カレンとレナルド
消えました
書き直したので話の流れが少し違うニュアンスの書き方になってしまってます
…え?
はっとして目が覚めた。
慌てて地図を確認して、え?居ない!
だから寝ないようずっと意識を外に向けてたのに、いつの間にか寝てしまっていた。
嘘。
どこっ!
宿には…居ない。
もしかしたら…、地図でレナルドの位置を探しながら、軍の施設の手前に転移した。
やっぱり…、レナルドはもう施設の中に居た。
入口から直ぐの、テントの後ろに居るのが分かる。
今日の施設は昨日とまるで違っていて、表向きの見張りの数は昨日より更に少ないのに、隠れてる兵士は昨日の倍近く居る感じだった。
レナルドは慎重に移動してるけど、そのレナルドを囲むように兵士の包囲網が迫ってた。
どうしよう。
レナルドの向かう方向には魔法使いも隠れてる。
無理だ…。
軍の魔法使い5人に、私1人で挑む勇気なんて無い。
これだけレベルが上がっても、私1人と複数の魔法使いなら勝機は魔法使いにある。
これがせめて軍の施設に入る前なら…。
あぁ、そうか。
白い世界は私がレナルドを助けないよう、わざと私を眠らせたんだ。
真夜中の町は寝静まってる。
自分に光の結界と隠蔽を掛けて、施設の入口に1番近い家の角に移動した。
地図からレナルドを追う。
レナルドが近付くと魔法使いが後退して距離をとる。
?
レナルドは、地図でも持ってるように施設の中を隠れながら移動してる。
何処に向かってるの?
まるでカレンが囚われてる場所が分かってるようなレナルドの行動に、嫌な予感と疑問が浮かんだ。
改めて、地図から施設全体を確認する。
レナルドが向かってる方向には1番大きなテントがあるのに見張りの影はなくて、隣のテントの前に4つの反応があった。
?
そのテントの中の反応は1つだけ。
これ、罠だ…。
誰かがカレンの居場所として、レナルドが今向かってるテントを教えたんだと思う。
でも、誰が?
そんなの詮索してももう遅い。
きっと施設内の地図も一緒に渡したんだろう、だから真っ直ぐ罠のテントに向かってる。
もう一度施設の地図を見直して見る。
施設の中には兵士と魔法使い5人とレナルドだけ。
軍人は?
何で居ないの?
誰の命令で兵士は動いてるの?
不吉な予感しかしない。
レナルドが罠のテントの裏に回ると、囲んでる兵士も一緒に場所をずれる。
もうすぐ、もうすぐ。
緊張で心臓がどくどくした。
レナルドがテントに入った時、全部が終わる。
無意識に両手を拳にして握りしめてた。
それがどのくらいの時間だったのか分からないけど、手のひらの痛みで意識がレナルドから離れた。
手を広げて見ると、手のひらに爪がくい込んでた。
傍観者の私が緊張しても何も変わらないのに。
苦笑いしかない。
1回深呼吸してまた意識をテントに戻した時、レナルドはポツンとあったテントの反応と重なっていた。
!
伝わって来ないのに、衝撃を予想して思わずぎゅっと目を閉じた。
少しして、薄目を開けて地図を見る。
え?
地図は変わらなかった。
テントの中のポツンの反応とレナルドが重なったまま動いてなくて、兵士もその2人を囲んで動かない。
異様な地図だった。
!
もしかしたら、兵士は普通の兵士じゃなくて隷属の首輪を付けられた志願兵かもしれない。
この状況で誰も動かないなんて、そうとしか考えられなかった。
でも、何故?
どのくらいそうしてたんだろう。
レナルドともう1つの反応がゆっくり動き出した。
1歩1歩歩いてるような移動に、私の方が焦れた。
カレンが歩けないなら、レナルドがおんぶするか抱っこするかすれば良いのに。
苛々しながら、何度も地図を見た。
カレンとレナルドを見張る兵士も魔法使いも、周りを囲んで移動するだけで行動を起こさない。
軍の狙いが解らなかった。
思わず周囲を見回した。
外から軍の施設を見張ってる感じはしない。
なら、何が目的でこんな事を?
いくら考えても理由が思い付かなかった。
のろのろと施設の出口を目指す反応を、じりじりしながら見守った。
この信じられない遅さだと、夜の間に外へ辿り着けるのか凄く不安になる。
夜明けまで、多分あと1時間くらいしかない。
レナルドはどうするつもりなんだろう。
もし幸運で施設の外に出られても、この速度で宿に辿り着くのは人目もあって無理な気がする。
何してるの!
