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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
バック30の町から
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氾濫と30の町



「ルアン」

時間に飲み込まれていた私を揺り起こしに来たのは、やはりクラークさんだった。

気力も何もなくて、返事すらする気持ちになれなくて、クラークさんを見ることもしなかった。

「ルアン。チェスター国の者として、30の町の氾濫を討伐に行って欲しい」

『氾濫?』

30の町の冒険者ギルドがパッと頭の中に浮かんで、お姉さんの顔が思い出された。

「そう、30の町で氾濫が起きてる」

『そう』

だからどうだと言いたいのだろう。

「チェスター国に救援要請が着ている」

『そう』

「ルアンに行って貰いたい」

『…え?私…?』

クラークさんは何を言ってるんだと思った。

『クラークさんが行けば良いじゃん』

「俺はこの町を離れられない」

聞きたくも無いのに、クラークさんは氾濫の規模や被害を淡々と話してきて行ってくれと繰り返す。

「規模は約2500。町の半分が破壊されている。助けられるのはルアンだけだ。助けに行ってくれ」

『何で私?』

念話するのさえだるかった。

「全体魔法が使えて、1人で氾濫を鎮められるのはルアンしか居ないからだ」

『そんな目立つ真似させて、お尋ね者にしたいの?』

「チェスター国のルアンだとしれわたれば、逆に動きやすくなるんじゃないのか?」

『はぁ?』

まるで今朝も見た夢をクラークさんに見透かされてる気さえして、眉にシワが寄った。

「モナークにもハルツにも手出しはさせない」

『無茶苦茶言わないでよ』

ふっ…と、クラークさんは全部知っててここにいる気がしてきて、諦めて大きく息を吸い込んだ。

『クラークさんを動かしたのは氷の竜?』

「氷の竜?違う。ルアンには30の町の断末魔が聞こえないのか」

『聞こえない』

立ち上がって軽く体を動かす。

3ヶ月さぼった体は屈伸だけで骨が鳴った。

「擬装して、髪を金髪にしていけ」

『何故?』

「魔法使いを向かわせると言ってある。それに、討伐後市民に紛れるのも擬装を解くだけで済む」

『終わったら転移で戻ってくるけど、しつこい軍の目を掠めるには擬装を使った方が良さそうだね』

金髪ならと装備も派手なのに取り替えた。

「ルアンが戻ってきてから一月も経ってない」

『…え?』

マントを羽織る手が止まった。

『一月?戻ってきてから3ヶ月はここに居たよ?』

「ここはチェスターだ。21の町から泣いて戻ってきたのが三月前と言えば、納得出来るか?」

ダメ押しじゃないけど、クラークさんは次いでのように怖いことを言った。

「チェスター国の国民は、他の国へ行ってても戻ればこの国に産まれた姿に戻る」

『…無理』

クラークさんは固まってる私に次の指示を出した。

「30の町でギルドカードの提示を求められても出す必要はない。報酬は俺がランクアップさせる」

『…何を隠してるの?』

「戦争が膠着状態でな、聖獣、龍人、魔法使い、どちらも喉から手が出るほど欲しい」

『チェスター国には聖獣、龍人に劣らぬ魔法使いが居ると見せ付けてこいと?』

「良くできました」

チェスター国の為だけど、それが戦争の抑止力になるとクラークさんは言いたいんだ。

『行ってきます』


転移したのは30の町の冒険者ギルド。

派手な装備に金髪。

キラキラの形容詞が付くくらい輝く金髪にしたから、態々名乗らなくても、冒険者ギルドの職員が向こうから駆け寄ってきた。

「チェスター国の方ですかっ!!」

「お待ちしてましたっ!」

「まずギルドカードをっ!」

『最初から約束をたがえるなら、総括の依頼でも討伐には参加しない。それでもいいな』

男に擬装すれば良かったと思いながら、なるべく低く聞こえるよう意識してvoiceを使った。

取り囲んだ職員はぎょっとしつつも、規約だからと強気に出てくる。

にっこり微笑んでマントをひるがえすと、慌てて特例で出さなくて良いと言い始めた。

「その代わり素材は冒険者ギルドと軍が回収します」

『それなら討伐もそちらでどうぞ』

めんどくさくなって帰ろうとしたら、奥から軍服を着たおじさんが出てきた。

「何をぐずぐずしておる!さっさとしろっ!お前は今日から俺の配下に加えてやる。有り難く思え」

