪は5つとも碑石にはまり消えた。

碑石の跡には下への階段、指輪は戻ってこない。

この先に氷の竜はいる。

大きく深呼吸して、階段を降りた。

降りた先には、氷の竜が居た。

ゆっくり、ゆっくり側まで歩いた。

うつむいて、氷の中に眠る竜の姿に涙が出た。

『あなたは何を望んでいるの』




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