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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
43の町から50の町
68/95

アンリとレナルド



翌朝、連泊するため私が風邪を引いた病人になった。

2日分の部屋代を先に払い、私だけ朝と昼は部屋に持って来て貰って食べた。

レナルドの話だと、カレンと偽サブは一緒に食堂へは来るけど会話も無く食べて部屋へ戻るらしい。

話し掛けるために、カレンが1人になる機会を待ってるとレナルドは言った。

残念だけど、そんな機会はずっとないと思う。

知りたい情報を抜き取ったカレンは用済み、と軍が思ってるだろう事をレナルドは知らない。

内心、この宿に居る5日の間にカレンは消えるんじゃないかと確信してた。

そんな場面見たくないから今日別れるつもりだった。

それが…、レナルドのゴリラみたいな熱気に負けた。

2泊しても、レナルドはカレンと話せてない。

何時も偽サブがぴったり着いてるらしい。

お陰でもう2泊追加された。

『カレン1人の時じゃなきゃダメなの?』

「軍の手先の奴が一緒の時は危険だ。接触した俺を必ず軍に売る」

だからと言って、偽サブがカレンを1人にするとは思えなかった。

夕方は私も食堂へ食べに行ってるから、主人から移る病気じゃないかと探られたりした。

「弟は風邪で喉が痛くて声が出ないんだ。これで馬車でほこりを吸わせたら本当に治らなくなってしまう」

レナルドの迫力に主人が押されていた。

泊まって4日目の夜に、夕食の後偽サブだけが何処かへ出掛けて行った。

カレンの方はレナルドへ任せて、私は偽サブの後から黒ずくめで尾行した。

多分軍の駐屯所だろうと思ってたら、高そうな店のついたてで仕切られた一角に案内されてた。

入ってぎょっとした私の元に店の使用人が近付いてきたから、チップに金貨1枚を握らせて奥を指した。

大金貨1枚を見せて、1番美味しい物をと頼んだ。

偽サブが入っていったついたてからはテーブル2つ離れてだけど、ヒソヒソくらいには会話が聞こえた。

最近は風魔法をこんな事にしか使ってない気がする。

レナルドがどう頼んでも明日は別れて、48の町のダンジョンへ行こう。

この一月近く、私が勝手にカレンだからって振り回され過ぎたんだ。

そう決めてついたての奥に意識を戻せば、赤茶の髪の青年の声がした。

「報告書によると、神の壁に阻まれたと有るが、お前の口から詳しく説明してみろ」

偽サブはカレンとの会話を繰り返し話した。

「ルアンがグラムを好きだと」

え?

「カレンはそう言ってました」

奴隷のグラムを買った話や龍人の村に戻そうとした話を赤茶の青年にした。

「その話はカレンから聞いたんだな」

「はい」

「情報から推測すると、好きとは断定できない」

茶髪の青年は、チェスター国と龍人の間に昔からの繋がりがあるとすれば、チェスター国民のルアンが龍人のグラムを助ける公算は高いと言った。

「ですが大金貨400枚以上使って助ける理由には」

「ルアンはSSSランクの冒険者だ。チェスターの冒険者ギルドがモナークを歩かせるためにギルドランクを上げたんだろう。その報償でギルドカードの貯蓄は億を超えている」

SSS!

