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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
14の町から48の町
90/95

終わりの始まりと嫌悪



「まぁいい」

グラムは、この裏ボスを倒せば私が言いなりになると思ってるみたいだった。

グラムのこの自信の根拠はどこから来るの?

それが凄く不思議だった。

グラムは自信満々の顔で裏ボスの扉を開けて、今度は最初から手のひらの玉を投げ付けた。

あっさり4つ目の指輪を手に入れたグラムは、四方の壁や天井、床と見ていった。

きっと次の行く先を探してるんだ。

長い数分が過ぎた。

「何故だ!地図が無い」

グラムがグイッて私を見たから首を振った。

『知らない』

「本当に知らないのか!」

『知らない』

グラムが小さく何かを漏らすのが聞こえた。

指輪を掴んで転移するグラムを止めなかった。

長からかクラークさんからか、50の町のダンジョンの存在をグラムは知るだろう。

ステータスから転移のスキルを選んでも50の町のダンジョンは黒いままだった。

50の町のダンジョンの上で点滅してる50の町はタップ出来た。

行ってみようか。

転移した50の町は復興の途中だった。

ポツポツと家が建っていて、屋台もあった。

他の町も?

11の町へ転移したら、50の町よりは遅く感じるけど中心から家が建て代わり始めていた。

人間は強い。

生き残った人たちがこうして町を復活させてる。

私は…弱い。

人の言葉に勝手に傷付いて卑屈になってる。

もし私が話せたら。

グラムだってあんな言い方しない。

グラムの言動に傷付いてる自分を自覚したら、気持ちがもっとへこんだ。

話せる声が手に入るなら、今持ってる全部と取り替えたいって本気で思ってる。

弱っちい子供じゃ生きてくの辛いかもだけど、今の話せなくて見下される現実より絶対いい。


グラムが家へ来たのは3日してからだった。

「30の町へ行くぞ」

『ダンジョンは?』

グラムは舌打ちして言った。

「長は知らなかった。だからチェスターと取引した」

『チェスターと?』

グラムはニヤッと笑って付け足した。

「お前をチェスター国へ入れないのも条件に入れた」

意地悪い笑いを見せるグラムに笑い返した。

グラムの言うように、チェスター国へ入れなくなっても私は困らない。

使いきれないくらいのお金はアイテムボックスにあるし、アイテムボックスが消えた時の保険に小さい宝石を3個服の胸ポケットに入れてある。

復興の様子を見ても、お金があれば生活出来る。

「脅しじゃないぞ」

私が思ってたようなリアクションをしないから、声の音量を上げて脅してきた。

グラムは分かってるんだろうか。

長にさせるとか言ってたけど、チェスター国は、神の壁はチェスター国民を殺したグラムを拒む。

クラークさんはわざとそれを知らせないで、グラムに青年と少女の抹殺を頼んだんだ。

そう考えたらどっちもどっちだと思えた。

もう助けるとかの愚行は2度としない。

『別に構わない』

「祖国に帰れないんだぞ」

だから何だと言いたいんだろう。

私の祖国は日本でチェスター国じゃない。

「強がりはよせ」

『私は困らない』

書いていて母の顔が思い出された。

もう遅いけど、もっと甘えておきたかった。

もっとお手伝いをして…。

考えてたら泣きたくなった。

キッてグラムを見たらまた舌打ちされた。

「30の町へ行くぞ」

グラムは私の横へ転移すると、また右手首を掴む。

強引に連れてこられた30の町は、前のまま時間が止まっているようだった。

検索しても私とグラムと結界の中の2人しか居ない。

その事実が私を警戒させた。

グラムは手のひらの玉を結界に投げた。

バチバチと静電気みたいに光って結界が消えた

グラムは家ごと消そうと思ったらしい。

もう1つ投げたら弾かれて、物凄い爆風が吹いて体が浮き上がった。

思わず地面にしゃがんで目を腕で庇った。

風圧に耐えながら、王都と同じ様に結界を2重に掛けていたと気付いた。

「くそっ」

グラムが拳を握ると、肌の波紋が更に濃くなって、魔力とは違う力が空気を揺らした。

家からストレートな金髪の少女が表れた。

転移を使う少女だ。

これがゲームならツインテールだろうな、とか考えてたら遅れて赤茶の青年も出てきた。

気付かれないよう風魔法を使った。

「…生きてたのか」

赤茶の青年の呟きが聞こえた。

赤茶の青年はしゃがむ私じゃなくてグラムを見てる。

「奴を操れ」

青年が横の少女に耳打ちをして、少女が頷いた。

少女は青年の背中に隠れて小さく唱え始める。

風魔法で聞いても何を言ってるのか分からなかった。

「久し振りだな」

「俺を知ってるのか」

グラムが警戒しながら聞いた。

「知っている。グラムだ」

グラムが青年をじっと見た。

「俺はお前を知らない」

青年は大袈裟な手振りて残念だと言い足した。

「忘れられたらしいな」

何時会ったの?

