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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
バック30の町から
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苦い夜と疑問



翌朝、寝起きは最悪だった。

最悪の半分は見てみない振りをしたあの少年の事で、もう半分はこの宿の対応の酷さだった。

昨夜受付で部屋を選んで、ギルドカードじゃなくお金を出したら応対がガラリと変わった。

話せないのが対応の悪さに拍車をかけた。

「喋れないのに金は持ってるとか気持ち悪い子だね」

嫌そうに見られて、私の方が傷付いた。

泊まるのを止めようと思ったけど、止めると言ってお金を返す人には思えなかったから意地で泊まった。

食事に食堂へ行く気持ちも無くなって、部屋でアイテムボックスの中の物で済ませた。

その時に馬車の時間を見てきてないのに気付いた。

下に行って態々嫌な思いをするよりはと部屋から乗り場に転移したら、あの少年が宿の裏手で酔っぱらいに絡まれているのが見えた。

逃げれば良いのに、と思いながら明日の出発時間を確認して部屋へ戻った。

外の騒ぎで目が覚めたのは真夜中だと思う。

起き上がるのもめんどくさくて、風魔法を使って外の騒ぎをベッドの上で聞いた。

「店の裏で生き倒れなんて最低だわ」

「泊まり客ではないんだな?」

「無いわ。当たり前よ」

生き倒れ?

直ぐに浮かんだのはあの少年だった。

まさか…違うよね。

「なんだ、孤児の志願兵か」

兵士のがっかりした感じの声がした。

兵士は、チェスターからの女が隠れていたところを襲われたのかもと期待して来たらしい。

「あら、行き倒れなのにお金持ってるじゃないの」

「その金は夜中に呼び出された俺の物だぞ」

「じゃあ半分渡しますよ」

「おいっ!こいつを町の外れに捨ててこい」

宿の奥さんとこの町に居る兵士の会話は、動揺してる私に追い討ちを掛けた。

孤児?

志願兵?

クラークさんが話していた軍への国民の志願兵?

どの町にも軍はいるのに、何故態々志願兵が馬車に乗って他の町へ来るの?

疑問符ばかりの意識を外に戻したら、もう少年は宿の使用人に町外れに連れて行かれた後だった。

マントを羽織り、隠蔽の魔法を自分に掛けてから町外れに転移した。

宿の使用人はまだ着いてなかった。

音もない場所に使用人が少年を担いできた。

「まったく」

使用人は担いでいた少年を荷物のようにその場に落とすと宿へ戻っていった。

少年は着けていたぼろぼろの装備まで剥ぎ取られて、服には見えないぼろ布を体に巻かれていた。

使用人の足音が消える前に子供たちが暗闇から出て来て、死んでるだろう少年からその布さえ剥いだ。

自分が少年を見殺しにしたんだと思う気持ちが宿へ戻っても消えなくて、なかなか寝られなかった。


翌朝朝食も摂らず宿を出た。

次の43の町までは馬車で6日、大金貨2枚だった。

乗客は11人。

荷台を希望したけど、満員だと中にされた。

乗り合わせたのは商人のおじいさんと使用人、それと軍人の青年だった。

前に商人と軍人で、私の横に使用人。

軍人は私を見張ってるのかもしれない。

誰も話さない。

中の空気は重いけど、無駄に話されるよりはいい。

2日目、崖の道を通っていて後ろの馬車が脱輪した。

乗客が引き上げるのに駆り出された。

最後尾の脱輪した馬車は荷台荷物も降ろされ、女以外は手伝うように御者が大声で言った。

参加したのは3台の馬車の御者と他の馬車に乗っていたおじさんと青年。

傍観を決める商人の命令で、使用人が馬車の後ろに回って持ち上げた。

その使用人の動作が、まるで自分の意思を持たないロボットみたいにぎこちなかった。

その使用人の青年?は二十歳前くらいで、この世界では珍しい首が隠れる服を着ていた。

馬車を引き上げるのに2時間くらいかかった。

どうしても引き上げられなくて、最後は前に座っていた軍人まで渋々参加した。

何とか引き上げて、馬車はやっと走り出した。

「おい。奴隷の服が破れてるぞ」

軍人は横に座っている商人に命令口調で言った。

奴隷!