モナークでの討伐の報酬に、クラークさんがランクを上げたと想像できた。

ランクが上がっても意味無いのに…。

「億…SSS…」

「ルアンがグラムに使った金も、命令したチェスター国のギルドマスターが補填しているだろう」

赤茶の青年は、念話の話を聞いて確信したと言った。

「し、しかし」

「考えてもみろ。お前がルアンの立場ならどうだ?大金を出して買った好きな女を、縛る事もせず次の約束も無しに自分は行けない村に帰すか?」

「…あ」

ずっと言いたくて言えなかった事を茶髪の青年が言ってくれたのは複雑だったけど、やったっ!だった。

「ルアンにその後グラムと会う気持ちは無かった」

「ですが、実際は会っています」

「1度はチェスター国の神の壁を超える事が出来た」

「はい」

「そこでチェスター国のギルドマスターから2度と神の壁を超えられないようにすると言われた」

「はい」

「お前の考えの、ルアンがグラムを好きだと仮定するなら、何故グラムを追ってこない」

「え?」

「自由にチェスター国とモナーク国を行き来するルアンが、カレンとグラムを奪還する行動に出たか?」

「いえ…」

偽サブの消えそうな返事が聞こえた。

「カレンに、ルアンが自分を好きだと聞かせたのはグラム本人だろう。自分本意な奴の考えはみな同じだ」

「自惚れ、ですか」

「カレンもグラムも、ルアンの眼中に無いさ」

赤茶の青年に妙な褒め方をされて、居心地が悪い。


偽サブは店を出ると真っ直ぐ宿へ戻った。

ついたてから出ようとした偽サブに、赤茶の青年が明日早朝魔法使いを向かわせると言った。

魔法使いと聞いて、隷属の首輪が浮かんだ。

もう理不尽とすら感じなくなっていた。

あのテントの男と赤茶の青年はどっちの階級が上なんだろうか、直に偽サブの話を聞いてるから赤茶の青年の方が下のように思えた。

宿が見えてきたところで全力で走った。

偽サブを追い抜いて宿に居るレナルドを探した。

結果、カレンもレナルドも宿に居なかった。

思わず天井を仰ぐ。

鍵は主人に預けてるかレナルドが持ってるはずだ。

わざと風邪引いてる声にして主人に鍵を確かめるとかは無理だから、隠蔽を掛けて食堂の隅で待った。

帰って来て、カレンが居なくなってると知った偽サブは軍人に戻っていて主人を威圧して喋らせた。

「連れは何処に行った!」

「客の1人と出て行きましたよ」

偽サブが出掛けてから直ぐに2人で出て行ったと主人は話していた。

「どんな客だ」

偽サブに服を捕まれて揺すられながら、主人はレナルドと私の容姿を話した。

「兄弟なんだな」

うんうんと頷く主人を突き放して、怒りの形相の偽サブが外へ飛び出していった。

検索で2人を見付けようとしたけど、魔法使いの単語を思い出して使わなかった。

カレンに首輪を着けるために、何人の魔法使いがこの町に来てるのか分からないから不用意には動けない。

冒険者ギルドの時は3人、討伐の時は10人を超える魔法使いが隷属の首輪をはめようと集められていた。

それを思えば、レナルドが帰ってくるのを食堂の隅でひっそり待とうと思った。

1時間くらい過ぎた頃、カレンが兵士に連れられて宿に戻ってきた。

連れられてって言うより連行されて、来た。

かなり暴れた様で疲れきった顔が見えた。

レナルドは?

まさか捕まった?

馬鹿みたいに焦ってたところでハッと気が付いた。

カレンが捕まったって事は、レナルドは逃げたって事で、追われてるレナルドが宿に帰ってくるわけない。

固まってると、カレンを見張る兵士を残し、他の兵士は戻っていく。

その兵士の後をこっそり付けた。

「また大目玉だな」

「今回は逃げられた士官の責任だろ」

兵士は話ながら町の外れへ歩いていた。

「取り逃がした男は解放軍のメンバーの可能性があるとか隊長が言ってたぞ」

やっぱりレナルドは逃げたんだ、良かった。

「捕まえるまで、女がどこまで情報を漏らしたか」

「それ次第で処罰も変わるな」

「逃げた兄弟を捕まえれば少しは軽くなるさ」

え?

私も?

