もう1人のグラム
その日は突然きた。
10の町から家に戻った後は体から力が抜けてしまっていて、ボケーって何日も暮らしてた。
その日、光の結界に何かが触れて恐怖で動けなかったら家の中までその何かが入ってきた。
!!…
心臓が止まったと思った。
血が引くってあれだったと後から思った。
金縛りにあったみたいに固まっている私の前にいるのは、死んだはずのグラムで…。
肌の波紋が間違いなくグラムだと教えていた。
がくがく体が震えて、目だけがグラムを見てた。
グラムも生きてたんだ…。
生きていた嬉しさと殺そうとした自分への罪悪感で直ぐには動けなくて、ただただグラムを見てた。
喉の傷が綺麗に消えてて、別れた時の穏やかな表情で笑ってるグラムがそこいた。
グラム…。
喉に熱い何かがつっかえて、目の前のグラムを見てるしか出来なかった。
目が合うと、グラムは不思議そうに私を見返して、問い掛ける目をした。
意味が分からなくて、動けなかった。
「意識を繋げても念話出来ない」
困惑してる表情のグラムに出来ないと首を振った。
別れる時は出来てたから、グラムが疑問に思うのも当然だと思った。
長くなるけど後で説明しよう。
「ならどうやって意思表示を?」
?
金縛りが解けたようにメモを手に持った。
「書いて?」
頷くと、グラムは困った顔をした。
「君なら氷の竜に辿り着けると聞いたのに…」
…え?
その時になって、目の前のグラムが自分の知ってるグラムじゃない気がし始めた。
目の前に居るのは確かにグラムなのに、何かが、何かが違う気がした。
龍人もチェスター国みたいに再生するの?
警戒しながらグラムを見た。
あっ!
あの感じた視線は目の前のグラムが?
無意識に後退っていた。
「俺はグラム。君が知ってるグラムの兄だ」
え?あ…。
《双子なのか》
初めてクラークさんがグラムに会った時言ってた。
本当だったんだ。
良く見ればグラムより波紋が濃い気もした。
兄弟だと兄の方が濃いの?
………
良く似てる。
似てるけど表情はちょっと違う感じがした。
グラムは我が儘で自分本意だったけど、目の前のグラムは狡さを足したような嫌な感じがした。
「驚かないんだね」
苦笑するしかない。
聞いた今より、突然家の中に入ってきた時の方が怖かったとかは言えない。
「弟の最後は知ってる」
!
「最後の叫びを俺も念話で聞いた」
………
「君が殺した事も。何度か念話で呼び掛けたけど、君には届かなかった。君は弟の死の衝撃で念話が使えなくなったのかもしれないね」
淡々と話すグラムは怒るより怖かった。
私を責める口調で威圧してくる。
私が擬装出来るのも知ってる様子なのが、なお恐怖を膨らませた。
「俺は氷の竜に会わなければならない。君になら出来ると村の長に聞いた」
決め付ける上から目線の言い方にムッときた。
会いたいなら1人で会いに行けば良い。
それが顔に出てたらしく今度はグラムが苦笑した。
「俺の言葉が悪かった。氷の竜を助けないとこの世界が壊れる」
『勝手に助けに行けば良い』
書いて突き出した。
「長は君しか辿り着けないと言っていた」
『それは違う。私だけじゃない』
「なら行ける方法を教えてくれ」
『神に聞け』
「聞いて答えてくれるならここに居ない」
『断りもなく他人の家に入ってきて、礼儀もない人に教える事はない』
「あっ!」
それでやっと気付いたのか謝ってきた。
「悪かった。気持ちが焦っていたんだ」
グラムは世界を助けたいと繰り返した。
「早速で悪いけど、氷の竜に会わせてくれないか」
グラムを見返して首を振った。
「何故?勝手に入ったのは謝ったじゃないか」
怒りを含んだグラムの口調が、死んでしまったグラムとの出会いを思い出させた。
『私でもまだ入れない』
「まだ?まだってなんだ?」
『氷の竜の元へ行くには指輪が必要』
「指輪?それは何処にあるんだ」
書いてる手元を覗き込んで疑問を被せてきた。
ホントに良く似てる。
『ダンジョンの裏ボスを倒すとドロップする』
違うメモに4つのダンジョンの町を書いた。
「指輪が手に入ったらどうするんだ」
『4つ揃ったら道が示される』
嘘じゃない。
あちこち抜かしたけど、嘘は言ってない。
信用できないからそれ以上は教えたくなかった。
「君はいくつ手に入れた?」
『1つ』
「それを俺に渡してくれ」
右手を突き出すグラムに首を振った。
『無理。自分の力でダンジョンを攻略して指輪を得なければ意味がない』
憶測だけど多分正解。
「いくつもあるのか」
信じられないとこっちをジロジロ見てくるから、怒った顔で外を指差した。
私じゃないプレイヤーがこの世界に居たとしたら、裏ボスを倒せばまた指輪があるはず。
このグラムを白い世界が引き合わせたのなら、間違いないと思った。