驚きで軍人、商人と真っ直ぐ見てしまった。

商人は嫌そうな顔で私の横の使用人を見た。

え?

私もぐいって横を向いてしまった。

あ…。

横に座る使用人の服の、左の肩から首までが引きちぎったように破れていて、首に鉄の輪が見えた。

でも、獣人に着けていた隷属の首輪とは違う。

もっと細くなっていて、首輪に掛かっている魔法も隷属とは違う気がした。

「女、他言無用だぞ」

震えながらこくこく頷いて視線を窓の外に向けた。


それからの旅も静かだった。

私の勘違いだったみたいで、前に座る軍人にこっちを探る様子は少しもなかった。

もっと気が付くのが遅いけど、魔物が居ない。

確かに30の町の氾濫で大量に討伐したけど、全滅したとか絶対ない。

なら何故?

お昼を待って、乗客から離れてご飯を食べながら地図に魔力を流してみた。

氾濫の兆しが点々と光る。

…え?

チェスター国には1つもなくてホッとした。

けどモナーク国は小さいのがたくさんで、それはハルツ国の方もだけど数はモナーク国よりずっと少ない。

何これ…。

あ…、まさかこの数が一挙に?

…まるで天罰みたいだ。

頭に浮かんだイメージにゾッとした。

兆しは日に日に大きくなって、馬車が43の町に着いた頃には小さな氾濫があちこちに起こっていた。

43の町に着いたのは夕方。

町は人が少なくて兵士の数が多かった。

馬車から降りた乗客が、一斉に乗場の前の宿に行くから私も後ろから続いた。

個室を2泊でとって、11の町へ転移した。

…町は、40や43の町みたいにぎすぎすした姿に変わっていて子供の姿もなくなっていた。

急いで冒険者ギルドへ行くと、ここも獣人のカウンターには職員が居なくなっていた。

まさかと思いながらウサギ耳の鞄屋まで走れば、看板は外され周りに住んでた獣人の姿も無くなってた。

本線の町から、獣人が居なくなってる。

どうやって?

馬車に乗る獣人は見たことない、彼らはどんな手段で移動したんだろう。

疑問ばかり増えて、答えは1つも見付からなかった。

そうだっ!

