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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
43の町から50の町
66/95

情報漏れ



翌朝、隣の部屋のドアが開いた音を聞いて直ぐ私も食堂へと急いだ。

食堂は半分埋まっていた。

近すぎないよう斜めのテーブルに座る。

まだ充分声が出ないらしく、話すのが辛そうだった。

「まだ喉がおかしいわ。体にも毒が残ってるし」

カレンは朝用のあっさりスープを飲みながら、喉をさすってそんな事をぶつぶつ言った。

「回りが聞いたら変に思うぞ。声を落とせ」

「やっと声が出るようになったのよ。少しの文句くらい言っても良いじゃない」

偽サブは好きに言えと思ったのか、食事に徹すると決めたらしかった。

「ルアンのポーションが有ればもっと回復が速いのに。今居ないなんてホント役に立たないわ」

思わぬところで自分の名前が出てびっくりだったけど、偽サブは何度も聞いたようでスルーだった。

「ここの食事は美味しいわ」

カレンはパンに手を伸ばして話を続けた。

「性格は悪いけど、光属性のルアンの造る上級ポーションは凄く良く効いたのよ」

偽サブが形だけ相づちを打つ。

「魔法はガウに劣るからポーション造るしか価値無いのに、生意気でガウもグラムも呆れてたわ」

「声を落とせ。話は後で好きなだけ聞く」

「そうよね、ごめんなさい」

その後も続く話だと、意識が回復して3日目らしい。

話せるようになったのは昨日の夜からのようだ。

昨夜の夕飯の後、どれだけの話をカレンがしたのか、想像するだけでも怖かった。

2人は宿を引き払うと、本線で36の町へ向かった。

私も後ろから料金を払った。

乗客は10人で荷台は1人。

偽サブは御者に硬貨を握らせ、馬車に2人だけになるよう割り振らせた。

馬車に4人も押し込められたら息苦しい、と私も料金はそのままで2人の馬車の荷台に移った。

風魔法で2人の会話を拾いながらの旅になる。

カレンは元々お喋りなもあって、話せるようになったらずっと話続けてるみたい。

幸い私イコールポーションのイメージしか浮かばないのか、偽装の話や転移の話は少しも出なかった。

軍に偽装が出来ると知られたら…、考えるだけでもぞわぞわして嫌な汗が出た。

「あの酒場にルアンと偵察に行った時ね、姿を変える魔法を使うってルアンが言ったのよ」

「その話は聞いてないな。それでルアンは使えた?」

偽サブがカレンに先を促した。

「使えないわよ。変装じゃなくてちょっと化粧した?くらいの変わり方だから意味無かったわ」

「雰囲気が少し変わる感じ?」

「うんそう。元を知ってる人が、あら化粧したの?って思うくらいしか変わらないの。意味無いわ」

カレンの言葉に自分への悪意を感じてムッとする。

私も今はカレンが好きじゃないからお互い様なんだけど、その時はムカついて仕方無かった。

「そんなに変わらない?髪の色が変わるとか目の色が変わるとかは無かった?」

「無いわよ。裏切ったあの女を酒場で見付けた時、ルアンは私をガウのところに飛ばしたのよ」

カレンは今でも思い出すと悔しいと吐き出した。

「ガウじゃなくてルアンがカレンを飛ばせたのか?そんな話今までしてなかったよな」

「あ、頭にきてたから」

カレンは慌てて言い訳した。

「ルアンは光魔法が使えて雰囲気を変える魔法が使えて転移も使える。他には何か出来なかった?」

「無いわよっ!」

カレンのヒステリックな声が風魔法を使わなくても聞こえてきて、荷台でつい笑ってしまった。

偽サブにカレンをなだめる気持ちは無いらしい。

それから休憩になるまでの間、2人の会話は1つも聞こえてこなかった。

無言に耐え兼ねたカレンが体を動かしながら偽サブに話し掛けて、偽サブは面倒そうに返事してた。

カレンと偽サブの駆け引き?

