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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
20~35の町のダンジョン
81/95

居場所



国が荒れると生活も荒れる、とか社会で習った。

モナークで、習った事が現実になってきていた。

冒険者同士の喧嘩、商人の売り渋り等、力の無い者がその被害をまともに受けた。

私にもその余波は押し寄せて、品薄で買い物は不便になるし物の値段が上がるから宿の宿泊費が上がった。

1度始まった負の連鎖は止まるところを知らない。

宿の主人に頼まれて、何人かの冒険者が狩りに出掛けたが魔物の力が増してきて怪我人ばかり増えた。

町中で肉が不足していた。

畑も荒らされ、食料危機が現実になった。

「町の中に畑を作れ」

「夜中に盗む奴がいるから見張りを立てろ」

人間関係がぎすぎすして、喧嘩が絶えなくなった。

そんな時に両方のギルドがギルドランクを昔に戻す、と今更遅い発表を出した。

冒険者も商人も、もうギルドを信頼してないから発表に振り回されたのはまた低ランクだけだった。

ランクの高い冒険者は、魔物を狩れば生活出来るしお金にもなる。

商人も冒険者が狩った魔物の素材を商えばギルドが無くても困らなかった。

自然に冒険者と商人の間で手を握り合うようになる。

そうなってから、両方のギルドは自分たちの計略の甘さに気付いたがもう遅かった。

依頼も無く依頼を受ける冒険者も居なくなり、手数料が入ってこなくなればギルド職員の生活は詰まった。

生活出来なくなったギルド職員が、冒険者の預金に手を出すのは予測できる流れだった。

気付かれないと思っていたのは当事者のギルド職員だけで、当然町で孤立していった。

「金はある。売ってくれ」

「それは誰の金だ。他人の金を使う奴に売る店はこの町のどこにも無いだろうな」


そんな空気の中、47の町が魔物に襲われていると聞こえてきた。

ダンカンさんとミシェルさんの顔が浮かんで、直ぐに宿を出て47の町へ転移した。

47の町はダンカンさんを中心に持ちこたえていた。

幸いボスもいなくて氾濫と呼べる規模じゃないから、防御の手薄なところから倒していった。

討伐の目処がたつと、私が転移で逃げる前にダンカンさんが近付いてきて、声を掛けられてしまった。

「助かった。ありがとう」

握手を求められて焦った。

「君が居なかったら危なかった」

『間に合って良かった』

ダンカンさんはメモを見て、じっと私を見てきた。

「ルアン、か?」

あっ!

言われて自分の姿にハッとした。

20の町で会った時とは姿が変わっている。

どう言い訳しようかと思ってたら、ダンカンさんが笑いながら言った。

「そうか。髪を染めていたのか」

ダンカンさんは納得したように頷くと、私を店まで引っ張っていった。

もしかしたら…ダンカンさんは女性の区別が苦手?

メモを見て私じゃないかって思った気がする。

私がメモに書かなかったら、ダンカンさんは私とルアンを重ねなかったと気が付いた。

「ミシェル。話してたルアンだ」

背中を冷や汗が流れる。

ミシェルさんは私を見て、歓迎してくれた。

確か、36の町のミシェルさんの所に行った時はこの姿に近かったはず…。

ひやひやしながら記憶を手繰り必死に思い出してた。

「良く来てくれたわ」

「ルアンが討伐を手伝ってくれたんだ」

「そうなの。ありがとう」

ミシェルさんからこの前の話が出なくてホッとした。

「今日は家に泊まって」

『いえ。宿をとってるので』

「この町の宿は営業してない。もっと上手い嘘を考えるんだったな」

ダンカンさんは大きな声で笑って背中を叩いてきた。

「外で大きな声を出すな」

家からおじいさんまで出てきてしまった。

「おやじ。話していたルアンだ」

一瞬だけど、おじいさんと目があってしまった。

気付かれた!