「悪かった。道案内に一緒に来てくれ」
嫌だと拒絶する。
『その姿で行けばどうなるか分かるはず。それに、氾濫の後のモナークには怖くて行きたくない』
グラムは考える顔で短い間宙を見ていた。
「確かに今のモナークは危険だ」
『見てきたの?』
「殆どの町が壊された」
『生きてる人は?』
ドキドキしながら書いた。
「少数だがいる。ダンジョンに逃げ込んで、氾濫が収まるまで中の魔物の肉で生き延びたらしい」
魔物の肉でと聞いて、突然の吐き気に襲われた。
地上にいる魔物は感じないけど、ダンジョン内の魔物は鉄の臭いがする。
考えるより体が拒否した。
グラムは35の町のダンジョン以外は逃げ込めた、と話してくれた。
35の町の…。
やはり…炎の竜は人間を拒絶したんだ。
きっとが…、の事で人間が嫌いになったままだ。
が…、はカレンが死んだの知ってるんだろうか。
多分知らない。
炎の竜は、が…が思い出すのも許さない気がした。
『モナークが落ち着いたら潜れば良い』
「一緒に来てくれ」
『無理。龍人ならソロで潜れる』
「案内人は必要だ」
ホントに強引なのも同じだ。
『グラムと同じでイエスと言うまでごねるつもり?』
グラムがぎょっとした。
『神があなたを必要なら探さなくても道は開ける』
「あいつじゃない!俺が選ばれた者だっ!」
言ってる意味が分からなかった。
あ、そう言えば聞いてなかった。
『グラムは村に戻れたの?』
メモを見せるとグラムは表情を変えた。
「あいつからは嘘を吹き込まれてるだろうが。奴は帰って来て。また自分から出てった」
嘘だ。
怒ってるような引き吊ってるような顔から嘘だと分かるけど、今更追求しても意味がない。
ただ、グラムを罠にかけたのは目の前のグラムの気がして、凄く嫌な気分がした。
『それなら良い』
「ダンジョンに潜れるまでは暫くかかる」
めんどくさくなって外を指差した。
「世界の危機何だぞ。救おうとは思わないのか」
近付いてきて怒鳴るから振り払って逃げた。
『私に救う力はない』
走り書きを投げ付けた。
「俺が救う。だからお前も手助けするべきだ」
『ノー』
強引に出ても聞かないと思ったのか急に態度が変わって、軟らかくなった。
「お願いだ。君もこの世界が壊れたら困るだろ」
『私は困らない。グラムを殺す時私も死にたかった』
「あいつは君に生きて貰いたいはずだ」
馬鹿みたいだけど、気付いたらふふ、って笑ってた。
『そうなら私に殺させるわけないよ』
どう断ってもグラムは聞かなかった。
それでもしつこいとはグラム自身も感じたのか、思い付いた様に話題を変えてきた。
「冒険者ギルドのギルドランクがSS以上になると王と同じ権限を持つと聞いた。本当か?」
『知らない』
昔クラークさんに聞いた記憶があったけど、知らないで通すと決めた。
「お前のランクは?」
『SSS』
グラムは驚いていたが直ぐに納得した顔をした。
「SSSでも話せなければ王になれないか。聞いてないのも当然だな」
言い方にムカッとしたけど黙っていた。
私が何を言っても無駄だから。
私と龍人。
2人の力関係は全てに勝ってる龍人へ傾いてる。
まさか、グラムはモナークの王になる気なの?
もしかしたら、モナークだけじゃなくハルツの王にもなるつもりに思えた。
!
チェスターもだ。
グラムの言う世界を救うって…、この世界の王になるって事なのかも。
それは…無理だ。
今はチェスターに入れても、チェスターの神の壁は敵意を持ったグラムを拒絶して入れなくするだろう。
なら白い世界がグラムと私を引き合わせた理由は?
考えても答えが見付からなかった。
まさか氷の竜のところまで私に道案内にさせたいの?
!!
グラムは光の結界を抜けてきた。
恐怖で身震いが出た。
私の中で絶対安全な場所だったこの家が、今は何の価値も無くなっていた。
言葉に出来ない恐怖が襲ってくる。
この世界から出たい!
この前よりもっと強く思った。
震えてる私には気付かず、グラムは部屋の中を歩きながら何か考えていて、思い付いた様に言った。
「よし、俺も冒険者になる」
………
「ランクを上げるにはどうすれば良いんだ?」
まさかランクを上げて王になるとか考えてるの?
傲慢なグラムなら有り得そうで顔が引き吊った。
「教えてくれ」
『クエストをこなせばランクが上がる』
何度も聞かれ、嫌々クエストの話をグラムにした。
ランクで受けられるクエストが決まっていると書いたら凄い顔をしていた。
「どこから始めるんだ」
『どの町からでも始められる』
「瓦礫に埋まってるモナークとハルツは無理だな。チェスターから始めるしかないか」
モナークとハルツが復興するまでの間に、グラムはチェスターでギルドランクを上げるつもりらしい。