頭に来た!
「分かったわ。あなた携帯食を買うお金ないんでしょ。だから手ぶらなのね」
あまりな言い方に足が止まってしまった。
この人たちはどれだけ私をバカにする気なんだろう。
「言い当てられたからって怒らないでよ。いいカッコしてポーションくれたの後悔してるんでしょ」
笑ってるきつい子の腕を引いてリーダーが止めた。
「ばか!ベルトに着けてる袋を見ろよ!」
「え?」
一瞬キョトンとしたきつい子は、ベルトの袋を見て驚いた後ムッとした顔をこっちへ向けてきた。
「魔法の袋を持ってるなら先に言いなさいよ!でもその大きさじゃあたいして入らないわね」
もう限界。
速度を速めて歩き出す。
勝手にすればいい。
次の町へは一本道だから迷う心配もない。
お姉さんに頼まれたとしてもこんな失礼な人と3日も一緒に居るのは嫌だった。
置いていかれると思ったのか、リーダーがきつい子の手をぐんと引っ張って他の2人と急いで追ってきた。
それからは、私に離されかけると4人が走るを昼まで繰り返した。
おいかけっこにも疲れて、そろそろ昼食と休憩にしようかと辺りを見回すと、道のわきに草を荒く苅って焚き火をした跡を見付けた。
ここで良いだろうと腰を下ろして、魔法の袋と勘違いしてくれた袋から屋台で買ったサンドイッチを出して食べ始めた。
4人も近くに座ると携帯食を出して食べ始めるが、目はサンドイッチに釘付けになっていた。
無視して食べたけど、やっぱり辛くて喉が乾く。
乾いても4人の前で水魔法は使えないから我慢するしかない。
そんな私の横で、4人は水袋からグビグビ水を飲んでいた。
昼からは休憩も取らず、道の脇に焚き火跡を見付けるまで歩き続けた。
4人を引き離したタイミングで、右の人差し指から出した水を口の中に注いだ。
これがゲームだったら食べることも飲むこともしなくてよかったのに…。
知らずため息が出てた。
4人の前でテントを広げる気にはとてもなれないから、焚き火跡を野宿する場所に選ぶ事にした。
キョロキョロ辺りを見回して燃えそうな物を探す。
薪をもって旅をする人はいなと思うから、焚き火の跡の近くに燃やす木があるはずだと考えてた。
あれかも。
斜め20メートルほど先に枯れて倒れた木を見付けて近付くと、あちこちのこぎりの痕があった。
これ…ムリだわ。
振り返って見ると、4人は焚き火跡で手持ち無沙汰に突っ立ってる。
この距離なら魔法使っても気付かれないだろう。
風魔法で枯れ木を伐り刻んでいく、最初は加減がわからず薪じゃなくチップになっちゃったけど直ぐにコツを掴めた。
不格好だけどかなり出来た薪を、今後の用心のために半分ほどアイテムボックスに移す。
それから薪を持てるだけもって焚き火痕に戻ると、4人に焚き火跡と枯れ木を順番に指差した。
意味が伝わらなかったのかリーダーは嫌な顔をしたけど、無口な男の子は3人を促して薪を取りに行った。
4人が見てないうちに、焚き火跡を土魔法で掘り返して綺麗にした。
昔ネットで見たから、隙間を意識して薪を組んでると4人が帰ってきた。
慣れない手付きの私を見かねたのか、無口な子が手早く並べ直すと火打ち石で火を着けた。
私はサンドイッチ、4人は携帯食で夕飯を済ませると火の番の話になった。
夜は魔物も野生の動物も活動が活発になる。
昼よりも襲われる危険が高いと真面目な顔でリーダーが言った。
きつい子は女の子にさせるのかと怒って、リーダーと無口な2人に押し付ける。
言っても聴かないと分かっているらしく、2人で順番を決めていた。
私も女の子の中に入っているのか火の番の順番に混ざらずに済んだ。
最初はリーダーらしい。
リーダーが火の番に落ち着いてから、そっと道の向こうの森へと向かう。
トイレを我慢するのはもう限界だった。
魔法で土を掘り返して急いで用を足す。
小説みたいに周囲に土の壁とか作りたいけど、現実はそんなに上手くいかない。
ホントに、これがゲームなら良かったのに…。
気まずくて、そそくさとマントを毛布にして寝た。
例え四季が春しかないゲームの世界でも夜は冷える。
地面に直で寝るのでマントにくるまっていても寒くて寝られなかった。
次からはお湯を沸かす鍋とお茶の葉くらいは用意しようと強く思った。
あ、コップも必要だわ。
後小さな水袋も!