「討伐のために来たのかい?」

おじいさんの口調は優しいけど、目は笑ってない。

《わしを信用できたら…》

あ…、おじいさんは私の答えを待ってるんだ。

信用して、何が変わると言いたいんだろう。

答えは『否』だ。


翌朝早く、ダンカンさんとミシェルさんには悪いけど48の町へ戻ろうとした。

泊まらせて貰った部屋を片付けて、ステータスを開いたら転移が使えなくなってた。

誰かに見られてる?

部屋の中には誰も居ない。

なら扉の外?

光の結界を張って、用心しながら開けたら真剣な顔のおじいさんがいた。

「わしが言った言葉を覚えておるか?」

警戒しながら頷いた。

「情報欲しさに来ると思っていたが、もう時がない」

時間がない?

何の?

おじいさんから1歩下がった。

「弟王子を助け出して貰いたい。48の町のダンジョンを攻略できたお前なら可能なはずだ」

色んな事が一瞬で頭の中を走った。

私が魔法を使うと知ってる。

弟王子の居る場所も。

私がチェスターから来たことも、おじいさんに知られてる危険もあった。

「弟王子を助けてくれたら誰にも何も言わん」

…脅迫してるんだ。

ホントこの世界は狂ってる。

可笑しくなって、笑ってた。

「この老人の頼みだ。北の塔から助け出してくれ」

1度首を振った。

「拒むと言うのか」

顔が変わったおじいさんをただ見た。

「モナーク国に居られなくなるぞ」

そんなのどうでも良かった。

あれからもう三月以上経ってる。

今更助けに行っても生きてる可能性は0だ。

ダンカンさんとミシェルさんも私の敵なんだ。

ホント、馬鹿だ。

「1度で良い。弟王子を救出したら、お前がチェスター国のスパイなのは黙っていてやる」

信じられなかった。

クラークさんと同じように、1つ手伝えばまた次から次とやらされる。

何でこの世界はこんな人間ばかりなんだろ。

『チェスター国と戦争しますか?』

走り書きを見せてもおじいさんは引かなかった。

「お前を捕まえればチェスター国も手は出せん」

『軍が5人のチェスター国民を捕まえたように?』

「あの5人は煙のように消えてしまったそうだ」

あぁ…、チェスターに新しく生まれ変わったんだ。

「お前は消させない」

おじいさんは、右手に隠し持っていた赤い玉を私に投げ付けてきた。

咄嗟に顔を隠した。

その後、ピリッと静電気みたいな感覚が襲った。

その後は…覚えてない。

多分風魔法でおじいさんを吹き飛ばした?

おじいさんは背中をつぶけたのか床で呻いていた。

「どうしたっ!」

かなりな音がしたらしく、ダンカンさんとミシェルさんが寝巻きで走ってきた。

「おやじっ、ルアンっ!」

何があったのか分からないらしいダンカンさんが、おじいさんを抱き上げながら私を見た。

私も見返した。

「ダンカン!ルアンを捕まえろっ!こいつはチェスター国のスパイだ!」

ダンカンさんが驚いた顔で見てきた。

ダンカンさんの後に居るミシェルさんも見てきた。

「スパイだって?本当なのか」

私がメモを書くより、おじいさんが話す方が何倍も何十倍も速い。

だから何もしなかった。

「捕まえろっ!捕まえて弟王子の救出に行かせろ!」

「…おやじ」

ダンカンさんは支えてるおじいさんを見下ろして、苦しそうに声を出した。

「速くしろ!弟王子さえ救出すればまだ国は助かる」

「おやじ、北の塔はもうない。弟王子はチェスター国の5人と一緒に瓦礫の下だ」

「まだ助かる!瓦礫の下でまだ生きてる!」

「おやじ。すまねぇ」

ダンカンさんがおじいさんに当て身を喰わせた。

ダンカンさんに腕を捕まれていたおじいさんは、ずるずると床に座った。

ミシェルさんが走り寄っておじいさんを支えた。

「おやじがすまなかった」

ダンカンさんは顔を歪めて、弟王子は北の塔へ幽閉された翌日に処刑されたと話した。

「自分以外の王位継承者を王は全て殺してしまった。知らせを受けた時は冷静だったのに、おやじは弟王子の死を受け入れられなかったのか…」

弟王子が処刑されたと知った時、おじいさんが無茶な行動を起こすのではないかと危惧していたそうだ。

「現実を受け止めてると思っていたが…」

ダンカンさんは、哀れむようにおじいさんを見た。

おじいさんは、弟王子が小さい頃側近だったらしい。

「前王が亡くなって。次の王を国民が決めた」

国民が決めた?

