念話と会話
翌日、voiceでグラムに呼び掛けた。
『手紙読んだよ』
『何故答えなかった』
『たまには誰にも会いたくない時もあるよ』
『何があった。今何処に居る』
『チェスター国の10の町』
『チェスター国?切るなよ』
ぼんやりグラムの話に相づちをうった。
怒ったような口調が可笑しかった。
笑ってたら目の前にグラムがいた。
へ?
『何で居るの?ここチェスター国だよ』
『念話が繋がっていれば相手の居る場所に行ける。 ルアンは違うのか?』
『違うよ。1度行ったことのあるところにしかムリ』
『不便なんだな』
『うん』
突然やって来たグラムに聞かれるまま、カレンとガウの話をしていた。
何故か抵抗無く放せていた。
「どんな女だ?」
『綺麗な人だよ。ちょっと短気だけど二刀流使って強いし。出来るか分からないけど、また話せる時はグラムにも紹介するよ』
「頼む」
『今27の町に居るはずだから行ってみなよ』
『ルアン。何処に居る』
話してたらガウが話に割り込んで来た。
『チェスター国の10の町』
『何故来ぬ』
『行かない方が良いよ。カレンの望みは私じゃ叶えられない。怒らせるだけ』
『カレンは待っている』
『俺も行ってやる』
グラムまで言ってくる。
『じゃあグラムだけ行きなよ。ガウの声聞こえるなら簡単に行けるでしょ』
『グラムとは何者だ』
『俺はルアンの友人だ』
『念話が出来るのか』
『だから話してる』
『ルアンの補助なく使えるのかと聞いている』
『ああ、無しに使える』
『ルアンと来るがいい。今は仲間が多い方がいい』
『今は無理だ。ルアンが弱っている』
『何故だ』
『カレンと言う女の言葉にだ。俺の念話に答えないほどに心を閉ざしていた』
『我がカレンに代わり謝罪する。なれど着てくれ』
『お前は誰だ』
『我はガウ。炎の竜の僕、炎の聖獣なり』
『炎の竜?ルアン。本当か?』
グラムの目は希望への可能性に光っていた。
『嘘は言わぬ。ルアンを連れて来るがいい』
『ルアン行こう。俺は聖獣と炎の竜に会いたい』
『グラムだけ行って』
『聖獣はお前を呼んでいる』
あぁ、グラムも同じだ。
『クラークさん着て貰えますか?』
『どうした?』
『龍人のグラムが来ています。念話が繋がれば、繋がれた相手の場所に来れるそうです』
『分かった。直ぐ行くから待ってるんだぞ』
『はい』
クラークさんとの念話は切れた。
オンとオフが自由に出来るらしい。
『クラークとは誰だ?』
『チェスター国の10の町のギルドマスター』
『何故呼んだ』
『冷静な判断を仰ぎたいから』
『俺が頼りないか』
『グラムはガウに会いたいだけでしょ。私は今は嫌だと言った。それでもガウに会いたいから行かせようとする。ガウもそう、カレンが会いたがっている。それだけでカレンの気持ち優先で私の気持ちは関係ない』
グラムもガウも黙ってしまった。
それから暫くしてクラークさんが来た。
「彼が龍人?」
頷いた。
「確かに。その波紋を久し振りに見るな。先に忠告する。ハルツ国では知らないがモナーク国に行くときはその波紋は隠した方がいい。彼れらは自分達の先祖が龍人を根絶やしにしたと思い込んでいるからな」
クラークさんの『薄いな』って呟きが聞こえた。
薄い?
何が?
