少年と魔法使い
2017年
明けましておめでとうございます
翌朝、部屋から直接ボス部屋の前に飛ぼうと思ってたけど、気になって先に裏町へ回ってみた。
宿に泊まれないなら居る場所の見当は直ぐに着いた。
町を外れた場所にある、無人の倒れかけた家の1つに3人の気配がした。
隣の家からも複数の気配がするから、3人のように宿に泊まらない冒険者かもしれない。
まだ寝てるらしい。
次第にルーズな3人を待っているのが馬鹿らしくなって、そこからダンジョンのボス部屋の前に転移した。
装備を変えて、ボスに挑む。
ボスは吸血の大蝙蝠だった。
ピコーーン。
図鑑が増えた。
天井から大群の蝙蝠が襲ってくる。
慌てて光の結界を張って、光のシャワーを放った。
ポーーン。
まだ心臓がどくどくする。
これはボス部屋に入った時に注意を怠った私のミス。
次からは開けてすぐ光のシャワーを放つと決めた。
レベルが2上がって、130になった。
ドロップは剣。
周りを確かめたけど、裏ボスのヒントは無さそう。
レベル130で氷のダンジョンは無謀だ。
48の町のダンジョンでどこまでレベルを上げられるのか微妙だけど、選択肢はそれしかなかった。
前回レベル140でもやり直した記憶が蘇る。
ボスの復活時間を確認して、29階から30階層で地味にこつこつレベル上げするしかない。
せめて140までステータスを上げてから、氷のダンジョンは挑みたかった。
昼まで29階から30階で粘ってレベルを1上げる。
レベルがなかなか上がらない。
地獄の経験値の領域に入ったんだと経験上分かる。
魔力も心細くなってきたので、1階に転移して装備を変えてから雑魚装備集めを始めた。
6階に辿り着くと、あの3人がいた。
もう昼を過ぎてる。
遅い昼にしようと向きを変えかけて歩き出そうとしたら、3人の方からお酒の臭いがしてきた。
まさかダンジョンで?
信じられなかった。
驚いているうちに大声が聞こえてきた。
きっとお酒に釣られた魔物に襲われたんだろう。
急いで引き返したけど、少年と冒険者1人は地面に倒れていて残った1人も攻撃されて倒れる所だった。
兎に角襲ってる魔物を倒して、誰か生きてるか見た。
冒険者2人は死んでいた。
少年は魔物に吹き飛ばされて気絶したお陰で、軽い打ち身で助かっていた。
少しして気が付いた少年に水を飲ませた。
ここに置き去りにする訳にもいかないから、出口までは連れていくしかない。
『出口まで連れて行く』
読めますように、と願いながらメモを出した。
「え?喋れないの?」
嫌な予感がした。
行こうと手で上を指す。
少年は待ってと言って、冒険者2人から装備と服と魔法の袋の小を取って戻ってきた。
私が少年に持っていた印象が崩れる。
考えてみれば冒険者2人に少年が虐げられてるって、自分が勝手に思い込んでたんだ。
「オレはロン。冒険者になったばかりだ」
見た目同年代だから気楽に話し掛けてくるんだろう。
聞き流して出口を急いだ。
「君は強いんだね」
出口へ続く転移の魔方陣まで魔物を倒しながら歩く。
「君はソロ?喋れなくてパーティーに入れて貰えないんだろ?俺がパーティー組んでやるよ」
呆れすぎて、立ち止まって少年を見返してしまった。
「お礼は良いよ」
『ふざけてるなら1人でダンジョンから出て』
書いたメモを見せる。
「え?」
『ダンジョンでの戦闘不能者を出口まで誘導するのは冒険者の暗黙のルール』
「そうなの?」
『それじゃなきゃ助けてない』
「え?」
少年は泣きそうになって、見捨てないでと私の右腕を強く掴んできた。
それを思い切り振り払う。
『今度したらここに置いていく』
「わ、分かったよ。だから見捨てないでくれ」
少年は慌てて1歩下がった。
そこから出口までは、無言で大人しかった。
ダンジョンの外で少年と別れようとしたら、待ってと追い掛けてきた。
「お願いだ。一緒に攻略してよ。お金も無いし装備も無い、少し貯めて買えるまで助けてくれ」