つい地図に叫んでしまう。
レナルドがカレンの手を引いてやっと出口にその姿を見せた時、朝焼けが暗い空を染め始めていた。
私が隠れてる場所からレナルドたちまでの50メートルくらいの距離がもどかしい。
!………。
思わず走り寄ろうとして、薄明かりに見えたカレンの影に目を疑った。
レナルドに手を引かれるカレンは猫背で、年取った老婆の様だった。
…行くのはよそう。
カレンはきっとそんな姿を私には見られたくないはずだから、ここから動かないと決めた。
空が薄青くなり始めて、軍の施設を出てホッとしたからか、レナルドの顔に安堵が見えた。
その視線が施設の出口を見て、足が止まった。
そうか、レナルドはカレンの後ろの兵士に今まで気付いてなかったんだ。
足を引き摺るカレンに押されて、レナルドがはっと我に返ってまた手を引いた。
レナルドは警戒してる様だけど、兵士も魔法使いも線を引いたように出口からこっちへは出てこない。
多分出るなと命令されてるんだと思う。
魔法使いも?
その疑問も、氾濫の時の魔法使いの処罰の話を思い出したら、本当だっだんだと理解できた。
志願兵のように、魔法使いの首にも隷属の首輪があると思うと哀れだった。
しわくちゃの長袖で裾を引きずるドレス?を着たカレンは、しんどそうに1歩1歩足を進めていた。
言葉が出ない。
声が出ないのに両手で口を覆ってしまって、喉が焼けるように熱かった。
胸の噴火みたいな熱が出口を求めて喉を焼く、吐き出せない怒りに体が震えて涙が出た。
これが、これが人が人にする事なの…。
カレンの姿を見て、怒りより強い憎悪と恐怖の感情が吹き出した。
カレンの囚人の様な暗い灰色の服が、老婆のような姿と重なって痛々しくて、身震いが出た。
あの氾濫の時、光の結界を張るのがちょっとでも遅れてたら…そう考えるだけで怖い。
カレンの姿が、過去と現実を重ねてあの時捕らえられてたら、と恐ろしい未来を見せ付けた。
カレン…。
もう友達とは思えないけど、こんな姿は見たくない。
風が吹いて、長いカレンの服の裾が翻った。
!!
一瞬見えたカレンの足首に、鉄の足枷が見えた。
信じられなくて凝視してしまう。
風が裾を翻す度に両足に足枷が見えた。
…だから。
レナルドはカレンを抱き上げられなかったんだ。
何て残酷な…。
隠れてる家の中から、カタカタと家人が起きた音が聞こえてきてはっとした。
まさかだけど、軍はこのカレンの姿を町の人に見せるつもりなの?
!
まさか…、この姿を見せたら私が助けるとか?
だから、だから外まで…。
ガタガタと体に震えがきた。
否定したいのに、モナークの軍ならと思ってしまう。
レナルドがカレンの手を離して、周りに誰かを探す。
!
ダメだよ。
レナルドが今探してるのは、カレンの情報と地図を渡した相手だと思った。
きっとそれも罠だから。
思わず私も周囲を探した。
突然手を離されてふらついたのか、カレンがレナルドに寄り掛かったように見えた。
同時に、レナルドの体がビクンと跳ねた。
驚いた顔でカレンを振り返るレナルドと、嫌々をしてるように見えるカレン。
2人の間に何があったのか、私のところからは喧嘩してるようにしか見えない。
カレンが2度、3度と体を前後に動かした。
レナルドがカレンの肩を抱くようにして、ずるずるとしゃがみこむ。
まるでスローモーションの画面を見てるようで、何が起こったのか何も分からなかった。
レナルドの体がグラリと地面に横たわった。
嘘、嘘でしょ。
膝ががくがくして、走り寄る事も出来ない。
家の壁に手を付いて、崩れそうな体を支えた。
その時寄り掛かっていた家の扉がバンッと開いて、中から男が大声でわめきながら出てくると、カレンとレナルドに走り寄った。
「やったぞ。やったぞっ!」
その声に聞き覚えがあった。
男は歓喜としか聞こえない声で、笑いながら狂ったように叫び続けた。
偽サブだ。
ここにカレンが居るのに、何で操る彼の存在を消し去ってたんだろ。
安直な自分を怒りたかった。
「どうだっ!愛した女に刺し殺される痛さは」
嘘…、嘘だよね。
目の前で何が起こっているのか、理解することを頭が拒否していた。
喧嘩してるように見えたのは…。
偽サブは踞るレナルドを何度も何度も蹴って、それでも気がすまないのかカレンの手から何かを取り上げて何度も振り上げてはレナルドに振り降ろした。
「そのくらいにしておけ」
その声で、フリーズしていた頭と体が動き出した。
油のキレたロボットみたいに、ぎぎぎぎと声の方を向いたら、そこには赤茶の髪の青年がいた。
青年の後ろに兵士が控えていた。
「残念だが、ルアンは来なかったな」
!
