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次の町へ



誰か読める人が居ます様に、と願いながら床にパーティーとはぐれたと書いた。

幸い4人とも読めたから、一緒に始まりの町へ戻りますかと聞いてみる。

レベル0の私が4人を守りながらダンジョンを抜けるのは厳しそうだけど、置いてはいけない。

「踏破したら自動で外に出られるんじゃないの?」

気の強そうな女の子のヒステリックな声に耳を塞いで、そんなの無いと首を振って見せた。

「分かったから少し休ませてくれよ」

床でへばってた男の子がそう言って女の子を見る。

疲れきってる様子の4人は、ダンジョンはまだ早かったとか、ここからどうやって出るの?とか、半泣きで話していた。

聞いてると、ダンジョンに潜るのにポーションも用意して無いらしい。

仕方無いか…。

床をとんとんと指で叩いて、4人の意識をこっちに向けさせた。

防具の内ポケットから出したように見せ掛けて、アイテムボックスから初級ポーションを5つ取り出した。

「えっ、良いの?」

きつめの女の子はありがとうも言わないで1つ飲むと、他の3人にも配った。

「おいっ!」

男の子2人が同時に非難の声を上げる。

「良いじゃない。くれるって言うんだもの貰ってあげなきゃ」

「1ついくらすると思ってるんだ!」

「金払えよ!」

男の子2人に言われてむすっとする女の子。

内輪揉めはいいから、早くポーション飲ませてダンジョン脱出したい。

飲んだら脱出しよう、と床に書いて頷いて見せた。

私が話せないと知った4人はめんどくさかった。

いい加減嫌になって独りで出ようとしたら、男の子の1人が慌てて同行させて欲しいと言った。

「すまない」

「悪いな」

「…ありがとう」

4人目にして初めてありがとうの言葉が返ってきた。


私を先頭にして薄明かるいダンジョン内を進む。

最後尾は盾を持ってる無口な男の子にお願いした。

このダンジョンは始まりの町のダンジョンらしく初級の初級で、出てくるのもスライムくらいなんだけど、たまに5匹とかの集団とぶつかるから油断できない。

びくびくする4人を守りながら出口を目指した。

移動しながら、ありがとうと言った大人しめな女の子が、私の横に来て自分たち4人の事を話始めた。

「私たちの名前は…」

私は立ち止まって必要ないと首を振った。

ダンジョンを脱出したら別れる人の名前を知ろうとは思わなかった。

彼女は諦めたのか私の後ろに下がったけど、1分もすると独り言の様に自分たちの事を呟き始めた。

4人は16才。

みんな同じ村の生まれで、村には仕事がないから町へ出て冒険者になった。

冒険者登録をしたのは昨日、装備にお金を使ってしまったのでポーションの代金は少し待って欲しいと消えそうな声で言った。

始めから貰うつもりないけど、要らないって言ったらあのきつい女の子が何て言うか分かるから要らないっては言わない。

意地悪かもって思うけど、あの態度は小学校の時のいじめっ子に凄く似てて親切にしたくなかった。


ダンジョンを脱出した所で4人と別れるつもりだったのに、4人はぞろぞろと私の後から着いてきた。

後ろでこそこそ話されるのは決して気分のいいもんじゃないって、当人たちは気付かないのかな。

よく喋る軽い男の子がこのパーティーのリーダーなんだろう、もう1人の盾役の男の子は口数は少ないけど自分の役割はしっかり果たすタイプに見えた。

女の子たちの方はきつい女の子と、対照的な大人しめな女の子の組み合わせだ。

見た感じはきつい女の子に他の3人が振り回されてるように見えた。

4人がヒソヒソと交わす会話の中で何度か「ポーション」の単語が聞こえる。

支払いの相談をしてるのか、…それとも。

ふと、5本目のポーションの在処が気になった。

気にはなったけど、嫌な予感がするから確かめるのは止める。

やっと町の入り口まで帰りついたら、門番が4人と私を見比べた後、私だけに探る視線を向けてきて、それがなお私を疲れさせて苛立たせた。

隊長さんは良くしてくれるけど、他の門番は話せない私が冒険者をしてるのが許せないらしく今みたいに悪意の目で見てきた。

冒険者ギルドの前で立ち止まって、建物を指差してから4人にバイバイと手を振った。

4人は困ったように互いを見合ってから、遅れて冒険者ギルドへ入ってきた。


夕方の冒険者ギルドは混んでいた。

順番を待って、お姉さんに初心者のダガーを見せる。

「良かったわねー」

喜んでくれるお姉さんに頭を下げて、明日次の町へ向かう予定だと伝えた。

ついでを装って、パーティーから抜けてるかをお姉さんに確かめる。

が、まだらしい。

ゲームのままなら、パーティーを組んでるメンバーで経験値を頭割りにする。

それは絶対嫌だった。

「大丈夫よ。私の方でパーティーから抜いておくわ」

頷いて立ち去ろうとしたら、4人のリーダー格の子がお姉さんに話し掛けた。

「彼女が今のパーティーを抜けたら僕たちとパーティー組めますか?」

ええぇ!!