死んだ2人から全部強奪しといて平然と言う少年。
心配で様子を見に行って、何か損した気分になった。
周囲の冒険者が泣きそうな少年と断る私を見ている。
「喋れないから俺がパーティー組んでやるって言ってるのにこの子断るんだっ!」
立ち止まってこっちを見てる冒険者たちに気付いた少年が、聞こえるように大袈裟に言った。
「何だ、喋れないのか?それなら有り難く組めよ」
中の1人が当たり前と言うように言った。
「そうだよねっ!ほら、みんなも言ってる」
優越感で見てくる少年にも周りにもうんざりする。
『私は喉が弱いから極力話さないようにしているけど話せない訳じゃない』
voiceを使う危険より腹立ちが勝った。
「何だ、話せるんじゃねぇか」
他の見物人の1人が私を15階で見ると話し出した。
それを聞いて他の数人がそうだと頷いていた。
「どうしてこの坊主と居るんだ?」
短くダンジョンで助けた経緯をメモに書いた。
「坊主、たかる相手を間違えたな」
冒険者たちは笑って離れていった。
「悪かったよ。お願いだから助けてくれよ」
味方を失った少年が焦ってまた手を掴もうとしてきたから、その手を無言で振り払って歩き出した。
少年はしつこく後ろを着いてきて、私の後から一緒に宿に入ろうとして店主に止められた。
「前はパーティーのメンバーを探してると言うから入れたが、泊まる金を払ってないお前はダメだ」
「俺はその女の連れだ」
ちろっと店主に見られて違うと首を振った。
「嘘着くのかよっ!」
少年は泣きながら店主に訴える。
同情を誘うような少年の手口にうんざりした。
めんどくさいとため息を吐いたら、食堂から冒険者が出て来て少年の首の後ろをつかんだ。
「いい加減にしろ。お前のやる事は乞食より悪いぞ」
冒険者はダンジョンの出口であった話を店主にした。
その頃には騒ぎを聞き付けて、食堂にいた冒険者たちも出てきていて周りを囲んでいた。
「相手が女の子だからしつこくすれば思い道理に出来ると思ったんだろうが、そうはいかねぇぞ」
「ガキのたかりか」
隣の少年を見て、今日何度目かの溜め息をついた。
結局少年は泣き落としで一緒にダンジョンへ行く希望を通してしまった。
少年の厚かましい言い分に呆れながらも、初心者の少年を哀れむ声もあった。
こんな終盤のダンジョンから始めるしかない少年の不運に、同情して1週間だけでもと冒険者が言った。
少年が自分がリーダーでパーティーを組もうと言ってきたのできっぱり断る。
私のパーティーは35の町のダンジョンにいて私だけ下見に着ていると、苦しい嘘を着いた。
それを聞いて囲んでいる冒険者も少年も諦めた顔をしたけど、それなら他のメンバーが来るまででもと少年が食い下がってきて、嫌なのに断りきれなかった。
冒険者たちは私がソロで番人の手前まで行けると知っているから、1週間だけ少年の面倒見てやってくれと頼まれては断れなかった。
1週間が過ぎてパーティーが決まらなければ、宿に残ってる冒険者が少年を引き受けると確約した。
宿にいる冒険者たちは好い人たちだと思うけど、そんな口約束が信じられる訳もない。
1週間が過ぎても少年を押し付けられたら。
最悪他の町へ移動して、そこから48の町のダンジョンへ転移で来てレベル上げをしようと決めた。
それが昨日。
はぁ。
今日からの1週間が凄く長く感じた。
「15階まで行けるんだよね?ドロップも高く売れるから最初から15階にしよう」
相手が女の私だと思うから、少年の態度は上から目線でムカつきしかなかい。
『死にたいなら良いよ』
「え?」
メモを見て驚く少年。
『君を守りながら戦うのは無理。君が自分の身を自分で守れる階にしか行かない』
「嘘だ!俺を脅かして連れていかない気なんだっ!」
後ろから来た同じ宿の冒険者に泣き付くけど、私の意見が当然だとすげなく却下されていた。