意味が分からない。

ダンカンさんが私の顔を見て話してくれた。

「普通王子が1人ならその王子が国王になる」

頷いて見せた。

「モナーク国の昔からの決まりで、王子が複数いたら国民が王を決める」

あ、誰かが言ってた。

《あの時弟王子を選んでいれば…》

あぁ、 あれはこの事だったんだ。

『モナークの国民は弟王子が生きてると思ってる』

「おやじに言われて俺たちが流したんだ。…あの頃から狂ってたんだな」

最後の方のダンカンさんの声は震えていた。


ダンカンさんの横を抜けて家の外に出た。

見ると転移は使えるようになっていた。

何故か、48の町に戻る気持ちにはなれなくて、10の町を選んでタップした。

10の町の宿屋はやっと営業を開始した所だった。

一月分先払いにして、惰性でダンジョンに潜った。

今回も、やっぱり裏ボスに挑む勇気は出なかった。

…なんだ。

私死にたくないんだ。

あの時はグラムと一緒に死にたいと思ったのに、今は死ぬのが怖くて裏ボスに挑めない。

滑稽過ぎて笑える。

昔から根暗な自分が嫌いだった。

こんな醜い自分を見せられると、やはり死んだ方が良いと思ってしまう。

楽に死ねる方法って無いかな。

きっと自分の魔法じゃ死ねない。

なら…なら…。

鬱々と考えてると、冒険者ギルドから迎えが来た。

迎えの青年は20の町で見た最初の青年に似てた。

「ルアンさんですね」

青年を見ながら頷いた。

「門番が着て欲しいそうです」

『クラークさん?』

「はい、そうです」

青年はメモを書いてる私を見て驚いてたけど、直ぐに立ち直って頷いた。

『それは強制?』

「違います。お願いです」

お願いと言う強制。

チェスターもなのか…。

生まれ変わっても、人は変わらない…。

苦いものを飲み込む気持ちで、青年と冒険者ギルドまで足を運んだ。

冒険者ギルドにいたクラークさんは前のクラークさんと同じ顔なのに、雰囲気はずっと柔らかかった。

「君がルアンだね」

『はい』

「最初に聞くけど魔法は使えるようになった?」

『転移は使えるようになりました』

「転移だけ?」

何が言いたいのか分からなくて、頷いて先を待った。

「魔法は無理?」

『魔法もvoiceも使えません』

書きながら、ダンジョンで魔法を使わなくて良かったと本気で思った。

「そうか…、職員からそう聞いてたけど、本人に確かめたかったんだ」

『職員に確かめたとは?』

嫌な予感しかしない。

「悪いと思ったけど後を着けさせて貰った」

やっぱり。

思わず目を瞑って天井に顔を上げた。

「君が魔法を使えたらこの動乱も収められたのに、とても残念だよ」

予想もしてない言葉に、思わずクラークさんを凝視してしまった。

魔法が使えてもこの騒ぎは収まらないと思う。

『動乱をどう収めるつもりだったんですか?』

「力で捩じ伏せる」

え?

「再三チェスター国を狙うモナークをチェスター国が統治すれば争いも起こらない」

………

ホントに人間って自分勝手だ。

神の箱庭でさえ人の上に立とうとする。

これじゃ氷の竜が人間を見捨てたのも当然だと思う。

もしかしたら…私をこの世界に送った白い世界も、身勝手な人間を見離したのかも。




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