ダンジョン巡り
48の町のダンジョンにグラムは苦戦した。
属性の相性?
グラムはそう言うけど意味が分からなかった。
ダンジョンの中の冒険者に、知り合いを見付けて凄く嬉しくなった。
生きてる冒険者がいる。
それだけでただの物になってた自分が人間に戻ったような、変な感覚があった。
「ここに竜は居ないんだな」
苛立ってるグラムに頷いた。
「35の町のダンジョンに入れるようになるまで、お前は勝手にしていろ」
言い捨ててグラムは転移した。
ホントに勝手だ。
それなら私も好きにする。
毎日家から48の町のダンジョンへ通った。
パーティーは組んだままなので、面白いようにアイテム欄が埋まっていった。
ボスと裏ボスを倒して、1日が終わる。
ステータス画面から地図を見れば、ハルツに氾濫の兆しが1つあった。
幸い王都からは遠い。
ステータス画面を閉じるとき、レベルが目に付いた。
レベル149。
何時から上がってないのかもう思い出せない。
42の町のダンジョンか50の町のダンジョンに行けなかったら、このまま上がらない気がした。
48のダンジョンに潜り始めてもう半月。
そろそろグラムが来そうだと思った。
そんな予感から3日してグラムが転移してきた。
「おい、お前は35の町のダンジョンに入る方法を知らないのか」
『知らない』
「炎の聖獣を知ってるはずだ」
『知ってても今は連絡する術がない』
「肝心な時に念話が出来ないお前は役立たずだな」
はは…。
役立たず、ははは。
この世界に来て同じ言葉を何回聞いただろう。
早くこの世界から消えたい。
グラムは舌打ちして転移して消えた。
…行ってみようか。
転移して弾かれたら弾かれた時だ。
覚悟を決めて転移したらダンジョンの1階に出れた。
成功して驚くとか、私らしくて笑える。
ゆっくり1階から回った。
ポツポツアイテム欄が埋まっていく。
ボスの後ろに裏ボスの扉が開いていた。
何と無く、だけど。
炎の竜と炎の聖獣は幸せに暮らしてる気がした。
だから私を入れてくれた。
今まで不幸な人ばかり見てきてるから、自分の勝手な想像でも嬉しかった。
中級の残りは10個とちょっと。
残りが全部42の町のダンジョンにあれば、中級がコンプ出来る。
希望が見えてきた気がした。
朝から夕方まで35の町のダンジョンに潜って、週に1度10の町に買い出しに行く。
その生活を2週間続けた。
「ルアン」
10の町の屋台を回ってたら後ろから呼ばれた。
振り向けばグラムだった。
「探したぞ。何故家で待ってない。俺は待っていろと言ったはずだ」
1度グラムを見て、買い物を続けた。
行く方法が無くて苛立ってるのは分かるけど、自分勝手な八つ当たりになんか付き合いたくない。
「おいっ!」
グイッと右の肘を掴まれて振り向かされた。
「聞いてるのかっ!」
『私はグラムの奴隷じゃないしお前じゃない』
それだけ書いてグラムに見せてから肘を取り返した。
グラムはハッとして見返してきた。
「お前は俺と氷の竜に会いに行く使命がある」
言い切るグラムに違うと首を振った。
『指輪が集まらないのは神の意志がグラムに無いからだとは思わないの?』
メモを見たグラムが射るようなきつい目で見てくるけど怖くはなかった。
グラムが入れない場所がある。
その時は意識してなかったけど、心の奥にそう思う感情が生まれていた。
「奴じゃない!俺が選ばれた者だっ!」
前にも聞いた単語がまたグラムの口から出てくる。
選ばれた者?
次の長になる者って事?
兄弟で争ってた?
まさか…、グラムを奴隷にしたのはグラムなの?