クララさんに会うのは嫌だけど、今は何でも知ってるハルナツさんに会いに行こうと決めた。


ハルナツさんは私に手紙を送ったばかりだと言った。

「良く来てくれたわ」

「待っていたんですよ」

ハルナツさんに久し振りに会う挨拶をして、気になることを聞こうとしたら先に話されてしまった。

「残念な話を先にするわね」

「実はクララさんが亡くなってしまったのよ」

『そうなんですか』

知っていても、知っている人の死に書く手が震えた。

「ルルも居なくなってしまってね」

「ルルを追い掛けて行った若者だけが帰ってきたの」

帰ってきたと聞いてホッとした。

「不思議な事にルルへの気持ちが覚めたんですって」

「あんなに夢中だったのに」

ハルナツさんは話ながら何度も首を傾げていた。

きっとあの白い世界のせいだ。

青年からルルへの愛情を…、そう分かっても無力な私は何も出来なかった。

ハルナツさんの手紙は、クララさんが亡くなった知らせとルルの事だったらしい。

隣の村の近くで起きた氾濫は、冒険者ギルドからの冒険者パーティーが討伐してくれたそうだ。

『今日は教えて貰いたくて来ました』

改めて書いて見せた。

「私たちで分かることなら教えますよ」

「何を知りたいの?」

『旅の途中で首輪をしてる人間の青年を見たんです』

「それはね、きっと孤児の志願兵の子ですよ」

「軍が集めていたのよ」

15才を過ぎると働けるけれど、孤児を雇ってくれる店は少ないから殆どは冒険者が盗賊になる。

「獣人の奴隷が氾濫や小競り合いで居なくなってしまったから、軍は孤児を兵士にしようとしたの」

「15から25歳の青年だけを集めようとして、話だと冒険者ギルドにも手伝わせたそうよ」

国民からって、孤児からって意味だったんだ。

『それが何故奴隷に?』

「兵士に不合格になった人は就職先を斡旋すると嘘を付いて奴隷にするから気を付けるように、って小間物を売りにくる商人が話していましたよ」

「幸いこの村には居ませんが、他の村では仕事がなくて兵士に志願しようとする若者が居ますからね」

『志願兵を奴隷に?でもそれが許されるんですか?』

「もちろん許されませんよ。それを今の王さまが強引に押しきってしまったんですよ」

「それに…、人も従わせる隷属の首輪が出来たそうですから軍には気を付けろとみんな警戒してますよ」

『それがあの鉄の首輪なんですか』

「一昨日来た商人は、軍が志願兵全員にその新しい首輪をさせたと話してましたよ」

43の町の立っていた兵士が思い出された。

もしかしたら…、あの制服の下に首輪が?

「危ないですからね、ルアンも気を付けるんですよ」

『志願はどの町でも出来るんですか?』

「本線の町なら出来ると聞いてますよ」

「まさか、行く気なんですか?およしなさい」

『私じゃないです』

慌てて40の町で生き倒れた少年の事を書いた。

「それはヒントを掴みに行ったのかもしれないわ」

「この一月くらい急にですけどね。43の町に幸せになれる神殿のヒントが隠されているって聞きますよ」

『幸せになれる神殿?』

「ええ、そう聞いてますよ」

「そこに最強兵器が隠されているとかで、一時期は軍まで探していたそうですよ」

『最強兵器』

「噂ですけどね、龍人を味方に着けるのにも成功したから、後はその兵器があればハルツに勝てると」

「王さまは勝利を確信しているようですよ」

ハルナツさんは怒った顔で悔しそうに言った。

「ルアン?何を驚いているんですか?」

「あら、顔色が悪いですよ」

『龍人って』

「言い伝えではもう死に絶えたはずなんですよ」

「遠い昔、悪魔みたいな龍人をモナークとハルツが力を合わせてやっつけたから平和になったったのに」

「それなのにモナークとハルツで争って」

「悪魔の龍人の力を借りるなんて人間の恥だわ」

あぁ、やはり龍人をやっつけたってなってるのか。

其れも悪魔って…。

「絶対裏切りますよ。龍人ですからね」

「でもルアンは安心して良いですよ」

「王室には龍人をやっつける聖剣が奉られていて、その剣を扱える聖騎士が代々いますからね」

えぇっ!

グラムを倒せる剣と人がっ!

あっ!

『それは獣人にも有るんじゃないですか?』

「ハルツの話は伝わってないわね」

「無いわねぇ」

ハルナツさんで頷き合っている。

『最近町で獣人を見ないんですが。何か聞いてな』

書いてる途中でハルナツさんの話が始まった。

「ハルツには昔からハルツだけの道があるんですよ」

「それに、鳥人もいて空を飛べますからね」

あ…。

始まりの町から何とか鷲の部隊が王子を連れてくると、獣人が話していた光景が思い起こされた。

「今の王さまになってからのモナーク国は悪魔の龍人と同じ道を歩きそうで、恐ろしくてたまりませんよ」

ハルナツさんは空を見上げて、声を潜めた。

「神さまはこの世界を見守る役目をチェスター国の王さまにお与えになったの」

「神に代わりに天罰を与える力も」

え?

『それも言い伝えですか?』

「そうよ。30の町の氾濫でチェスター国の魔法使いが1人で討伐した話を聞いたとき」

「モナーク国の国民はみなこの言い伝えを思い出したに違いありませんよ」

聞いていて首が傾いだ。

モナーク国はチェスター国の神の壁を通り抜ける魔法を見付けたらしいとクラークさんは言っていた。

それに、グラムの事はこんなに噂になっているのにチェスター国の話は漏れてないとか信じられなかった。

「ルアン?」

『チェスター国を狙っていると聞きました』

「今のモナーク国の上の方は、そんな野望を持っているかもしれませんね」

「チェスター国の守りは神の守りなのに」

「例えモナーク国が愚かな戦争を仕掛けても、神の壁は壊せないでしょうね」

ハルナツさんは、過去に何度もチェスター国に攻め込もうとしたが1度も成功してないと笑った。

「それはモナークだけではないんですよ」

「ハルツもですから神も呆れているでしょうね」




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