カレンは偽サブが好きなんだと思う。

好きだから相手の動きが気になって話し掛ける。

偽サブは任務でカレンと一緒にいて、見てる感じカレンを好きじゃない。

カレンがヒステリー起こしてもなだめないで放置なのに、カレンが話し掛けると返事をする。

2人を見ていて、恋愛は怖いと本気で思わされた。

恋愛未経験の私でも、カレンに好かれてるのを利用して偽サブが情報を引き出そうとしてるって分かる。

恋してる顔で偽サブを見てるカレンが可哀想に見えて、教えて聞いてくれるなら真実を伝えたかった。


休憩の後は、またお喋りなカレンに戻った。

昔の解放軍の話から、誰と誰が恋人とか話していた。

その会話に挟めて、偽サブが私を話題に出した。

途端に不機嫌になるカレンに、偶然会った時利用できるよう情報が欲しいんだと説き伏せる。

カレンも私を立ち直れないくらい傷付けてやりたいと、憎しみがこもった声で言った。

「ルアンは話せないから自分の事は書かなかったし、話すことはそれくらいしかないわ」

「書かない?」

「話してなかったかしら、ルアンは話せないのよ」

「聞いてないぞ」

「話せないから根暗で、グラムが好きみたいだったけど、グラムは私の方が好きだって言ったのよ」

何故かカレンの声が弾んだ。

「ルアンはグラムを好きなのか?」

「そうよ。奴隷だったグラムを大金貨140枚の大金で買って自由にして、高い装備渡して魔法の袋とお金を渡して龍人の村に帰そうとしたのよ」

「グラムは奴隷だったのか」

偽サブが意外そうに短く言った。

「ルアンは馬鹿よ。あんな生意気で人を見下す奴が好きなんて、グラムが居たらルアンをこき使えたのに」

カレンの言い方にムッとする。

グラムは好きじゃないと訂正する事もできず、ムカつきで両手がわなわなした。

「グラムはお前に怒鳴ってばかりいたじゃないか。そんなグラムがお前を好きだったとは思えない」

「それは…」

「それは何だ」

「ガウが何処かに転移して、それをグラムも追ったのに何かに弾かれて戻ってきたから、それで怒って…」

カレンは言いにくそうに語尾を濁した。

「ガウはお前に何も言わず何処かへ行ったのか」

カレンの返事は聞こえない。

「それからずっとガウは戻ってきてないのか」

今度もカレンの声は聞こえてこない。

「返事をしろ」

「そうよっ!ガウは怒って帰って来ないのよ!小さい時に命を助けてあげた私より炎の竜が良いなんて絶対っ、絶対許せない!」

走ってる馬車の中じゃ逃げる事も出来ないから、カレンが叫ぶように偽サブに怒鳴ったのが聞こえた。

「ガウに何を言ったんだ」

「何も言わないわよっ!グラムと勝手に怒り出して、ガウが何処かに行ったらグラムも後を追ったのっ!」

「勝手に怒り出しただと。炎の聖獣ガウは炎の竜の元へ戻ったんだな!」

「そうよっ!それから帰って来ないのよ」

カレンの泣き声が聞こえる。

ずっと一緒だったのに、あんなに可愛がったのに、聞いていて切なくなった。

が…、もカレンが好きだった。

昔のままのカレンなら、もっと良い関係で今も居られたんじゃないかと思う。

口にしないけど、独占欲の強そうな炎の竜がそれを許すかは怪しいけど。

あぁそうか、だからが…を呼び戻さなかったんだ。

が…がカレンと決別するまで待ったんだ。

違う、待ったんじゃない。

プライドで自分からは呼び戻せなかったんだ。

そう思うと、炎の竜も何か可愛く思えてしまった。

「ガウを仲間にと思ったが、炎の竜の元へ戻ったならお前の声に答えるわけはない」

35の町のダンジョンはとんだ無駄足だった、と偽サブが冷たくカレンに言っていた。


昼休憩になって、偽サブとカレンは外で食事した。

カレンの偽サブを気にしてぎこちなく世話してる様子が痛々しかった。

偽サブは半日で亭主関白みたいになってる。

人を好きになるって怖い。

こんなに言いなりになってしまうの?

相手が好きだから?

理解できなかった。

昼休憩でまた話すようになった2人は、偽サブが聞いてカレンが答える会話に変わっていた。

「ルアンが光魔法しか使えないのは、話せないから呪文が唱えられないからだろう」

「魔法は唱えないと発動しないって聞いたことある」

「そうだ。強大な魔法ほど唱える時間が長い」

偽サブの口調が軍人になってきてる。

カレンは気付くだろうか。

「ポーションは唱えなくても造れる。雰囲気を変える魔法は唱えなくても使える魔法何だろう。唱えないから効果は小さい。転移はチェスター国が関係してそうだな。転移の力を与えてルアンを旅に出させた」