急いで路地に曲がって、茶髪の女の子に偽装した。

どうしよう。

夜の町でレナルドを探せる自信はない。

カレンが居るうちは、レナルドもこの町に隠れて離れないだろうと思えた。

なら、カレンだ。


素知らぬ顔で宿に戻って、個室を取った。

鍵を貰って部屋に行ったら、隣の部屋の前に2人の兵士が立っていた。

兵士はギロリと私を睨んでまた正面を向いた。

個室の右隣はレナルドと借りた部屋で、左隣はカレンと偽サブの部屋だった。

壁越しに物の壊れる音と悲鳴のような声が聞こえてきて、驚いて少しだけ窓を開けて隣の音を聞いてみたら声の主はカレンだった。

「私を騙したのねっ!」

「騙されるお前を悔やめ」

「レナルドに聞いたわ。あなたあの女の部下でしょ」

「だとしたら何が変わる」

「私を施設から連れ出したのも情報が欲しかったからなのねっ!信じてたのに」

「使い物になる情報があったか?レナルドを誘きだした褒美はくれてやる」

「レナルドに聞かれて気が付いた。あなたに隷属の首輪が外せるわけ無いのに、気付かなかったなんて…」

カレンの声が涙声に変わっていった。

「入れ」

隣のドアをノックした音と偽サブの声とドアを開閉した音の後、その後隣の部屋は沈黙した。

誰かが部屋を出て行った気配もなかった。

窓に近付いて風魔法を使っても何も聞こえて来ない。

どのくらいそうしていただろうか。

コツン、コツン、と音がした。

その場にしゃがんで外の気配を探った。

部屋は2階だから下から小石か何かを投げていそう。

窓の下は路地になっているはず、どの部屋に投げているのか気になった。

投げてる人よりもっと奥の路地に転移した。

壁を伝わるように近付けば、口髭と顎髭の青年がレナルドと借りた部屋の窓に小石を投げていた。

やっぱり馬鹿だ。

捕まり掛けたのに戻ってくるとか有り得ない。

それに。

私が部屋に戻ってると思う短絡思考で、よく今まで捕まらなかったと本気で思った。

表通りから数人の駆け足が聞こえてきて、頭より体が先に動いていた。

レナルドに走りより手を引っ張って端に寄った。

走ってきた兵士に囲まれてレナルドは逃げようとしたけど、させるかとその手をぐいっと引っ張った。

「動くなっ!」

声に怖がった素振りでレナルドの腕にしがみつく。

後はレナルドの演技に任せるしかない。

意識して明かりをこっちに向けくる兵士から顔を隠すように、レナルドの背中に隠れた。

「何だ、ラブシーンは他所でしろ」

兵士はぶつぶつ言いながら表通りに戻っていった。

レナルドも状況を理解したようで、体を捻ってこっちを見てきた。

「ありがとう助かった。え?…ア、ンリ」

目を見張ってるレナルドを怒った顔で見上げた。

『取り敢えず場所を変えよう』

書いて見せれば、レナルドにごくごくとゴリラみたいに頷かれた。

通り1つ入った宿に2人部屋を取った。

「アンリは女の子だったのか」

『冒険者は男の方が都合良いから』

「そうだな」

レナルドは椅子に座って、私はベッドに座った。

「カレンと酒場に行って話した。軍に捕まっていたところを奴に助けられたと言っていた」

頷いていた見せた。

「隷属の首輪をされてたらしいのにどうやって逃げられたのか聞いたら、カレンから外されて部屋に閉じ込められてたとか信じられない返事が返ってきたんだ」

頷いた。

「奴は軍の手先だと何度も説得して、カレンも俺と一緒に逃げると言ってくれたのに兵士に見付かって、俺は逃げたけどカレンは捕まって連れていかれた」

『兵士に捕まえられてカレンは宿に戻ってきた』

「カレンは宿に戻ったのかっ!」

目が輝くレナルド。

『外から誰か訪ねてきてその後は静かになった』

「誰か?静かになったって?どう言うことだ」

『分からない。カレンの部屋の前には見張りの兵士が立っていて見には行けないから』

「くそうっ」

レナルドは座っている背もたれをガンと殴った。

「頼む。カレンの様子を探ってくれ」

『無理だよ』

「アンリにしか頼めないんだ」

レナルドは立ち上がって私の二の腕を掴むと、加減せずぐらぐらと揺らした。

痛くて顔が歪んだ。

揺するだけ揺すっといて、たった今気付いたように私からは飛んで離れて謝ってきた。

「悪い。つい興奮してしまった。でも頼めるのはアンリだけなんだ。頼まれてくれ」

『頼まれるって?』

「宿に部屋を取ってカレンの様子を知らせて欲しい。俺は動けないからアンリが報告に来てくれ」

私が解放軍の仲間なら、レナルドの望みが自分の望みだから引き受けると思う。

でも私は解放軍じゃないしカレンの未来を知ってる。

レナルドの願いは聞けない。

言ってもレナルドは聞かないだろう。

『もう一晩だけあの宿に泊まって様子を見る』

「何故一晩だけなんて言うんだ」

『私にも私の生活がある』

「金ならある」

レナルドは魔法の袋から大金貨を握って出した。

『お金じゃない。レナルドは私が解放軍のメンバーじゃない現実を忘れている』

「あ?メンバーじゃなくてもモナーク国民ならカレンの救出に力を貸すべきだ」

『レナルドの言うように国民が手助けするなら、何で逃げ隠れする。レナルドが今持ってるお金だってヒモになった相手から取り上げた物でしょ』

レナルドを部屋に残して、宿の裏に移動してから向こうの部屋に転移した。

部屋を出て廊下を見ると、前に立って見張ってた兵士は居なくなってた。

食堂へ行ってみようとしたら、宿の使用人が掃除道具を持ってカレンがいた部屋に入っていった。

開け放してるドアから中を見ると、カレンも偽サブも居なくなっていた。

下に降りて、連絡ミスでメンバーが違う宿に居ると分かった、と部屋を引き払った。

部屋代の返金はいらないと言ったから、主人は愛想よく送り出してくれた。



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