きっと罠でグラムを捕まえたとき会ったんだ。

それなら今のグラムが知るはず無い。

動きたくても金縛りにあったように動けないから、グラムに伝える術がなかった。

ステータスを開いてスキルの解呪を見れば、黒くなっていて使えなかった。

白い世界は何がしたいの?

「お前は俺を知ってるのか」

「ああ、良く知ってる」

唱和が終わったのか、少女は青年の後ろから片手を出してグラムに手を向けた。

途端にグラムが跳ねた。

グラムの首に黒い蛇みたいな何かが蠢く。

「何をした」

苦しそうにグラムが言う。

「2度も引っ掛かるとはな」

青年は笑いながら答えた。

「お前かっ!グラムに首輪をつけた奴は」

首を押さえてグラムが唸った。

「まるで他人みたいな言い方だな」

「俺はお前らに捕まったグラムの兄だ」

青年の笑いが消えた。

「もっと上手い嘘を付け」

「俺たちは双子だ」

それで納得したんだろう。

青年は目はグラムに向けて、小声で少女に言った。

「必ず捕らえろ。チェスター国を手に入れるには外せない駒だ。逃すな」

彼はまだチェスター国を諦めてないんだ。

欲望に忠実なモナーク人らしくて笑ってしまう。

「はい」

グラムがチェスター国へ入れないのを知らないんだ。

少女は頷いて、青年の後ろでまた唱える。

グラムも少女が魔法を使うと気付いたんだろう。

首に食い込む罠を手で押さえて、一歩後退する。

グラムが転移するのが分かって、グラムより先に私が転移した。


グラムが転移するのは何回かボスで置き去りにされてるから予測できてた。

歩が悪くなると転移で逃げる。

どっちのグラムも身勝手で大嫌いだ。

グラムの苛々が移ったのか、私も苛々してた。

胸の奥に吐き出せない塊があって、徐々に大きくなって喉を塞ぐみたいな錯覚が消えなかった。

グラムはどうしただろう。

解呪を使える龍人はいるのだろうか。

もやもやしたまま4日が過ぎた。

その日の夜、喉に布を巻いたグラムが来た。

「これから30の町へ行くぞ」

『夜なのに?』

「夜だからだ」

グラムには魔力の流れが見えるらしい。

昼間は太陽の光に邪魔されて流れが見えない。

だから夜らしい。

それならと、闇に隠れるつもりで全身を黒に変えた。

「この傷の恨みを倍で返してやる」

喉に手をやって、グラムが怒った口調で言った。

『魔法は解けたの?』

「まだ完全には抜けきれてないがな」

グラムは忌々しそうに宙を見た。

「行くぞ」

グラムに右手首を捕まれて30の町へ転移した。

月の無い夜は静かだった。

目が慣れるまでグラムも動かない。

私はグラムから少し離れた場所でしゃがんだ。

ステータスからスキルを見ると点滅してるのは転移と結界だけで、解呪は黒いままだった。

何故?

私がぶつぶつ考えてる間に、グラムは前と同じく初級の結界を玉で破る。

グラムがもう一度玉を投げたら、赤茶の青年と少女がかなり遅れて出てきた。

嫌な予感がした。

出てくるのに時間が掛かり過ぎてる。

まさかっ!

咄嗟に自分の周りを結界で包んだ。

グラムもおおいたかったのに自分の周りにしか掛けられなかった。

白い世界は何をしたいの?

やっぱり予想は的中して、少女は出て来て直ぐグラムに手を向けた。

グラムは避けたけど避けきれなかったみたいで、呻いて首を押さえた。

「くっ!」

私には魔力の流れとか見えない。

見えないけど、グラムが3メートルくらい横へ飛んだのは見えてる。

普通なら外れるはずなのに、何故当たるの?

魔法がグラムを追い掛けた?

