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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
27の町から36の町
48/95

グラム



あの場は分かったと言ったけど、来るつもりは無い。

次の朝、33の町へと向かう馬車に乗る頃には昨日の事は忘れていて、ただ32の町に氾濫が起きても、来ないとだけ決めていた。

33の町へは乗客9人で荷台は1人。

予想はしてたけど、支線も魔物が多かった。

力自慢のおじさんが乗っていて夜営も引き受けてたけど、魔物が出たら一目散に馬車へと逃げて行った。

そのおじさんしか魔物を倒せそうな乗客が居なくて、乗客の1人が32の町へ引き返せと言うと他の乗客もそうだそうだと騒ぎ出した。

引き返されると困るのでギルドカードを御者に見せて、自分が火の番をすると伝えた。

淡々と魔物を倒して御者と火の番をする私に乗客の目が集まったけど、話せないと知ると討伐するのが当たり前の空気になっていった。

そんな対応で魔物退治を引き受けるのも馬鹿らしくなって、それからは荷台から降りなかった。

速くやっつけろと怒鳴る声にも動かない。

乗客から懇願の声が上がって、見兼ねたのかもう1人荷台にいた青年が降りていった。

どうみても冒険者の初心者で、逃げ腰な構えについ笑ってしまったのでお詫びに参戦した。

新人を庇っての戦いは神経を使った。

「あ、ありがとう」

『もう降りてこない方がいい。初心者が相手に出来るレベルの魔物ではない』

肩で息をする青年にそう書いて見せた。

「お前が降りないから俺が降りたんだろ!」

『感謝も出来ない奴を守る義理はない』

青年は乗客に向かって私が書いたメモを読んだ。

「生意気な!」

「情けで乗せてやってるんだぞ!」

乗客から罵倒が浴びせられる。

胸ポケットからギルドカードを出して青年に見せた。

「えぇ!S!Sランク冒険者なのかっ」

乗客も驚いて口を閉じた。

『私はお前じゃない』

その後、平然と荷台に戻った。

暫くして青年が同じ荷台に乗ってきた。

「みんな反省してる。33までの警護をして欲しい」

『あれだけ罵倒してきた相手を守れと?』

「ここにはあなたしか居ないから守ってよ。嫌なら置いて、あっ!違うから!」

『私は置いていかれても困らない』

身軽に馬車から飛び降りて、脇の林に向かって走る。

馬車から見えないところで32の町へ転移した。

前回はダンとカラが居たから転移出来なかったけど、今回は私1人。

馬車がどうなろうと知らない。

迷わず転移した。

その日の夜は馬車に乗る前に泊まってた宿にした。


翌朝もう1度33の町への馬車に乗った。

乗客は14人で荷台は2人。

今度は荷台に乗った。

雨避けも毛布で対応できると知ったので、態々めんどくさい馬車の箱の中に乗りたくなかった。

今回は客に35の町のダンジョンに行く冒険者パーティーがいたので、楽な旅だった。

魔物が出ても時間は掛かるが倒せる実力がある。

同じ35の町へ行くなら、この先の旅は楽だろう。

着いた33の町は畑に囲まれた町だった。

宿屋も1つ。

宿の食堂で馬車の冒険者パーティーと一緒になった。

話だと35の町のダンジョンはかなり難易度が高いらしく、そこそこ魔物と戦える彼らも10階までしか埋けないと話していた。

「兎に角炎を使う魔物が多くてしかも火力が高い。氷が使える魔法使いも力負けするから、ボスがいる20階層までは誰も行けなくて、まだ弱い10階層までがどのパーティーも限界なんだ」

宿の主人を相手に冒険者は熱弁を振るってるけど、そんな話は色んな冒険者から何度も聞かされてるはず。

なのに、主人は真剣な顔で聞いていた。

翌朝、34の町へ馬車に乗った。

34の町へは5日で銀貨8枚。

乗客は16人で荷台は2人だった。

33の町を離れてから、魔物の数が減った気がする。

冒険者が乗ってる旅は楽チンで快適な旅だった。


34の町は何かビリビリしてた。

空気が帯電してるみたいな嫌な感じがしてた。

35の町へは3日で銀貨6枚。

次の馬車は明日だった。

この町は小さくて冒険者ギルドもない。

宿も1つしか無くて、個室はもう埋まっていた。

食堂は無くて宿しか食事も出来なかった。

それなら仕方がない。

町を外れた場所でテントを張るつもりで、乗り場の反対に歩いた。

歩き出して…、頭の中に誰かの声が伝わってくる。

『殺してやる。殺してやる。俺を裏切った奴らみんな殺してやる。殺してやる。殺してやる。手足をもいで目玉を抉ってもまだ足りない。殺してやる。』

近付くにつれ、襲う怒声で頭が割れそうだった。

誰?

誰。

こんな激しい憎悪は知らない。

『殺してやる。殺してやる。お前らみんな皆殺しにしてやる。絶対殺してやる。殺してやる。殺してやる』

頭を押さえて声の主を探した。

町の外れに手足も首も幾重にも鎖で縛られた人が…、地面に座らされて…違う、彼は獣人だ。

頭の痛さに顔が歪む。

この町の空気がビリビリしてるのは、憎しみの波動を放つ彼が居るからなんだ。

顔や手足にうっすら鱗のような模様が見えた。

体も顔も傷だらけで、まるで憎しみだけで生きてるように目だけがギラギラしていた。

『殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。皆殺しだ。殺してやる』

彼の横におじさんが座っていて、おじさんと彼の間に立て札があった。

『龍人。大金貨200枚』

龍人!

