次の町へ
グラムは、拒否する私の手首を強引に掴んで始まりの町へ転移した。
出たのは冒険者ギルドの横の路地だった。
嫌だと手を取り返そうとするけど、グラムは離してくれなかった。
『波紋』
引き摺られながらもやっと書いたメモを見せた。
グラムが止まった。
グラムは自分の腕を見て舌打ちすると波紋を消した。
「これで満足か」
『困るのは私じゃない』
冷たく見返してメモを渡した。
グラムは不機嫌な顔でもっと手を引っ張ってきた。
行きたくなくても冒険者ギルドへ連れて行かれた。
今更だけど、グラムが直に冒険者ギルドに転移しなくて良かったと思った。
グラムなりに考えてる?
受付カウンターはおじさんだった。
嫌な予感しかしない。
グラムが冒険者登録をしたいと言うと、おじさんは目で私を見てきた。
「彼女はもう登録済みだ」
「パーティーを組むのか?」
「パーティー?それは何だ?」
「お前パーティーも知らなくて冒険者になるのか」
おじさんの馬鹿にした態度にグラムが睨み付けた。
「生意気な奴だ」
おじさんも睨み返す。
それでも仕事だからか、事務的に登録の手続きとパーティーの仕組みをグラムに教えた。
「俺がリーダーでパーティー登録をする。パーティーだと受けられる依頼も増えるんだな」
「ああ、Dランクで受けられる依頼は限られてるが」
「こいつはSSSだ」
グラムが言ってもおじさんは本気にしなかった。
笑いなから私に手を広げて言った。
「ギルドカードを出せ」
嫌だと首を振った。
「おい、嫌だとよ」
「ルアン!」
捕まれてる手を取り戻して嫌だと首を振った。
「痴話喧嘩はそっちで勝手にやれ」
おじさんはグラムの書いた登録の書類を見ながら確認してきた。
「名前はグラム、歳は20で間違いないな」
「ああ」
「使うのは剣か」
!
ドキッとした。
魔法が使えるって書いてたら、書かなくても聞かれて言ったら大変な事になる。
考えるだけで背中が冷たくなった。
いざとなったら転移で逃げよう。
そう自分に言って、ドキドキしながら2人の会話を後ろで聞いた。
「これに手を乗せろ」
あの確認する機械をおじさんが出して来た時、私は後ろで手のひらに汗をかいてた。
長く感じた時間は多分あっという間だったみたい。
「次はこれだ」
魔力を測る板にも、グラムは平然と手を乗せる。
ドキドキするのは私だけで、グラムは平然としてた。
「少し高いが魔法使いになれるほどはないな」
え?
つい背中を向けているグラムを見上げた。
私より30センチは高い身長の背中は大きかった。
龍人だから?
あっ!
龍人って知られたら!
馬鹿みたいに1人で慌てた。
良く考えれば龍人で登録したら受付のおじさんが黙ってないのに、馬鹿みたいに1人で慌ててて、周りからは怪しい動きをしてるピエロに見えてたかも。
「待ってろ」
そんなに待たなくてもギルドカードは造れた。
横からそっと見て気付いたけど、ギルドカードには種族を書く欄が無かった。
不思議に思って自分のカードを出して見てみた。
種族の欄は無かった。
何かホッとしたような心配して損したような、変な気分でムカッとした。
「おい、カードを寄越せ」
おじさんが手を出してきた。
嫌だと首を振って、走り書きのメモを見せた。
『パーティーは組まない』
「組まないとよ」
おじさんはからかうようにグラムを見てから、また私の方を見てきた。
「お前話せないのか。ならこいつに拾って貰って有り難くパーティーを組んで貰え」
ギルドカードを後ろに隠して、嫌だと首を振った。
「速く寄越せ」
手を突き出してくるおじさんにもう一度首を振った。
それなのにグラムがあっという間に私の後ろに回って、握ってたギルドカードを取り上げられた。
「Dランクパーティーでも受けられる依頼もある。地道にやるんだな」
私のギルドカードを受け取っておじさんが言った。
「まて、SSSがいてもDランクなのか」
問い質すグラムの口調はきつかった。
「誰がSSSだ?Dランク2人のパーティーは当然Dランクスタートに決まってるだろうが」
