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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
50の町
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ダンジョンと氾濫と国



グラムが氷の神殿の場所を知ったのは、あの青年からの情報だった。

「古い本に氷の神殿の場所があった」

教える代わりに氾濫を収めろ、と言ったらしい。

グラムはその話を聞くだけ聞いてから、もう手遅れだと言ってやったと笑った。

「あの悔しそうな顔をお前にも見せたかったぞ」

グラムの歪んだ笑いに、笑い返せる自分がいた。

チェスターは、きっとまた生まれ変わる。

チェスターの国民が知らないだけで、今までにも何回も生まれ変わってきたんだろう。

地図を見た時そう感じた。

だからグラムに笑えたんだと思う。

白い世界が、青年が見付けるよう本を置いた。

そして、白い世界のシナリオ通りに進む未来。

足掻いても、誰も神の箱庭から抜け出せない。

……気付いてしまった。

何度も起こる氾濫は、白い世界がシナリオを書き直すための氾濫なんだと。

私も、多分カレンや死んだグラムも、もしかしたらグラムも、白い世界の書いたシナリオの中では違う役割を振られてたのかも…。

それなのに、各々みんなシナリオを無視して好きに動き始めて…白い世界は氾濫を起こして最初のシナリオに戻そうとしてるんだ。

物語の終わりはどうなるの?

私には破滅の未来しか浮かばないけど、本気で白い世界のシナリオのエンディングを知りたかった。

「氷の神殿には20の町の神殿から行ける」

え?

グラムの声で現実に引き戻された。

「行くぞ」

驚いてる私の右手首を掴んだグラムは20の町へ飛んで、生き残ってる町の人から神殿の在処を聞いた。

瓦礫に埋まった神殿には、今まで無かった魔方陣が描かれていた。

神殿を荒れたままにするのは躊躇われた。

グラムに気付かれないよう光のシャワーを使おうとしたら、スキルが黒くなってて使えなかった。

引っ張られるまま魔方陣の上に立った。

出た場所は氷のダンジョンの入口がある氷の神殿で、ここも荒れたままだった。

ダンジョンへ降りる階段の上には碑石が復活してた。

嘘…。

グラムも5つ目の指輪を手に入れるんだ。

そう思ったら体がかっと熱くなった。

上手く表現できない感情が沸いてきて、心の底から氷の竜とグラムが夫婦になるのは嫌だと思った。

グラムが指輪を出して碑石に近付く。

けど指輪はグラムの手のひらから消えない。

………

息を詰めてグラムの手の指輪を見た。

グラムは4つの指輪を何度も碑石にはめ直して、やっと碑石が動き始めた。

碑石の下にある階段を光に導かれて降りると、底には眠りに付く氷の竜が居た。

!!

現実に着いて行けなかった。

氷のダンジョンは?

5つ目の指輪は何だったの?

驚きと沸いてくる怒りで動けなかった。

「お前はもう用無しだ」

掴んでた私の手を投げ捨てて、グラムは氷の竜に向かって走っていった。

それでも動けなかった。

私が裏ボスを倒しても氷の竜への扉は現れなかったのに、グラムだと現れるの?

心の中は負の感情しか湧かない。

…もしかしたら氷の竜もグラムを待ってたの?

その可能性を消せなくて、止めたいのにグラムを止められなかった。

「氷の竜っ!今助けてやる!」

グラムは龍人が使う魔法を全部試した様に見えた。

炎やかまいたちが氷を削っても直ぐに復元される。

グラムが何度繰り返しても、氷が壁になって氷の竜には届かなかった。

あの碑石に指輪を5つはめたら…。

目はグラムを追いながら、心は碑石に向いていた。

「くっそっ!お前も手伝えっ!」

怒鳴るグラムを無視して、氷の竜を見ていた。

疲れきって肩で息をするグラムが膝をついた。

布で隠したグラムの首が赤く燃えるように見えた。

…まさか。

「1度引くぞ」

今度も言い捨てて、グラムは転位した。

………

ゆっくり氷の竜に近付いた。

6回目の再会は少し違う気がした。

近付いて手を伸ばして、触れたのは冷たい氷じゃなく結界の拒絶だった。

静電気のようにビッと指が痺れた。

アイテムボックスから万能薬を出そうとしたけど、どうしても出せなかった。

もしかしたら…5つ目の指輪をはめなかったから?