彼は龍人?

『殺してやる。殺してやる。殺してやる。皆殺しだ。みんな殺してやる』

狂ったように同じ言葉を叫ぶ彼が、自分の分身に見えて知らず知らず念話を送っていた。

『誰を殺したいの?』

『!』

彼の目がギョロギョロ辺りを見るのに、私は素通りで周囲から畑に目が移っていった。

『私はここにいる』

じっと見たら、やっと私に気が付いた。

『お前は誰だ』

『私はお前じゃない。あなたは誰を殺したいの?』

おじさんの目が私を見た。

『俺を裏切って人間に売った奴ら全部!!』

『そう。ここはモナーク国。あなたが静かにするなら私が買って、ハルツ国までの馬車が出る町まで連れていって乗せてあげる』

『人間は信用できない』

『そう。残念』

商談決裂。

「お嬢さん」

歩き出そうとしたらおじさんが呼び止めた。

『はい』

このおじさんは強欲だ。

voiceを使おう。

「この奴隷を見ていましたねー」

『龍人なんて珍しいから』

「そうでしょそうでしょ、お安くしますよ」

『傷だらけじゃない。そんなに厳重に縛ってるのは暴れるからでしょ?私の言うことなんて聴かないわよ』

「お嬢さん。買えるお金はお持ちで?」

『有るわよ。盗賊を捕まえたから褒賞金が出たの』

「それなら200なんて安い買い物だ」

『嫌よ。傷だらけだもの』

「こいつはどんなに攻めても死なないから、好きなだけ切り刻んでも構いませんぜ」

『死なない?何で?』

「龍人だからですよ。手と足の健と喋れないよう喉を切ってありますから、這いずるしか無いんで、どうやったって逃げられませんよ」

『龍人だから?』

「龍人は生命力が強いんですよ。隷属の魔法も効かないんで虐待用に売られたんだが、睨み付けるだけで命乞いもしやがらねぇ。ここで売れなきゃ後がねぇ」

チロリと彼を見た。

『…買ってくれ』

彼は悔しそうに下唇を噛んで念話してきた。

小さく頷いた。

『そんなに売りたいの?でも歩けなくて200は高いわ。100なら買うわ』

「それは殺生だ。買値より安くは売れねぇ」

『殺すつもりだったんでしょ?なら120』

「まけて150」

『仕方無いわね。じゃあ140で買うわ』

「買い上手にゃ敵わねぇや」

おじさんに大金貨140枚を渡す。

『鎖を外して』

「暴れるかもですぜ」

『平気よ』

おじさんにギルドカードを見せたら驚いて黙った。

首に付いていた首輪も外して貰い、町の外まで這いずる彼のペースで歩いた。

おじさんが見えなくなってから、道の端にテントを出して彼を入れた。

すかさず隠蔽をオンにする。

『まず体を治さないとね』

上級ポーションを彼に飲ませた。

それでも彼の動きは変わらなかった。

もう1本飲ませて回復魔法も掛けた。

それでも変化は無かった。

ポーションも回復魔法も効果が無いと知って、彼は絶望に項垂れ体を震わせた。

肩が小刻みに震えているから泣いてるんだと知った。

『もう1つ可能性はある』

『慰めはよせ!』

『この世界に1つしかない万能薬』

『まさかお前が持っているのか?』

『何度も言わせないで。私はお前じゃない』

『…分かった、名前は?』

『先に名乗るのが礼儀でしょ』

『グラム』

!!

『えっ!』

思い切り彼を睨み付けた。

グラム。

グラム…。

…もしかしたら、神と名乗った白い世界は、彼を救うために私をこの世界に来させたのかもしれない。

そう考えたら、この無理矢理な出逢いが誰の差し金かすんなり理解できた。

道端で奴隷を売るなんて普通有り得ないのに、誰もそれを不審に思ってない。

あぁ、そうか。

きっとこの町の人にはあのおじさんもグラムも見えないようになってたんだ。

まさか、だけど。

私にグラムを買わせるために、遠回りさせた?

なんて身勝手なんだろう。

神なんていらない。

笑っていたらしい。

『おい!』

『私はルアン』

『ルアン』

『そう、ルアン。グラム、暫くの間よろしくね』

アイテムボックスから万能薬を出して彼に渡した。

グラムが1本目なら残りの2本は誰だろう。

きっと先に行けば分かるんだろう。

神様は信じてないけど、残酷だって思うよ。

笑えるわ。

グアムは飲んで、苦しいのかのたうち回った。

それは長いようでそんなにずっとじゃなかった。

3分くらい?

床を転げ回るグラムの傷が消えていく。

手足の健や喉は分からないけど、外見の傷は消えた。

転げる速度が段々落ちて、転げる代わりにピクピクしてから動かなくなった。

様子を見てたらグラムから寝息が聞こえてきた。

ふざけてる?

明日出発ぎりぎりまでは寝かせて、それで起きなきゃ置いて行く。

ムカついてやけ食いして寝たら、朝方に起きて私が『腹がすいた』とグラムに揺り起こされた。

ガツガツ何でも食べるグラムに呆れる。

手足は動くが喉はまだ違和感があって、出そうとしてもかすれ声しか出ないらしい。

それでも出るんだ。

私が飲んだらどうなるんだろ。

多分出ないな。

声帯が無いのに出るわけ無いか。




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