カレンとガウと私と…
2日後、カレンが気が付いてから話を聞いた。
カレンの傷は土の竜が治してくれていた。
怒りで理性が飛んだカレンを落ち着かせて、私が念話が出来ると理解させるのは大変だった。
「仲間の1人が裏切った。それは嘘。本当は軍の兵士だった女が…。私を含めたみんなも女の兵士がいるなんて思わなかったから警戒もしてなかった。だから軍にアジトを囲まれて、無防備だった仲間は捕まった」
『カレンはガウが助けて逃げたんだね』
「そう、町中兵士がいて、押されるように逃げた」
『ガウなら屋根まで飛べるのにと思って不思議だったけど、逃げられないよう初めから結界を張ったてたんだ。わざと神殿の方向だけ結界に穴を開けて、ガウを追い込んだんだね』
「今思えばそうだったと分かるけどあの時は夢中で」
『うん、その女は見れば分かる?』
「あの顔を忘れるはず無い」
『カレンの他に3人逃げてるって聞いてるの。何処に居るか思い当たる?』
「誰が逃げ切れたの?」
『そこまでは分からないよ。カレンの他に3人逃げてるって女の人に聞いただけ…もしかしたら』
カレンに助けてくれた女の人の特徴を話した。
「似てるけど直に見てみないと分からないわ」
『カレンの姿を変えて調べに行きましょ。その前にガウに聞きたいの。転移は使える?』
『使う』
『カレンを転移させる事は可能かな?』
『出来ぬ。転移は我のみ』
『そうか、なら私だね』
カレンの手を掴んで、1メートル先をイメージしてから転移のスキルをタップした。
かなり魔力を持っていかれるけど、可能みたい。
『ルアンは神の使いか?』
『違うよ。2回ほど会ったけど使いじゃない』
『神と会うだけでも奇跡と思え』
会いたくて会ったわけじゃない。
『平行線になるからこの話はもう無しね』
『うむ。話せぬ訳があるなら聞かぬ』
『ありがと。後はカレンだけ転移させられるかだね』
それは倍の魔力を使った。
本とかでは魔力回復のポーションとか有るけど、このゲームの世界にはそんな便利な物はない。
攻撃の全体魔法を使って、カレンと転移じゃぎりぎり魔力が足りない。
レベル不足が痛かった。
腕輪は単体。
全体魔法の武器は無い。
それなら。
『ガウ。全体の攻撃魔法は使えるよね?その後転移は可能?それなら27の町に居る軍を潰せると思う』
『我は聖獣ぞ』
『じゃあ任せる。私とカレンはこれからカレンの言う女を探しに行きたいけど私の魔力ぎれ』
魔力が回復するのは明日。
待つ間に、捕まらなかった3人が居そうな場所をカレンに聞いた。
「誰が逃れたのかで場所は違うと思う」
『何故?』
「1人1人万一の場所を決めてるから」
『それはその女も知ってるんじゃない?違う場所は思い付かない?』
「場所じゃないけど、27の町に仲間が良く行く酒場なら可能性あるかも…」
カレンに酒場と言われて、あの女の人に連れられて行った酒場を思い出した。
「その酒場って」
場所を言ったらやはりそうだった。
『危ないと思う』
その酒場で尋問に近い探りを入れられた事を話した。
「そんな…信じられない。みんなも信頼してるおじさんがやってる店なのよ」
『じゃあ明日は姿を変えてその店に行ってみようよ』
頷くカレンに気になってた事を聞いた。
『誰かにガウの話をした?』
「リーダーにはしたよ。食料の調達とか軍とぐるになってる店を襲うのにガウの力が必要だったから」
『話したのはリーダーにだけ?』
「リーダーが万一に備えてサブリーダーには話すって言ってた」
『サブリーダーもいるの?カレンの仲間って全部で何人いるの?』
「サブリーダーは2人、仲間は15人」
『ガウも混ぜて?』
「ガウは混ぜてない」
15人の中で3人も知ってる。
それじゃあ秘密が秘密じゃない。
ガウの存在が軍に漏れるのも、きっと時間の問題だったと思う。
何故カレンを執拗に追うのか疑問だったけど、ガウの存在が軍に漏れてたからなんだ。
あの女の人はカレンのお兄さんの事も話してた。
そうか…軍はあの氾濫の時からカレンイコールガウの図式が出来上がってたんだ。
だから解放軍にカレンの名前を見付けて、ガウを捕まえるために結界を張った。
なんてカレンに話そう。
この仮定を話したら仲間を疑うのか、ってカレンは怒ると思う。
何か仮定を肯定する証拠があれば…。
見付かるまで、話さないでおこう。
翌日、私の魔力はカレンと転移用に温存して置きたいから町の近くまでガウに乗せて貰った。
ガウと落ち合う場所を決めて、町へ歩きながらカレンと私に擬装を掛けて、目的の酒場に行った。
カレンは昼はお茶と食事を出す店になってると知って、驚いていた。
「違う…」
店主はカレンの知るおじさんじゃなかった。
『可能性として昼だけ店を貸してるとか、店を売って違う場所に引っ越したとか、有ると思うよ』
「…そうよね」
店はおじさんと若い青年と2人で開いていた。
あの青年は兵士だろう。
店に入って、奥の隅の1つ手前の席に着いた。
それはあの女の人がその奥の席を好むから。
お茶とご飯を頼んで、話ながらゆっくり食べる。
お茶を飲んでからごちそうさまと席を立った。
おじさんはチラッと立ち上がった私とカレンを見て、すぐ視線を外した。
そのタイミングで自分とカレンに隠蔽の魔法を掛けて、壁側へと素早く移動した。
念のため、風でカレンの声を周りに聞こえなくした。
万一驚いて叫ばれたら元もこもない。
店に入る前に、隠蔽の魔法を使ったら喋っちゃダメだとしつこく言ってあるけど、カレンは直ぐ感情的になるから信用できなかった。
暫く店の音に耳を澄ます。
遅い昼の客も来て、そこそこ客も入っていた。
4組目に入ってきた3人組の会話は怪しかった。
冒険者風の2人と商人風の1人だから珍しい取り合わせじゃないけど、3人とも目付きが鋭い。
カレンは熱心におじさんを見ていたから、私は風魔法で3人の会話を拾った。
「依然カレンの行方はしれないな」
「捕まえた奴らを拷問して調べたが4人の行方は本当に知らないようだ」
「収容所には何人残っているんだ?」
「こいつが2人攻め殺しちまったから9人だ」
くくくと笑う声が気持ち悪かった。
そこへおじさんが来て声を抑えろと注意した。
まさか…あの馬車の青年もそこに?
