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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
50の町
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氷のダンジョン



着いた神殿跡を光のシャワーで清めた。

碑石の前に立って、アイテムボックスから出した4つの指輪を手のひらに乗せた。

えぇっ!

乗せた途端、指輪が消えた。

唖然としてたら、碑石に4つの指輪がはまっていた。

4つの指輪から中心に光が伸びて、碑石が消えた。

驚きすぎて動けなかった。

碑石の痕には地下への階段があった。

これで氷の竜に万能薬を届けられる。

ホッとして胸に手を置いたら、手の中にごろごろと何かの感触があった。

おずおずと手を開いてみると、手の中に4つの指輪が戻っていた。

何故消えないのか疑問に思ったけど、取り敢えずアイテムボックスに戻して階段を降りた。

氷のダンジョンは35階層。

ボスは氷の騎士。

懐かしい冷たさに涙が出た。

1階から順番に回る。

最初から氷を使う魔物が襲ってきた。

今回も雷でサクサク倒す。

5階まで攻略したら、今度は少年の姿で潜った。

5階までの攻略に3日掛かった。

その間グラムは来なかった。

翌日からも氷のダンジョンへ潜った。

10階まで攻略するのに更に4日。

1週間で10階まで攻略出来た計算だった。

それでもグラムは姿を見せなかった。

何かあった?

2度も隷属の魔法を受けたから、回復するのに時間が掛かってるとか?

可能性はそれしか浮かばなかった。

次の1週間で20階まで攻略出来た。

上級装備も順調に集まってる。

段々出てくる魔物も強くなるので1週間で10階はきつかったけど、グラムが来たら攻略怪しいから出来るうちに頑張ろうと決めた。

3週間が過ぎる頃には本気で気になってきた。

攻略はまだ28階だけど、10の町へ行ってみた。

転移してからグラムの言葉を思い出して焦った。

弾かれなくて良かった。

ホッとしたのと同時に、クラークさんがグラムをどうするつもりなのか気になった。

冒険者ギルドにクラークさんを訪ねる勇気はない。

何かあれば町の雰囲気が変わってると思って、安易に転移してきただけだ。

屋台で食料の補充をしながら町の声を聞いた。

「モナークが沈黙したな」

「ギルドマスターが動いたらしいぞ」

「ハルツも自分の国で手一杯だ。モナークが静かになったら暫くは平和だな」

「ああ、ハルツの人工が増えるまでは平和だろう」

ハルツの人工が増えるまで?

理解できなくて、ぐるぐる屋台を回り続けた。

半日歩き回って、やっと話の意味が分かった。

獣人は成長が早い。

20年もすれば人工が2倍3倍になる。

モナークが人も町も復興するまで100年掛かるとしたら、ハルツは50年で元に戻すだろう。

昔からハルツに氾濫が多いのは、人口を減らす目的で神が起こしてる。

町の人の話は衝撃だった。

ハルツに氾濫が多いとか、今まで聞いた事が無かったから驚きだった。

氾濫は人を減らすためとか、人間には考え付かない。

箱庭に住むチェスター国民が平気で口にするのは氾濫が他人事だからだ。

きっと、チェスターが氾濫に飲まれて1度消えた事実は都合良く無かった事になってるんだろう。

苦い気持ちで家に戻ればグラムが居た。


「何処に行っていた」

グラムの声がかすれていた。

首にはまだ布が巻かれていて、治ってないらしい。

『42の町のダンジョン』

咄嗟に嘘を書いた。

10の町と書くのも、氷のダンジョンと書くのもいけない気がして、42の町のダンジョンと書いていた。

「まだ攻略できてないのか」

グラムの言い方にムッとしたけど返さなかった。

あれから3週間。

2回の隷属の魔法は簡単には消えないのだろう。

カレンの時も上級ポーションを飲み続けるよう何本も渡した気がした。

あ。

グラムにも必要だろうか?

体からどのくらい毒が消えてるのか見ようとしても、何かに弾かれて何も見えなかった。

海に潜る時の、あのピチッとしたのを着てるみたいな感じで中がぜんぜん見えない。

龍人だから?