神殿に転移で戻っても碑石は無くて階段があった。

願う気持ちで光のシャワーを使ったけど、碑石は復活しなかった。


諦めて私も家に戻った。

碑石を復活させる方法が必ずあるはず。

それを見付け出したい。

それに…。

赤く燃えていたグラムの首が気になっていた。

まるで死んだグラムをなぞるようなグラムの姿に、不吉な予感しかなかった。

ステータスから地図を開いた。

チェスターだけじゃなく、モナークも氾濫に飲まれて消えそうになっていた。

辛うじてハルツは1つの氾濫で持ちこらえていた。

…白い世界はこの世界を壊そうとしてる。

私が氷の竜に万能薬を渡せたら…きっとこの世界は崩れて消える。

それは予感じゃなくて確信に近かった。

氷の竜に会うためのシナリオが始まる。

白い世界のシナリオを家でじっと待つのは辛かった。

焦れた1週間が過ぎて、グラムが怒った顔で来た。

「氷の神殿への魔方陣が消えた」

掠れた大声を出して怒る意味が分からなかった。

1度行った場所だから転移で行けば良い。

そう思ってたからグラムの話を聞き流した。

「時間がない」

「結界で守った俺の村まで魔物が襲ってくる」

グラムは苛々と部屋の中を歩き回って、ぶつぶつ独り言を繰り返していた。

《氷の竜に命令して氾濫を…、何のために長を…、ハルツが潰れても…》

ハルツが潰れる?

急いで地図を開く。

たった1週間で、氾濫はハルツを飲み込んでいた。

まさかグラムがハルツを?

思わず龍人も滅びてしまえば良いとさえ思った。

「お前の指輪は揃ったんだろうな」

急に止まって聞いてきた。

「お前の指輪があれば、再び魔方陣が現れる可能性がある。よこせ」

手を突き出してくるグラムに書いて見せた。

『もう1度集めれば良い』

「もう1度だと?お前、自分が集められないから俺にやらせるつもりだな」

グラムの私を見る目に軽蔑が宿った。

「お前、自力じゃ氷の竜に会いに行けないのか」

グラムを見返して黙ってた。

頭にきすぎて行動に出れなかった。

「図星指されて怒っ!ぐっ」

グラムが言ってる途中で、衝撃が結界を襲った。

ドーン、ドーン。

結界にぶつかる振動で家が揺れた。

結界が破られる!

怖くて、立ってられなくて、床にしゃがんで次の衝撃に震えていた。

そこからは長く感じたけど、ホントは短かったかも。

次第に振動が小さくなっていって、私より先にグラムが行動を起こした。

「くそっ!来い!」

グラムは私の右手首を掴んで転位しようとしたけど、私を連れては転移出来なかった。

「待ってろ!」

消えたと思ったら直ぐに戻ってきた。

「村の結界がお前を拒否している」

拒否しているんじゃない。

多分白い世界が行かせたくないんだ。

私と長を会わせたくない?

「お前に結界を張らせれば村は助かるはずなのに」

次に舌打ちが聞こえて、グラムは転移して消えた。


地図の上のチェスター国の氾濫が消えて、見付からないようひっそりと10の町を見に行った。

町は…復活していた。

…ははは、はは。

もう笑いしか出ない。

冒険者ギルドは新しいクラークさんが居るのだろう。

急にハルナツさんに会いたくなった。

あのお喋りが今は懐かしかった。

生きてる可能性は限りなくゼロなのに。

モナークの氾濫も消えかけていたから、その足で…村は跡さえ無くなっていた。

居そうな19の町へも転移で移動してみた。

町は消えていた。

あぁそうなのか、チェスター国だけじゃなくこのゲームの世界が白い世界の思い描いた世界になるまで、何度も壊して造り直すつもりなんだ。

本当に、残酷な神のすることらしい。

もう笑う事さえ出来ないよ。

最後の可能性の20の町も行ってみた。

20の町に居た人たちは10人も居なくて、見付からない様に家へ戻った。

戻ってからもう一度地図を見てみた。

ハルツは辛うじて王都を死守してる様に見えた。

龍人の村は何処にあるんだろう?