おじさんも睨み返して答えていた。
「ルアンはSSSだ」
グラムが私のギルドカードを指して言った。
呆れた顔で私のギルドカードに目を落としたおじさんが、ぎょっとして見返してきた。
「本当にSSSなのかっ」
私が答える前に、おじさんは機械の上に私のギルドカードを置いた。
「…SSSだ」
私とギルドカードを何回か見比べて、現実に戻ったらしいおじさんがグラムに言った。
「Dランクのお前じゃなくこの嬢ちゃんをリーダーにするならSSSランクのパーティーになれるぞ」
おじさんは意地悪そうにグラムに言った。
おじさんはニヤニヤしながらグラムを見ている。
きっと生意気なグラムが困るのが面白いんだ。
悔しそうに私を見てから、グラムが言った。
「分かった。今だけはルアンをリーダーにしろ。直ぐに俺がSSSになってやる」
おじさんは笑いを堪えてパーティー登録をした。
多分だけど、私のようにゲームのプレイヤーじゃなければこの世界にSSSなんて居ないと思う。
そう思ってもグラムに教える気持ちは無かった。
無いし、内心ニヤニヤしてた。
自分がリーダーなら嫌な時パーティーを解散できる。
それが気持ちをぐんと軽くしてくれた。
ついでの気持ちで、ギルドカードから可能な限りお金を引き出した。
出来ればギルドカードとアイテムボックスの現金を同じにしたかったんだけど、おろせたのは大金貨500枚だけであとはダメだった。
次からは冒険者ギルドに来る度におろそう。
「SSSパーティーになったら俺のランクも上がるはずだ。直ぐにリーダーを入れ替えろ」
え?
思い切り横のグラムを見上げてしまった。
そんなグラムに都合のいい話になるわけない。
呆れてたら、おじさんが大笑いした。
「お前は馬鹿か。個人ランクがパーティーランクで上がるわけないだろ」
見下したおじさんの視線に腹を立てたのか、グラムが怒りで震えた拳でカウンターを殴った。
「ギルド内で暴力沙汰をするなら登録を抹消するぞ」
グラムがくっ、て固まって動かなくなった。
グラムのギルドランクを上げるために、薬草の依頼とダンジョンの依頼を受けた。
個人ランクの上げ方をおじさんに教えられた時のグラムはプルプル震えてて、内緒だけどスッとした。
グラムはクエスト関係ないからランクで受けられる依頼を優先して受けた。
「次の町にはろくな依頼が無いらしい。この1の町に暫くいるぞ」
宿に行こうとした私をグラムが止めた。
「何故行く。夜営で十分だ」
『ベッドがあって食事も出来たてが出てくる』
「お前だけ行け」
それで思い出した。
死んだグラムが言ってた、龍人は食事が違う、と。
だから私1人宿に泊まった。
パーティーの依頼もランク上げに上乗せされるから、翌日からは毎日薬草とダンジョンの依頼を受けた。
予測はしてたけど、ダンジョンで一気に2つアイテム欄が埋まった。
男と女交互に潜って確かめたけど、ドロップはどっちも変わらなかった。
パーティーを組んでたら男女どちらでも良いらしい。
1の町には半月いた。
グラムのランクがやっとCに上がった。
私より速いのはパーティーを組んでるからだ。
それからは亀みたいに1つづつ町を歩いた。
2の町も3の町も懐かしかった。
改めて、ダンジョンのある町しか歩かなくなってた事に気付かされた。
4と7の町のダンジョンでも1つづつコレクションが埋まって、初級コンプが目の前だった。
「長過ぎる。二月も経つのにまだCのままだ」
グラムの苛々している様子はスルー。
これでも早い方だと思う。
パーティーで受けられる依頼は全部受けてる。
ゲームの中でも、チェスターはプレイヤーを慣らす為の依頼ばかりだから、簡単にランクは上がらない。
それに、私の時の様に馬車で移動しないから盗賊の討伐イベントも無いから更に上がりは遅かった。
10の町へ期待して移動したグラムだったけど、一月いてもランクは変わらなかった。