嫌悪感が文字に出た。
『それなら35の町のダンジョンへ入れるはず』
「王になる俺に逆らうのか」
グラムの殺意にも似た怒りで空気が揺れた。
重圧に押し潰されそうになっていたら、側を歩いていた女性がグラムに怯えて悲鳴をあげた。
見ると、消していたはずのグラムの波紋が怒りで顔にまで浮き出ていた。
女性の声で人が集まってくる。
グラムは舌打ちして波紋を消した。
けれどもう遅い。
女性の目線がグラムに釘付けだから、集まってきた町の人たちもグラムに警戒する目を向ける。
1人の男性が女性を背中に庇った。
今はグラムの波紋を見た衝撃でパニックになっていて話せてないけど、落ち着いたら…。
話される前にここから逃げようと右腕を引いても、グラムは動かない。
逆に冒険者の後ろまで突き飛ばされてしまった。
こんな時念話が出来たら、と気持ちは焦った。
冒険者らしいおじさんはグラムの前に立った。
「どけっ!」
「見ない顔だな。お前、どこから来た」
苛立っているグラムはおじさんを睨み付けて振り払う動作をした。
「お前には関係ない」
「女が怯えている。お前何をした」
おじさんもグラムを睨み返している。
「その女が勝手に怯えただけだ。俺はそいつに用がある。あっちに行け」
グラムは私を指差してから、もう一度おじさんを払い除ける動作をした。
「まだ子供じゃないか。子供を苛めて楽しいか」
おじさんは私を見てグラムに言い返した。
「そいつは俺のパーティーメンバーだ」
おじさんが本当なのか私に目で確かめに来たから、嫌々でもそうだと頷くしかなかった。
「嫌そうだが。無理矢理パーティーを組んだのか?」
「組んでやったんだ」
聞かなくても分かってた事だけど、グラム本人の口から聞いたら何故か吹っ切れた。
《組んでやった》
町の人たちも、私が話せないと知ったらグラムの言動を当然だと思うんだろう。
そう思ったら、急激に気持ちが冷えた。
グラムとおじさんの言い争いを見ながら、1歩2歩と気付かれないよう後ろに下がった。
言い負けてグラムが不利になってきたと思ってたら、風魔法?でおじさんを吹き飛ばした。
あっという間の出来事で止めることも出来ず、おじさんは10メートルくらい吹き飛んで動かない。
思わずグラムを見た。
グラムが今の状況に苛々してるのは分かる。
だからって他人に当たって良いわけじゃない。
町の人たちを睨み付けてるグラムの顔には自己中の怒りしか無くて、もうなだめる気持ちもおきなかった。
何人かがおじさんを起こしに行ったが、おじさんはもう死んでいた。
「人殺しだ」
1人が言うと、その場に居る人たちも同じ感情のこもった目でグラムを見た。
口には出さないけど目がグラムを責めてる。
口にしないのは、グラムが魔法を使うとおじさんの遺体を見て分かったからだ。
無言の抗議にグラムはなお怒った。
「お前たちも突き飛ばされたいか!」
グラムが怒鳴った。
多分、グラム自身もやり過ぎたと思ってるからなお強引に出てしまうんだろう。
「…出ていけ」
「そうだ、出ていけ」
「この町から出ていけ!」
町の人たちの声は次第に大きくなった。
グラムは馬鹿だ。
町の人たちの前から転移してしまった。
グラムが消えた後、大騒ぎになった。
私は一番後ろまで下がると少年に姿を変えた。
騒ぎはクラークさんのところまで伝わったらしく、走ってくるのが見えた。
その頃には女性も話せるようになっていて、グラムの波紋の話を震えながらし始めた。
「肌に波紋?それは龍人だ」
クラークさんは死んだおじさんをギルドの職員に運ばせてからそう言った。
「ならあの子供も龍人の子か」
町の人たちが慌てて私を探したけど見付からない。
「居ない」
「あの子も龍人だったんだな」
町の人たちは周りを見回して言い合った。
「どんな子だった?」
「確か女の子で…」
「男の方は覚えてるが子供の方は覚えてないな」
不思議と私の顔を覚えてる人は居ないらしい。
地味子アバターのお陰だと思うと少し複雑だけど、ホッとして胸に手を当てた。
町の人たちの話は自然にグラムの方へと流れた。
「次に見付けたら捕まえてやる」
「奴は魔法を使うぞ」
重くなった空気を払うようにクラークさんが言った。
「チェスターの国民を殺した龍人は、2度と神の壁を越えられない」
町の人たちがどよめいた。
「仇は討てないのか」
悔しがる声と、こっそり胸に手を当ててホッとする者がいて、同じだと笑えてしまった。
神の壁。
ホントに神が導くなら…、グラムに壁は関係ない。
頭の中で、もし神の壁がグラムを弾くなら…壁が私を護ってくれるはずだ、と思った。
「龍人は転移を使って消えたはずだ。それでも越えられないのか」
「越えられない」
断言するクラークさんに町の人たちの目が集まる。
余裕のクラークさんを見て、町の人たちの顔も次第に安堵へ変わっていった。
人波がバラけたところでひっそり家に戻り、直ぐにまた10の町へと転移してみた。
転移出来る事を確かめてから、ゆっくり温泉に浸かってこれからを考えた。
グラムがチェスター国へ入れるのか入れないのかは早く知りたいけど、聞いた後の面倒さを考えて止めた。
いざとなれば、35の町のダンジョンがある。
その気持ちが私を支えた。
グラムが来たのはそれから3日後で、苛立ちでピリピリしていた。
「42の町のダンジョンへ先に行くぞ」
返事の前にステータスから地図を開いた。
氾濫の兆しを確かめたら、やはりハルツの側の43の町に近い場所にあった。
『近くに氾濫の兆しがある』
書いて見せたらフンッて笑われた。
「溢れたら俺1人で沈めてやる」
グラムの、龍人の自信に言い返す気持ちが消えた。
また強引に右の手首を掴まれて転移した。
出たのは暗いダンジョンの中で、後ろを振り返ると入口らしい場所に犬?の獣人が2人立っていた。
もしかしたらグラムが?
