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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
バック30の町から
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情報と龍人と



宿に転移で戻って、ハルナツさんの話を考えた。

最後の言葉が耳に残る。

「もしチェスターの壁をどちらかの国が壊したら、神はこの世界を壊してしまうでしょうね」

「ここは神の箱庭のために作られた世界ですから」

ゾッとしたけど、否定の言葉が出てこなかった。

あの声の主ならやりそうだから。

逆に、氷の竜に会って万能薬を飲ませるまでは絶対このゲームの世界は壊れないと怖い確信もあった。

グッと両手を握って、負に傾く思いを振り払った。

ハルナツさんの話の中にあった人間に使える隷属の首輪は、あの使用人の首にあった首輪だろう。

獣人を奴隷にする事を躊躇わなかった国王が、志願した兵士に使う事を躊躇うとは思えなかった。

でも…、グラムを味方にしたってなに?

初め、が…の事もあったから、グラムは龍人の力でカレンを助けると言っていた。

カレンの敵は兄を殺したモナーク国の王なのに、それがハルツに変わるなんて有り得ないと思った。

きっと何かあるはず。

それとさっきの43の町のヒントの話。

ハルナツさんは神殿のヒントって言っていた。

話だけだと聖剣みたいな武器が奉られてるイメージだけど…、ハッと思ってクエストを見てみた。

43の町のクエストは、町の鍛冶屋の剣を44の町の雑貨屋に売るだった。

もしかしたら、と42の町のクエストを見るとダンジョン10階層の宝箱から出る剣の納品とあった。

クエストとは違いそう。

色々考えてたら夕飯を知らせるベルが鳴った。

廊下の食堂へ急ぐ騒がしさが遠くなってから、わざと遅れて食堂に行った。

空いてるテーブルは2つしか無かった。

奥の隅と入って直ぐの場所で、私は隅を選んだ。

泊まり客は女性が少なくて、冒険者より商人が多い。

食事をしながら客の話に耳を澄ました。

今のどう動いたら良いのか分からない現状を撃ち破る情報が無いか、そんな期待も少しあった。

聞こえてくるのは魔物の被害がこの1週間で急に増えたとか、氾濫の兆しに軍があたふたしてるとか予想してた物ばかりだった。

「この魔物の増えかたは獣人の差し金じゃねぇのか」

「俺もそう思ったさ」

「30の町の氾濫も獣人が誘導したんだろ」

「幸い今回はチェスター国の魔法使いが助けに来たから討伐出来たからいいが」

また軍だ、今度は獣人を悪人にする気だ。

「聞いたか?一昨日32の町近くの村で人間の味方になった龍人が魔物を討伐してくれたって話だぞ」

「龍人だとっ!昔々ご先祖様に絶滅させられたんじゃなかったのか」

「嫌、生き残りが見付かったんだ。それで先祖の悪行を悔いてお詫びに人の味方になると言ったそうだ」

「そんなやつ奴隷にしてしまえばいいんだ」

「龍人もそう望んだらしい」

「なら望み通り人間の奴隷にしてやれ」

!!

グラムが?

そんな事有り得ないと思った。

まして自分から奴隷になんてなるはずないっ!

隷属の首輪はグラムに効かないのに、あっ!

もしかしたら…、あの使用人の青年の様に、今度の隷属の首輪はグラムをいいなりに操れるの?

驚きすぎて動揺していた。

初めて見た時のあの鎖でぐるぐる巻きにされていたグラムの姿と、使用人の青年の様にロボットになった姿が、遠心力でぐわんぐわんと頭の中を回っていた。

「悪の獣人と悪の龍人が殺し合う。これこそ弱い人を助けるために神が使わしてくれたに違いない」

「そうだそうだ。この世界の支配者は人間だ!」

「そうだ。世界を支配するのはモナーク国だ!」

「ハルツの後はチェスター国を我が手に」

それまで同調しかけていた泊まり客が黙った。

「神の箱庭は迷信だっ!」

「神はモナーク国に龍人を遣わしたんだぞっ!」

兵士の誘導に泊まり客が反発した。

「龍人とチェスター国は全く違う話だ」

「モナークもハルツも、昔から何度チェスターに攻め込もうとして失敗したか忘れたのか?」

「チェスターは『神の箱庭』神の壁を超えたらモナークに災いが降りかかる」

「その壁は龍人が打ち壊すっ!」

「嘘だっ!」

「龍人はモナークとチェスターを転移で自由に行き来出来るんだぞっ!」

!!

彼らが言ってる龍人はグラムじゃないの?

グラムはもうチェスターに転移出来ないはず…。

もし兵士の言う龍人がグラムじゃなくても、チェスター国に敵意を持てばグラムの様に入れなくなる。

まさか…。

敵意があってもチェスター国に入れると言いたいの?