アイテムボックスから上級ポーションを出そうとしても出せなくて、止めた。

「1週間で指輪を4つ集めろ」

グラムは喉に手をやりながら言った。

『1週間?』

「来週チェスターから返事が来る」

『どうやって?』

「お前が使えない念話でだ」

見下すようなグラムの言い方に気持ちが凍った。

『3週間何処に居たの』

「村で傷を癒していた」

癒しの単語から長の娘の存在を思い出した。

グラムの結婚相手は長の娘さんだったはず、それが何故氷の竜になったの?

『氷の竜を妻に、って神の神託?』

グラムは答えない。

どう話そうか考えてるみたいだった。

「俺は村の長で終わる器じゃない。グラムの力が俺に戻ってきたらなおだ」

それじゃあ答えになってない。

『神化の儀式で?』

「神化を知っているのか」

疑いの目で見てくるグラムに書いて見せた。

『チェスターのおじいさんが教えてくれた』

クラークさんの名前は出さない方が良い気がして、思い付いたおじいさんと書いた。

「おじいさん?クラークみたいな門番か」

『そう』

グラムから話を聞き出すのは難しいみたい。

諦めようとしたらグラムから話始めた。

「村の占い師から氷の竜の話を聞いた」

『グラムと氷の竜が夫婦になるって?』

「…そうだ」

違うんだ。

きっと言い伝えみたいな感じで、占い師はグラムに話して聞かせたんだろう。

それが何故結婚になるの?

「この世界で1番神に近いのは氷の竜だ。だから俺は氷の竜を俺の妻にする」

『氷の竜は女性なの?』

グラムがぎょっとして怒った顔で見返してきた。

「嫁にする。それは決まっている事だ」

言い切るグラムは、拳をきつく握りしめていた。

『グラムが王になったら、誰が村の長になるの?』

「それは心配ない」

話を変えたらグラムの表情も元に戻った。

「村に長の娘と好き合ってる奴が居る。それに、俺が王になれば竜の恩恵で暮らしは楽になる」

『長も喜ぶね』

グラムの顔が能面みたいになった。

それに気付かない振りで書いた。

『1週間』

「ああ、1週間後また来る」

グラムは転移で消えた。


クラークさんはどうするだろう。

そして長は無事なんだろうか。

多分来週には分かる。

それまでに私は氷のダンジョンを攻略してしまおう。

1週間でボスまではかなりきつかった。

ボスも雷が良く効いた。

ポーーン。

到達したボスは氷のメダルを落とした。

…嘘。

こんなの想定外だ。

まさか、裏ボスが居るの?

4つの裏ボスを知ってるから、もし居るなら氷のストーンゴーレムだって分かるけど。

指輪を貰ってもはめる碑石は消えてしまった。

それともまだ先が?

大きくため息を吐いてメダルを拾った。

拾うと同時に、ボス部屋の後ろの壁に扉が表れた。

一瞬動けなかった。

手にしたはずのメダルが扉にはまってるのを見た時、絶望しか感じなかった。

映画みたいに扉が開いて、中に居るのはストーンゴーレムだった。

後ろを振り向けばボス部屋の扉は閉まったままで、スキルの転移も黒くなってて使えなかった。

裏ボスを倒すまでここから出られない。

ばっと全身に汗が吹き出した。

もし負けたら…。

死…ぬ?

急激に汗が引いて悪寒がし始めた。

行くしかない。

裏ボス部屋に入る前に天井を見上げた。

多分だけど、倒せなかったら戻れない。

氷の騎士は雷で倒れた。

ゴーレムにも効いてと願って雷を使った。

ドドーン。

耳を塞ぎたくなる音が、裏ボス部屋に響き渡る。

倒れて!