そんな事を思っていたらアルコールの匂いがした。
…うそ。
そっと見ると、手のひらサイズの皮袋からリーダーが何か飲んでいた。
驚いてたら微かに草の擦れる音がしてくる。
かさかさ聞こえる方へ顔を向けると、普通のウサギの3倍はある大きなウサギが飛び出してきた。
酔っているのかリーダーの動きは鈍い。
あっという間に飛び掛かられて、咄嗟に顔を庇った右手に噛み付かれた。
リーダーの叫び声で飛び起きた3人も、固まって動けなかった。
デカいウサギはリーダーが持っていた皮袋を奪ってくわえると暗闇に向かって走り去って行った。
誰もが呆然としていて動けない、はっと我に返るとリーダーが腕を抱えて地面で震えていた。
きつい子が私に向かって手を突き出す。
「ポーション速く!」
え?
言ってる意味が分からなくてポカンとしてると、きつい子は腰の袋を強引に引っ張ってきた。
咄嗟に体を捻って、後ろへ数歩ステップする。
「怪我人がいるのよ!出しなさいよ!」
「待てよ」
無口な子がきつい子を捕まえて止めてくれた。
何故私が出さなくちゃならないの?
それに残ってるはずの1本は?
私の疑問に気付いたのか、大人しい子がポーションを売って携帯食を買ったと言いにくそうにする。
もう何も言えない。
黙って初級ポーションを出して無口な子に渡し、さっさとマントにくるまって寝た振りをした。
翌朝、火の始末をして歩きながらそっとステータスの地図を見た。
まだ次の町まで半分以上あるから、着くのは明日になりそうだ。
昨日と同じく、会話も無しでもくもくと歩いた。
次の町へ近くなったからか、昨夜のウサギの魔物も出てくるようになった。
昨夜の記憶が生々しかったからか、生き物を殺す行為に躊躇や嫌悪を感じる前に体が動いていた。
そのウサギは食べれるようで、リーダーと無口な子は私が切り捨てたウサギを担げるだけ担いでもくもくと歩いていた。
夕方、やっと焚き火跡を見付けて火の準備をする。
終わると無口な子とリーダーで1匹のウサギを解体し始めた。
血の臭いとあまりのグロテスクさに吐き気がする。
顔を背ける私と対象的に、枝に刺して焼いていく手際は慣れていた。
4人はウサギを焼いた肉と携帯食で夕食にする。
私は吐き気で何も喉を通りそうになかった。
無口な子が私にもウサギ肉を渡そうとしたけど、きつい子に止められていた。
血の臭いの中じゃ渡されても食べれないけど、あの子のやり方に腹が立った。
そのウサギを狩ったのは私だ、この状況の理不尽さに胃がきりきりと痛んだ。
八つ当たりだけど、絶対初級ポーションの代金は回収すると硬く誓った。
もう目の前の4人には苛立ちしか感じない。
それも明日までの辛抱だと自分に言い聞かて気持ちを押さえつけた。
「ねぇ、2の町には何があるの?」
「もう少しましな防具と剣と初級ポーションが作れる薬草だな」
「早くお金を貯めて美味しいものが食べたいわ」
げんなりしてるきつい子と無口な子の会話を黙って聞いていると、気になる会話があった。
2の町?
もしや、ゲームと同じく町に固有の名前がないの?
ゲームのときみたいに数字で区別してる?
始まりの町は1の町、これから行くのは2の町。
それなら、ラストは50の町なの?
ステータスから見慣れた地図を改めて確認した。
5の町までは1本道。
5の町からは先は真っ直ぐな本線にジグザグな支線が交差している。
直線の本線を行けば、最終の町までは最短20。
くねくね支線に寄り道すれば町の数は50を数える。
どっちを行くかは5の町までの間で決めればいいか。
寒くて眠くてうとうとしていたら、誰かがマントの中に手を突っ込んできて手探りしてきた、思わずその手を叩いて飛び起きる。
「きゃあ!」
心臓がどくどくする。
横を見たらきつい子が尻餅をついていた。
きつい子の叫び声で他の3人も飛び起きる。
火の番のはずのリーダーも寝ていたらしく、慌てて周囲を見渡していた。
「ビックリしたな。どうしたんだよ?」
まだ寝惚けてるリーダーは袋を握ってきつい子を睨んでる私を不思議そうに見てから、きつい子を見た。
「何があった?」
「突き飛ばされたのよ!」
きつい子の返事でリーダーは私を睨んできた。
「何で突き飛ばしたんだ」
「よせっ!」
掴みかかってくるリーダーを、無口な子が間に入って止めてくれた。
「見て分からないのか!こいつは彼女の袋を盗もうとしたんだぞ!」
「離せよ!…へっ?」
それまでむきになって無口な子を振りほどこうとしていたリーダーが、間抜けな声を出した。
「寝てるからチャンスと思ったんだろ」
「違うっ!違うから!袋の中のサンドイッチなんか全然欲しくない!」
あぁ…、そうなのか。
「見せびらかして食べるんだもの、だから…」
大人しめな子もリーダーの後ろに隠れながら言う。
サンドイッチ1つをアイテムボックスに残して、残のサンドイッチ2つと串焼き3つを3人に手渡した。
流石にきつい子に手渡す気持ちにはなれなかった。
動かない4人を強く睨んで、4人が動く前に次の町へ全力で走りだした。