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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
20の町からモナーク国王都
73/95

氾濫とグラム



この数日間忘れたように一言二言が聞こえてきてた。

それは『…ア…』だったり『…カレ…』、『…アン…』や『…ン…』だったり寝言みたいに聞こえてきたてた。

『グラム?』

何度か問い掛けたけど、答えは返って来ない。

何も出来ないじれんまで苛々して31の町へ着いた。

このままでは20の町へも行けない。

苛々しながら31の町で宿を取った。

『…カ…ン…』

夕食を食べて部屋でぼんやりしてたらまた聞こえた。

カレンを呼んでる。

やっぱりグラムなんだ。

ちょっぴりがっかりしてたら、突然クラークさんの声が聞こえてきた。

『ルアン。やっと通じた』

答えなかった。

『ルアンが受け止めた意味で言ったつもりはない』

今さらどうでも良かった。

あの後のチェスター国からの報道ももう関係ない。

『説明したい。1度戻ってきてくれ』

戻って何が変わるんだろ。

モナーク国の軍に追われる現実は変わらない。

それをチェスター国が止めさせるよう動いてくれるわけじゃない。

『ルアン。探してるグラムの情報もある』

可笑しい。

グラムを探してるわけじゃないのに。

『ルアン、応えてくれ』

voiceを切ることも応えることもしなかった。

もしクラークさんが私の居場所を察知してたら面倒だけど、その可能性は低いと思えた。

私にすれば聞こえる音が2つになっただけ。

翌朝、20の町の温泉宿に戻ってまた一月予約した。

クラークさんの声は3日もすると聞こえなくなった。

諦めたとは思わないけど、どうでも良い。

ぼんやり5日が過ぎようとしてた。

相変わらずグラムらしい声は聞こえて来てて、どこかで生きてるんだと思った。

6日目の夕食の時、泊まり客が氾濫の話をした。

「また起こったようですなぁ」

「ええええ、今度も30の町とか聞いてますよ」

「王都に近いから狙われるんではないか、と最近は軍も話してるそうですよ」

王都に近い?

30の町が?

王都までの魔方陣が30の町にあるのかもしれない。

部屋に戻って、ステータスから地図を見てみた。

ホントに30の町の少し前に氾濫の兆しがあった。

氾濫の規模になるまで1週間はある大きさだから、その間にモナーク国も迎撃体制を整えるだろう。

地図で気になったのは、兆しがハルツ国にもあって場所が前回と近かった。

そうか、氾濫は2つの国の王都に向かってるんだ。

それから3日。

30の町へ向かっている予兆は、明日には氾濫の規模になりそうだった。

逆にハルツの国の兆しは動きが遅くて、消えるかもしれないくらい小さくなっていた。

白い世界は何を考えているんだろう。

モナーク国の王都を破壊したい?

でも何故?

疑問のまま更に5日が過ぎた。


明日には氾濫が30の町を襲うだろうと思ってたら、クラークさんからまた念話が着た。

『ルアン。明日にはまた30の町が氾濫にやられる。助けに行ってくれ』

氾濫が白い世界の意思なら、何故それをクラークさんは止めようとするの?

『…ル…アン…』

あ、グラムは瀕死でどこかに隠れてるの?

龍人は再生するから中々死なない、ってグラムを売ってた奴隷商が言ってた。

もし死ぬことも生きることも出来なかったら?

助けて欲しくて呻くようにカレンと私を呼んでるの?