「自分から捕まりにきたか」

青年はニヤリと笑った。

風魔法で2人の会話を聞くと同じ事を話していた。

「今度こそ捕まえろ」

「はい」

少女は青年の後ろで唱え始める。

「大人しく待ってるとでも思うのか」

グラムも聞きなれない言葉を紡いだ。

少女が唱え終わって手を向けたタイミングで、グラムも青年と少女に手を向けた。

私には見えてないけど、空気がビリビリ振動してる。

「きゃっ!」

少女は短い悲鳴を上げてうずくまった。

青年の体も揺れていた。

見ているのに、状況を把握できなかった。

「…何をした」

辛うじて青年が言った。

青年も少女も首を押さえて苦しそうだった。

「魔法を跳ね返してやったんだ」

グラムも苦しそうに首を押さえて言い返す。

グラムの話で私にも理解できた。

少女の魔法が跳ね返されて、青年と少女を襲った。

龍人のグラムと違って、人間の2人は解毒の力も解呪の方法も知らないはずだ。

頭の中に悪魔の考えがよぎる。

死んだカレンとレナルドと同じ様に、2人に殺し合いをさせてやりたい。

そんな衝動を押さえて、私は目の前の異様な光景を静かに見ていた。

グラムも、青年と少女も、同じ魔法に苦しんでいる。

それを見ても助けようとは思わなかった。

カレンはもっと苦しんだ。

グラムも。

お前たちも同じ分苦しんで死ねば良い。

「くそっ!」

立っていたグラムがよろけてしゃがんだ。

見ると、グラムが首に巻いている布が燃えるように赤くなっていた。

テントで話したグラムの記憶が甦った。

記憶のグラムと目の前のグラムが重なった。

「苦しいか。苦しいだろ」

自分も苦しいはずなのに、それでもグラムは吐き出すように言った。

2人は人形の様に動かない。

ここからじゃ見えないけど、カレンを見てきたから想像は出来た。

カレンに2度も首輪を着けた青年が、同じ首輪で意思を奪われている。

ざまあみろ。

そう思う反面、カレンもレナルドもグラムも、もう帰らない現実が重かった。

感傷みたいな感情に気持ちが沈む。

耳元で風が唸った。

顔を上げてグラムを見たら、手で風を切っていた。

何をしてるの?

グラムは嬉しそうに同じ動作を繰り返してる。

最初は意味が分からなくてただグラムを見てた。

グラムの目は青年に釘付けになっていた。

!!

風がかまいたちになって2人を襲っているのを見て、思わず息を飲んだ。

こんな残虐な…。

頭の中で、笑って死に掛けてるレナルドを刺してた偽サブとグラムが重なって、殺意さえ芽生えた。

そして、気が付いたら止めようとしてグラムに突き飛ばされて地面に倒れていた。

「邪魔するなっ!俺の首に痕付けやがって」

グラムは怒りに狂っていて、もう2人は死んでるはずなのにかまいたちを止めない。

見てるのも嫌なので家へ帰ろうと転移を見たら、50の町のダンジョンが点滅していた。

何故このタイミングで?

グラムと2人の出番はもう終わったとか?

白い世界が私に何をさせたいのか分からない。

グラムを止めるべき?

ここに放置で50の町の氷のダンジョンへ行くべき?

みっともなく尻餅を着いた格好でボケッと考えた。

グラムは報酬で氷のダンジョンを知るはず。

今急いだとしても、何も変わらない気もした。

「思い知ったか」

グラムは肩で息をしながら、耳を塞ぎたくなる高い声で笑い続けた。

その声が偽サブと酷く似てて、もう嫌悪しかない。

あ。

グラムはチェスター国と取引したと言っていた。

長は氷のダンジョンを知らなかったって事?

………

チェスターの番人の前でした会話が思い出される。

長だけじゃない。

クラークさんも氷のダンジョンを知らない。

知らないのにグラムと取引をしたの?

どこまでこの世界は汚いんだろう。

神の箱庭なのに。

もう笑うしかない。

気が済んだのか、グラムがこっちを見てきた。

「お前もさっさと4つ集めろ」

グラムが転移して、声が途中で消えた。

グラムの事だから、クラークさんに報告に行ったか村に戻ったかだろう。

人として、好きになれない人だったとしても弔うだけはするべきだ。

2人を家ごと深く深く埋めた。

前に地震で陥没させた場所も平に土を盛り上げた。

何時か、この町の残骸にも人はまた新しく町を造る。

その未来を祈って、氷のダンジョンへ転移した。




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