「それならルアンが転移を使えても当然だわ」

カレンが嬉しそうに相づちを打っていた。

「しかし、話せないルアンとガウがどうやって意思の疎通を計ってたのか謎だ」

「それは、言葉じゃない手段があったからよ」

「何だってっ!」

偽サブの声が裏返った。

「驚くじゃない、やめてよ」

「言葉じゃない手段とは何だ!」

まるで怒ってるような偽サブの言い方に、答えるカレンの声も震えていた。

「グラムは『念話』って言ってたわ。頭の中に直接声が聞こえてくるの」

「頭の中に直接?」

「そう、グラムも使えて、グラムが居るときは私も念話でガウと話せたのよ」

「グラムが居ると?グラムが中継してお前とガウを話させていたのか?」

「そうみたい。それまでは私がガウに話すだけで返事は鳴くだけだったんだけど、グラムが仲間になったらガウの声が言葉になって頭に響いてきたもの」

「ルアンもその念話が出来たんだな?」

「出来たわ。チェスター国の人はみんな出来ると思うわ。グラムがチェスター国のギルドマスターとも念話で話してたもの」

「グラムがチェスター国のギルドマスターとだと」

きっと偽サブの頭の中には、クラークさんの顔が浮かんでると思った。

「会話がチェスター国に筒抜けだと言ったのは、念話でギルドマスターに伝えてたからだったんだな」

ぼそぼそと聞こえた偽サブの呟きに、あの赤茶の青年と会った時偽サブも居たんだと気付いた。

もしかしたら、馬車の中にいた?

前にいた商人を思い出そうとしても顔が浮かばない。


夜営地に着いて、36の町から来た冒険者パーティーが焚き火の番を引き受けた。

乗客とカレンが寝付いてから、偽サブは火の番をしてる冒険者パーティーの1人に近付くと短く何か話してからカレンが寝てる馬車へ戻った。

それで気が付いた。

36の町からの馬車に、兵士を冒険者パーティーとして乗せるために10日の時間が必要だったんだ。

今日カレンが偽サブに話した事を明日には軍が知り、軍にとっては私を捕まえる利点が減って、リスクが大きく増える情報のはず。

偽装や念話の情報が流れるのは痛いけど、私にはそれ以上の収穫はあったと思う。

軍の標的から外れる。

100%は無理でも、今みたいに宿でギルドカードを出せない状況からは抜け出したい。

そのための情報流出なら目を瞑れた。

翌日の昼からは雨だった。

カレンと偽サブの会話も他愛ない物になった。

偽サブがグラムの話をしてもカレンは乗らない。

一晩眠って、カレンも疑問に思いだしたのかも。

偽サブも空気を読んだのか、会話は解放軍の時の話がメインになって私やグラムの名前を出さなくなった。

翌日も何もなく過ぎた。

1週間近く経つと、もう普通の恋人同士に見えた。

だから油断してた。

きっとカレンも。

明後日には36の町に着くって日の夜。

2頭の魔物が襲ってきた。

冒険者パーティーの援護に偽サブもカレンも戦闘に参加して、偽サブはカレンを庇って左肩に傷を負った。

カレンは悲鳴を上げて偽サブにしがみついたけど、荷台から見てて避けようと思えば避けれた攻撃だった。

多分だけど。

私とグラムの話には口を閉じるカレンを喋らせたくてこんな手段に出たんだ。

偽サブは冒険者パーティーからポーションを飲ませて貰って、カレンに支えられて馬車に戻った。

その夜の会話もカレンは怪我をした恋人を労る感じで、偽サブも本題は話さなかった。

会話の雰囲気が変わったのは翌日の昼からだった。

「こんな時、転移があると便利だろうな」

「そうね」

「回復魔法とか」

「そうね」

カレンが警戒してるのが伝わってくる。

「カレン。話してくれ」

「何を」

「グラムやチェスター国が使える念話の話だ」

「知らないわ。私は使えなかったもの」

「使えなかった?話せて聞けたんだろ?」

「私はこうして普通に話しただけ。ガウやルアンの返事が言葉になって頭に届くの。それしか知らない」

「怒らないでくれ。俺たちも念話が出来れば軍に知られずに計画を成功させられたと思わないか」

カレンは半信半疑の声で偽サブに答えた。

「ガウとグラムと私で仲間の奪還に行った時、失敗したのはガウとグラムは念話で話せたけど私は出来なくて上手く連携が取れなかったからよ」

「話せなかったって?」

「ガウとグラムは念話しあって攻撃してるのに、私は聞くばかりで念話出来なかったの。私がいくら大声出しても、周りの爆破音が煩くて届かなかった」

「グラムが居ると、カレンは聞けるけど声は届かないって事?カレンの声は念話として相手の頭の中に届かない。念話出来る人だけ声を頭の中に送れる?」

「だと思うわ。ガウは聖獣だしグラムは龍人で、ルアンはチェスター国の国民」

「一方通行の通話じゃ作戦に使うのは無理か…」

偽サブの考えてる声が聞こえた。





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