今まで考えもしなかった疑問が浮かんだ。

ハルツの何処かにあるって思ってたけど、違う?

グラムに聞いたら教えてくれるだろうか。

チェスターのおじいさんなら知ってそうだけど、訪ねてまで聞く気持ちはない。

それから3日、グラムを待っていた。

今更だけど、村の話を聞いてみたかった。

3日待ってもグラムは来なかった。

危険なのは分かってたけど、熊の少年に擬装して自分に隠蔽を掛けてからハルツの王都に転移した。

王都は静かだった。

通りを歩いてる人も数えるほどで、その顔には絶望しか浮かんでない様に見えた。

大きな通りから路地へ入ってみた。

くねくねと右に回ったり左に行ったりして、人の話し声を求めて、歩き回った。

歩き続けて、諦め掛けていた時におじさん2人の声が通り過ぎた家の中からした。

少し開いてる窓から、風魔法で話を聞いてみる。

「モナークもハルツも、もう終わりだ」

「氾濫は神の罰だと国王は言ってるが、罰ならモナークだけに与えるべきだ」

「お前はどう思う?」

「国王に会いに来たという龍人の戯言か?」

え?

龍人って…グラム?

「伝説の氷の竜がつがいに選んだ俺に従えとか国王に言ったらしいが、そもそも氷の竜からが伝説だろう」

………

グラムらしすぎて呆れるより納得してしまう。

「氾濫が続いて国王は弱気になっているから、龍人の話に動揺している」

「この王都が堕ちるのも時間の問題だろうからな」

「皇太子は善戦しているが数で押されていて、氾濫はもう目の前だ」

2人のおじさんは、せめて王族だけでも生き残る道がないかと暗い口調で話していた。

…キングは戦っているのか。

キングも威圧的なのはグラムと似てるけど、立場を考えたらグラムほど嫌いじゃなかった。


家にこもってずっと地図を見ていた。

ハルツもあと数日で氾濫に飲まれる。

きっと助けても意味はな…。

助けても、って何様?

………

いつの間にか私もグラムみたいになってたんだ。

自己嫌悪で落ち込んでたらグラムが来た。

「ダンジョンが消えた」

「指輪を取りに行こうにもダンジョンが消えた!」

グラムの掠れた声に何も書けなかった。

回復も再生も解呪さえ黒くなってて使えない。

死んだグラムと重なるグラムを止められない。

…白い世界は何をしたいんだろう。

グラムに、私に、何をさせたいんだろう。

「チェスターに行く道もない。念話も通じない。どうすれば良いんだっ!!」

掠れた声で怒鳴るグラムを黙って見てた。

グラムの知ってるチェスター国は消えてしまった。

何か可笑しかった。

「仲間は村を捨てて森の奥へ隠れ住むと言った」

グラムは頭を抱えて居間を歩き回った。

「奴ら俺には来るなと言った。今まで村を支えてきた俺に向かってだ!」

家の壁をがんがん殴りながらグラムが続ける。

「グラムの横暴さに助けを求めてきたのは奴らの方なのに、村から消してやった俺にこの仕打ちか!」

グラムの話で、騙して奴隷商に売った理由が見えた。

「くそぅ…」

『村はハルツ国にあったの?』

答えてくれるか怪しいと思いながら、頭を抱えるグラムの前にメモを置いた。

「村はモナークとハルツの国境の近くだ。高い山を囲んだ森の中にある」

地図から大まかな場所は推測できた。

「復讐に怯える奴らを助けて、戻ってきたグラムを追い出してやったのも俺だ」

『長は止めなかったの?』

「衰えた長の利用価値は神に祈らせるくらいだ」

力ずくで言いなりにさせた光景が目に浮かんだ。

「お前は俺の側にいろ。俺が助けてやる」

そうか…、仲間に捨てられたんだ。

狡い私は、チェスターに行けばグラムから離れられると本気で思っていた。




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