「笑止」
「それと、今は念話は止めろ」
グラムとクラークさんの会話で思考が中断された。
「何故だ」
「こちらの会話が相手に筒抜けになる」
「それが何故いけない」
「ルアンは拒否している」
クラークさんとガラムの睨み合いになった。
勝ったのはクラークさんだった。
「ルアン。何があった、話してくれ」
カレンと知り合った話、20の町での話、氾濫でカレンが利用された話、27の町であった話、炎の竜と地の竜の話、カレンに言われた事の話、全部書いた。
「俺は言われた話しか聞いてない」
「気負っているお前には話せなかったんだろうな」
「俺を信用出来ないのか」
「話せない事でずっと嫌な思いをしてきたルアンに、信用しろと言ったって簡単には信用出来ないさ」
グラムがまた黙った。
「ルアンはどうしたい」
『捕まっている9人を助け出して、カレンと会わせるべきだと思う。力を貸して軍を倒すべきだと思ってたけど、27の町だけ倒しても他からまた来る』
「そうだな」
「それは違う!俺は龍人だ。力のある龍人が弱くて困ってる人間を助けるのは当然な話だ」
「ならお前が助けろ。人の醜さを都合良く忘れ、自分の欲に溺れた龍人をルアンが助ける義理はない」
「俺は欲に溺れて助けようと思ったわけじゃない!」
「お前たち龍人の村には、人や獣と関わるなと掟があるはずだ。忘れたのか」
「忘れてはいない。だが今回は炎の竜に仕える聖獣もその女に加勢している。俺も助けるの当然だ」
「ならお前だけ行って龍人の力で助けてやれ」
グラムが怒ってガウの元へ転移してから、クラークさんは龍人の話をしてくれた。
「まず先に、聖獣はカレンのためにルアンを利用したいだけだ。それは分かっているな?」
クラークさんに頷いてからはっきり書いた。
『グラムはガウが炎の竜に仕える聖獣だと知って、神化を叶えて貰える可能性に周りが見えなくなった』
「正解だ。神化を龍人に下すのは昔から命竜だけだ」
『命竜?』
「竜と龍の命を神に仕えて司る竜だ。竜も龍も長命だから、導く長は欲を持たぬ広い心の者を長にする」
『龍はどのくらい生きるの?』
「竜や龍は5000年。神竜や、神龍になると10000年以上。無限に生きる物も稀にいる」
『神化して龍が神龍になるの?なら竜は?』
「神になるのは天に選ばれた物だ。1頭もいない時代もあった。また神竜も神龍もいた時代もある。神にまで昇るのは天が決める」
『ならグラムは』
クラークさんは首を振った。
「龍人と龍は違う」
『違うの?』
「龍人は龍にはならない」
『ならない?なら神化は?』
「命龍に次の長に相応しいか真価を問う儀式だ」
『真価を』
「龍人の長は人や獣に関わらない場所に村を作り村人を導いている。そうか、グラムの村は長が死ぬ時を迎えて代替わりが近いから導く力が衰えたのか」
『代替わり?』
「だから神化の儀式をしてるんだろう」
『選らばれた人が長の娘と結婚するの?』
「そんな決まりは無い」
『グラムはそう言ってた』
「違う。そんな決まりは無い。長は村を守るため村人から悪意を吸い取る。神は愚かな人間と獣人から力を抜き取ったが竜と龍からは力を抜き取らなかった。世界を見守らせるためだ」
『世界を?』
『神化の儀式は次の長に相応しい者しか選ばない』
『長に?』
「長には世界が見えている。龍の力を今の時代の人や獣がどう利用するかも見えているはずだ」
『グラムの事も?』
「おそらくな。見えていて何も言わないとすると」
『成長に期待するか、見捨てたかの2択?』
「多分な。ルアンはどうしてグラムと知り合った?」
グラムと知り合った時の話をクラークさんにした。
「なるほどな、自分を痛め付けた人間への警戒心よりも、聖獣、炎の竜の欲が勝ったらしいな」
書けなくてため息をつくしかなかった。
「あいつは双子なのか?」
『聞いてない。憎しみが強すぎて他の話は』
書き掛けてハッとした。
グラムから、村に帰ってどうなったかの詳しい話は1つも聞いてなかった。
「どうした?」
『グラムから村に帰ってどうなったか聞いてない』
「言いたくなかったのかもな」
『話したくなかった?嫌な話だからかも。帰るときも憎しみが強かったから、もしかしたら本当に』
先を書くのが躊躇われた。
「憶測だけで話すのは危険だぞ」
『そうだよね。直ぐガウの話になったから聞けなかったの。もう聞く機会は無いかもしれないけど、もしあったら結果を聞いてみるよ』
「そうだな」
『何故クラークさんはそんなに詳しいの?』
「チェスター国の番人だからさ」
『番人って?』
「チェスター国は王がいない」
『いないの?』
「ここは神の箱庭だ」
『だから?』
「だから数人の門番が世界を見守りチェスター国に害するものを除外する」
『除外するって。来れないようにするの?』
「それに近い」
『龍人の長が見守るように、害する人はチェスターに来れなくしてしまうの?』
「近いとしておこう。ルアンは知らなくていい」
クラークさんはそう言って頭を撫でてくれた。