グラムが軍の施設を逃げ出したって聞いてから、もう一月が過ぎてる。

急に心配になってきた。

クラークさんならグラムのいる場所が分かるはずだけど、聞いてまで助けようとは思わなかった。

やっぱり私は壊れてるのかもしれない。

心配はするけど、何かをしてまで助けようとは思えなくて、お金が続く限りこの宿に泊まってても良いな、とか思ってしまう。

味気ない夕食を食べていたら、金持ちそうな泊まり客2人が呆れた口調で話しているのが聞こえた。

「軍はまだチェスター国を諦めてないのか」

「魔法使いの友人だと誤報された少女をまだ追い掛けている様だな」

「そうらしい。軍が氾濫の討伐をチェスター国に要請したようだが断られたそうだ」

「魔法使いを討伐に向かわせて、また隷属の首輪で狙われては敵わないからな」

「我々でも利の薄い軍との商いはしたくないと思うのに、恩も義理もないチェスター国が動くと思うのがそもそもの間違いだ」

「さっき店の者が持ってきたんだが、軍はその少女を捕まえてチェスター国に侵入できるように画策するつもりだったらしい」

「しつこいな」

「チェスター国から冒険者ギルドと商業ギルドに通達が着たそうだ」

片方の泊まり客がもう片方に手紙らしい物を渡した。

『チェスター国より


警告は無駄だった。

モナーク国、ハルツ国。

両国に告げる。


再度の警告に従わず神の壁を超えようとする愚か者は神の裁きを受けるが良い』

泊まり客が声を出して読んでいたから、周りの客も集まってきて後ろから覗き込んでいた。

「これは軍に向けた最後通告じゃないか」

「30の町を襲う氾濫にチェスター国は動かない、と公言してると受けとるべきだろう。嫌、氾濫そのものがモナークに対する神の罰ととらえるべきか」

「30の町を飲み込んだら、他の町を襲うだろう」

「軍の暴走で我々も危険に晒される」

「そんな事は納得出来ない」

泊まり客たちの声が怒りを含んできた。

「軍は少女を捕まえてチェスター国に侵入するつもりらしいが、可能なのか?」

「可能だと思っているから捕まえようと探してる」

「捕まえたとして、その少女は本当に軍隊をチェスター国に連れて行けるのか?」

「連れて行けると思ってるから探しているんだろう」

「もし本当に連れて行けたら、利益は膨大になるぞ」

「逆に失敗して神の怒りを買う可能性もある」

「俺は静観する。これはリスクが高過ぎる」

これが商人の本音なんだと思ったら笑えた。

翌日、氾濫は30の町に達した。

軍も住人も逃げられる者は逃げたらしい。

取り残されたのは馬車に乗るお金も無い者たち。

きっとその中にはノアンも居る気がした。


『ルアン。応えてくれ』

クラークさんは何故必死になるんだろう。

本当に氾濫を止めさせたいなら、また白い世界が私を呼ぶはずだって思った。

そうしないのは、氾濫が起こってモナーク国の国民が死んでも白い世界は困らないからだ。

『ルアン。氾濫のボスはグラムだ。それでも動かないつもりなのか』

嘘。

グラムがボス…。

有り得ない。

ステータスの地図を見た。

不思議な形態の氾濫だった。

ドーナツみたいに魔物の大群の真ん中が空いてて、ポツンとボスがいた。

この中心がグラムなの?

信じられなかった。

だけど、クラークさんが嘘を付くとも思えなくて、迷ってルアンの姿で氾濫の中央へ転移した。

出たと同時に光の結界を張る。

!………

あぁ、何て…。

クラークさんの言うことは本当だった。

身体中に鱗が浮き上がったグラムが、真っ赤な目で30の町へ向かっていた。

グラムは私を見ていない。

グラムの首は黒くただれて、燃えてるように見えた。

グラムの首に隷属の首輪は見えないから、外されたタイミングで逃げた?

回復と再生の魔法を掛けた。

初めて使う魔法だから、再生の効果が予測できないけど、それしか助ける方法を思い付かなかった。

グラムが止まって私を見た。

まるで滴った血が水に流されるように、赤かったグラムの目が昔に戻った。

「…ルアン」

『私が分かる?兎に角ここを離れよう』

今はクラークさんに聞かれても仕方無い。

グラムと横にある森の中へと転移した。

氾濫の群はボスを失って右往左往しているから、可能な限り奥に翔んだ。

テントを出して、隠蔽をオンにして光の結界を張る。

焼けた臭いがきつくて、テントのサイズを5人用にして風で中と外の空気を循環させた。

上級ポーションを5本出して、むせないよう気を付けながらゆっくり飲ませた。

「ルアン」

力尽きたように横たわるグラムに頷いて見せる。

『何があったの』

「カレンとサブリーダーと仲間が潜伏してる家へ行った。その後の記憶がない」

途切れ途切れそう話すのに5分以上かかって、その間もグラムは辛そうだった。

<最初グラムに隷属の首輪を着けた>

グラムの記憶はそこで途切れてるんだ。

『何故氾濫のボスになったの?』

「分からない。意識がぼやけて、たまに起きたみたいに覚醒する、を繰り返した記憶がある」

頷くしかなかった。

さっきの姿はグラムの記憶に無いと思うから。

「途切れた記憶の中に、軍人と首輪がいくつもある」

<幾つか試して>

あぁ、あの話は本当だったんだ。

グラムは自分の喉を触って言った。

「万能薬、無いか」

アイテムボックスから出そうとしたけど出せない。

前の時は出せたのに、何故出せないの?

仕方無く首を振った。

グラムは悔しそうに唸って、テントの床を叩いた。

「あれは罠だ。俺もカレンもあのサブリーダーも、そうと知らず軍に捕まった」

どんな罠だったのか聞きたかったけど、苦しそうに話すグラムには聞けなかった。

それに…もうカレンも偽サブも居ない。

話を聞いてると、カレンだけじゃなくあの偽サブもグラムは信じてる。

グラムに真実を話すべきだと思ったけど、どう伝えても私が殺したと言うのは辛かった。

急にグラムの頭が落ちた。

グラムの口からウゥーグゥーと獣の唸り声のような声が聞こえてきて、床をのたうった。

グラムの目が赤く染まって狂暴な顔に変わる。

慌てて回復と再生を掛けると、呻きながら徐々に動かなくなって静かになった。

眠っているようなグラムの体に毛布を掛けた。

グラムの首には縄を何本も何本も巻いたような痕が付いていて、その傷の奥から溢れる溶岩のような膿のような何かが動いてるのが見える。

グラムの体に掛けられた隷属の魔法が、龍人の回復の力に抗っているように見えた。

1、2時間寝ては呻くを繰り返して、4、5回に1回くらい短い会話が出来るくらい意識が戻る。

呻く度に回復と再生を掛けてポーションを飲ませた。

それを2日続けた。

寝不足でふらふらしながら回復と再生を掛ける。

3度目に目が覚めた時、グラムは真剣な顔で私を見て話し始めた。

「ルアン。俺はもう駄目かもしれない。体の中を毒が回ってむしばんでいく」

苦しい息で言うと仰向けになった。

「隷属の鎖が俺の意思を食い破る」

『どうゆう意味?』

voiceを使う力も無くて、メモに書いた。

「俺が意思の無い魔物になると言う事だ」

………

最後のカレンの姿がグラムにダブった。

「夢の中で俺はモナーク国の王都を襲撃していた」

『知ってるの?』

「知らない。だが龍人は予知夢を見る」

『現実になるってこと?』

「俺は金髪のルアンに殺される」

!!

腕がぶるぶる震えて文字が書けなかった。

カレンだけじゃなくグラムも私が殺す…、喉に何か詰まったみたいに吐きたくても息が吐けない。

殺させるために助けさせたなんて…残酷すぎる。

「俺が狂気に飲まれたら、躊躇わず殺してくれ」

グラムは走り続けた様に荒い呼吸でそう言った。




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