『モナーク国はチェスター国と戦争したいと見える』

ぎろりと睨み付けたら顔を真っ赤にして後ろの兵士をけしかけてきたから、風魔法で兵士ごと飛ばした。

ざわざわしていた冒険者ギルドから音が消えた。

この範囲に聞こえるかは微妙だけど、やるしかない。

『これ以上ふざけた真似をするなら。見棄てる』

わざと下の装備を見せるようにマントをひるがえす。

「お、お願いします」

「討伐してくださいっ!」

懇願する職員の後ろに、軍服の後ろの魔法使いが唱え始めたのが見えた。

光の結界と解呪は転位して直ぐから掛けてある。

魔法で魔法使いをその場に縛り付けてから、冒険者ギルドの外へ出た。

町は炎に包まれていた。

逃げ惑う市民、兵士も逃げ回っていた。

昔は市民を巻き込まないようにとか考えて必死になったけど、今はそんな気持ちにもならない。

ポーーン。

魔物が固まっている場所から雷魔法で倒していって、風魔法でアイテムボックスに回収する。

ボスは大型の鳥なんだけど、そいつより地上の大型の熊の方が目立つから偽ボスにしてラストに倒した。

ポーーン。

何度かレベルアップの音がして、討伐が終わったらレベルは85になっていた。

周りの目が熊に集中してるうちに、装備をマントで隠し金髪を黒に戻した。

熊一体くらい惜しいとも思わない。

路地に入って10の町へ飛ぼうとしたら、目の前に傷だらけのルルがいた。

視界に入った事が奇跡か悪夢か分からない。

それでも、見てしまったからには見ない振りで見棄てる訳にもいかない。

不思議だけど、路地にはルルしか居なかった。

初級ポーションを傷に掛けて、背負うように引き摺りながら人の波に混ざった。

『クラークさん。聞こえますか?』

『どうした?トラブルか?』

『30の町でルルが怪我してました。1人のようなので避難所に寝かせてから帰ります』

『ルルが?村の青年は一緒じゃなかったか?』

『ルル1人でしたよ』

ルルは傷が治ったらまた村を出てしまったそうだ。

そのルルの後を青年も追ったらしい。

クラークさんと念話しながら着いたのは、軍の訓練場も兼ねてる町外れの広場だった。

兵士から毛布を貰って、その上にルルを寝かせた。

別の兵士が配って歩いてる携帯食も2つ貰って、起きたら食べれるように枕元に置いておいた。


目が覚めたらまた面倒だと思って帰ろうと立ち上がったら、前から軍服姿のあの女が歩いてきた。

カレンの話の通り、本当に軍の人間だったと分かったらもう笑いしかなかった。

顔を背けて通り過ぎるのを待つ。

待つ間、突拍子もない考えが閃いた。

急いでマントの下の装備を黒に戻し、自分に隠蔽を掛けて女の後を追った。

女は広場の奥の仮テントの中へ入って行った。

中に入るのは危険だと思って、入口からこっそり中の様子をうかがった。

中には赤茶の髪のあの馬車の青年がいた。

「チェスター国の魔法使いはどうした」

「見付かりません。おそらくチェスター国の総括が転移でこちらに送り、討伐終了で呼び戻したかと」

会話からすると、赤茶の青年が女の上司だろう。

「カレンの動きは掴んでいるな?」

「はい。ですが肝心の聖獣は、あの包囲失敗以来所在が掴めなくなっています」

「その代わり龍人を従えている、か」

!!

「カレンと言う女は不思議な女だ」

「上官は10年以上追っていたそうですが」

「あの女の兄と俺は同期でな、偶然女と遊ぶ聖獣を見たときは出世のチャンスだと思ったものだ」

あ…、じゃあ登録したから軍に目を付けられたんじゃ無かったのか。

「見たのを聖獣に気付かれて姿を消されたのはこちらのミスだったが、カレンを見張れば必ず表れる」

「カレンには獣を引き寄せる何かがあると?」

「おそらくな、だから龍人も同行してる。いいか必ず聖獣はカレンの前に現れる。聖獣を捕まえる前に、実験材料の龍人を捕まえる準備を怠るな」

「はい」

女は颯爽とテントから出てきた。

私も10の町へ転移しようとしたら、走ってきた2人の冒険者がテントに入って行った。

「速いですね。素材の回収は終わったんですか?」

赤茶の青年は目を細めて2人の冒険者を見た。

「それが…ボスの素材しか残ってなくて」

「残ってない?燃えたのではなく、誰かが盗んだ?」

「…それしか考えられない」

言いにくそうな冒険者を赤茶の青年はじっと見た。

「チェスター国にしてやられたな」




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