動揺で背中が痙攣した。
「連絡が来たら真っ直ぐ収容所に帰るのか?」
「ああ、少佐が煩いからな」
「しかし遅いな」
3人は誰かを待ってるらしい。
そこへやって来たのはあの女の人で、3人と目配せしあっていつもの席に着いた。
カレンがおじさんからその女の人を見た瞬間。
「こんのやろー!!」
殴りかかろうとしたカレンをガウの場所まで飛ばす。
どっと魔力を取られ壁にもたれた。
そうしてるうちに、3人が奥のテーブルに移動した。
「遅かったじゃないか」
「ルアンって子の報告を待ってたのさ」
「それで?」
「間違いなく35の町のダンジョンに居る」
ギクリとした。
まさかまだつけてたなんて気付かなかった。
「白か」
ドキドキして女の人の話を聞いてたけど、何故かグラムの話も36の町の話も出なかった。
もしかしたら…、神が人からグラムの記憶を消した?
有り得そうで怖かった。
「ああ。20の町で別れてから会ってないな。話せないから誰かに聞くのも無理があるからね」
「確かにな」
「他は?」
「聞いてた居場所には4人とも立ち寄ってない。そっちは?何人落とせた」
「誰もはかないな。こいつが2人殺したいくらいだ」
「兎に角手掛かりがない。捕まえた奴らを攻め殺してもいいからはかせろ」
「分かった」
4人は別々に店を出た。
私は収容所に帰る1人を後ろからこっそり着けた。
男は町の外れの荷物置き場みたいなところに、左右を確認してから入っていった。
見張りは居ないけど、中が分からないのに忍び込むのはやっぱり怖かった。
諦めて待ち合わせ場所へ転移した。
転移して見た光景はきつかった。
『何故わからぬ』
ガウが右足の下にカレンを押さえていた。
「放せっ!あの女が居たんだ!なのにルアンが私を飛ばしたっ!飛ばされなきゃ仲間の居場所を吐かせられたのに。ルアンのせいで出来なかったんだよっ!」
感情に飲まれるカレンだって分かってたけど、カレンに私のせいとか言われたらもう何も出来ない。
『余計な事したらしいね』
『すまぬ』
『カレンの頭が冷えるまで消えるよ』
かなり魔力を使った後だから転移は辛かったけど、10の町まで飛んで宿を取った。
暗澹と夜を過ごし、voiceを、全てを、拒絶した。
その闇を突き抜けてクラークさんが来た。
宿から冒険者ギルドに知らせたらしい。
「何があった」
voiceを拒絶しているのを知って、話してきた。
短くカレンの事を書いた。
「放っておいて良いのか?」
『カレンは感情に直ぐ流される。何度も聞くのは自分を否定されてる気がして辛いから、もう嫌だ』
「確かにそうだな。今は休め」
心配しておかみさんが部屋に持ってきてくれた食事を食べ寝て、後はボーッとして過ごした。
5日目に、クラークさんが手紙を持ってきてくれた。
『何故念話に答えないんだ。俺も冒険者だぞ』
短い手紙に笑ってる自分がいた。
「こいつは誰だ?」
『途中で助けた龍人』
「龍人だって!そうか…」
クラークさんの声には懐かしさが籠っていた。
「もう昔の話だが。モナーク国とハルツ国は結託して龍狩りをした。誰よりも強く神に近い龍人をこの世界から抹殺しようとしたんだ」
『そんな話はしなかった』
「彼らには意味の無い話だからさ」
『意味の無い話?』
「彼らはつがいの1組が居れば生き抜いていく。それほどに強く神に近い存在なんだ」
つがいの2人が子を生み村が出来る。
近くに龍の村があれば互いの血を合わせ、濃い血を薄め合い新しい村を作る
『年に1度竜に神化を問うとは?』
「次の村長を決める儀式だ」
『そう聞いた』
「龍人は1000年は生きる」
『本当に?』
「だから神に愛された種族と呼ばれているんだ」
『それはチェスターでしょ』
「違う。チェスターは神が遊びで作った箱庭だ。この中には悪人は居らず人は死なない」
『盗賊は?悪人じゃないの?』
「悪人は箱庭から他の国へ出される。今トーヤはこの国に居ない。代わりにどこかで青年が産まれる」
ぞくぞくした。
「ルアンは神が遣わされた命。何か運命を背負ってこの世界に生まれてきた。ある説で、我らも別の世界から記憶を消されてこの世界に来たとも言われている」
『チェスターに居る全員が?』
「ああ」
クラークさんは一呼吸置いて話し出した。
「その龍人に出逢うためにルアンはこの世界に生まれてきたのかもしれないな」
『それならもう彼を助けたことで終わってるよ』
「なら何故手紙か来る?終わらせなくないからだ」