少女とダンジョン
村を出て直ぐは雨に濡れたまま走った。
走りながら小説に風魔法で雨を遮って濡れないのがあったと思いだし、あれこれ試行錯誤。
濡れないとかは無理だけど、破れた傘くらいには風を操れたしマントのフードを深めに被れば雨を凌げた。
人にどう映るのかがちょっと心配だけど、濡れて風邪引くよりは良いと諦めた。
この雨は最短でも明日までは降り続く。
今回はお弁当も含めて7日分プラス1日分の食料しかアイテムボックスに用意してないので、雨でも移動しないと途中で食料が無くなる計算だった。
まだ半分も来てないから距離的には4の町より3の町へ戻るべきかな。
考えながら歩いていたら、閃きのように転移の二文字が脳裏に浮かんだ。
試してみる価値はある。
ステータス画面からスキル転移、3の町を選んでタッチした。
ゆらっと視界が歪んで、次の瞬間には人気の無い薄暗い路地にいた。
地図で確認したら3の町の下町らしい。
1番に宿を探そう。
前の宿はおばさんは良い人だしお風呂もあったけど食事がちょっと…ね。
今日は冒険者ギルドでお風呂があって食事の美味しい宿を教えて貰おう。
そこに落ち着いて雨がやむのを待った。
それから3日目、やっと晴れて3の町を出る。
出る前に半月は食事に困らないほど食糧を補充した。
みんなも雨がやむのを待っていたようで、4の町への道は人が多かった。
マントのフードを深く被ってもくもくと歩く。
マントの中は、ヨハンに取られた装備より防御力が高い物にした。
万が一また狼に遭遇したら…、また無傷で倒せる自信が無いから防御が上がる装備を選んだ。
焚き火跡でお昼にしてると、他にも何組かが同じ様に昼食をとる。
不自然にならないよう辺りを探してみたけど、みんなパーティーで私みたいなソロプレーヤーは見当たらなかった。
初心者パーティーの中に旅慣れてるパーティーが2組混ざっていて、向こうもこっちをちらちら見てた。
また次の焚き火跡までもくもくと歩く。
ここでも同じで夜営の集団が溢れていた。
目立たないように道の脇の森に入って、狭い空間にテントを出した。
このテントは優れもので、空間魔法で中の広さを5段階に調節できた。
スイッチ1つで1人用から10人用まで変更できる。
これはゲームを始めた時のプレゼントでアイテムボックスと同じくプレーヤー全員が持っていた。
旅が3日目、4日目くらいになると遅れ始めたパーティーや逆に先行するパーティーが出て来て全体に集団がバラけてきた。
私はゆっくり歩いていた。
この何日かで朝昼晩の焚き火跡の陣取り合戦が苦手になってきてるので少しでも人から離れていたかった。
4の町への旅も残り2日になった昼過ぎ、道の脇に板塀で囲った村があった。
先日の村の記憶がまだ新しいから、嫌でも歩き方が早くなる。
通り過ぎて10歩も行かないうちに後ろからガンって何かがぶつかる音がした。
咄嗟に止まって振り向くと、2の町のギルドで見た少女が板塀に捕まるようにずり下がっていた。
続いて4人の男女が板塀の中から外に出てくる。
「お前は何様だ!!」
かなり怒っているようで、リーダーらしい男性が少女に向かって怒鳴っていた。
「飢えてる人を放って行くなんて出来ないです」
「他人に施す余裕はねぇって言ってるんだ!」
「だって…可哀想です」
「そんなに施しがしたいんなら俺たちのじゃなく自分の食い物を分けてやれよ」
「そんな…」
肩を落とす少女を置き去りにして、4人は4の町の方へ歩いて行ってしまった。
少女の言い分は分かるけどリーダーが正しい。
リーダーが言ったように、施すなら少女の食料からするのが当然の話だ。
あぁ…、だから聖者か…。
私も関わりたくないので先を進もうとしたら、少女が走り寄ってきて左手にしがみついてきた。
「お願い!お願いだから4の町まで一緒に行って!」
周りを見ても誰もいない。
彼女の興奮が収まるまで待ってから、筆談で事情を聴くと伝えた。
少女は私が話せない事に酷く驚いていて。
「可哀想」
少女がポツリと呟いた言葉を私は聞き逃さなかった。
少女の名前はリリカ。
お姉さんの結婚祝いに何が良いか聞いたら、4の町のダンジョンの宝石が欲しいと言われたのでここまで来たとリリカは言った。
目当てのダンジョンならここから半日足らずの場所にある、通り道だから連れて行くと短く書いた。
「1人の旅は大変でしょう?私がパーティー組んであげましょうか?」
リリカに《無用》と書いて見せた。
「遠慮しなくて良いわ」
きっとこれをメンヘラって言うのかも。
止まって、はっきり拒否を態度で示すとリリカはムッとしていた。
多分2の町でパーティーから外されたように、4の町でも外されるだろう。
パーティーを組みたいのは私よりリリカの方じゃないかと気が付いた。
私なら優位にたてると思ったとか、有り得そう。
夕方までにはダンジョンに着きたかったけど、思ったより距離があった。
焚き火で暖を取りながら夕飯にする。
魔法の袋を持ってる冒険者も珍しくないから、私も背中の袋からサンドイッチと水袋を出した。
リリカももそもそ携帯食を出して食べていた。
「話せないのに魔法の袋を持ってるの?」
呆れてため息が出た。
リリカの声が大きいから近くに居た人たちが振り向いて私を見てくる。
中には険しく刺さる視線を投げてくる人も居た。
この視線のうちの何人かはリリカの一言に魅せられて強盗に早変わりするかもしれないのに。
不用意なリリカの言動に殺意さえ覚える。
出逢う人出逢う人何でこんな人ばかりなんだろう。
話をするのも嫌になって、寝た振りをした。
翌朝、ダンジョン入口でリリカと別れて真っ直ぐ4の町を目指した。
リリカからは宝石を見付けるまで一緒に来て欲しいと言われたけど、ここまでの約束だったからと断った。
幸い後から来たパーティーがリリカのを話を親切に聞いてくれて、一緒にダンジョンに潜ってくれると言ってくれたので私はそこでリリカと別れる事が出来た。
ダンジョンから4の町までは約1日。
途中で狼やウサギの魔物に会った。
毛皮や肉は売れるみたいだけど、解体する勇気はやっぱり無かった。