「ええっ!」

反撃していた泊まり客からも驚きの声が上がった。

「チェスターの内からモナーク軍を引き込めるっ!」

「神の壁を龍人は飛び超えられても我々は出来ない」

「出来るっ!」

『出来ない。チェスターに敵意を向けた者は神の壁に弾かれて2度と入れない』

思わずvoiceを使ってしまっていた。

「誰だっ!」

兵士が慌てて声を荒げる。

「名乗り出て軍に捕まりたくないんだろ」

冷静な声が泊まり客の1人から上がった。

「かっときて軍の口車に乗るところだったな」

近い者同士が話し出した。

「国民も馬鹿じゃない。そう簡単には27の町の二の舞は踏まないさ」

泊まり客の大半が頷いた。

27の町の二の舞って?

解放軍の事?

もしかしたら、カレンを悪者にした時の事?

「その龍人がチェスター国へ入れて手引き出来るのが本当なら、何故今までのように国民に誇らない」

「待てよ…、獣人が魔物をけしかけてるのも嘘か?」

「奴らは人間に変装出来ない。もし奴らが誘導してるなら姿を見た奴が獣人だと騒いでるはずだ」

「まさか今まで獣人のせいにしてたのも嘘なのかっ」

不利を悟った兵士が急いで食堂から出ていく。

泊まり客は茫然とその後ろ姿を見送った。

「軍め…」

その後の泊まり客同士の話を聞いていると、みんな獣人や龍人を奴隷にするのは当然だと口々に言う。

モナーク国の中に根強くある、人が1番優れてるという認識は変わらなかった。

「龍人は奴隷にして氾濫の討伐をさせればいいが、チェスター国を攻めたら我々も神の怒りに触れるぞ」

「急いで仲間に回せ。軍の口車を阻止しろ」

「冒険者ギルドは軍の犬だから商業ギルドからチェスター国に警戒を呼び掛けろ」

「俺たちまで神に罰を与えられては叶わんっ!」

「そうだそうだっ!」


泊まり客の興奮からひっそり逃れて部屋へ戻った。

理由が我が身可愛さからの保身でも、チェスター国を敵に回さないと思うだけ良いと思った。

…それより。

本当に龍人が奴隷になったのだろうか。

信じられないけど。

それがもし本当なら。

モナーク軍から引き離すのが自分の役目に思えた。

でも…、もしその奴隷になった龍人がグラムだとしたら、カレンは?

もう1人のサブマスターの青年は?

35の町で、3人を見送った事を後悔した。

もう居ないだろうと思いながら、諦められず35の町のダンジョンに飛んだ。

やっぱりグラムもカレンも居なかった。

どうしよう。

私が今1番にするべき事は、軍が奴隷にした龍人の正確な情報を掴む事だ。

そして、神の壁を越えられるのか確める。

けど、どうやって…。

手掛かりが何もなかった。

確か…、一昨日龍人が討伐したのは32の町の近くの村ってさっき言ってた。

それを頼りに32の町へ転移した。

32の町は怖いほど静まり返っていた。

手掛かりが欲しくて地図からカレンを捜してみる。

直にグラムを捜したら捜してるのに気付かれそうで、カレンに絞った。

…居ない。

クラークさんの顔が浮かんだけど、グラムが何処に居るのかは知ってると思えなかった。

それに、クララさんの死を伝えるのは嫌だった。

どうしよう。

もう1度地図から氾濫の兆しを探ってみる。

点滅の数は変わらない感じだった。

龍人が討伐してるんじゃないの?

冒険者ギルドには転移の魔方陣もある。

それを使えば、もっと兆しの数が減ってるはずだ。

可能性は少ないけど、軍の話が嘘で本当は3人は今でも旅を続けている?

有り得ない、と思った。

どうしよう。

今までは極力関わりたくないと思ってきたけど、最後の手段で兵士同士の話を聞いてみようか。

宿の部屋に戻って、黒いマントに隠れて町へ出た。

自分に隠蔽を掛けて、警備中の兵士に近付いた。

町を歩いてみて、話してる兵士が殆んど居ない。

まさかホントに首輪を?

確かめたくても兵士の制服は襟があるから、見ただけじゃ分からなかった。

会話が聞きたくて後ろを歩いたりしたけど、周りに人が少な過ぎて隠蔽を掛けても気付かれてしまう。

不審者を諦めて宿に戻れば、40の町に龍人とそのパーティーがいるらしいと泊まり客が興奮していた。

「本当なのか?」

食堂にいた泊まり客の聞き返す声も興奮していた。

「ああ、商業ギルドへ手紙を出しに行ったら40の町にいる友達から龍人が居ると手紙が着てたんだ」

急いで地図を開いて見たけど、40の町に近い氾濫の兆しは数が減ったように見えなかった。

「軍に居るのか?」

「いや、パーティーで宿に泊まっているとある」

それからはやかましかった。

そっと部屋へ戻って、風魔法で食堂の声だけ拾った。

泊まり客の何人もが宿と商業ギルドを往復して、刻々と龍人の情報が集まった。

龍人は3人パーティーらしい。

人間の男女と龍人らしい。

情報を聞く度にグラムたちのパーティーに思えて、40の町に飛んで行きたかった。

けど、情報は他の商人にも流れていて、私が知った時には龍人の泊まっている宿は満員になっていた。

「明日から40の町の周りの氾濫の討伐らしいぞ」

数日は40の町に居るらしい。

急ぐ気持ちを抑えて朝を待った。




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