最初クラークさんがいる10の町には行きたくなかったけど、グラムに引っ張られて行くしかなかった。
ピリピリ警戒してたけど、クラークさんは奥から出てこなくてホッとした。
心の中に、グラムと一緒なら10の町のダンジョンの裏ボスに挑めるかも、って気持ちが強かった。
でも、裏ボス部屋の目の前に来て…、止めた。
グラムの力を借りてまで倒したとしても、その後に後悔しかない気がしたから。
気持ちを切り替えてダンジョンに潜った。
それが良かったのかまた1つ見付けた。
これで14の町か20の町で残りが埋まったら、って考えたらにまにまが止まらなかった。
10の町の次を考えて、グラムが珍しく迷っていた。
モナークとハルツの様子次第だ、と思ってる私とは別の事を考えてるみたいだった。
「ちょっと村に戻ってくる。お前は家にでもいろ」
この命令口調にも馴れた。
最初の一月はメモを書いて抵抗したけど、グラムだけじゃなく周りも敵ばかりだから止めた。
何処に行ってもグラムは追い掛けて来るだろう。
パーティー解散の鍵は自分が握ってる。
その2つを考えて開き直った。
《クエストとアイテムコンプ狙ってやる》
兎に角10の町までのクエストは完璧にクリア。
ダンジョンは20の町まできっとお預け。
それでも先が見えてきたから自然にモチベーションは上がっていた。
それに、グラムなら私を殺せると変な確信もあった。
10の町から20の町の家へ転移する。
魔法で掃除してお風呂にした。
ゆったり温泉に入りながら、この先を考えた。
11の町を見に行ってみようか…。
どんな姿になっても、見付かったらめんどくさそう。
姿が消えるとかないかな。
ぼんやり暮らしてたらグラムが来た。
日にちは数えてなかったけど、10の町で別れて3日が過ぎていたらしい。
「待たせたな」
返事をする気持ちにもならなかった。
「長から町の順に進めと教えられた」
11の町?
グラムは様子を見てきたんだろうか?
「行くぞ」
『見てきたの?』
書いて見せれば怪訝な顔をされた。
『11の町がどうなってるのか見てきて』
「変な奴だな」
グラムが消えて、戻ってきたのは3時間くらい過ぎてからで、むすっとした顔をしていた。
私が何も聞かないから、グラムはもっと不機嫌で怒った口調で話始めた。
「11の町には人間が20人も居ない」
瓦礫ばかりで冒険者ギルドも無かったらしい。
「長は何を見てるんだ」
グラムが壁を殴った。
グラムの話だと長になると世界が見えるらしい。
そう聞いて、クラークさんの話を思い出した。
《代替わりが近い》
力が衰えてるとか聞いた気がした。
あ…。
じゃなきゃグラムを死なせなかったはずだ。
それも私なんかに…。
「俺は氷の竜を助け妻にする男なんだ」
!!
グラムが言った言葉が信じられなかった。
氷の竜を妻にする?
グラムは確かにそう言った。
《龍人は竜になれない》
クラークさんはそう言った。
なのにどうやって夫婦になれるの?
竜が龍人になるとも思えない。
それに…。
あの氷の竜とグラムが並べるとはどうしても思えなくて、無謀な夢に笑えた。
グラムは私が笑ったのには気付かなかったらしい。
「氷の竜とつがいになってこの世界を救うのが俺だ」
呆れてグラムを見てた。
龍人の村の長になるだけでも大変だってクラークさんは言ってた気がする。
それが氷の竜を妻にするって…、有り得なすぎる。
これが白い世界のシナリオ?
白い世界はグラムに何をさせたいの?
そして、私に何をさせようとしてるの?
先が見えないのは何時もだから、焦りよりため息が出て笑ってしまった。
「笑ってる場合かっ!」
怒鳴るグラムにメモを突き付けた。
『14の町は?』
「14の町?」
『ダンジョンのある町の冒険者ギルドなら再開してる可能性が高い』
メモを読んでグラムが頷いた。
「見てくる」
グラムが消えて笑ってしまった。
ハルツを歩けるか分からないけど、今は先にモナークのダンジョンを攻略したい。
2時間ほどで戻ってきたグラムと、その日のうちに14の町へ転移した。