…やっぱり。
やっぱり私を捕まえるつもりだったんだ。
まさかそれだけのためだけに、こんな残酷な事を…。
「あれの気が済んだら、カレンとレナルドの死体は処分しろ。いいな」
「分かりました。ですが何故ここまで奴の好きにさせるんですか」
「奴の壊れ具合が面白いからだ 」
「まさか」
「それに、見付ければどうなるか。軍に潜り込んでるチェスターのスパイへの見せしめになる」
青年の話を聞いてた青年が嫌そうな声を出した。
「あれは、これと決めた女を逃がした事はない。ルアンもカレンと同じ道を辿らせるには必要な駒だ」
「ルアンを利用する駒ですか」
「そうだ。あいつはルアンにチェスター国を裏切らせ、神の壁を破るための駒だ」
ここまで人を殺したいと思ったのは初めてだった。
今なら見るだけで人を殺せる気がした。
「そろそろお時間です」
少女のような声がしたと思った次の瞬間、青年の気配が一瞬で消えた。
!
声の少女は転移を使えるんだ。
それもあの青年を一緒に転移させる魔力も。
背中がぞくぞくした。
あ。
もしあの少女が私に気付いてたら…。
怖さに震えがきた。
モナーク国の魔法使いの主力は、昔の古文書の解読に回されてるって前に聞いたことがあったから、魔法使いを相手にする時は嫌でも慎重になってた。
今日の少女で、それが本当だと証明された気がした。
「それくらいでいいだろう」
残された兵士が、狂った偽サブを止めに行った。
「まだだ、まだ足りない。こいつのお陰で俺は階級を下げられたんだぞっ!」
「上官が時期を見て上げてやると言っただろ」
「それまで俺は笑われ続けるんだ。こいつさえカレンを連れ出さなきゃ」
偽サブが何を言ってるのか、最後の話で分かった。
だからレナルドが憎かったんだ。
だからカレンにレナルドを刺すように命じたんだ。
なら何故テントの中でカレンにやらせなかったの?
「そのくらいにしておけ」
「何だ?お前カレンに興味あったのかよ」
「あるわけないだろ。それよりお前、次はルアンを狙うんだってな」
「ああ、ルアンはカレンを嫌ってるはずだから、そこを突いてこっちの物にするつもりだ。それに喋れない根暗だ、ちょっと優しくすれば舞い上がるさ」
聞いててムカムカした。
確かに根暗だけど、偽サブなんかに言われたくない!
「この町に居るチェスター国のスパイはどうした」
「この町の?俺は聞いてないぞ」
青年は首をかしげて偽サブに聞いた。
「昼から噂を流したんだ。こいつもその噂に釣られてここまで忍び込んだ」
偽サブはまたレナルドを蹴った。
「俺は聞いてない」
「カレンを処刑する情報を流した。こいつを助けにルアンが来るとも流した。それを聞いたスパイは?」
「チェスター国に報告する。報告の手段は限られている。そうなれば、捕らえるのも時間の問題、だな」
2人の笑い声が聞こえた。
「まぁその前に、使い途の無いこいつを始末するか」
あっと思った時は遅かった。
偽サブの持っていたナイフが、深々とカレンの胸に刺さっていた。
!
「何だ、足の重りで倒れもしねぇ」
偽サブはさも可笑しそうに笑って、もう一度ナイフを振り上げた。
その後は良く覚えてない。
目の中が真っ赤になって、気が付いたら、私を中心にして軍の施設と町の半分が陥没していた。
これって地震じゃない。
きっとあの白い世界は地震を知らないんだ。
カレンとレナルドを、掘り返せないくらい深く、深く地中に埋葬した。
よじ登るには深すぎて、諦めて宿の部屋に転移した。
宿は大変な騒ぎになっていた。
世界の終わりだと泊まり客が騒いでいた。
世界の終わり?
可笑しくて泣きながら笑った。