リーダーのお姉さんへの言い分は、私をパーティーに混ぜて冒険者の初歩を教えて貰いたいだった。

呆れて4人を見返した私は、無口な子の影できつい子がニヤッと笑ったのを見逃さなかった。

おそらくこれを考えたのは彼女だと確信する。

私をパーティーに入れればポーションの代金をうやむやに出来ると、リーダーをそそのかしたのだろう。

身勝手な言い分に呆れる。

お姉さんはソロの私を心配してたから、パーティーへの招待に喜んでいた。

当人を抜かして、勝手に進む話に腹が立つ。

受付カウンターを拳でゴンと殴ったらお姉さんも4人もやっと私の方を向いた。

パーティー拒否。

お姉さんと4人に、走り書きした紙を押し付けるように見せる。

みんなが黙ったからパーティーに誘われてない事と、私の意思を無視して勝手に決めないでと書いた。

読んでムッとしたのか、リーダーの口調には怒りが含まれていた。

「喋れないんだろ?可哀想だと思ったから、俺たちは善意で誘ってやるんだ」

受付のお姉さんから笑顔が消えた。

「そんな考え方でパーティーを組んだら、あなた方直ぐに死ぬわよ」


その場は怒ってるお姉さんに任せて宿に戻る。

女将さんに明日町を出ることを伝えて、1ヶ月お世話になったお礼を込めてボックスから出しておいた小さな小さな小瓶に入った香辛料をプレゼントした。

ゲームの中盤以降で手に入るこの小瓶は、後半のイベントで町の情報を得るのに渡すアイテム。

5回の転生で20個以上ボックスに貯まっていた。

このゲームの世界でも香辛料は高級品で高い。

女将さんは嬉しそうに笑って受け取ってくれた。

部屋のベットに寝そべりながら、これからを考える。

急ぐのはお金稼ぎだ。

ゲームに登録したばかりの頃は、お金が無くて宿に泊まるのも大変だった。

確か3つか4つ先の町くらいまでは、依頼の成功報酬が低かったはず…。

最悪ボックスの中に複数ある装備を売ろうか。

翌朝、旅用の埃が目立たないマントを着けてから鍛冶屋を訪ねて、初心者装備を何点も買い取って貰った。

売ったのはこの町と次の町で手に入る装備だけ。

初級の装備しかボックスから取り出せなかったから、コレクションに一組残して他を買取りして貰った。

買取り価格は大金貨2枚。

私独りなら一月ちょっと暮らせる金額だった。

かなりの量を売ったので、おまけに装備を手入れする油とか専用の布が入った小さな巾着を貰った。

あ、だからかも。

最近剣が切れなく感じてたのは、メンテナンスしてなかったからだ。

やり方も教えて貰う。

その場でボックスに入れるわけにもいかないから、剣を下げてるベルトの穴に結わえ付けておいた。

お礼を言って店を出る。

その足で町の出口まで行くと、昨日の4人が荷物を抱えて待ち構えていた。


昨日の事もあるから関わりたく無かったけど無視する訳にもいかないし、軽く頭を下げて先を急いだ。

「待ってよ。次の町へ行くんでしょ?一緒にいくわ」

きつい女の子の一方的な言い方にカチンときたけど、断っても着いて来る気満々の態度を見たら馬鹿らしくなって相手にしなかった。

パーティーを組んでる訳じゃないから、経験値の心配もない。

好きにすればいいと歩きだそうとしら、リーダーから紙を渡された。

それはギルドのお姉さんからの手紙で、4人を次の町まで連れていって欲しい、と書かれていた。

私が読み終わったのを見て、4人がにっこり笑う。

お姉さんをいい人の枠に入れていただけに、がっかりしてしまった。

要は次の町まで4人の警護をしろと言うわけだ。

無性に腹が立って足早に歩いていると、きつい女の子がからかうように笑いながら聞いてきた。

「ねぇ、次の町へ行くって嘘でしょ。荷物も持たないで次の町へなんて変よ」

あっ!…。

言われて、手ぶらの自分に気付く。

プレーヤーなら誰でも持ってるアイテムボックスを、このゲームの世界の人は使えなかった。

代わりなのかな?

アイテムボックスとは比べ物にならないけど、物を圧縮して詰め込める魔法の袋が使われていた。

困った…。

このまま4人が次の町まで着いて来るなら、食事やテントを誤魔化しきれない。

引き帰そうか。




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