心の中で必死に願った。

ゴーレムがまだ動いてるのを見た時、どれだけ絶望して死に恐怖したか分からない。

祈る気持ちで闇の落雷をタップした。

ポーーン。

連続してレベルアップの音が鳴った。

恐怖で涙が出て身体中がぶるぶる震えている。

がくがくとその場にしゃがみこんで、両手で自分の体を抱いて泣いた。

死にたい死にたいと何時も言ってるのに、いざその時になったら死にたくないって心が叫んでた。

みっともない自分が死にたいくらい嫌なのにどうにも出来なくて、泣き疲れた私の前に風のドラゴンの指輪が転がっていた。


全部が失せて無気力な私の前にグラムが表れた。

落ち込みすぎて、自分がいつ家へ戻ったのかも記憶があやふやだった。

険しい顔をしたグラムは、何度試してもチェスター国へ行けないと言った。

「30の町の2人を始末してやったのに」

悔しそうなグラムをぼーっと見てた。

「お前も行けるか試してみろ」

『グラムがクラークさんに頼んだはず』

「試してみろ」

何をするのも面倒だった。

『行けなかった。壁に弾かれる』

「お前もか」

気落ちしたグラムが乱暴にソファーに沈んだ。

「チェスターが裏切った」

クラークさんからは、そんな約束はしなかったと切り捨てられたらしい。

直に話そうとチェスターへ転移しようとして、入れない事に気付いたと言った。

「チェスターめ、今に滅ぼしてやる」

本当に出来るならすれば良い。

どうでもいい。

「この傷が治ったらおぼえていろ」

グラムは布を巻いた首を押さえた。

「お前が道を見付ける可能性もゼロじゃない」

グラムは意地悪く言って転移で消えた。

それから何日過ぎたのか、記憶にない。

また突然グラムが来て、チェスター国を氾濫が襲うと嬉しそうに言った。

地図を見ると、本当に氾濫の兆しがチェスター国に2つ生まれていた。

「チェスター国へ罰を、と長に祈らせたからな」

信じられなかった。

龍人の長でもそんな力を持ってるはず無い。

「死に損ないでも使い道がある証明だ」

グラムが長を指して言ってるのだと分かる。

そんな言われ方をしても、長はグラムの言う事を聞いてるのだろうか。

それから4日して、クラークさんの使いだと言う青年が訪ねてきた。

おじいさんの孫の青年に良く似ていた。

家に張ってある結界の周りをぐるぐる回ってて最初は怖かったけど、青年の顔を見てクラークさんの使いだと気が付いた。

生まれ変わっても生き方?は変わらないみたい。

家を出て結界を挟んで話した。

「何度も念話で呼び掛けたのに聞かない振りするな」

最初から喧嘩腰でため息が出た。

『念話は出来ない』

「嘘付くな」

書いて見せれば凄い顔で睨まれた。

立ち直れてないのにこんなやり取りは嫌だ。

家へ戻ろうとしたら慌てて引き止めてきた。

「待ってくれ。討伐に参加してくれ」

立ち止まって振り向いた。

『私は戦力にならない』

書いて見せた。

「お前にはグラムとの交渉をして貰いたい」

『グラムと?』

何故グラムと?

不思議に思っていたら青年が言い足してきた。

「氾濫の指示を出しているのがグラムだからだ」

その衝撃に体が後ろに引けた。

赤い目のグラムが甦えって体が震える。

『グラムがボスなの?』

「違う。グラムがボスに命令してる」

そう聞いて長が思い浮かんだ。

信じてなかったけど、本当に氾濫を起こす力が龍人にあるとしたら、グラムの傲慢さも理解できた。

『私には何も出来ない』

「同じパーティーのメンバーだろ!」

生まれ変わっても、彼は熱血のままだ。

羨ましいけど暑苦しい。

『本当に氾濫の首謀者がグラムなら、クラークさんがグラムとした約束を守れば氾濫は収まると思う』

「約束?クラークさんが何か約束したのか?」

え?

あぁ、人の考えって変わらないのか。

自分に都合良く話を造るクラークさんらしくて、ついつい笑ってしまう。

「龍人とどんな約束をしたんだ」

間に結界があるのを忘れてたのか、青年は私を捕まえようとして結界に弾かれた。

「くそっ!」

痛そうに額を押さえて怒る姿がおかしくて、つい笑ってしまった。

笑える自分に気付いて、私の中で何かが生まれた。

短く30の町の話を書いて見せた。

「嘘だ!クラークさんが倒したって聞いてるっ!」

『なら聞いてみるといい。念話でグラムからも聞けばどちらが嘘つきか分かる』

青年の顔が強張った。

「チェスター国は全滅するぞ」

青年が帰ってから5日後、グラムがご機嫌で来た。

「もう遅い。氾濫は止められない」

チェスター国では、クラークさんが情報を出し渋ったから氾濫が起きたと国民の暴動が起きてるらしい。

地図を開いて見れば、2ヶ所だった氾濫はチェスター国全体に広がっていた。

グラムは本気なんだ。

『クラークさんからは?』

「ここまで追い詰めても連絡して来ない」

ムッとした顔で言った。

「潰してやる」




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