だから警戒して見張りが立った?
多分正解だ。
10の町の時みたいに無理矢理何かしたんだ。
グラムの後ろを警戒しながら着いていく。
地図を見ても、他に潜ってる反応がない。
グラムが何をしたのか分からないけど、きっとダンジョンの入口を閉鎖するくらいの何かをしたんだ。
入口が見えてる間嫌でも気持ちは見張りに釘付けで、小心者の私は見えなくなってやっとホッと出来た。
記憶にある42の町のダンジョンは攻略が難しい。
ボスクラスの魔物がどの階層にも居て、48の町のダンジョンより嫌いだった。
この町のダンジョンは25階層で、裏ボスへの扉は20階の休憩所から開かれる。
25階に居るボスのドロップ品が、裏ボス部屋の扉を開く鍵だとミシェルさんから貰ったメモにあった。
最初の目的はボスの討伐。
前回までは確か杖のドロップだったはず。
杖で裏ボスの扉が開く?
イメージが沸かなかった。
2階、3階とグラムの後ろに着いて降りていく。
確かこのダンジョンの弱点は土魔法のはず。
3階まではあっさり剣で倒せたけど、そこから先は剣と魔法の両方だった。
それまでドロップ品に見向きもしなかったグラムが、急に集めだした。
それを見ても何も言わなかった。
言うだけ無駄ってグラムの事だと思ったし、欲しいと言えば何か条件を付けてきそうに思えたから。
グラムも苦手なのか攻略は時間が掛かった。
??
後ろから襲ってきた魔物を倒してみて、前回より弱くなってる気がした。
後ろから来る魔物は少ないから仮定のままだけど、35と48の町のダンジョンよりは強いと感じた。
1日3階か、手間取る時は2階しか進めなかった。
朝にダンジョン内で合流して進み、夕方に別れる。
それを単調に繰り返した。
グラムと別れてから、また1階から潜った。
42の町のダンジョンは、予想以上にアイテム欄が埋まっていった。
パーティーを組んだから?
それだけじゃない気もした。
グラムと10階へ着いたのは4日目で、グラムは早くも投げ槍な態度だった。
「毎日毎日よく飽きないな」
まだ半分も来てない。
そう思ったけど、返事は返さなかった。
ダンジョン攻略はコツコツが当たり前だし、コンプの目標があるから飽きない。
私はそうだけどグラムは違うから黙ってた。
10階に着いたら流石に1階からは潜り直し出来なくて、5階からにした。
ポツリポツリと中級のアイテム欄が埋まっていった。
毎日5階分戻るを繰り返して、25階に辿り着けたのは潜り始めてから3週間過ぎていた。
「明日はボスだな」
改めて言うグラムを見返した。
「苦戦したらお前も手伝え。居ないよりはましだ」
高慢なグラムにはもう慣れてるからなにも言わない。
さっさとグラムと別れて20階層から潜り直す。
残りは2つ。
22階で見たことの無い魔物が2体で襲ってきた。
ピコーーン。
焦らず倒したら中級の剣が2本ドロップして、一気に中級コンプが点滅した。
嘘。
もう一度アイテム欄を見直した。
思わずガッツポーズ。
嬉しくて両手がプルプル震えた。
残りは上級で、黒いままなのは10個。
もう少しで、フルコンプの夢に手が届きそうだった。