「お金が無いから宿にも泊まれないのに」
「嘘着くな、死んだ冒険者の身ぐるみ剥いどいてよくそんな出任せ言えるな」
少年が2人の冒険者とパーティーを組んで6階に居たのを、何人も見ていた。
「あの2人は食い物買った残りをみんな酒にしてしまうからお金なんか無いよ」
今だって宿に泊まれなくて町外れに居ると訴える。
呆れた冒険者が少年を嗜めるが少年は聞き分けない。
「女子供に宿代を無心する男を1週間でも助けてやるんだ感謝するのが当然なんだぞ」
「その子は金持ってて1番高い個室に泊まってるんだよ。それなのに俺はあんなボロ屋に寝させられて」
「この子がそれだけ稼げる腕を持ってるって事だ。羨ましかったらお前も強くなれば良い」
どう言っても自分は不幸だと言い続ける少年に周りがうんざりして、いっそ冒険者と一緒に死ねば良かったと平気で言う泊まり客も出てきていた。
1週間後、少年が自力で潜れるのは6階までで、後々面倒だからドロップは全部少年に渡した。
「お願いだ、もう1週間一緒に潜って」
今日で終わりなのに、少年はまた宿まで着いてきた。
「いい加減にしろ。この1週間お前に付ききりだから彼女の収入は0なんだぞ」
「ドロップもみんなお前が貰っといてよく言えるな」
「すまない。安易に頼んだ俺たちが悪かった」
冒険者の1人が私に頭を下げてくれた。
ホントは冒険者が言うような1週間は過ごしてない。
夕方まで少年と潜り、夕食の後29階から30階とボスを倒してたからレベルは135まで上がってる。
自分の魔力量を考えると、夕食後の3時間が丁度良いんだと分かってきてる。
それでも、または嫌だった。
「仕方無い、言い出しっぺの俺が組む」
冒険者は来週までに入れるパーティーを探せと、少年にきつく言った。
「そんなにその子が邪魔なら、私がその子と組むわ」
振り返ると、綺麗な金髪の女性がいた。
「私は光魔法を使うから、このダンジョンは簡単よ」
「ホントに組んでくれるの?」
「ええ、組んで上げるわ」
「ありがとう。そう決まったらこんな威張り散らす奴らなんかこっちからお断りだ」
思わぬ展開に女性と少年以外は唖然だった。
驚いたけど、少年を引き受けてくれるのは有り難いからみんな良かったなと少年に言った。
私だけ門番に光魔法が効かないと知ってるから、心の底からは喜べなかった。
翌日からダンジョンに潜った2人は、その翌日には少年と同じくらいの少年が増えて3人になっていた。
みんなもそんな3人を横目で見て黙っていた。
私もその3人は気になったけど、それよりレベル上げが先だと思うようにした。
「あの3人、どこで寝泊まりしてるんだろうな」
冒険者の1人がそんな疑問をポツリと呟いた。
「48の町にはかなりな数の宿があるから、そのどれかじゃないのか?」
「あれだけ目立つ金髪なんだぜ、泊まってたら噂になるのが当然だろ」
「ダンジョンでも見ないしな」
「もうとっくにボス倒してるかもな」
!!
その可能性をぜんぜん考えてなかった。
もしかしたらボス部屋の前でぶつかったかも。
背中に嫌な汗を感じだ。
これから周囲に気を付けながら潜ろう。
1日、2日と過ぎても3人とニアミスしない。
不思議に思っていたら、少年2人を連れて町を歩いてたと以外な話が聞こえてきた。
「こっからあのガキ連れてって10日は経つよな」
「ああ、今までどこに泊まってたんだ?」
不思議には思ったけど、気にもならなかった。
10日でレベルは3しか上がってない。
来るはずの他のメンバーはまだ来ないのかと、冒険者たちに聞かれるようにもなった。
これ以上留まるのは不自然だった。
レベル138。
このレベルで氷のダンジョンに挑むしかない。
「メンバー待たないで行くのか?」
『43の町で留まってるから私も合流する』
書いて見せれば納得したように頷かれた。
「ああ、最強兵器が眠る神殿か、頑張れよ」
冒険者たちと別れて、47の町へと転移した。